第43話 鉄球

いかにも凶悪犯顔



人相の悪い明神がSVD(ドラグノフ狙撃銃)のアイアンサイトを覗きながらなにやら数えている。



明神「ちゅう(2)…ちゅう(4)…たこ(6)かい(8)…な(10)…ちゅう ちゅう たこ かい な…」



それから携帯を手に取り



明神「あ~俺だ 今日も罠にわんさかネズミがひっかかってるぞ… あぁ… 落とし穴地帯だよ… そうだ 昼までに奴隷達に清掃と罠の張り替えやらせとけよ あぁ それとSVD用の7.62の54R弾がそろそろ無くなるからまた10ダース補充してくれ あと次いでに腹も減ったから朝食なんか持ってきてくれ… あ~ あとあれだぁ 夜冷え込むから貼るホッカイロと替えの毛布に湯タンポも頼む… あぁ?わがままじゃねぇ~よ いいから早く持って来いよ」



携帯を放り投げ、監視に専念する明神



そしてスコープを覗き込む明神の目つきが急に変わった。



ん?待てよ……そういえば妙だな…



今さっき俺が射殺したのは4体のみ…



トラップにひっかかる訳でも無く



あの朽ちた感染者達は何だ…?



ズームアップされてくレンズに



仰向けで倒れた感染者の額に刺し傷が見受けられた。



明神が小言で呟いた。



明神「これは…?」



よもやの侵入者…?



奴等以外の… 汚いネズミが入り込んだか…



早くも感づかれ、疑心を抱いた明神がスコープにより周囲の入念なネズミ探しが始められた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



木陰からチラ見で廃病院を見詰める御見内



気づかれたか…?



いや…まだ大丈夫か…



だが…狙撃を受けたという事は少なからず監視が再開された合図になる



御見内が打根を右腕に仕舞い、バンドで固定した。



後1キロ弱のこの距離を…トラップを気にしながら…



尚かつあそこの目を気にしながら進まないといけない…



御見内が黒フードを被り、斜め前の木立へと速やかに移動、すぐに前の木へと移行した。



簡単には潜入させて貰えそうにないな…



廃病院までの距離1206メートル




赤や黄色に色づく紅葉



針葉樹や広葉樹、多種多様に混在する雑木林の癒やしの景観が見渡せる美しい大自然



その大自然なる森林に育まれるある生物達の姿が見えた。



それは冬支度にいそしむ数匹のリス達の姿だ



我が家である杉の幹を駆け上がり、枝に止まるや採集した木の実を仲良く頬ばっている姿は何とも可愛らしく、人であれば誰しも足を止め、目を釘付けにされる光景であろう



そんな生き物達が生息する森林の中を…



ヒラヒラと舞い落ちるブナやクヌギ、杉の落葉を素早い動きで通り過ぎた御見内が三頭木なるブナの大木に背を付け、三つ叉の幹の間から廃病院の屋上へと目を向けた。



周囲のトラップに細心の注意を配り



スナイパーに見つからぬよう…



枝や木を死角に身を屈めて低姿勢で前進して行く



その一方



屋上から目を光らせる明神が微かな枝の揺れや落ち葉の動きまでもチェック、不確かだが…いるであろうを前提に侵入者の索敵を行っていた。



見つけ次第射殺する…



レンズ越しから御見内の捜索と射殺を伺う鋭き目が森へと向けられていた。



少しでも枝が動こうものなら、そこにズームアップされたスコープが向けられ本体の確認がされるのだが…



レンズの中で動く枝は微風によるもの…



今の所…侵入者の確認は出来ていない…



また… 違う箇所で枯れ葉の舞う動きが生じ 直ちに明神によりスコープが向けられた。



そしてレンズにフレームインして来た生き物



レンズの中でその犯人がすぐに判明された。



それは落ち葉の上を走り回りしリスの姿だった。



レンズの中で活発に動くリスは落ち葉の中から木の実を見つけ、その場で食し始めたのだ。



明神「リスか…」



愛らしくも可愛らしいリスがレンズに映し出され、十字のレティクルが合わされる。



リスは鋭い前歯でガリガリと木の実をかじり、もぐもぐするや両脇の頬に食料が蓄えられ、膨れていった。



そんな可愛らしい習性を持つリスが落ち葉から新たに木の実を拾い上げ、再び木の実を食し出す



その瞬間



パスッ



レンズに映るリスの身体が跡形も無く木っ端みじんに弾け飛び、赤い鮮血が飛散された。



明神「チィ ちょこざいに動くネズミと変わらぬ齧歯類(げっしるい)め、貴重な弾を使わせるな」



すぐ側の木々を伝う仲間のリスにも気づかれず、静かに暗殺された



そんな微かな動きさえも見逃さないスナイパーの目



目障りな標的は何であろうと侵入を許さない冷酷非道なハンターの目



明神は何事もなかったかのように再び索敵を続けた。



クスノキの大木に身を潜める御見内の目の前で、数メートル真横でたったいまリスが消し飛ばされた。



まじか…?



まさか…あそこから…



こんな小さな標的を射止めたってのか…?



しかもこの森林というフィールドにも関わらず…



木々や枝の幾重の障害があるにも関わらず



そのわずかな隙間を縫ってのスナイピングを成功させた…



あそこにいる狙撃手…



御見内が再度廃病院の屋上へと視線を向けた。



とんでもなく腕のたつ奴…



感激する程厄介な野郎がいやがる…



御見内が屋上を気にしながら、再び前進、木々の死角に入り込んで進んで行った。



奴からはスコープの倍率レンズで丸見えって事になる…



しかもあの正確なハイパーロングレンジの腕…



見つかれば即アウトだ…



この木と言う障害物を使い、死角死角を伝っていかねば…俺は間違いなくさっきのリスの二の舞になる…



木陰に隠れ、安全確認するやクイック移動



また木の陰に身を潜め、確認後に素早く移動



これらを繰り返しながら、着実に廃病院までの距離を縮めて行った



いつ狙撃されるかも分からぬ静かな森に緊張感を高まらせた御見内



そんな中 あるアクシデントが御見内を襲った。



それは



屋上ばかりを警戒し



スナイパーにばかり気をとられた御見内の脚に突如… 



不意にお留守な足元に何かが引っかかった



足元に目を向けると



そこには張られたワイヤーが触れていた。



トラップワイヤーだ



まずった…



御見内が慌ててそのワイヤーから離れた。



だがトラップは作動



すると



積まれた枯葉の山からいきなり円形状の刃が高速回転しながら飛び出て来た



ビュン



木材を裁断する時に使用するメタルチップソー(丸鋸刃)の円刃が襲いかかって来たのだ。



やべ…



御見内は無意識に近い咄嗟の行動で仰向けに倒れ込んだ



落ち葉のクッションへ倒れ込み、舞い上がった枯れ葉



己の五体は無事か?



御見内は胸や腹を手で触れ、どこか身体に突き刺さってないかを確かめた。



痛みは無い…



どうやらどこにも刺さってはないようだ



ホッとした表情でフードを剥ぎ、目を向けると、チップソーは後ろの木に深々と突き刺さってるのを発見した。



刺さってる位置は 丁度 首らへん…



まともに受けてたら首がハネられていただろう…



フッ



俺としたことが… アブねぇー 危ねー 油断禁物だわ…



ふと我に返った御見内



奴にばかり気を取られ過ぎてた…



こんな序盤で死んだらいい笑いもんだぜ…



俺様をそのへんの奴と一緒にすんなや…



一瞬肝を冷やした御見内だったが、改めて自身に注意喚起し、クリアーに俄然やる気をみなぎらせた。



そして再び起き上がり、歩み始めた。 



その歩き始めた矢先



ギィー ギィー



何やら変な音が聞こえてきた。



今度は何だよ…?



その音へ近づき、木々の間から顔を覗かせた御見内はある異様な光景を目にした。



一瞬目を疑う程の その異様な光景



それは… 紐で吊された物体が大きく左右に揺れ動いていた。



紐の先にはボーリング球程の黒い球体



しかも黒い球体には無数の尖ったスパイク付きだ



木に吊されたそれら複数の物体が 横一列に 一定の間隔でペンデュラム(振り子)していた。



なんだ…これ…?



次いで現した怪しげなトラップを前に御見内はその場で立ち竦いだ。

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