第110話 余興

下水処理場 コーキュートス A班



野々宮「着いたぞみんな ここを真っ直ぐ行けば拷問エリアに着く」



根城「オエ この臭いやっぱ駄目だ…吐きそう」



しゃがみ込み、吐きそうな根城の背中を優しく擦(さす)るエレナ



エレナ「大丈夫?しっかりして」



ポン吉「俺も鼻がもげそうだよ」



百村「確かに 俺も…我慢できん これ強烈過ぎ…」



エレナ「みんなぁ~ ちょっと~ 」



臭いに耐えきれない様子の3人に困った表情のエレナ



御見内「あと数分もすれば嫌でも鼻が慣れてくるよ」



根城「オェ はぁ はあ なんでエレナさんはこんなくさいのに平気なの?オェ」



エレナ「東京都内じゃこれぐらいの死臭はもう当たり前だったから 自然とかな」



大堀「こんな田舎と違って都会はゾンビの数も桁違いだし 腐った死体の数も凄いんだよ」



根城「そうなんだ… ぅぅ 気持ちわるぅ」



今にも嘔吐(えず)きそうな異臭漂う中



分岐点に辿り着いた野々宮隊



野々宮「村田 さっき閉じ込めた民には気をつけろ あいつらいつ目を覚ますか分からない」



村田「はい 大丈夫っす あとで出られないようドアでも塞いどきますから 担架はちゃんとあるな?」



「大丈夫 持ってる」 



村田「よし じゃあ早速出発しよう さぁ 立った立った 行くぞ」



村田の掛け声で重い腰をあげる根城達



隊が移動をはじめた。



その隊を見送る野々宮と御見内にエレナが振り返り、御見内と目を合わすやコクリと頷いた。



野々宮「俺達も行きましょう」



御見内「はい」



そしてガラス張りの扉の先へ目を向けた2人



ここから先は御見内も踏み入れた事の無い領域



この先で何が行われているのか…?



ラボとはどうゆう場所なのか…



それを確かめるべく2人は扉をくぐり、調査に向かった。



扉を開くと、何処からともなく響いてくる歓声



2人は前進した。



見上げた御見内、そこには無数のパイプやらダクトが天井に張り巡らされている。



瞬時に見て分かるこの室内は機械室のようだ



機械室には様々な制御盤や動力盤らしきユニットがズラリと並び



また複数のドデカいモーターやらエンジンが置かれている



2人が銃を身構え慎重にその中を進むや



幾つかのエンジンやらモーターが作動しているのが分かった。



また天井を這う脱臭用のスパイラルダクトから蒸気らしき煙りが漏れ、複数のファンが回っている。



この部屋は機器が息づき、正常に機能している事が一目で見てとれた。



またその機械音に負けぬ無数の歓声はこの部屋の更に先から聞こえてくる事が分かった。



なにやらおこなわれている集会



集会はこの先で行われている…



この機械室に敵はいない



安全と判断した2人は銃を下ろし、直進した。



すると 野々宮がふと何かを発見、足を止め、しゃがみ込んだ



そして床に触れるや指先に付着したのは まだ新しい血液



野々宮「血だ」



その引きずられた痕を目にした2人。



その血は目の前の鉄製で組まれた中階段まで続いていた



野々宮「こっちのようですね」



御見内「えぇ」



野々宮「上がってみましょう」



血は機械室に伸びる通路の先へ目印として続き、2人は階段を上がってそれを辿った



網状の鉄鋼の床板をカツカツと音をたて、進んで行く2人



御見内が通路手摺りから顔を覗かせ、見下ろすや、すぐ真下には剥き出しのエンジンがゴゴゴゴと唸り声をあげ、プシューとガス抜きのような音を発していた。



更に辿って行くや通路が+字に分かれた。



引きずられた痕は直進している



2人は迷わず真っ直ぐ進んだ



そして10メートル程歩くと今度は降下する階段と直進に分かれていた。



野々宮が一旦立ち止まり、血痕を確認するや血の痕は階段を降下している



野々宮が下りるのハンドジェスチャーを御見内に送り、階段を下りて行った。



「※ΦΨδζηθδℓ%∞⊗∉∪」



言語としては理解出来ない声



外国語でも無い狂人達の変な言葉



そんな意味不明な言葉で喚いている大多数の人の声が響いてきた



進む度 それは近づいてくる。



野々宮はMP5SDを再び構え、忍び足で直進、御見内もMP5をいつでも立射可能な態勢で身構え、野々宮のすぐ後につく



2人が慎重な足取りで開きっぱなしの扉を潜ると、5~6メートル程の連結部らしき通路に入った。



この先汚泥処理施設 高度水質検査室と書かれたプレートが見え



「ウォォォオオオ~ ウォォォオオオオオ~」



声はこの先の施設内から聞こえてきた。



野々宮が振り返り、御見内が頷く



「ウォォォオオオ~」



そして2人は扉の前で立ち止まり、円形の小窓から一旦中の様子をうかがった。



「ℓΨ。&?@?!:_…・◑◇」



室内の電灯は全て消され、代わりにあちこちに無数の蝋燭が灯されているのを目にした。



「ウォォォオオオ~」



「♡↑⊕∉¥%㏄㎏㎢oπБ⑭яр」



中からは興奮され歓喜に満ちた群集の喝采する叫び声



盛り上がってる感じの高揚する声だ



また歓声と同時に聞きとれない言葉で何やら唱和される声も聞こえてくる。



野々宮「何語ですかこれは?」



御見内「さぁ…」



野々宮「いったい何が行われてるんだ?」



御見内「行けば分かりますよ」



そして御見内が静かに扉を開いた途端



思わぬ大声量に耳を塞いだ



喉が潰れるくらいの腹の底から吐き出された発声



発狂した奇声と熱狂したフルトーンの騒ぎ声だ



2人がゆっくりと進み、壁越しから覗き込むと



数十メートル先に200人程の人集りが見えた。



何かに夢中になり、沸いているのが見える



あそこで何かが行われている…



野々宮「ここからでは何も見えないですね… しかもこれじゃあ通り抜け出来ない どっか違う道…」



野々宮は辺りを見渡した。



すると ハシゴが目につき、一本の通路を発見した。



野々宮「御見内さん 見て下さい あそこです あのハシゴを使いましょう あそこからなら通り抜けられるし よく見える」



群集の上部に伸びた通路を指差した野々宮



御見内が頷き、2人はすかさずそのハシゴをよじ登った。



そして姿勢を低く、気づかれぬように通路を進み



「ウォォォオオオ~ ワァァァァ~ キィエエェェエ~」



沸きに沸く群集を



2人は通路から見下ろした。



そして眼下の光景に目を見開かせた2人



野々宮「なんだこれは…?」



床に開いた巨大な円形の処理槽



3~4メートル程の高さはあるだろう



その周囲をイかれた町民等が見下ろし、囲んでいた。



またその処理槽の穴には3~4体のゾンビが放され、今まさに倒れた人間を食しているまっ最中



また壁には鎖で繋がれたゾンビが10体程見えた。



周囲の町民等は狂喜し興奮醒めやらぬ様子だ



その異様な光景を目にする2人はすぐにそこで何が行われているのか判明する事となる。



1人の黒フードが壇上へと現れ



同じく巨漢な黒フードがフィールドに現れると



その登場に伴い歓声が波打った。



「よし 再開だ ゴメスさんは現在20連勝中 さぁ 次の犠牲となるゴミクズはこいつだ…」



すると1人の男が穴に突き落とされた。



放られ、倒れ込み、うずくまる町民らしき男



周囲が一層沸いた。



身体中傷だらけでガリガリにやせ細る町民は怯えた表情で起き上がり、周りを見上げると



そこに何やら放り込まれた。



「さぁ そこから好きな武器を選べ」



これが武器…?



男が手にしたのはおもちゃのピコピコハンマー



同じく横にはプラスチックでできたおまちゃの剣と汁を掬うおたまが転がる。



「さぁ そこの最高級の武具で挑め 助かりたければ ゴメスさんの連覇を止めてみせろ」



町民はその中からおたまを手にした。



「おたまか!いいチョイスだ」



巨漢の黒フードが手にしているのはモノホンのウォーハンマー



一撃でもまともに喰らえば即死もんの武器だ



「さぁ 互いに文句なしな最高の武具を手にし、準備は万端だな おまえみたいなクズにも一応ルールは説明しとくぞ おまえが助かるには2つ まずはそこのゴメスさんを倒す事 それともう一つ…」



すると髪の毛を掴んだ巨漢が前に放り投げた。



フィールド中央に投げ込まれたのは人…



手足の欠落した人が放り込まれた。



それを隠れ見る御見内が目にするや、たちまち目を見開かせた。



あの人は…



そう… 放られ、無惨に転がる姿体は



あの時 あの拷問部屋で出会った女性 


あの白髪化した女性だった



「そこの醜いトルソー(手足の無いマネキン)をゾンビから守る事だ」



御見内が思わず身を乗り出そうとするや肩が掴まれ制止された。



野々宮「御見内さん いけません ここは我慢を…」



「見ろ そこの化け物共は今昼飯に夢中だが 奴等の腹が満たされる事は無い それを食い尽くせば次の餌を求め、襲いかかる その身動き出来ない死に損ないのトルソーが一番に襲われるだろう したがってそのトルソーが食われた時点でおまえの負けとする その時点で俺が射殺してやる どうだ?おまえみたいなノータリンでもルールは飲み込めたか?」



体格差 武器 条件



どれをとっても町民が勝てる見込みなど0に等しく



いわばこれは公開処刑の娯楽に過ぎない



見せしめの興のつもりか…



そんな茶番許さない…



御見内が肩を振り、MPを構える寸前



野々宮「駄目です ここはグッとこらえて下さい」



またしても野々宮に制された。



御見内「しかし…」



野々宮「分かってます だけど一発の銃弾であの人集りが一気に襲いかかって来ます」



御見内「あの2人を見殺しにしろと?」



野々宮「残念ですがそうです このまま戦闘になれば私達が危険になる… あの数を2人で制圧するのは不可能です 救出が済むまでこらえて下さい」



御見内「ぐっ」



歯を食いしばった御見内



野々宮「救出が済んだら 全面協力します 黒い衣の連中を全て掃討する事を約束します ですんでこの怒り…取っといて下さい さぁ ゆっくり銃を下ろして」



確かに… 今 ここで俺が出て事を荒立てれば



救出活動するみんなにまで危険が及んでしまうかもしれない…



救出活動をスムーズに進めるチャンスを潰してしまう…



かといって あの2人を…



助ける事の出来ない無力さを痛感し



御見内「クソォ」



真っ赤に染まる程 拳に握力が込められた。



「さっさとはじめろ」



そして2人の目の前で無情にもデスマッチが開始された。



おたまを構える町民は屁っぴり腰で後ずさり、横たわる女性、食事に夢中になるゾンビ達を交互に目にし、巨漢の黒フードへ目を向けた。



「へっへへ ほれほれ どうした来い来い 一発で死なれちゃつまんねぇ~から 最初は骨折る程度に加減してあげるからさ」



「オォォォオオオ~」



「⊕¥Б◑♯≈⊕∅∂℃%㎜~」



周囲の歓声に包まれ、町民が後ずさるあとをゆっくり間合いを詰めてきた巨漢男



「ひぃぃぃ」



「ほらほら どこへ逃げるんだ? どけ」



巨漢男が横たわるトルソー女性を足蹴でどかした。



蹴飛ばされ、ゴロゴロ転がる女性、巨漢男は徐々に間を詰めて行く

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