第44話 鉄槌

廃病院までの距離680メートル



ギシッ ギシッ



揺れるたび軋む紐の音色



スパイク鉄球が一定のリズム、一定の振り幅で左右に揺れ



まるでゲームやアドベンチャー映画にでも出てくる異様な不気味さを演出していた。



隣同士ぶつかりそうなギリギリの距離で休む事無くそれらは揺れ動いている。



そんな奇物が数キロにも及び横一線に配置されていた。



これを見て流石の御見内も戸惑った。



ただ揺れ動いているだけなら、リズムに合わせすり抜ければいい…



だが…



果たしてそんな単純な仕掛けかどうかも怪しい所だ…



もしこれが俺の考えるセオリー通りならば…



何事もステージを進める度、大なり小なり複雑かつ難しくなっていくもの



難易度は次第に高度になっていくものだ…



っとなれば目の前のこの仕掛け…



ここにきて 見たままの仕掛けとは到底思えない…



何か捻った仕掛けがあるに違いない…



そう考えるのが無難だろう…



それともう一つ



俺の直感が働きかけてくる



危険な香りがする… 注意せよ…と



ダブル…いや…トリプルトラップの可能性だってありえる…



とにかく何か細工がある



その為なかなか行動出来ずにいた。



ギシッ ギシッ ギシッ



規則的なスピードで振り子する鉄球を数分もの間じっくり観察する御見内。



この動きの不自然さ…



自然に振り子してるとは考えられない…



機械的な動き…



なんらかの動力装置がどこかにある筈…



どこにある?



しばし観察するのだがそれらしき物はどこにも見当たらなかった。



参ったぞ… こんな所でモタモタしてられない…



今まで原始的な罠ばかりだったのに…ここにきて…



装置導入とかふざけやがって…



黒フード野郎共… 中に入ったらぜってぇーただじゃおかねぇーからな… 暴れてやる



次第に御見内に焦りと怒りが生じてきた



って言ってるその前に早急にここを抜けないとな… もっと考えろ 観察しろ



しかしここからでは何も分からず 時間だけが過ぎてゆく



マジでどうすればいいんだこれ…?



糸口が掴めず途方に暮れる御見内が周囲へと目を向けた。



このままじゃラチあかねぇ~



っかし こんな時にゾンビの1体でも現れてくれりゃあ奴等で確かめられるのに…



クソ こうゆう時に限って出てきやしねぇー…



永遠に止まりそうもない振り子罠を前に足止めをくう御見内は憤りを覚えた。



そんな時だ



背後からある声が聞こえてきた。



この声…? もしや…



御見内が振り返るとそこには願いが通じたかの様に



よろよろとぎこちない歩行で向かって来る2体のアンデッドがいた。



来たぁー よっしゃー……



どぎつい腐乱臭を撒き散らし真っ直ぐこちらに向かって来る2体は…



まだ御見内の存在に気づいていない



「ああぁぁぁぁ~ううぅぅうぅ~」



ラッキーだぜ…



御見内は奴等に見つからぬよう、素早く木の陰へと隠れ、息を殺してゾンビの動向を観察した。



このまま直進してくれれば…



年寄りの様にノロマな歩行で前進する2体を木陰からジッと目にしながら御見内は強く願った。



あのノータリン共、このまま進んでしっかりとトラップに突っ込んでくれよ…



そのままちゃんと突っ込んで見せてくれよ…



「ぅぅうぅぅぅうぅぅぅうぅ」



死した廃人共がスローペースで御見内の側を通り過ぎ



ペンデュラムする鉄球のトラップへと徐々に近づいて行く



目を凝らし御見内は刮目した。



さぁー 散々待たしたんだぁー 何もなかったら怒るぜぇー しかと見せてみろ…



「ああぁぁぁぁ ぁー」



ギシッ ギシッ ギシッ



そして御見内が動向を見張る中



ゾンビ2体がトラップのエリアへと踏み込んだ



すると



その入り込んだ瞬間



予想だにしない事が御見内の目に飛び込んできた。



ゾンビが足を踏み入れた途端、振り子するスパイク鉄球がいきなり軌道を変え、ゾンビに襲いかかったのだ



振り子から回転に変わり、横殴りで1体のゾンビを凪払った



腐りかけの身体は弾き飛ばされ、見るも無惨に上体、下体が別れ、薙ぎ倒された。



またスパイク鉄球は動きを変えたまま一回転し、縦に弧円を描き始めるや、今度は鉄槌の如くもう一体に振り下ろされた。



グチョ



大量の枯れ葉が舞い上がり



ペチャンコにされたゾンビは小さなクレーターとなる地中に押し潰され、埋葬された。



まるで生き物の様に反応、動きのパターンを変え、侵入者に襲いかかった鉄球



それを見て御見内は唖然とした。



なんだ…このデタラメな仕掛け…



近づいた途端にペッタンコかよ…



鉄球は揺れながら再び元の動きへと戻っていく



トラップの全貌が今明らかになった。



近づくと襲いかかってくる仕掛け…



やはりなんらかの装置が取り付けられ、動かされてるのが明らかにされた



そしてエリアに侵入すると反応し、攻撃してくる事も…



赤外線…? サーマル(熱)センサー…? モーションセンサー…?ドップラー検知…か?



種類は定かじゃないがどうやら目に見えないセンサーが張り巡らされてるのかもしれない…



弾き飛ばされた上半身のみのゾンビをチラ見した御見内



ゾンビは虫の息でピクピクさせている。



そして鉄球に目を向け渋い顔をさせた。



クソッ 思ったよりハイテクかよ…



あれを避けながら通過しないといけないのか…



いや…待てよ…スピードも軌道も同じなら  一振りさえかわせば何とか行けるかも…?



御見内が御誂(おあつら)え向きな朽ち木を拾い上げた。



確かめる必要がある…



そして それをトラップへと放り投げた。



放られた朽ち木がエリアに入った瞬間



センサーに反応



ペンデュラムするスパイク鉄球がすぐさま軌道を変え



空中の朽ち木が叩き落とされ、地中に埋められた。



まじか…?



スピードがさっきよりも段違…



再度枯れ木を拾い上げ、御見内はまたもそれを放ってみた。



すると 今度はアッパーカットで空中の枯れ木がすくい上げられた



枯れ木は粉砕され、空高く舞い上がる。



やはり軌道のパターンが毎回違う…



このランダムな軌道とあのスピードじゃ…



予測なんて出来ない…



駄目だ…



流石にこれじゃあ避け切れない…



ここまで来て断念せざるおえないのか…?



やはり通過するにはあるだろう装置自体を止めるしかない…



しかしその装置の場所さえ分からない…



恐らくそれは振り子の後ろに隠して設置されてるだろう…



こいつを抜けてからの解除じゃまるで無意味だ…



冗談じゃねぇ ここまできて引き下がれるか…



活路を見失った御見内は茫然とさせ、拳を強く握り締めた。



今更後戻りなんて出来ない…



どうする…?



こうなったら…遠回りだが…



左右に数キロは続いてるだろうペンデュラムトラップの壁を迂回するしかない…



あのスナイパーが見張ってる中を…



横移動はスナイパーに発見され易くなり、リスクも数倍高まる



一か八かで鉄球回避を試みるか?



それとも捕捉されやすい危険な中、迂回ルートに変更するか?



どちらも命を落とす高リスク…



目的の施設までもう目の前だってのに…



苦しい選択を迫られた御見内はその場で悩みに悩んだ



「…死んだ時は己の浅はかさを恨め…」



ふと御見内はマツのあの言葉を思い出した。



これは自分で言い出した作戦…



ここで引き下がる訳にはいかない…



こうなったら…



あの振り子を突破する…



あのスパイク鉄球を通り抜ける方を選択した御見内の強く握った拳が汗ばんだ



一か八かの突破を決意し、ゆっくり立ち上がった御見内が深呼吸



一歩を踏み出そうとした



その時



ある人影…



ある声が…



鉄球トラップの先から聞こえてきた。

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