第35話 完勝

パァン



木陰から現れた農作業着に農帽を被る腰の曲がりしババアゾンビの眉間が撃ち抜かれた。



1発の銃弾がねじ込むや、凝固した血の塊と一緒に頭皮を突き破っていくACP弾



また…



パァン



その隣にいる群青色のヤッケ(レインコート)に身を包むゾンビ額にも飛翔する弾子が正確にプリンキング(エアガンの的撃ち)され、熟成された脳の断片が後頭部に開いた銃穴から飛沫された。



勇ましく凛々しいまでに精悍な顔つきで対処するエレナは…



慌てた様子も無く、十二分にリラックスしている。



エレナは5感をフル活用し、安定された精密射撃を行っていた。



38…39…40…



パァン パァン パァン パン



木陰からうじゃうじゃ這い出る村民ゾンビ共を黙らせ



41…



四肢が激しく損傷したハイカーゾンビを眠らせ



無統制で向かって来るゾンビの集団に1発も無駄にする事なく、命中させていくバレット



42…



エレナは撃破数を心の中で数えながら掃討



相当数 数が減少され、早くも5列目まで駆逐が完了されていた。



43…44…あともうちょいね…



スピーディーに掃除が行われ、当座の脅威は消えた。



そんな駆除間近なゾンビ等がまばらになってきた時だ



ノーマルゾンビのノソノソした牛歩とは異なる早い歩行で…



懐中電灯の可視光線を浴びたある1体の異様なゾンビが満を持して姿を現した。



こいつ…



まるで競歩の様な足取りで接近して来るゾンビに目を向けたエレナ



全身気味悪く小刻みにカクカク上体を揺らしながらノーマルを追い抜き、近づいて来た。



脅威指数が一気に跳ね上がった…



そんな油断禁物な存在…



そう…1体のクリムゾンストーカーの存在だ



エレナは危険な目標体へ狙いを定め、即退治にあたろうと指を添えた



その瞬時



急に真横から1体のゾンビが這い出て来てエレナの足首が掴まれた。



なっ…?



パァン



鬼出電入の出没にバランスを崩したエレナはそのまま発砲



ストーカーの胸部に着弾された。



外した…



エレナは再び狙いを定めたのだが…



また胸に弾を受けようとも難なく接近して来るストーカー



うぅ…ううううう…



足首を握るゾンビに銃撃を邪魔された。



放せ…



エレナは足首を激しく揺すり、振り解こうとするが、ガッシリ掴んだその両手を放そうとしない…



そしてゾンビが噛みつこうとあんぐり口を開くと



パァン



発砲音と同時につむじに開いた穴、ゾンビの首はうなだれ、正常な死体に戻された。



鬱陶(うっとう)しい…



エレナは足首を掴ませたまま、すぐさまストーカーに銃口を向け、引いた。



だが…



ガチ ガチ



何度引き金をひいても弾が出ない…



ジャフ(詰まり)…? 一瞬そう思われたたが詰まりじゃない… これは単なる弾切れ…



ガチガチ



予備弾はもう無い 



嘘でしょ…? ここで…



この状況で予期せぬ事態発生…純粋に弾薬を使い果たしてしまったトンプソン



エレナは焦りの表情を浮かべた。



数える限りまだ10体程のウォーカーが残ってる…



それに+αあのストーカー…



エレナ「チッ」



舌打ちするエレナがトンプソンと迫り来る奴等を交互に目を向け、考えた…



そして



こうなったら…鉄物のハンマー代わりに…



ドラムマガジンを抜き取り、ゾンビの掴む手を解き、銃を逆さに持ち替えたエレナ



ぶっ叩いてやるわ…



銃身を握り締めエレナがトンプソンを兵杖として使用



行くわよ…



エレナがストーカー目掛け果敢に突っ込んだ



エレナ「うおぉぉ~」



小刻みにくねらせ向かって来るストーカーにエレナはトンプソンを振りかぶり、思いっきしスイングをかました。



バキッ



鈍い音がたち、ストーカーの横っ面ブチ当てられた。



直撃を受けたストーカーはひるみ、よろけると、エレナはすぐさま銃床部で横っ面に2打目の打突をブチ込んだ



バコッ



青あざの様な死斑が浮かぶ頬にまたも直撃を受けたストーカーは倒れそうに仰け反りポーズ



エレナはトンプソンを振りかぶり、再度 哮(たけ)った。



エレナ「うおおお」



それから畳みかけの強烈な1打が振り下ろされ、首根っこに叩きつけられた。



先制に次ぐ先制



即倒し、うつ伏せでストーカーが倒れるや



またも鈍器を振り上げ



チョー寒いんだよ… 早く眠りなさい…



トンプソンを打ち下ろした。



グチャ



エレナの目下(もっか)で頭が陥没、撃沈されたストーカーがいた。



一切の反撃も許さず、ストーカーを瞬殺で仕留めたエレナが残りのゾンビ等へギロリと目を向けた。



お掃除はまだ終わってない…



もぉ~風邪ひいたらどうしてくれんのよ…



エレナはトンプソンを右手で握り、残りの残党狩りに向かって行った。



ぜぇ~んぶ あんた達のせいだからね…



ーーーーーーーーーーーーーーーー



美菜萌vsユキオ



キン



デスサイズの刃先をスティックで打ち払った美菜萌がジャブの如くユキオのみぞおちに突きを入れた。



ユキオ「シュー グホッ シュコー」



息を詰まらす排出音でユキオが腹を押さえ込み、尻込んだ



打物の打撃の事を何も知らないあなたにこれから何たるかを体験させてあげますよ…



剣術とダルマ・チャクラ・ドライブ(転法輪転回棒術 バーラティア)のいろは(基本)ってやつをね…



しなやかに高速で輪転された棒で∞字を描き、美菜萌が追い込みをかけた。



間合いへ踏み込んだ美菜萌がピタッと棒を止めるや



まず左スネに一撃を加えた



次いで右脇腹、左脇腹、肘ちょい上の点欠 手五里へと当て身で4連打を入れた。



ユキオ「シュコー んぐ」



ピキンと腕に痺れが走り、痛の声が漏れたユキオの手が緩み



美菜萌がその手首を殴打した。



途端にデスサイズが手を離れ、地へ落ちた。



そして美菜萌はユキオのガスマスクの隙間に長棒を差し込み



それを突きあげた。



フードが剥がれ、ガスマスクが剥がされ、素顔が露わにされるユキオ



重みある不気味なマスクが落ち、美菜萌がユキオの隠されし真の正体を暴いた。



頬は痩せこけ、面長でぎょろついた眼、いかにも病弱そうで不健康そうな顔付きだ



青びょうたんと軽蔑のニックネームがつけられてもおかしくない



そんなあだ名が相応しい不男ぶりが披露された。



美菜萌によりその素顔が明かされ、乱したユキオは咄嗟に両手で素顔を覆った。



ユキオ「見るなぁ~ 見るな」



一気に感情的に陥り…



美菜萌「……」



ユキオ「ッチショー 見るんでない…見た以上 眼をくり抜き 舌を引き抜き 口を引き裂き、小間切れにしてくれる…」



精神を乱し、逆上したユキオ



顔を片手で覆いながらデスサイズへと手を伸ばした その時だ



鎌が足踏みにされた。



な…?



手で覆う隙間からユキオがギョロ眼で見上げるや、デスサイズを足で踏みつけ、クルクルと高速で棒を転回させながら身構える美菜萌の姿を目にした。



そして美菜萌が小さな声でユキオへ言葉を発した。



美菜萌「あなたがどんなに不細工だろうと…イケメンだろうと…そもそもあなたの見た目なんかに興味は無いですから…」



スティックの回転がピタリと止み



美菜萌「銃刀法違反…及び公防(公務執行妨害)によりあなたを即刻逮捕するだけです」



そしてキレのいい横打ちの棒が放たれ



バコッ



いい音が鳴った。



ユキオの首元を完璧に捕らえ、当てられた長棒



首がくの字へと曲がり、その瞬間ユキオの眼が白目を剥いた。



身体が崩れ落ち



ユキオは気絶、顔面から前のめりに倒れ込んだ



そしてしゃがみ込む美菜萌がズボンに装着されたケースからある物を取り出し



それをユキオの手首に嵌めた



旭日章の刻印がされた黒色の警察手錠だ



そのワッパを丈夫そうな枝へと繋いだ。



木へ繋がれ、幹へもたれ、気をうしなったユキオへまたも口を開いた美菜萌



美菜萌「護送したい所ですが…残念ながら身柄を拘束しても今留置場はありません…あなたの罪を決める裁判所だってありません… したがってこの森をあなたの留置場代わりにします…ここで今まで犯した多くの罪を頭を冷やしながら反省して下さい」



見事ユキオの制圧に成功した美菜萌がエレナへと振り返った時



ドサッ



倒されたゾンビの死体が転がり



エレナの周りには既に10体もの骸が転がっていた。

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