第42話 鉄丸

感染者から発せられる長々とした内容の畳句法



まるでコピーされたかのように一語一句正確に反復され、それらが永遠とループされていた。



「…最近テレビの影響で週末DIYに凝っちゃってましてね~ 最近犬小屋をちょちょいのちょいで建造しました…」



「…なんでも今極秘プロジェクトで既に火星への移住計画が進められてて…」



「ひゃははははは サイクリング サイクリング ヤッホー ヤッホー ひゃははははは」



「長年連れ添った妻に昨日みくだりはんをつきつけられまして…もう死にたい…生まれ変わったら…ヤドカリにくっつくイソギンチャクになりたい…」



今まで静寂し、穏やかだった森が一気に感染者の声で騒がしくなった。



「LISS IRSSと呼ばれるある恒星がある その星の大きさは147億5500万キロなんだって 地球は約1万3000キロ この星の大きさを例えるなら地球が一ミリだとしよう この星は1、2キロの大きさがある…これを考えると地球なんてちっぽけ星さねぇ ちなみに地球が細胞レベルの大きさなら銀河はアメリカ合衆国の広さなんだってさ~~ 悩み事抱えてても馬鹿らしい いっそゾンビとして生きたい 僕は本日生まれ変わる事を決意しました これからゾンビとして後生を満喫したいので噛まれてきます なので中学3年間僕を今までいじめてきたソウ君やおざ健、タイセーや天音っち みんなを恨むことはしません 忘れます でわっ みなさん さよう…」



グサッ



額に深々と突き刺さった小槍



学ラン姿の中坊らしき感染者の頭が仰け反り、膝が崩れ落ちるや



紐が引かれ、小槍が額から抜かれ、引き戻された。



すると 顔色1つ変えず、冷静な表情の御見内が再度オーバースローで小槍を投擲



隣の感染者の顔面にそれがグサリと突き刺さった。



その感染者はバランスを崩し、大木に激突、横転する



また倒れた拍子に玉突きで後続の数体が足をつまづかせ、次々倒れてゆくと御見内はすかさず後ろを振り返った。



周囲から迫って来る奴等



何が何でも人肉欲しさに血走る奴等の目は常軌を逸し、狂っている。



御見内が軽快な横移動で動くや、それに合わせ軌道を変えて来る奴等の肉迫



御見内を捕まえようと両手を伸ばしながら向かって来た。



「ただ 泣いてぇ 笑ってぇ~ 過ごす日々にぃ 隣に立って 居れる事でぇ~ 君と生きる意味になってぇ 君に捧ぐ この愛の唄 いつも迷惑をかけてごめんね 密度濃い…」



すると



ドサッ



地面の底が抜け、数体の感染者が忽然と地表から姿を消した。



今度は右サイドへと目を向けた御見内がまたその場から動き始めた。



「あのさぁーあのさぁ 猫がノミつけて帰って来て 部屋で大繁殖 猫ノミはやばいよやばいよヤバいよ ホストの猫がいないと人間に襲いかかってくるからね 増えちゃうと全滅させるのも…」



ドサッ  グサグサ グサ



また一瞬して姿を消した感染者



落とし穴にまんまと引っかかり、落下していた。



後続する2~3体の感染者もその穴に次々と落ちて行く



そして御見内が今度は左サイドへと振り返った。



御見内はこの状況にも関わらず冷静に落とし穴のポイントを見定め、巧みにその穴へと奴等を誘導していた。



その結果 針山には幾重にも重なり、哀れに突き刺さる亡者達がいた。



また もう1体が御見内に迫る目前、足に縄が引っかかり逆さに吊り上げられて行く不様なグールや



穴に仕込まれた2本の釘打ちローラーに挟まれ、もがく狂人の身体



奴等の活動が不能になり、トラップは暴かれてく これぞまさに一石二鳥と言えよう



1体 また1体とトラップに引っかかり、奴等の数がみるみる減少していった。



だが… まだ半分以上残っている。



さて…



そろそろ身体を使っての肉弾戦かな…



拳が握られ、本格的に動き出した御見内



御見内は奴等に間合いを詰めさせず、また群れさせず、常に逃走を図りながら着実に1体づつ消しにかかった。



詰めて来た所を高速の手技で打ち払い、隙を作り、手刀、平手、掌底、肘打ちなどの打撃で動きを止めるや



それから一連の動作でクナイの様に握り締めた小槍で感染者の能天に刺し込み必殺した。



また飛びついてきた感染者の袖を掴み、少林寺の逆袖捕投げでクルッと体を回して倒すや、すかさず首をかっ捌く 他にも



ビクトル投げや諸手背負い、呼吸投げなどで感染者を投げ倒してはこめかみや眼球に小槍を突き刺して行った。



素早いフットワークを使い、乱立する木を上手い事ガードに使い 



御見内によって1体づつ確実に息の根が止められていく感染者達



気がつけばあれ程いた奴等が今では指で数える程まで減っていた。



1  2、3 4 5 6…



残り6体か…



木から木へと敏速に移動しながら奴等との距離を離し、穴を飛び越えた。



穴の底から腕を伸ばす串刺しの感染者の上を…



御見内を追って来る感染者達は御見内の移動スピードについて来れず木々に身体をぶつけながら、次第に密集が剥がされていった。



複数の襲撃は避けたい…



肉弾戦はあくまでも単体のみ…一体づつだ



奴等を引っ掻き回し単一になった隙が生まれるや否や



そのチャンスを見逃さず



御見内が前へと飛び出した。



右の前蹴りを胸板へとぶち込み、突進を止め、顔面に左のジャブを一発



次いで左腕で腕を弾き、額に小槍をブスリと一刺した。



抜くと同時に壊れた人形の様に崩れ落ちる感染者



シュ



その崩れ落ちると同時に速射されたハイキックな左の回し蹴りが放たれていた。



そしてすぐ背後から迫るもう一体の感染者の頬へと直撃



そいつにも額へ小槍の一串が成された。



あと4体…



御見内が連撃でもう一体を仕留めにかかろうとした



その時だ



何かが高速で飛来



感染者の後頭部が弾けて、頭皮や肉片が飛び散った。



左目から眼球と共に貫かれた血糊の鉄丸



突然頭部を損傷した感染者が御見内の前で倒れた。



発砲…?



また続けざまにもう一体の感染者の後頭部が撃ち抜かれ、同様に左目から銃丸が貫通されてきた。



御見内は咄嗟に木の陰へと隠れた。



そして残りの2体も次々撃ち抜かれ、絶命していく



狙撃……



しかも4体全てが左目を撃ち抜かれている…



って事は例のやつか…



でも何処から…?



木の陰から前方に目を向けた その時



御見内は驚愕した。



まさか…



御見内の瞳に映る廃病院の屋上が遠くに見えていたのだ



1キロ以上はあるだろうあそこから…?



狙撃してきたのかよ…?



ーーーーーーーーーーーーーーーー



廃病院  屋上



カラン  キン



排莢され捨てられた薬莢



ガシャ



屋上に男が1人… その男がコッキングレバーを引き、リロードされた。



ニ脚で支えられ、マズル(銃口)にはサプレッサー(消音器)が取り付けられた狙撃銃のスコープを…



今さっき起きた様な寝起きの顔



あくびをしながら覗き込む男がいた。



ズームアップされたレンズには先程撃ち殺し、倒した感染者等の姿が映り、距離1213の数字や倍率3.4の数字が表示されている。



屋上にいる男…



最凶シューター 明神の姿があった

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