第86話 竜穰

すっかり通り過ぎた雨雲、晴れ間が覗かせ、森を照らしはじめる



ポタポタ枝から雫が垂れ落ち、水溜まりに波紋を作る森の中 



1本の大木の前に横たわり、気を失う1人の男がいた。



その男に日光が差し込み、照りつける光で男はおもむろに目を覚ました。



男に意識が戻り、目を開けた途端、全身を駆け巡る激痛に襲われた。



「ぐぐ…」



なんだ…この痛み…?



脚、腕を少し動かしただけでも激しい痛みに襲われる



なんだこれ… 駄目だ… 動けない…



立つのはおろか



手足を動かす事さえ厳しい痛み



男は動く事を断念し、じっとさせた。



ここは何処だ…?



横たわる風景から



森…



辺りに目を配るや周りには木々、いわゆる森の中にいる事が分かった。



俺はどうしてここに…?



男にはここまでの記憶がまるで無い



いつから記憶を失くしたのかさえ分からない…



気づけばここにいる…



断片的な記憶を辿るが…



俺は確か激しい拷問を受けてた筈…



死を覚悟する程の徹底的な暴力を受け続けていた…



その時の記憶のみがフラッシュバックされ、それ以降の事はまるで覚えていかなった。



また男は黒い衣が着せられている事にも気づいた。



これは…



俺は誰かに救われ…ここまで運ばれたのか…?



袖から覗く手首にはあのタトゥー



そう…横たわり、目を覚ました男とは半田だ



半田は大木の横に寝かされていた。



裂傷と殴打の為 自力で動くのは困難な状態



ずぶ濡れで寒さを覚えた半田は何も出来ずに、寒さで身震いを起こした。



ただ横たわり、のどかな森の風景を身震いしながら眺めているや



半田の耳にある声が聞こえてきた。



「ウウウウウゥゥ~」



唸り声



それは大木の裏側から聞こえ、こちらへと近づいて来る。



ゾンビ…



その声の正体はすぐに分かったのだが…



身体が動かせない…



枯れ葉を踏みしめ、引きずる音をたてながらその音は徐々に近づいて来る



「ウウウウウ~」



半田は動けずにただただその近づく音に恐怖した。



ガサ ガサ



「ウウウウウゥゥ~ウウウウウ」



その声は大木のすぐ裏まで近づき



半田が青ざめた顔で見上げるや、幹に腐った手が添えられ、ヌ~とゾンビが顔を出してきた。



腐敗がだいぶ進行し、今にも崩れそうな腐ったゾンビの顔



「ひぃぃぃぃ」



半田が思わず小さな悲鳴をあげ、そのゾンビと視線を合わせた その直後



バカッ



突如ゾンビが背後から殴打され、そのゾンビはあっけなく倒された。



それから木の棒を手にした男が大木から姿を現し、そのうつ伏せるゾンビへ馬乗りになる



そしてプッシュダガーナイフを取り出すやそれを後頭部へとねじ込んだ



瞬く間に消沈した呻き声



ゾンビは大地の肥やしとなった。



半田がその男と目を合わせる。



すると



メサイア「おっ 目が覚めたか…ごめんごめん…あいつ…まだ奴等がわんさかいるのに置いてけぼりにしやがってよ 奴等を片付けてたんだわ」



半田「え?」



何の話しだか分からず戸惑う半田



メサイア「つ~か あの馬鹿マジ何処行きやがった…?」 



メサイアが大樹へと腰掛け、座り込んだ。



メサイア「だいぶ手酷くやられたようだけど身体は大丈夫?」



半田「えぇ ちょっと駄目…かな 身体が全く動かない…」 



メサイア「だよね まぁムリもない」



半田「あの… 私を助けてくれた方?」



メサイア「うん…まぁね それにしてもあんたは運がいいよ あの冴子さんとマル兄弟の手に掛けられてまだ生きてるんだから…奇跡的だよ」



半田「えぇ 捕まった時点で死は覚悟してた」



メサイアは懐からタバコを取り出し



メサイア「吸う人?」



メサイアがタバコをすすめた。



半田「えぇ 有り難いが…なにぶん今は身体が動かないもんで…」



メサイアはタバコに火を点けるや、それを半田の口に差し入れた。



半田はそれを咥え、くゆらせる。



メサイアは新たに火を点け



メサイア「フ~~」



共に一服した。



メサイア「あんた抵抗組織の者なんでしょ?」



煙りを吹かしながら、半田が頷く



メサイア「この先にあんたの仲間が待機してるらしぃーよ もう1人あんたの仲間がいて 俺のツレなんだけど そいつが俺等を放置したままどっか行っちまってまだ戻ってこないんだよ」



仲間が助けに来てくれたのだと…



そういえば…



うっすら思い出される記憶、ようやく状況が飲み込めてきた半田が頷いた。



メサイア「スゥー ふぅー 奴が戻り次第出発するから…それまでしばしここで待機するね っかし遅ぇーなぁー あの馬鹿…」



メサイアは吸い殻を投げ捨て、また半田の口からも吸い殻を取るや投げ捨てた。



メサイア「ふぅー」



大木にもたれ、目を瞑りだしたメサイア



30秒程だろう…



ガサ ガサ



リラックスするメサイアの耳にある物音が聞こえてきた。



その音を耳にし、パッと目を開けたメサイアが立ち上がった。



ガサガサ ガザ



徐々に近づく足音



メサイア「やっと来たかよ」



メサイアが出迎えで大木から顔を覗かせた時



メサイアは顔をひきつらせ、青ざめていった…



近づく主は御見内じゃない…



あのバスタードだった…



木の陰に隠れたメサイア



まじか… マズいぞ…



バスタードは真っ直ぐこっちに向かってくる。



このままでは…奴とぶつかる…



メサイアは横たわる半田を目にした。



見つかれば殺される…



クソッタレ…どうすればいい…?



ガサ ガサ ガサ



陰森凄幽の森に響かせる木の葉を踏み潰す音がどんどん近づいて来た。



距離10メートルあるかないか



クソ…今日は究極に厄日だぜ…



メサイアは右手にマカロフを握り、左手にプッシュダガーを手にし、深呼吸をし、意を決する



そして木陰から勢いよく飛び出した。



バスタードのノイズだらけなヴィジョンに黒い影が横切り、反応したバスタードの無機質な眼球が追いかけた。



またロックオンカーソルもその動体物を追いかけ始めた。



人形は向きを変え、メサイアを追いかける。



メサイアは何度も後ろを振り返りながら森を疾走した。



来た…



バスタードが追いかけてくるのを目にしたメサイア



よ~し 来た来た 引き寄せ成功だぜ…



後は奴をこのまま巻くだけだ…



メサイアの思惑通りに事が運ぼうかと思われた その時



バスタードの靴底からローラーが飛び出してきた



シュボボォォォォ~



それから小型のジェット火炎が噴射



雨上がりのぬかるむ土面も関係なく、急スピードで発進された。



メサイア「おぃ 嘘だろ…そんなのありかよ…」



急接近するバスタードの姿に



メサイア「うわあああ」



叫びながら必死に駆けるメサイア



ローラーが泥を跳ね上げ、段違いなスピードで距離は縮められる



そしてすぐに追いつかれた。



メサイア「わぁぁぁ 来るなぁカス」



すぐ背後まで迫り来る人形がメサイアに手を伸ばすや



メサイアは滑るようにしゃがみ込んだ



すると 伸ばす手はメサイアを通り過ぎ



急に止まれぬバスタードがメサイアを通過、正面の木へと激突した。



幹に断裂が生じ、切り口から年輪が顔を出すや



そこそこな大樹が真っ二つにへし折られ、伐採された。



メサイアが慌てて起き上がり、3~4歩あとずさりした時だ



ガチィィ



メサイア「ぐあ」



突拍子なく足首に襲ってきた激痛



メサイアは尻餅をついて倒れた。



なんだ…?



足首に目を向けるや



そこにはトラバサミの凶刃が噛みついていた。



メサイア「ぐぅ」



肉へと完全に食い込み、流血



外そうと試みるのだが深く食い込んだトラップから自力の脱出は難しそうだ…



また辺りを見渡すとトラバサミがそこら中に設置されているのに気づいた。



メサイアは気付かずにトラバサミのトラップエリアへと入り込んでしまったのだ…



そしてその罠の餌食にされてしまった…



何度も何度も取り外しをチャレンジするのだが、逆に肉へと食い込み、痛みが倍増していった。



メサイア「ぐぁぁ」



のたうつメサイア



ちっきしょー……



しかもこのトラバサミ…



鎖で繋がれ、杭が打ち込まれていた。



このままではこの場から逃げられない…



鎖を切らなければ…



メサイアが鎖目掛けマカロフを向けた。



早く… 早く断ち切って逃げないと…



その撃ち込む寸前



ムクッと立ち上がった人形



メサイアはピタリと静止させ、バスタードを凝視する。



そしてバスタードがこっちに向かってきた。



メサイア「く…来るんじゃねぇぇ~」



メサイアは銃口をバスタードに向け発砲した。



パァン パンパァンパァン パン



だが… キン キィン キイン キュン キィィン 



弾はアーマードスーツにはじかれ、それぞれ無軌道な方向へと跳ね返される。



メサイア「来んじゃねぇ~」



更に撃ち続けるメサイア



パァンパンパンパンパンパン



キューン キン キィン キン キン



まるで効果なく人形は近づいて来た。



そして ガチィィ ガチ ガチ



弾切れを起こしたマカロフ



クソ…



弾倉の取り替え作業を急いで行おうとした瞬時に



パシン



ハンドガンがひっぱたかれ、メサイアの手から弾かれた。



メサイアが見上げる眼上にはバスタードが仁王立つ



そしてメサイアの顔面が鷲掴みにされた。



っそがぁ~……



死が頭をよぎった



終わりか…



次の瞬間



ドォーン



ハンドガンよりも重厚な銃声が突如鳴り響き



バスタードの頭部が後方に大きく跳ねた。



顔面へのアイアンクローが離れ



次いで ドォン ドォン



メサイアの背後から鼓膜が揺らぐ程の大音量な発砲音が数発鳴る



メサイアが後ろへ振り返るや



背後にはスマイソンを構える御見内の姿があった。



物語らしく絶妙過ぎるタイミングの主人公到着



バディの絶対絶命なピンチに御見内が現れた。



戦闘型バスタードJM005との対決がはじまる。

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