第45話 成功

御見内は木陰に身を忍ばせ監視した。



御見内の斜め前方に1人 2人…3人…4人、5人もの人影



いや…もっとだ… 後から続々みえ 10名程の町民らしき集団がぞろぞろと森から姿を現した。



その真ん中には黒フードを着た2人組の姿が見える。



その内1人は猟銃らしき物騒な武器を携帯していた。



真新しいワイヤーの束を肩に掛け、死体袋やシャベル、工具箱やスポーツバッグを幾つも肩に掛ける町民達



こいつらは…



明神から命令を受け、ゾンビの清掃やトラップの交換にやってきた。



掃除部隊の連中だ



御見内が身を潜ませ、その集団に視線を向けていると



黒フードの1人がある木々の合間に設置された装置盤を操作した。



すると



ペンデュラムするスパイク鉄球が一斉にオフられ、動きが静まってゆく



あそこか…



御見内の隠れ見る前で振り子が惰性で揺れながら急速にその動きを止めていった。



よし 運はまだ落ちてないようだ…



「明神さん 今ダウジング停止させました これから中に入ります ちなみに奴等はいませんよね?」



「ザッ あぁちゃんと見えてるよ 今の所は大丈夫だ もうちょい左に歩いてけ、真っ直ぐ落とし穴地帯だ ほっとくと臭いがここまで届いて鼻がもげそうでかなわん さっさと処理に取りかかれ そーだな30分で終わらせろ ザザ」



「いくら何でも30分は無理です」



「ザザ いーからさっさと掃除と交換済ませろ ザァー」



御見内の前で鉄球が完全停止



ただの吊された飾りへと変わった。



ヘッ 俺のツキも中々なもんだぜ…むしろ素晴らしき幸運の持ち主だな…



停止したトラップから続々人が出てくるのと入れ替わり、自画自賛した御見内が気づかれぬよう隠密かつ素早く鉄球の合間をすり抜けた。



誰にも気づかれる事なく、難所をクリアーした御見内は大木に背をつけ、ホッとさせた。



よーしよし 抜け出した…



後はあそこに潜り込むのみだ…



遠ざかってゆく奴等の背中を見送り、移動しようと大木を離れた時



ザッ ザッ ザッ



遅れてやってきた足音



走って来た1人の町民とバッタリ鉢合わせてしまった御見内



電気工具のアタッシュケースに釘や刃物が詰められた箱を肩に乗せ、イカレた眼差しの町民が御見内の前で立ち止まった。



しまった…



黒フードの出で立ちを目にし、無言でこちらをガン見する町民



御見内を怪訝な顔で覗かせてきた。



今ここで騒がれたら全てがオジャンになる…



町民の瞳孔が微かに開き



喚こうとした



その瞬間



させるか…



瞬足で踏み込んだ御見内が右の鉄拳を振りかぶっていた。



バコッ



豪快な掌底フックが顎へとヒット



脳を揺らされた町民が白目を剥いて気絶、うつぶせで倒れ、枯れ葉を散らした。



ピクリとも動かずに完全にノビた町民を尻目に歩を進めた御見内がスナイパーを気にしつつ、全速力でダッシュした。



こっから先は熊除け用の鈴が複数取り付けられたロープやワイヤーが各所に張り巡らせられたトラップ群



御見内はそれらを潜り抜け、飛び越えていった。



残り540メートル



木々の間をS字で疾走



鈴のロープをハードル越えでヒラリと飛び越え、森を駆け抜けて行った。



そして残り220メートルまで近寄った時



枝の隙間から覗かせた御見内の目に…



ようやく廃病院の屋上にいるスナイパーの姿が肉眼で捉えられた。



急激に眉間にシワを寄せた御見内



噂のスナイパーって奴はあいつか…



今までマツさんの仲間達を殺害し続けてて来た1、2を争うスプリーキラー(大量殺人鬼)と言われる男…



スコープの方向が逸れたと同時に駆け出した御見内



枯れ葉を踏み鳴らし、進んで行くや



木々の間から見える一郭に建つ建物の一角が近づいて来た。



そしてついに森を抜け、御見内は建物の壁に背を貼りつかせた。



スナイパーの目を見事掻い潜り、数々のトラップを回避し、ようやく廃病院へと辿り着いた。



ここは建物の裏側にあたる一区画



外壁は汚れに汚れ、無数の亀裂が走っている。



また窓ガラスが幾つも割れ、その破片が地面に散乱していた。



外観は廃病院らしい朽ちっぷりだ



御見内は速やかに入口を探し、側面へと周り込んだ



前には見渡しのいい広々とした駐車場



そこには1BOXやらSUV、ミニバンから箱車、3トントラックまで十数台の車が止められていた。



御見内が壁の隅から顔を覗かせ様子を伺った。



駐車場の周りには警備らしき数人の男達が武器を手に巡回している。



また 南1号棟 時間外外来、ER(救急医療)センター入り口の看板手前にも門番の如く 銛(もり)や鍬(くわ)、トライデント(西洋の三叉槍)を手にした素っ裸な町民等がたむろし、見張りをしていた。



メインは厳重…ここは駄目だ…



御見内はすぐに違う入り口を探す為、踵を返した。



裏側を引き返し移動、隔離された喫煙所を通り過ぎ、自転車置き場を過ぎ北口棟側へと移動するや前から巡回する2人の町民の姿が見えてきた。



御見内は大型や中型の3台連なり置かれた物置の陰へ咄嗟に入り込み、身を隠した。



金砕棒(鬼が持ってる棒)や木刀、メイス(鎚矛)や国産品レプリカのグラディウス(古代ローマのグラディエーターの刀剣)を手にした町民等が御見内の存在に気づく事なく、通り過ぎてゆく



そこら中に見張りが点在している廃病院



御見内はバレぬよう移動し、北口棟の側面に到着した。



壁から顔を覗かせ、辺りを見渡すや



こっちの入り口にもサバイバルナイフからレイピイ(フェンシングの様な武器)、ファルシオンの偽物の武器(中世ヨーロッパの武装海賊団ヴァイキングが持っていた刀剣)からタルワール(インドの刀剣)、包丁などなど世界中の特殊な武器を携えた町民等が警備にあたっていた。



チッ… ここもか どこもかしこもチョロチョロいやがるな…



これじゃあ中に入れねぇー…



こうなったら…



御見内が2階を見上げた。



だが上を見渡すがとてもじゃないが高過ぎて入れない



なら…



どこか排水の管をよじ登って入れる窓はないか…?



御見内が裏側から排水管と隣接する窓がないかを探し始めた時だ



北口棟の奥からまたも巡回する5~6名の町民等の姿、こっちに向かって来た。



マズい…



すると 今度は南口棟からも奴等の足音が聞こえ、こっちへ向かって来た。



挟まれる…



そして南口棟の角から2人の町民が現れるや2人の前には深々と被られた黒フード姿の男がいた。



2人の町民はまるで存在でもしないかの様に黒フードをスルーし、そのまま通り過ぎて行った。



黒フードはチラリと後ろを振り返るや、足早にそのまま南口棟の入り口へと進み、7~8人が警備する関所を通り抜けて行った。



イカレたいくつもの目がギョロっと向けられるが、まるで透明人間かの様に反応しない町民等の間を無言で抜ける事が出来た。



深々とフードを被った男はすんなり中へと入り込み廊下を早歩きした。



廊下にも数人の町民等の姿



奴隷の様にコキ使われ、何やら労働を強いられてる者や



「らぁぁ バコッ ズシッ バキッ」



ある1室では人間サンドバックで黒い外套に身を包む者に殴る蹴るのタコ殴り状態にされてる姿



それらを横目で通り過ぎた。



そしてある化粧室へと入り込んだ



誰もいない事を確認し、フードを剥ぎ取った御見内



洗面台の鏡に写る自分を目にしながら口にした。



耳に取り付けられた小型無線機のボタンを押しながら…



御見内「こちら御見内…今…無事廃病院内に潜入成功しました」



これより御見内の内部調査及び黒フード狩りが始められようとしている

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