第111話 対敵

はらわたを貪り食すゾンビの1体がムクッと立ち上がった。



それにつられ、もう2体のゾンビも…



ウォーハンマーで掌をポンポン叩きながら町民に近づいて行く巨漢野郎ゴメス



「ああぁぁあ」



町民は今だ引けた腰で後退、おたまを握る両手がガクブルしている。



ゴメス「どうした? どうした? そんな調子じゃ ギャラリーがシラけちまうじゃねえか そんな最高な武器持ってんだから一発くらい入れてこいよ」



「ぁあああ ああ」



町民は腰に布きれ一枚巻いただけの半裸状態



当然素足で



後退する際に足を滑らせ転びそうになった。



ヌルった床一面には血がべっとりとついているからだ



それは足を滑らせてしまう程の大量の血



特設リングの床はほぼほぼ紅色に染め上げられていた。



町民は足元が安定せぬまま後ろへ下がって行くと 今度は…



ガシャ



鎖がめいいっぱいに伸び



「うがぁぁあ」 「うわああああ」



背後から数体のゾンビが襲いかかってきた。



「うわああああ」



ガシャャャ~ ガチャャャン



鎖に繋がれ腕は届かず



ゾンビ等の腕は空を弄る



町民は間一髪避け、尻餅をついた。



ゴメス「ハッハハハハハ 油断するんじゃねえよ 壁際は特にだぜ」



槽の壁には鎖に繋がれたゾンビ達がいる。



このリング内で町民に逃げ場など一切無かった。



ゴメス「ほれ 見ろ やっこさん達がお食事を中断して起き上がったぞ」



「ううぅぅううう」



床を転がり頬が血だらけに染まる横たわりし女性の瞳に動き出す3体の動屍が映された。



ノッソノソと鈍い動きでこっちに向かって来る



女性は動けぬまま、ただ向かって来るゾンビ等を見ている事しか出来ない



「うぅうううう」



3体は女性に襲いかかろうとしていた。



ゴメス「トルソーが狙われてるぞ 助けなくていいのか? 襲われたその瞬間におまえも死ぬんだぞ」



ポンポン ウォーハンマーを叩きながら楽しげな表情で口にするゴメス



向かって来るゾンビを目にし、目を見開かせ蒼白する女性



その女性を目にする町民は躊躇した。



助けるったって… こんなんでどうやって…



手に持つおたまを見ながら表情をひきつらせる



その間 新たな餌を食そうと目前まで迫るゾンビ達



助けないと…



おたまを投げ捨てた町民



町民は決死の覚悟で突進



体当たりでゾンビを突き飛ばした。



ザザァ~



勢い良く突き飛ばされたゾンビが倒れ、もう一体にも肩でタックル、もう一体を両手で突き飛ばした町民



どこにそんな力があるのか?っと思う程のガリガリで貧弱な身体から繰り出した当て身で3体のゾンビが倒れ込んだ



町民はすかさず女性の体を掴まえ、ゾンビから引き離そうと引きずりはじめた



その瞬間



町民の後ろ首がいきなり鷲掴みにされた。



ゴメス「ハッハッハ 骨皮の軟弱な分際でなかなかガッツあるじゃねえの」



すぐ背後にはあの巨漢 ゴメスが立ち、首を掴まれていた。



そして ゴメスが手を放すや



ゴメス「フン」



片手で振るわれたウォーハンマーが町民の腹部を直撃した。



女性を掴む手が離れ、正座の格好でうずくまった町民



数本あばらがもってかれた



ゴメス「フフン」



するともう一発



背中にウォーハンマーが打ち込まれた。



「ぐはぁ」



ゴメス「ハッハハハハハ まだ10パーも力を出してないぞ」



うつ伏せでうずくまる町民



ゴメス「おい まさかこれしきでくたばるとか勘弁してくれよ」



町民の髪が掴まれ、持ち上げられるや



「う…ぅう…」



ゴメス「驚かすなよ もう死んだかと思ったじゃねえか」



「う…ぅ…んで?」



ゴメス「あぁ?」



何かを口にした町民にゴメスは耳を傾けた。



ゴメス「んか言った?」



「んぐ…う うぅ んで こ…んなヒドい事を?」



ゴメス「あぁ?」



「うぅ 俺た…ちが なにをした?なん…で んぐ なんでこんな目にあわな… ぐはぁ はぁはぁ …いといけない はぁはぁ」



ゴメス「分かりきった質問すんじゃねえよ そんなのおまえらが弱いからだろ もう警察だぁ 法律だぁ 弱者を守るシステムなんかないんだよ 誰も守ってなんかくれないんだからよ 頼りになるのはこっちの力だけだろ」



上腕二頭筋の力こぶを示すゴメス



ゴメス「強い者が弱い者をいたぶって何が悪い」



「ぐぅ はぁはぁ…」



デスマッチの行方を見守る事しか出来ない御見内と野々宮の前で町民の首が掴まれ、軽々と持ち上げられた。



御見内の苦渋に満ちた顔



握る拳は赤を通り越し、肌が白く変色している。



ゴメス「何か不満か? 非力なおまえが悪いだろ 危機感も無く平和ボケした奴等はみんなこの世界に適応出来ずにゾンビの餌になるか俺達みたいな強者の遊び道具に成り果ててるのが現状なんだよ…」 



ゴメスが町民の耳元で笑いながら口にした。



ゴメス「…なんでこんな目にって…? そりゃ~おまえが奴隷だからっしょ 今世界中強奪、殺しが日常茶飯事になってる これが今のこの世の新システムで新ルールになりつつあるんだからよ 奴隷なんかどう扱われようと文句は言えないっしょ~ ハハハハハ ましてやおまえはここのギャラリーを沸かせる為だけの公開処刑の道具なんだからなおさらだぜ」



すると



「ゴメスさん なんかちょっと盛り下がってるし そいつはもう駄目だ! いいよ もう次の奴にしようか」



ゴメス「ホイ オッケェ~! だとさ おまえはつまらねぇからもう用済みだってよ んじゃ最後におまえの頭を21回目のスイカ割りでかち割ってギャラリーを盛り上げようぜ」



御見内の目の前で



今まさにこれから1人の町民が殺されようとしている。



御見内はそれを直視しながら頭の中で苦悩し葛藤した。



俺はここに何をしにきたんだ…?



それは全ての町民を救う為じゃないのか…



助けられるのに助けられないって何だ…



分かってるよ…



ここで俺が踏み込めば大変な事態になる事は…



分かってる…



この作戦に参加するA班みんなに迷惑かける事になる



野々宮隊長をはじめ ザクトの隊員達 ポン吉さんや百村さん達にも…



エレナにだって危険が及んでしまう…



俺がこの茶番劇に目を瞑り、やり過ごしさえすれば…



今後の作戦も円滑に遂行出来るのかもしれない…



これを見てみぬふりさえすれば…



だけど…



本当にこれでいいのか…?



これが正しい選択なのか…?



今目の前にいる2人がこれから殺されようとしているのに…



あの2人はゲームのキャラクターじゃない…



あの2人の命にリセットボタンなんかないんだ…



死ねばあの人達は二度と生き返らない…



命に優先順位なんかない…



見逃していい犠牲なんかない筈だ…



俺の目の前で罪無き人の殺戮なんか許さない…



今ならあの2人を救えるんだ…



そう…



今ならまだ間に合う…



たとえこの決断が間違っていたとしても…



やっぱりこれを我慢出来る程、俺は大人じゃない…



すると



2人のインカムに麻島からある受信が入ってきた。



麻島の声は歓声や奇声でよく聞き取れない



野々宮が背を向けはじめ、交信を図った。



野々宮「こちらA班野々宮 すいません 今のよく聞き取れませんでした もう一度送りお願いします」



その野々宮が目を放した 隙を突き



御見内が動き出す。



「ひぃぃ やめ…」



ゴメス「そこの汚ったねぇ~トルソー女もおまえにも もう明日はねぇ~よ ここで脳味噌ぶちまけて、そこのゴミみてぇーな女はゾンビの餌になって 無念を残したまま華麗に散れや」



町民を床へと叩きつけ、背中を踏みつけたゴメス



ゴメスは取り囲むギャラリーに向け、ウォーハンマーを高らかに上げた。



すると周囲の歓声が一際高まる



町民は両腕で起き上がろうと必死に足掻くが再び踏みつけられた。



ゴメスがウォーハンマーを両手で握りしめ、ゆっくりと振り上げる。



野々宮「…そうです 分かりました すぐに村田達と合流を…」



ゴメス「アッハハハハハ 不様だなぁ~ 無駄無駄 なぁ悔しいか?切ないか? 泣いてるか? ハハハハハ おまえ等なんか小さな虫みたいな存在だかんな どうせおまえが死んだ所でこの世界は変わらんし 誰も悲しまねぇーよ ちゅー訳で 華麗にグチャりな」



そしてゴメスが渾身の力でウォーハンマーを振り下ろそうとした



その時



パスッ



一発の銃弾が発射された。



真横に落下したハンマー



町民が見上げるや喉から血が溢れ、両手で押さえる巨漢を目にした。



「ゴメスさん どうした?」



いきなり喉元を押さえ、呼吸困難に陥ったゴメスに



壇上に立つ黒フードと奴隷達が目にし、騒ぎがピタリとおさまった。



何が起きたか分かってない



そしてうつ伏せる町民もまた状況を呑み込めずにいた。



その直後



パス パスパスパス



消音化した銃弾4発が連射され



野々宮が薬莢の落下音に振り返る…



そして弾丸1発がゴメスの額を捉えていた。



もう3発は ゾンビの各後頭部を撃ち抜き、バタバタと倒れていった。



野々宮が振り返った先…



野々宮は飛び出さんばかりに目を見開かす



また壇上の黒フードが頭上を見上げた先に…



通路から身を乗り出しMPを身構える御見内を発見した。



首から血の溢れたゴメスがぶっ倒れると同時に



「上だ」



黒フードが斜め上を指差すや



ドットサイトのポイントが黒フードの額に合わされていた。



「あいつを殺…」



パス



たちまち黒フードの頭部が反り返り、撃ち殺された。



野々宮が慌てて手摺りを掴み、見下ろすと、ギャラリーとなる200もの奴隷達がこちらを見上げていた。



野々宮「何て馬鹿な事をしてくれたんです…」



御見内「すいません お叱りなら後で受けます」



凍りつく野々宮



くっ…



なぜなら全ての奴隷達がこっちを見ているのだから



200もの視線が2人に注がれていた。



すると



奴隷達がその場から一挙にバラけ、襲いかかって来た。



野々宮「こちらA班野々宮 緊急事態発生 交戦になった。 村田ぁ よく聞け 回収を急がせろ」



ノコギリ ナイフ 鎌 鍬から電動工具 他にも見たことも無いような海外の武器などあらゆる凶器を手にしたイかれた町民等がどっと散開し2人に押し寄せてきた。



各所のハシゴ、壁をよじ登って来る奴隷達の姿



野々宮「このままじゃ挟まれる とりあえずここから逃げないと」



200もの奴隷達との戦闘が始まる。

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