第68話 手配

凍りつかせたバイヴス



なんだかヤバいぞ…



メサイアもフードの下で動揺させた。



前後左右奴隷の目線が己に注がれるのを感じたメサイアはフードの先を指で摘まみ、更に深く顔を隠しながら怪しまれる前にその場から歩を進めた。



駐車場までの距離25メートル



後半分…



「…これから2時間だ いいかぁ 2時間以内に始末出来なければテメェー等全員人形送りにする さっさとタマ(命)を取って来い… 」



無言ながらも奴隷達から殺伐とした空気が流れだし



それを感知した御見内も同時に歩きはじめた。



御見内は残り15メートル



半田を背負い、両手が塞がる今



戦う事は出来ない…襲われればジ・エンドだ…



何としてもバレずに車へ辿り着く事だけがこの場から生き残る方法…



通る度に奴隷達が徐々に顔を覗かせて来た



徐々に周囲が俺達を怪しみはじめてる…



2人の安否も気になるが この雑踏の中での確認は不可能



2人の成功を祈るしかない御見内は人混みを抜けひたすら直進した。



もうちょい…



そしてSUVの車体が近づき



よし…抜けた…



御見内が奴隷の群集を一番乗りで抜け出した。



だが… まだ油断は出来ない…



何故なら検問するかのように配置された



最大の難所



黒フード達が目の前にいるのだから



こいつらは 廃人共のようにはいかない…



誤魔化せられるか…?



御見内は正直ためらいを感じ、足を止めた  …のだが…



いや… 行くしかない…



意を決した御見内がどさくさに紛れ、何気ない様子で黒フード達の間を通過しようとした その時だ



「おい そこのおまえ待て おまえ何処行く?」



黒フードに呼び止められ、御見内が即座に足を止めた



すぐそこに見えるSUVを目前にして…



停止した御見内の周りを黒フード達が囲むように集まってきた。



全部で11人…



瞬時に人数を把握した御見内だったが



数えた所で両手は塞がっている 



交戦は出来ない



フード越しからこめかみにサブマシンガンの銃口が押し当てられ



「おい この背中の膨らみは何だ?」



チッ…



心の中で舌を打った。



御見内に最大級のピンチが訪れる



御見内「……」



ガチャ



ハンマーコックされたマカロフが後頭部に向けられ、背後からも狙われた。



「フードを取れ」



このピンチの打開策を考えるが 



サブマシンガン野郎には一度顔を見られてる…



また おぶる半田を見られればもう言い訳のしようがない…



しかも この人数が相手…



しかも 皆 銃を携帯している…



クソ…



このピンチを抜け出す術が無い…



もう1人のサブマシンガン野郎が御見内の前に立ち、フードを掴むや、それがめくられ



また 同時に盛り上がる背中の衣もめくられ、傷だらけの半田が露わにされてしまった。



素顔が晒され、半田の存在も見つかってしまったのだ



御見内の顔を見たサブマシンガン野郎が



「テメェーはさっきの…」



御見内の正体に気づいた…



「やはりテメェーか テメェーが侵入者だったか おい ただちにこいつを殺れ」



正体がバレ…



11個もの銃口が一斉に御見内へと向けられた。



ここまでなのか…



絶体絶命のピンチ



御見内が射殺されようとした その時



御見内の背後に位置する黒フードの首筋へ背後から…



ブスッ



プッシュダガーが刺し込まれ



それが横一線に引かれた。



切り裂かれた喉輪から血が吹き出し、崩れ落ちたその背後にはあの男の姿



次いでそいつは素早く



プッシュダガーで首筋へ



マカロフで黒フードの頬に押し当てた。



両手に握られた武器で同時に2人の黒フードを捉える男



「騒ぐな アンド銃をおろせ この2人もソッコー殺すぞ」



背後から聞こえてくるこの声…



メサイアの声だ



今までこの男には何度も助けられた。



言の葉で口に出さずとも最高のバックアップを入れてくれた。



そして今回は最高級のバックアップを入れてくれた



吹き出す出血を両手で押さえ、呼吸困難になりながらもうつ伏せで倒れ、朽ちて行った黒フード



それを目にしたその場の仲間達はたじろいだ



その一瞬の隙に…



メサイアが1人の黒フードの背後へと回り、羽交い締め、喉元にプッシュダガーを押し当て、ハンドガンを周囲に向けた。



メサイア「平気だな?」



御見内「へっ あぁ やっぱおまえは最高だよ」



メサイア「フッ おまえは世話の焼ける最低な厄病神だぜ おぃ お前等引けぇ」



そして人質を取りつつ 後退する御見内とメサイア



メサイア「解体人はまだか?」



御見内「まだだ」



メサイア「あの野郎 トンズラしたんじゃ…」



御見内「それならそれでいい でも奴はきっと来る」



メサイア「だといいがな 遅れたら置いてくぜ」



ジリジリ車まで後退する2人に9人の黒フード共が銃を構え、にじり寄る



人質に取られた黒フードが2人に吐き捨ててきた。



「オメェー等に逃げ道は無い 逃げ切れねぇーよ 一声で後ろの奴隷達が襲いかかってくるんだからよ」



メサイア「黙れ やってみろよ 死ぬ勇気があるならな そん時は真っ先にテメェーをゴーゴーヘルだぜ」



そして後ずさる2人がSUVに到着



御見内が後部席のドアを開き、半田をシートへと降ろすや



両手の空いた御見内もすかさず銃を抜き、構えはじめた。



メサイアも銃を構えながら運転席のドアを開き、顔に新聞紙を被せられたままの死体を摘まみ出した。



両者 互いに銃を突きつけ合い



睨み合う中



メサイア「あいつまだかよ もういい あいつは置いて行くぞ」



すると



御見内が遅れて群集から現れたバイヴスを目にした。



御見内「待て 来た」



メサイア「遅ぇーよ あの馬鹿」



そしてメサイアがキーを回し、エンジンを始動させた。



キュルルル ブォオオオオ



御見内が人質となる黒フードの耳元で囁く



御見内「その銃 よこせ」



そして マカロフをぶん取るやそれを放り投げた



御見内「解体人 受け取れ」



バイヴス「あ あわ…」



空中に放られたハンドガンを走行しながら慌てて受け取ったバイヴスも合流



マカロフを構えながら2人に近寄った。



メサイア「遅ぇーぞ テメェー 裏切ったかと思ったぜ」



バイヴス「すいません ちょっと絡まれてまして時間食いました」



御見内「よし 脱出だ 解体人乗れ メサイア 運転頼むぞ」



メサイアに代わり人質を羽交いじめる御見内



御見内「さぁー 引くか 死にたいやつは一歩前に出ろ 喜んで射殺してやろう」



すると



「逃がさねー」



メガホンを手にする黒フードがそれを口元に添え



後ろの群集に告げようとする動作を行った



寸前…



させるかよ…



袖からすり落ちた打根を握り締め



御見内がスローイングナイフのようにアンダースローで手首のスナップを利かせリリースした。



無回転で放出された小槍は一直線に飛んで行き



黒フードの眼球へと突き刺された。



「ぐわぁ」



しっかり目玉を破壊し突き刺さった小槍の紐を素早く引っ張り、手繰り寄せた御見内



既に運転席に乗り込むメサイア



後部席左方に乗り込んだバイヴスをチラ見するや御見内は羽交い締める黒フードの背中をおもいっきり前蹴りで蹴りつけた。



蹴り飛ばされた黒フードが接触し奴等がもつれたと同時に後部席に飛び乗った御見内



御見内「行けぇ~ とばせぇ」



その掛け声で思いっきり踏みしめられたアクセルペダル



全てのドアが開きっぱなしのままSUVが急発進



4人を乗せた車が走り出した



転倒した黒フード達がすぐに起き上がるや



バンや乗用車へと乗り込んでいく



「追え 絶対に逃がすな 殺せ」



またトランシーバーを手にした黒フードが…



「例の侵入者が今コーキュートスから黒のSUVで南へ逃走した 片っ端から南側全域に包囲網を張れ 絶対に逃がすな 黒SUV 黒のSUVだぁ~」



キュルキュルキュル



それから数台の車両が動き出し



御見内等を追いはじめた。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「ザァァー  黒のSUVだぁ~」



耳に装着された無線機から音声が漏れ、遠目で右折された車を黙視する双頭



情報適合サーチ



黒のSUV…  適合車両 マッチ



処理ターゲット発見



バスタード JM005 これより処理を開始



サイボーグを思わせるような全身アーマードスーツを装着した2頭の化け物



そいつの靴底から1輪のローラーが飛び出し、小型のジェット火炎が噴出しはじめた。



これはローラーブレード?



まるでそれでもするかの様にそいつは地面を滑り出し、車両を追いかけ始めた。



これから壮絶なカーチェイスが始まると共に



狙いを定めたバスタードが御見内等に迫り来る

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