第69話 注文

キィィィィ



麗らかな日差しに照らされた木々、その木々に囲まれたのどかな国道を1台のSUVがすっとばして行く。



ぐんぐんスピードを上げ、時速80キロまで到達されたその車中で



メサイア「おい これから何処に行けばいい?」



御見内「とりあえずさっきの廃病院に向かってくれ」



メサイア「あいよ」



御見内がシートに横たわる半田の怪我の具合を看ながら告げた。



裂傷、殴打が激しく このままでは命に別状ありの危険な状態が見てとれる



現時点では手の施しようが無いが…



急いで連れ帰って治療しなければならない状態…



御見内は黒装束を脱ぎ、重体となる半田にそれを掛けた。



ぐいぐいスピードを伸ばし



スピードメーターの針が90キロを指した時だ



バイヴス「あれを見て下さい 追っ手です」



ハンドルを握るメサイアもバックミラーでそれを目にした。



後ろから猛烈な勢いで追い上げる複数の車両だ



御見内「来たぞ」



メサイア「あぁ 分かってる ミラーで見えてるよ」



御見内はマカロフを手にし、リアガラスから追っ手の様子を伺った。



御見内「おまえ それ扱った事あるか?」



バイヴス「いえ 一度たりとも 初めて触りました」



御見内「そうか… まぁ 何もないよりはましだ あっちにはサブマシンガンがあるからな… 撃たれないように気をつけて 車に向けて撃ってくれれば それでいい」



バイヴス「はい…」



御見内は予備の弾倉をバイヴスの胸に押し当てると



御見内「予備のマガジンだ 持ってろ」



バイヴス「あ…あ はい」



御見内「最初にこいつの扱いをざっくり説明しとく まずここがマガジンの排出ボタンだ 弾が無くなったらこのポッチを押してそれを入れ替えるんだ」



マカロフの握りの底を押して、弾倉を抜き差しするバイヴス



バイヴス「はい なるほど」



御見内「そしてここが安全装置 このレバーを上げ、ここの撃鉄を押せば発砲可能になる」



それからセイフティーを解除するバイヴス



バイヴス「はい こうですね 分かりました」



御見内「発砲するとここから薬莢が凄い勢いで飛び出して来る 顔に当たると熱いし痛いから あまり顔を近づけないよう注意しろ」



バイヴス「なるほど はい」



御見内「それと発砲する際は慣れるまで両手でしっかり握り、固定してから撃て 反動が凄いから手首を痛める恐れがある…あと片手撃ちは止めろ 撃つ時は必ず両手で添えて こう撃つんだ」



御見内をマネ、射撃のポーズを取るバイヴス



バイヴス「こうですね?了解しました」



御見内「おまえはへんに狙い撃ちしないでいい 車に当てる感じで牽制と弾幕がわりをして貰う いいな?」



バイヴス「は…はい やってみます」



120キロものハイスピードで4台の車が近づいてきた



御見内「来るぞ… 迎撃だ」



キィキィキィー



タイヤの摩擦音が響き



猛追する4台の車



SUVとの距離が50メートルまで縮められた。



バンが2台 ステーションワゴンタイプが1台 ミニバンが一台



ステーションワゴンとバンが左右から挟み撃ちにしようとサイドへ広がりはじめ



武装する敵を乗せた恐怖のビークルがSUVのケツを捉えた。



ガシャ カシャン



車内ではマガジンの弾を確認し、嵌め込む黒フード達



そしてバンのサンルーフが開かれ、1人の黒フードが顔を出すやマカロフが身構えられた。



SUVに向け、引き金に人差し指が添えられた その時



パァーン



銃声が大自然に鳴り響き



木々の合間から音に驚いた数羽の鳥が飛び立った。



サンルーフから身を乗り出す黒フードの眉間は既に貫かれており、目を開けたまま車の中へと沈んでいった。



1発の薬莢が道路に転がり



御見内が窓から乗り出す身体を引っ込めた。



いち早く発砲し、1人黒フードを仕留めた御見内



バイヴス「凄い…今1発で的中させましたよね…」



御見内「そうでもないさ お師匠に比べたらまだまだ… 危ない 伏せろ!」



すると



パラララララララ



連射音が鳴り、連なる薬莢



ピキュン ピン バリーン



リアガラスが脆くも割られ、細かな破片となり崩壊、身を伏せる御見内、バイヴス、シートに横たわる半田に破片のシャワーが降り注いだ。



銃撃を受ける様子をバックミラーから目にするメサイアが



メサイア「チッ」



急ハンドルをきり、銃撃を回避



車体が横に逸れ、弾道から逃れた。



パラララララララ パラララララララ



パン パァン パンパン



いくつの銃口から弾が発射され、狙い撃ちにされるSUV



バイヴス「ひぃいい」



パラララララララ  パンパン



シートに身を伏せ、隠れるバイヴスから頓狂なダミ声が漏れた。



パンパン パンパンパンパン



御見内「解体人 おまえは右のワゴンを狙え 発砲が止んだら撃つぞ」



バイヴス「はい…いぃ~」



そして



御見内「いまだ!」



車中から身を乗り出した2人が応戦した。



パァンパン パンパンパアン パン



バンのフロントガラスに銃痕のヒビが入るが、ワゴンには1発も当てられずバイヴスは己の下手くそを呪った。



すると



窓から身を乗り出した黒フード



御見内「伏せろ」



サブマシンガンを目にした御見内が再び身を伏せるや



パララララララララララララララ



集中攻撃を受けるSUVのボディーは穴だらけとなり



またサイドに展開するステーションワゴンとバンが挟み撃ちにしようと追い上げてきた。



サイドミラーでそれを確認するメサイア



メサイア「行かせるかよ」



右にハンドルをきり



キィィィィ



直進するバンの前に着けたSUV



バンは衝突を避けようと慌ててブレーキが踏まれ減速



そしてメサイアが今度はハンドルを左にきった。



キィィィィ



横並びを阻止しようと、急激な幅寄せで接近したSUVがワゴンと接触された。



ゴン



接触によりコントロールを乱したワゴンが道から脱線するかと思いきや、路肩で何とか持ちこたえた。



ミラーで確認するメサイア「クソ 立て直しやがったか……」



パラララララララ ピキュ ピシッ



パン パァン



のどかな秋空に発砲音が断続的に響き渡り、銃撃戦が繰り広げられる



メサイア「おい あれ見ろ」



微かに遠目で見られる障害物



メサイアの視線の先に2台のトラックが停められているのが見えた。



それは横止めで道にバリケードを張るようにだ



その塞がれたバリケードの前には数十人の奴隷達の姿も見られた



メサイア「やべぇー 奴等に道が封鎖されてっぞ どうする? なぁどうするよ?」



御見内「慌てるな……」



メサイア「おい どうすんだよ?」



御見内「そのまま突っ込め」



メサイア「はぁ?正気かよ」



御見内「いいから突っ込め それで寸前まで行ったら 急ハンドルきって 路側に逃げるんだ」



メサイア「はぁ? 道から逸れろって馬鹿かよ サイドはプチ崖じゃねえかよ このスピードじゃあ ひっくり返るぞ」



御見内「言うとおりにやれよ おまえのドライブテクニックだけが頼りなんだぞ 命預けてんだ」



メサイア「勝手に頼んじゃねえ」



バリケードまでの距離100メートル



パラララララララ



ピシッ キュン ピン



疾走するSUVを同速度で追いかける車両



改めてサイドから横付けを狙うバンとワゴンが迫って来た。



それを目にした御見内が



御見内「解体人 今だ 撃て」



同時に身を乗り出し、2人は発砲した。



パァン パン パン パン パン



牽制射撃の効果で2台の速度が失速され、再度横付けを阻止した。



バリケードまでの距離15メートル



そしてメサイアが叫んだ



メサイア「おい テメェーのオーダー通りにしてやっから掴まってろ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る