第102話 偵察

今までに聞いた事のないような声



それは妖怪の鳴き声を思わせるような恐ろしい声



3人は咄嗟に銃口を向け、身構えた。



「ギュエエェェェェェェェェ」



その響き渡る声を聞きつけたエレナ達



エレナ「何 この声?」



根城「ゾンビか?」



ガサガサ



枯れ草の揺れと共にその声が急激に近づいて来た。



「ギュエエェェ ギュエエェェ」



野々宮「接近戦だ 外すな」



「はい」



3人が迫り来るだろうその先へ銃口を向けるや



「ギュエエェェ」



その声の主が草木から飛び出してきた。



野々宮「待て 撃つな」



野々宮が射撃を止めさせた。



3人の目に飛び込んできたのは、一頭の子熊だった



「ギュエエェェ ギュエエェェェェ」



生後1ヶ月たらずの、鳴き声とは裏腹に可愛いらしいツキノワの子熊



その子熊が辺りを見渡しながら悲鳴のように鳴きまくっていた。



野々宮「熊だ」



野々宮が後方へと叫んだ



根城「え…熊…?」



ポン吉「クマ?」



熊……?



熊と聞き御見内、エレナの脳裏にあの3頭の巨大熊が思い浮かべられた。



まさか…



エレナも前方へと駆け出した。



そして御見内が3人の元へ駆け寄るとそこには小さな子熊の姿



ホッ あいつらじゃなかったか…



御見内がホッと胸を撫で下ろすや



エレナ「なんだ 良かった…てっきりあの巨大熊かと思っちゃったよ」



すると御見内は目を見開かせ、エレナに振り返った。



御見内「エレナ…今言った言葉…まさか おまえ巨大熊の事知ってるのか?」



エレナ「え? えぇ? うん… うそぉ… もしかして道も見た…の…?」



巨大熊を目撃したのは御見内、エレナ、青木の3人だけ



御見内「3頭いたろ…あれはヤバいな…」



その時だ



銃を構え前に出た村田隊員



村田「分隊長 今すぐ撃ち殺しましょう このはぐれた子熊の声… これきっと母熊を呼んでいるんです って事は付近に母親がいます 危険です」



「ギュエエェェ ギョエェェェ」



確かに辺りをキョロキョロと何かを探し、呼ぶ素振り



子熊は母親とはぐれてしまったようで必死にママを呼んでいた



村田「この時期の母熊は危険だと聞いた事があります 母親が現れたら皆が危険に晒(さら)されます すぐにでも」



「ギョエェェェギョエェェェ」



子熊を見ながら考え込む野々宮



村田「出来ないのでしたら自分が殺ります いいですね?」



子熊へと狙いを定め出す村田



「ギョエェェェ ギョエェェェ」



野々宮「クッ 仕方ない…」



その時だ



エレナ「駄目 無駄な殺生はやめて下さい」



いきなりエレナが子熊の前へと飛び出した。



村田「危ない そこをどけ」



エレナ「駄目 こんな可愛く小さな熊を殺す必要なんて無い 無闇に殺せばいいってもんじゃないの」



「ギョエェェェエェェェ」



村田「母親が現れたらどう対処する? 皆が危険な目にあう前に その子供を始末する」



エレナ「いいえ させない」



エレナは突如その子熊を捕まえ、抱えあげた。



御見内「エレナ 子熊とて野生の子だ 危ないからすぐに降ろせ」



エレナ「隊長さん 命令して下さい まずはその銃を下ろすようにと」



野々宮「分かった分かった おい すぐに銃を下ろせ」



「はい」 村田「ぐっ 熊なんぞ庇ってどうする」



エレナの胸で暴れる子熊



野々宮「言われた通りにしました さぁ 危ないから早く下ろして」



御見内「エレナ 噛みつかれたり 引っ掻かれたりしたら大変だ すぐに下ろして 離れるんだ」



エレナ「隊長さん この子を撃たないと約束してくれますか?」



野々宮「はい… 村田! 霞(かすみ)! 俺の指示なく発砲するなよ」



霞「了解」  村田「ぐっ 分かりました」



野々宮「約束します さぁ 早くそれを離して下さい」



エレナは暴れる子熊を抱えながら野々宮を目にし、御見内を目にしたのち



地面に置こうとした その時



あの声が聞こえてきた



「ゴオォォォオ~」



それは母熊の咆哮



「ギョエェェェ ギョエェェェ」



それに子熊が呼応した。



するとまた



「ゴオォォォオ」



村田「マズいです このままじゃ母熊と遭遇してしまいます やはり」



野々宮「黙れ」



声の方向へと身体が反り返りながらも母熊へ必死に呼びかける子熊



エレナ「ほらママよ さぁ 迎えにきたんだから 早くママの所にお帰りなさい」



「ギョエェェェ ギョエェェェ」



「ゴオォォォォォォオ」



エレナが子熊をそっと地面へ降ろすや子熊は一目散に母の元に駆け出し、母熊の呼び声に答えながら森の中へと消えていった。



それを数秒間ジッと見送ったエレナが振り返った。



エレナ「あの~ なんか…先程は…ごめんなさいでした」



野々宮「あ いえ いいんです おいみんな もう大丈夫だ 来い 移動するぞ」



3人の隊員も立ちあがり、再び隊が動き始める。



エレナ「道ぃ あの… さっきは勝手に出ちゃってごめんなさい」



御見内「謝る事なのか? おまえのやった事は間違ってない ただ野生の熊を手掴みするのは間違ってる そこはよろしくなかったな 怪我でもしたらどうする」



エレナ「ホント ごめんなさい…」



御見内「だが おまえのおかげであの子熊の命は救われたんだ それに 回避出来るならそれにこした事は無いよ」



エレナ「さっすがぁ~ 私の真の理解者なだけあるわね」



村田「分隊長 あれ見て下さい」



先頭を歩む村田が指さした先に



下水処理場の建物が見えてきた。



距離400メートル



野々宮が後方に厳警戒しろの手信号を送り、注意しながら隊は進んで行く



建物が近づくにつれ、皆に緊張感が生まれてきた。



ポン吉「はぁ~ 近づいてきたよぉ 怖いなぁ~」



百村「俺も緊張してきたぞ」



巨大な下水処理施設まで300メートル



周囲にはトラップも無く、敵もいない



静かな森を250… 200… 150…



隊はスムーズに歩を進め、刻々と施設に近づいて行った。



そして施設まで3~40メートルという所まで近づくや



急激に森が開けてきた



そろそろ森を抜ける



その寸前で先頭が立ち止まった。



野々宮「指揮車へこちらA班 現場到着」



麻島「指揮車了解 B班との足並みを揃えたい しばしその場で待機してろ」



野々宮「了解」



そして野々宮が小声で「御見内さん」



御見内を呼んだ



御見内「はい」



野々宮がサブマシンガンのスコープで建物やその周辺を偵察しながら口にした。



野々宮「おかしいですね 例の奴隷達が1人たりとも見当たらなのですが」



御見内「え?1人も?」



野々宮「えぇ 今 私達は正門から東側に位置してます 話しとだいぶ違いますね… これは罠なのか?」



おかしい… 周囲は素っ裸にされた異様な町民達で溢れていた筈…



1人もいないだなんて…



野々宮「破れた窓が見えます あそこから内部に侵入出来そうですね」



御見内「隊長 一度 隊をここに待機させ、周辺とその内部を調査する必要があります 1人もいないなんてのはおかしい 全隊で突入するのは危険です」



野々宮「それは賢明ですね 分かりました 村田 俺と来い」



村田「了解」



そして野々宮がゆっくりと後退し隊の皆へ口にした。



野々宮「皆聞いてくれ どうやら以前と状況がだいぶ違うようだ 突入前に まずは私と村田、御見内さんの3人で建物内部へ侵入し様子を探ってくる」



エレナ「え?」



百村「3人だけで大丈夫なの?」



御見内「あぁ むしろ少数の方が動きやすい」



月島「……」



エレナ「ねぇ 以前と違うって何が違うの?」



御見内「前に俺が潜入した時はあの辺り一帯 町民達がひしめき合ってた そこら中大勢がたむろしていたんだ… 検問所らしきものも敷かれてたし、バリバリ見張りやら警備なんかもいた… なのに今は人っ子1人いないんだよ 様子がおかしいんだ」



エレナ「そうなの…」



御見内「あんな大勢いた町民等は何処に消えた… これを今がチャンスだと素直に思えなくてね…」



エレナ「じゃあさ じゃあ私も行く」



御見内「ここで待っててくれ」



エレナ「なんで?私だって…」



御見内「3人の方が動きやすいから」



エレナ「でも…」



野々宮「エレナさん ちょっと様子を見て来るだけだですから大丈夫ですよ もしかしたら本当にいないだけかもしれないですし それを確かめに行くだけですから」



エレナ「は…はい…分かりました」



あまり納得いってない表情のエレナ



野々宮が指揮車に一報を入れた。



野々宮「こちらA班より指揮車へ 目的地周辺にいる筈の多数の敵が消えてます。 少々不穏な空気をキャッチした為 隊を突入させる前にまずは3名でその状況確認を行いたいと思います これより建物内部へ潜入します」



エレナ「ねぇ道 何かあったらすぐにここに戻ってきて いいわね?」



御見内「あぁ 分かってるよ」



麻島「了解 行け ただし 目的を忘れるな 救出が第1優先だぞ 3名だけでむやみやたらと奥まで潜るな あくまで偵察だ」



野々宮「了解」



御見内、村田が所持するMPサブマシンガンにサイレンサー(消音器)を取り付け始めた。



野々宮「プランはこうだ まずは3人で周辺、中を調べて来る 次いでにルートまでの安全性なども確認してくる 確認したらすぐに戻る 戻り次第突入するからそれまでに各自小銃やサブマシンガンに消音器を装着しておけ それとマガジンは各自10 マガジンホルスターがそのケースに入ってるから各自で準備を整えておくように」



霞「了解」



「了解」 「了解」 



小泉「了解」 根城「了解」



ポン吉「了解です」



エレナ「了解」



野々宮「よし まずは偵察です 行きましょう」



御見内「はい」



頷く村田隊員



野々宮、御見内、村田の3名が偵察で動いた。

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