第52話 来着

国道41号線



道路脇にチラホラと町民の姿が見え



進むにつれその数を増していた。



メサイア「奴隷の数が増えてきたな もうちょいで着くぞ」



御見内「あれ見ろ」



300メートル先には検問の如くバリケードが築かれていた。



スピードを落とし、近づいて行くその車内で



メサイア「もう一度言うけどおまえは変な事すんなよ」



御見内「クドいな 分かってるよ」



グングンスピードが落ち、検問所手前で停車されたSUV



検問所には80年式村田散弾銃やウィンチェスターを肩に掛けた町民が見えた。



メサイア「ちょっと待ってろ」



御見内「あぁ」



そしてメサイアが御見内をチラ見した後、エンジンかけっぱなまま車から降り、検問所へと近づいて行った。



ジャラジャラ



その間に



地面を引きずる音を鳴らし、1人の男が車へと近づいて来た。



両腕にはごっつい鎖が巻きつかれ、それをジャラジャラと地面に垂らし、引きずらせる町民



そいつが車の周囲を歩きながら車内を覗き込んできた。



フードからチラリと目を向けた御見内が装束の下でマカロフのグリップを握り締めた。



周囲には他にも竹槍や鉄槍、またエジプトのコピス、スイスのランタンシールド、インドのジャマダハルやチャクラム、などなど見たことも無い様な世界中の珍しい刀剣を手にした奴等がそこら中に見えた



騒がず動かず、静かに臨戦態勢に入った御見内の視中に



検問所から戻って来るメサイアが映った それと共にスライド式のバリケードが開かれ、道が開かれていった。



鎖野郎も舐め回す様に視線を送りながらおとなしく車から離れだす



メサイア「よし レッツゴーだ」



再び動き出した車が検問所を通過



200メートル程走らせると直進、カーブの二股に分かれ、直進にはまたも検問所らしきものが設置されていた。



再びスピードを緩め、検問所前で停車



骨董品レベルの古式な火縄銃 マスケットやジップガン(銃器メーカー製で無いいわゆる素人の造った密造銃)を肩に担いだイカレた目つきの町民が近づいて来た。



メサイアが窓を開けるや町民は黙って中を覗き込み、それからすぐに手合図を送りはじめる



するとドア式の鉄格子が開かれ、開門された。



警備する町民達の間をSUVが走り出し、2つ目の検問所も無事に通過していった。



御見内「随分なセキュリティーだな」



メサイア「あぁ だな…俺も初めて来たからこれにはびっくりだ 主に対ゾンビ用の対策だろうけど……ここで脱走者の捕獲とか流れ者を拉致ってるって噂を聞いた事がある」



御見内「拉致?」



メサイア「あぁ 訳も分からず攫われ、拷問されたうえに手足切り落とされたんじゃたまったもんじゃねぇよな」



メサイアが煙草を咥え火を点けた。



御見内「俺にも一本くれよ」



メサイア「吸うのか?」



御見内「健康の為止めたけど 健康もクソも無いからな」



メサイア「ほらよ 潜入前の一服だ」



御見内が煙草に火を点け、煙りを肺に入れた途端



御見内「コホッ カハァ ひさびさでむせるな…コホ」



窓から吐き出される煙り



メサイア「なぁ おまえ…何で…お人好しみたいな事してんだ?この土地の人間じゃないんだろ?出身は?」



御見内「東京だよ」



メサイア「おぉ 都会っ子なのか なら尚更この土地の問題に首を突っ込む義理もないだろ」



御見内「義理はないけどメリットはあるさ 北海道に向かう道中ここに立ち寄ってね… だけど渡航が出来無くて 漁船でもフェリーでも操縦出来る船長が必要なんだ それでこの争乱を解決したら交換条件で船を出して貰う約束をしたんだよ」



メサイア「それだけ? たったそれっぽっちの理由でこの問題に首を突っ込んでんのか?」



御見内「あぁ 北海道行きを諦めたくはないしな 真っ当な理由だろ」



メサイア「かぁ~ お人好しっつうか やっぱ馬鹿だな おまえは…」



御見内「かもな でも今は心から思うよ こいつらの悪行は許せない 1人残らずぶっ潰してやりたいって」



メサイア「思うのは勝手だが その心意気はどっから来るんだよ 誰しもゾンビの恐怖に脅えながら暮らすこの生活の中で わざわざ他人のいざこざに首突っ込む馬鹿はホントおまえぐらいなもんだ」



御見内「まぁな 実はもう1つ…俺には相方がいてね その相方が俺以上にこうゆうのが許せない奴でさ…まぁ 流れでってやつだよ」



メサイア「女か?」



御見内「あぁ 気の強いメスのドーベルマンって感じの子だ」



メサイア「彼女か?」



御見内「まぁ そんな所だ」



メサイア「羨ましいじゃねえか でもそんな彼女がいるなら尚更の尚更だろ これ以上へたに首を突っ込むのは止めてさっさとここを離れるべきだ」



御見内「ご忠告有り難いけど…ほれ…もう引き返しは出来ない…目的地が見えて来たぞ」



前方にはツル系植物に全体が覆われた建物



それなりの年月廃墟と化していたお化け屋敷さながらの不気味な雰囲気が漂う建物が見えてきた。



恐怖の施設



拷問、解体、実験の間



コーキュートスと呼ばれる施設が2人の目に映り込んできたのだ



メサイア「う~ なんかさぶいぼがたってきた やべぇ~ぞこれは…」



御見内「………」



沿道の立て看板には血で描かれたようこその文字



また周囲をうろつく町民も今までと雰囲気がガラッと変わり 10代から20代前半の若い男ばかり



メサイア「おいおい 周り見てみろよ… 奴隷のイカレぶりハンパねぇーぞ こんな寒い中 何も着てねぇー奴いんぞ」



みな腕っぷしのありそうなガタイのいい奴ばかりで、釘バットからクロスボウガン、マカロフから日本国産ミロク社の上下ニ連装ライフル銃などなどを所持している。



御見内「あぁ 頭のネジが飛んじまってるな…」



冷静な口調で周囲を眺めながら御見内が口にした。



見た目からどいつもこいつもかなりのイカレポンチぶりだ…



現在の気温10度



にも関わらず上半身裸ならまだまし



この寒空の中 トランクス一丁の奴がいれば、それさえも履いてない奴までいる。



ゾンビや感染者とはまた違う、廃人にされたクレイジーで薄気味悪い若者達がそこら中にうようよしているのだ。



そして車はそんな奴等の間を通過し、大きな門へと近づいて行った。



その門の前には頭にブリーフが被せられ、冴子の人体改造の趣味で全身にインプラント(金属の植め込み)された奴や身体に亀甲縛りで縄が巻かれ頭に穴が開けられるトレパレーション(穿頭)が施された奴



そんなヴィジュアル的にも怖過ぎる奴等がチェーンソーや草刈り機を手にして立っていた。



メサイア「なんなんだよ こいつら… マジやべぇーって なぁ やっぱ帰ろうか…?」



御見内「ビビってんなよ いいから行け」



メサイア「まじかよ…ホントにこの中入るのか?」



御見内「当たり前だろ」



メサイア「はぁ~ なんでこんな目に… わぁーたよ」



メサイアが窓から顔を出し、門番に声を掛けた。



メサイア「門を開けろ」



すると 全裸姿で醜いブタの様な体型の男が近寄って来て、車内を覗き込んで来た。



寒気がする程ブサイクな面構えの町民と目を合わせた御見内とメサイア



するとブタ野郎が無言でハンドジェスチャーを送るや



門がゆっくりと開き始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



下水処理場 コーキュートス 10時08分



開かれた門をSUVが通過、緊張気味な面持ちのメサイアがゆっくりとアクセルを踏み込み、車を進めて行った。



雑木林に囲まれた廃場は10時を回っても薄暗く、ここにも至る箇所で町民等が徘徊していた。



ギャングさながら口をバンダナで覆い、体中には墨と拷問の痕か? 裂傷の痕が刻まれた若者から



身体中にビーズやピアスだらけにされる若者



五体無傷でキレイな身体の奴などどこにもいない



皆 何かしら傷やらボディーアートが目立ち、冴子にいたずらされた奴ばかりだ



そしてこの場の全ての町民等に共通して言える事はマインドコントロールで精神が破壊され、廃人化されてるという事…それと



もう1つ…



御見内「なぁ ここの奴等はなんで素っ裸にされてんだ? ここは衣服さえ着るのを禁止されてるのか? 」



メサイア「知るかよ 多分これは冴子さんの趣味的意向なのかもしれない…奴隷は基本 人の扱いなんて受けてないんだよ…動物の扱いだ 」



満足に衣服さえ与えられず 皆 裸にされて外に放り出されているという事



御見内「動物の扱い?」



メサイア「動物よりも酷いかもな…これを見れば分かるだろ こいつら凍え死ぬぞ…」



御見内はふとすれ違った町民に勢いよく振り返った。



その町民の目を疑いたくなる様な姿に絶句させた御見内の表情



あいつ…



それは銛を肩に担いで歩く、全裸姿の若者の身体



身体中傷だらけで、またサブインシジョン(男性器切開&切除)でカリから上、亀頭が切り落とされていたのだ



メサイア「ひでぇーな 今の奴どうやってションベンすんだよ… あんな風にされたくなければマジここでは慎めよ 冴子さんは最恐で本物の殺人鬼だ あの人にだけは絶対目をつけられないよう目立った行動はよしてくれ」



それはどうかな……



御見内「あぁ 分かった 努力してみる」



駐車場には牛や馬などの家畜用の大型トラックが数台置かれ、他にも乗用車やライトバンなどが数台置かれている。



そして車は空きスペースへとおさめられ、エンジンが切られた。



メサイア「スゥー フゥー」



御見内「大丈夫か?」



メサイア「少しだけ待て 心の準備が必要だ」



御見内「あぁ 少し顔色が悪い リラックスしろ 俺もその間に…」



メサイアが深呼吸で息を整えながら、フードを剥ぎ、髪を掻き上げる最中



御見内「こちら御見内です 聞こえますか?」



その2~3秒後



ポン吉「ジィ こちら本木です かわらず感度はバッチリです ちゃんと聞こえてますよ その後何か収穫はありましたか? ジジ」



メサイア「なんだ?」



御見内「離れに中継で待機してる仲間がいる それでこいつを使って情報が送れる」



メサイア「無線か」



耳に装着された小型無線機をメサイアに晒した御見内がやりとりを再開させた。



御見内「連絡が遅れました…でも代わりに色々と新たな情報が入りました 時間もないので3点程端的に述べますと まず状況が変わりました。今廃病院から下水処理場に移ってます。 半田さんはここにいる可能性が高いのでこれからここの捜索に入ります」



川畑「ジジ 御見内くん こちら川畑だ 移動したのか?今 下水処理場にいるの?ジィーー」



御見内「そうです それでその半田って方の特徴を教えて下さい またここに入った時のコードネームなんかも分かれば教えて欲しいんです」



川畑「ザァザザ 特徴か… 半田は君と同い年くらいで額の左側に大きめのホクロがある… あとは…そうだな 右の手首に確か…チェインのタトゥーが入ってる 特徴と言えるものはそれくらいしかない それとコードネームは…すまない 誰も分からない…これから母屋に聞いてみる 分かり次第すぐにこちらから連絡するよ ザザ」



御見内「了解 頼みます それともう一点 内偵の協力者を見つけました 同行中でこれから捜索を手伝って貰います」



川畑「ジィ その組織の人間か? ジジ」



御見内「えぇ そうです」



川畑「ジジ 組織を裏切って協力を…?それ…信用出来る奴なのか?ジィ」



御見内がメサイアを見ながら口にした。



御見内「えぇ はい 大丈夫だと思います」



川畑「ジジ そうか 君がそう言うなら信じるしかないな…もう一点は…? ジジ」



御見内「ここからが重要な情報です この組織…ただのイカレた愚連隊でもチンピラ組織でもなさそうです…こいつらのバックにはロシアの特殊部隊が控えてます…それと例のカザックが何やら関与してます…あと例の化け物の件なんですが…」



その時だ



「おい おまえ等何してる?」



勢いよくこっちに向かって来る1人の黒フードが見えた。  



御見内「チィ 中断…」



そして御見内が無線機の電源を素早くオフった。



一旦外に出されたマカロフやプッシュダガーナイフ、マガジンと弾薬、煙草にライターまで



メサイアが慌ててそれらを仕舞い込んでいた



「おまえ達 そこで何やってる?」



メサイア「別に 今ここに到着したばかりだよ」



「ただちに降りろ」



メサイア「おいおい 何だよ急に」



すると



カチャ



「いいからさっさと車から降りろ」



いきり立つ黒フードが突然マカロフを構え、突きつけてきた。



メサイアが左手を上げながら



メサイア「おいおい 待てよ そんな物騒なの向けんなって」



「今から数えるう…」



メサイア「分かったよ 今降りるからそれ外せって おい 降りようぜ」



そして一瞬目を合わせた2人



御見内は大人しくドアを開け、外に出た。



またメサイアも外に出るや



「そのまんま後ろを向いて両手をボンネットに乗せろ」



メサイア「んだよ 警察かよおまえは?」



「サンクチュアリーで仲間が2人殺された しかも同じ黒の格好をした2人組にだ」



御見内が周囲を見渡した。



今 周囲に奴隷はいない…



いるのはこいつ1人…



そしてメサイアと目を交わした。



メサイア「…で 俺達が犯人だって言いたいのかよ?」



「そうだ 喉笛を切り裂かれてたそうだから刃物を持ってないか身体検査をする 両手をボンネットに乗せろ」



メサイア「へいへい 職質なら勝手にやれよ お巡りさん」



メサイアが素直にボンネットに両手を乗せ、黒フードが手探りしようとした瞬間



グサッ



川畑から貰ったシーナイフ



黒フードの額にその小型のシーナイフが突き刺された。



白目を剥き、ダラリと黒フードの体躯が揺らいで倒れる寸前、メサイアがキャッチ、そのまま運転席へと詰め込んだ。  



そしてシートを倒し、ナイフを抜き取り、その辺に捨てられていた新聞紙を顔に被せた。



あたかも寝てるかのように



御見内が再び無線をオンにし口にした。



御見内「こちら御見内 途中ですいません… 騒がしくなりそうなので 続きはまたこちら入れます オーバー」



そして無線の主電源が切られた。



メサイア「早くも感ずかれたか…もう奥まで潜る程の時間の余裕は無さそうだぞ」



御見内「そのようだ…だが目的は果たしたい 行くぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る