第103話 奴等

森を抜けた3人



野々宮が先頭で飛び出し、御見内と村田が続いた。



3人は辺りに銃口を向けながら前進



周囲に敵の姿は無く



安全が確保された3人は高さ2メートル程のネットフェンスへと近づいた。



野々宮「これをよじ登らないとならないか?」



村田「そのようで この柵… 正面口の駐車場まで延々と続いていますね」



野々宮「人質の移送時にこのフェンスは障害になる… 後でこの箇所を切断しとこう」



村田「了解です」



野々宮「よし 行こう」



ガシャガシャ



フェンスをよじ登って行く分隊長



御見内、村田も柵を越えて行った。



整備されたアスファルトに降り立ち、野々宮が建物に近づくや、ガラスの割れた窓から中を覗いた。



中はガラスの破片が散乱し、ゴミやら埃まみれの機械物やらが散乱する廃墟らしい荒れた空間



資材やら機械やらが置かれた物置場のようだ



その奥に扉を見つけた分隊長が口にした。



野々宮「ドアがある ここから中に入れそうだ 行こう」



そして踏み込もうとした時



御見内「すいません その前にちょっとこのまま外周を調べながら駐車場の方も調べておきたいのですが」



野々宮「えぇ それはかまいませんが」



御見内「自分は向こうの正面口から堂々と入りました。 その周辺が溜まり場だったので 本当に町民等がいないかもう一度確かめておきたいんです」



野々宮が村田へ視線を向けるや村田が軽く頷いた。



野々宮「分かりました なら行ってみましょう」



御見内「どうもです」



MP5SDを身構えたまま先頭で進み始めた野々宮



それに続き 御見内、辺りに銃口を向けながら進む村田と続いた。



奥深い森の中



その森に囲まれ、シーンと静けさに包まれる建物を、外壁に沿って進んで行く3人



あまりの静けさにここがホントに敵のアジトかどうかさえも村田は疑いはじめた。



村田「静か過ぎる… なぁ ホントにこの施設であってるのか?」



御見内「えぇ」



村田「ここいらもその奴隷とやらで溢れてたんだろ?その痕跡がまるで見えない… 夢でも見てたと違うか?」



御見内「夢と現実を混同する程馬鹿じゃないですし、ホラをつく虚言癖でもないです ここです」



村田「なら集団神隠しにでもあったのか? それとも引っ越したってオチじゃないだろうな?」



確かに… 数日前に見た光景が嘘のように忽然と消えた集団…



移動した…?



その線もありえる…



御見内「…」



野々宮「それは中へ入ればすぐに判明する」



建物外周にも奴等の気配は無い



人気の無い通路をペースを上げ進んで行った。



そして野々宮が建物の陰で一旦立ち止まり



顔を覗かせた。



やはりここにも誰もいない 



がらんどうな駐車場と正面入口周辺を見渡す野々宮が異常なしのハンドサインを2人に送った。



そして3人は陰から飛び出し、入口へと近づいた。



野々宮「やはりここにもいないようだ」



村田「隊長 危険はないようなので皆をここへ呼びますか?」



野々宮「ちょっと待て それは中を調べてからにする」



すると御見内が入口へと近づいた。



ここにはパスカードを翳さなきゃ開かない自動扉がある…



御見内がその扉へと近づき、手を掛けるや その扉は開いていた。



解除されてる…



まさか本当に奴等はここを放棄し、場所を移したのか…?



御見内はその扉をゆっくりと開き、中へと入っていった。



その後野々宮と村田も中へと入って行った。



その入った途端



野々宮「うっ」 村田「く…」



強烈な悪臭に襲われ、鼻を塞いだ2人



村田「何の臭いだこれ?」



御見内「血と腐敗の臭いです」



野々宮「凄まじい臭いだ 平気なんですか?」



御見内「じきに鼻が麻痺してきますよ 自分はもう慣れてます」



村田「これ…慣れるとかの次元じゃないぞ」



激悪臭もさることながら薄暗くハエが大量に飛び交う通路を御見内はどんどんと進み



そのあとを2人は追いかけた。



壁には所々おびただしい血痕



それは天井まで達している。



チューチュー チュー チュー



また通路の至る所で徘徊するネズミ達



3人の気配を感じても逃げもせずに追いかけっこしている



またゴキブリの数も異常で劣悪レベルは常軌を逸している。



なんだこの最悪な場所は…?



村田は唖然とした表情で我が物顔で生息する奴等や室内を見渡した。



御見内は先へ先へとどんどん進み



そしてある箇所で足を止めた。



左へ行けば拷問場所、直進すれば実験室へと通ずるだろう廊下の分岐点



御見内「ここを左へ行けば… この先に救出者達がいます」



静まった施設内、不気味に映る通路の先を野々宮と村田が目にした。



御見内「ここを真っ直ぐ行けば例のラボがあると思われます」



野々宮「なるほど 分かりました ではっ 突入したらここを左へ行けばいいんですね」



御見内「はい」



村田「しかし誰もいないですね…これっていわゆるもぬけの殻じゃ…隊長…その線が濃厚になってませんか? 果たしてその救出者がいるのかさえも怪しくなってきましたよ」



野々宮「御見内さん 救出者が隔離されてる所まで案内して下さい まずは安否の確認だけでもしとかないと」



御見内「はい… こっちです」



そして3人が拷問場所へと向かい、歩を進めようとした その時だ



バタン



暗がりな通路の先からドアの閉まる音が聞こえてきた。



その音を耳にした3人はピタリと足を止め、野々宮が待てのハンドジェスチャーを2人に送った。



何の音だ…?



この無風な空間ではありえないドアの開閉音…



御見内は通路の先へ聞き耳をたてながらジッと見詰めた。



すると



その先から複数の気配と共に



ペタペタペタペタ ズーズーズー



複数の足音 複数の何かを引きずる音が聞こえて来た。



何かがこっちへ来る…



3人はすかさずバックで曲がり角まで後退



更に数メートル程後退し



各自通路の隠れる箇所を素早く探した。



ズーズー ズー  ペタ ペタ



野々宮が無言でしゃがめ、隠れろのハンドサインを送り



野々宮は通路にある1つのドアを見つけ、開くや中へと入りその陰からMP5SDを身構えた。



また御見内はすぐ向かいの窪みへと身を隠し、また村田は通路に置かれたある電化機器らしき遮蔽物に身を屈めた。



その機器の中はネズミの巣と化し、村田の存在に驚いた無数の子ネズミ達が機器の中から飛び出し、散開した。



思わず悲鳴をあげそうになった村田は手で口を押さえる。



ペタペタペタペタ



御見内は目を閉じ、足音から人数を割り出した。



4から5つの足音…



すぐ向かいに位置する野々宮と目を合わせた御見内が5本指を示すや野々宮は頷いた。



それから野々宮は村田へ向け、素人には分からないハンドシグナルを送るや村田はそれに頷いていた。



ペタペタ ペタペタペタペタ



足音が近づき



身を潜める3人に緊張が走った。



また同時に無人で無い事が確認された。



奴等はいると…



MPサブマシンガンを身構えた御見内が視線を向ける先



暗がりな通路の角から人の姿が現れた。



それは一切衣を纏わぬ裸体の男



奴隷の姿だ



そしてそいつは何かを引きずりながら実験室の方へと歩いて行った。



次いで2人目、3人、4人、5人目と角から現れるやラボの方へと進んで行く



そして同時に3人の目に…



奴隷が引きずるその何かを目撃した。



その奴隷達が引きずっているのは



人だった。

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