第51話 手中

ゴロゴロと斬首された生首が床を転げ、吹き出した血液がカプセルのガラスやタオルを赤く染めた。



奇麗な切断面から噴血が飛び散る首なしの胴体は倒れる事もなくその場で不動している。



数人の黒フードが慌ててその場から後退した。



冴子「あちゃー」



山吹「馬鹿者 近寄るなと言ったろ… そいつは少女の恐怖心や警戒心に反応したんだ… 縛身する… ウータム・クータソ・ロ・ベリエル・オーフェン・ホーウェン・ロネロ・バ・ヴェルシェン・スピーリトゥス…」



早口で発声された陀羅尼(だにら)



呪文を唱えた途端、周囲の蝋燭の火が微かに揺れはじめた。



そして恐る恐るカプセルから出てきた少女へと手がかざされる



山吹「…インパタティメーネ・ウェニータ・ベル・モイ・ディアマネート・ドリミンドリミン・バイファスエル・ア・プリシュモンネ…」



錯覚だろうか? 山吹のまじないの言葉により血で描かれた魔法陣が微かに発光したように見える



すると人の目には見えぬ死霊共が魔法陣から飛び出し、空中を飛び回り、山吹以外の人間へとしがみつきはじめた。



山吹「מעצ(捕縛しろ)」



その瞬間



少女の足が止まり、冴子や黒フード達の身も金縛り状態へと陥った。



冴子「はう あぁ この締め付けられる感じ… たまらなく気持ちいい なんだか濡れてきちゃう」



それから



山吹は続けて言葉を並べはじめた。



山吹「今からこのバスタードを完全にマリオ化する… ティピッシュ・バ・ソリー バイエルピリクセェフ モルセルシュリックライラムソフセブ・イーフリート…イーフクリフリエート」



蝋燭の火が激しく揺れ出し、いくつもの火が消えていった。



山吹「…フヮプラフラップ・ギルバーメレフ・ツァフオン・ダロム・ミズラフ・マテラブ……さぁ ネクロの悪色霊体よ これより幼女の御魂に憑依を命ずる…我の従順な使役となるよう干渉し、傀儡せよ」



山吹が何かを握るかのように、そのかざす掌を閉ざした。



途端に少女の目は虚ろへと変化し



それから少女の目が更に変化を遂げた。



山吹「フッ」



魂への介入、寄生、支配を成功させた合図が見られ



それを目にした山吹が不敵な笑みを浮かべ、少女へと歩み出した。



そして目の前まで近づくや少女の顎を指先で軽く上げながら



山吹「おぉ~ 純朴なる愛らしきマリオットよ…おまえとの素晴らしき会遇に心踊る思いだ… 怯える事は無い… さぁ まずはおまえの名を教えておくれ」



「ねぇ…マ…ママは何処?パパは…?ここは何処なの?」



冴子「え?まさかこの子…以前の記憶が残ってる感じ…?」



山吹「案ずる事は無い……さぁ 私におまえの名前を聞かせておくれ」



少女は山吹をジッと見つめ、そしてゆっくりと口にした。



「い…いろは(彩羽)…」



山吹「そうか…彩羽か…いい名だ…お前の両親は死んだ…殺されたんだよ…そこにいる奴等によってな シュ」



山吹が彩羽の縛身解除の仕草をして、数人の黒フード達を指差し告げた。



「え?な…」



目つきを変えた彩羽が指差す方向へ振り向き睨みつけると



山吹「彩羽よ 愛する両親を殺した奴等は…今 そこの目先にいるぞ…」



「だ…代表…何を言いだすんですか…」



「あ…あわわ…」



背中から生えた触手の動きが活発に動き、またいままで背中に隠れていた…



少女の体型には明らかに不相応な成人男性のものと思われる武骨で青筋の浮き上がる筋肉質な腕が一本現れた。



そして 少女が金縛りで動けぬ黒フード達へゆっくり近づき



彩羽「よくも ママとパパを」



「だ…代表… これは何の真似ですか?」



「わぁあああ」



山吹「そいつらを殺るがいい 今ここで殺戮の快感を知り、己の絶大な力を知り、陶酔しろ… そして私の為に働く力を… 振るう術を…今ここで身をもって知れ…」



120センチにも満たない少女が大の大人を見上げるや



背中から伸びたごっつい腕が首を鷲掴み



「ぐっ…ぐふっ ん」



首に力を込め始めた。



「ぐぎゃ ぎゃ…は…ぎゃゃゃ」



そしてそのまま首を握り潰した。



顔に…身体に…



返り血を浴びた彩羽は、もぎ取った首を投げ捨て



隣の黒フードに目を向け、睨みつけた。



「た…たすけ…」



すると  シュ



ド真ん中に縦一線が刻まれ



黒フードの身体が奇麗に真っ二つに分断された。



冴子「わぁ~お~ なんて鮮やかな切れ味なの…」



またすぐ隣りに位置する黒フードに近寄ると



今度は強烈なフックが頬へと炸裂された。



もぎとられた頭部が胴体から離れ



10メートル程飛んで床をゴロゴロと転がった。



一握、一斬、一殴



10秒も経たない内に3つの死体が転がり、その場に佇む少女が振り返り口にした。



彩羽「彩羽の大事なママとパパを返して」



山吹「あぁ そうだな だが…返して貰うには…まずは悪者達を始末していかないといけない 私の言う通りにすればいずれパパやママは戻ってくるだろう」



彩羽「ほんと? じゃあわる~い者全部やっつけて返して貰う」



山吹「フッ そうだそうだ いい子だな」



冴子「ハハ 幻史は嘘つきね」



山吹「冴子 今すぐここに明神、スキャットマン、アイビスと数人の黒共、それから100の奴隷に召集をかけろ」



冴子「えぇ 分かったわ でも何をする気?」



山吹「昨日受けた屈辱を晴らしてやる…これからあの3頭の熊狩りに出掛けるぞ」



冴子「え?幻史自ら出るつもり?」



山吹「無論だ 俺自らの手で屠って剥製にしてくれるわ」



冴子「ビッグイベント開催ね 了解 分かったわ その前にこれを解いていただける… 流石にビショビショに濡れてきちゃった…」



すると 縛身が解かれ、山吹が彩羽を連れ、動き出した。



山吹「彩羽 ついてきなさい」 



神獣よ… 



この最高傑作と我が魔導の力を…



見せてくれるわ…



バスタードレベルA 彩羽を完全に手中におさめた山吹が熊狩りに動き出す

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