第36話 万頭

銃床にこびりついた血糊



永遠の眠りへと葬り去られたウォーカー達の真ん中に佇むエレナに美菜萌が駆け寄った。



美菜萌「エレナさん」



エレナ「こっちは片付いた 死神野郎は?」



美菜萌「こっちも今終わりました…そこでノビてます」



エレナ「そう 流石は美菜萌さんね お仕事が早い」



美菜萌「いえ エレナさんこそ…」



美菜萌は見渡し驚愕した。



美菜萌「…これ…お1人で…?」



美菜萌の視線の先には、見渡す限り、40体ものゾンビの遺体が転がっていたのだ…



いくら銃器があるとはいえ…



いくら動きの遅いゾンビが相手とはいえ…



たった1人で しかもこの短時間で掃討を完遂出来る数じゃない…



美菜萌は恐る恐るエレナの顔を伺い、見詰めた。



このひと(女性)…一体何者なの…?



エレナ「ううう~ 寒い」



身震いするエレナが両肩を擦った。



美菜萌「大変 このままじゃ風邪ひいちゃいます 2人も心配してますし早く車に戻りましょ」



エレナ「ううう~ うん そうしましょ」



美菜萌が枝に掛けた懐中電灯を取り



エレナが用を無くした年代物のトンプソン機関銃を捨て



1時11分 気温2℃



冷え込みが増す森の中を2人は車へと戻って行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ライト光が手摺りを照らし、舗装された急階段を駆け上がった2人が展望地をそのまま横切り、車へと戻って来た。



美菜萌「着きました さぁ エレナさん早く早く 早く乗って下さい」



エレナ「うう うん…」



寒さで凍えるエレナが後部席のドアレバーに手を掛けた



その時



エレナが手を止めた。



美菜萌が周り込み、反対のドアに近づいた時



エレナが口調を変え、口にした。



エレナ「美菜萌さん ストップ 止まって」



美菜萌「え?あ…はい…」



美菜萌が動きを止め、エレナが目つきを変えた…



誰だ…?



エレナの眼に映る人影…



助手席にはスヤスヤ眠る早織とクリスがいる



また運転席には七海…



だが…後部席にももう1人誰かが乗っているのだ…



何者…?



美菜萌も後部席に座る不審者の存在に気づきエレナの側へと近寄った。



すると



運転席と後部席のパワーウィンドウが開き始めた。



窓が開かれ、運転席では脅えた表情の七海が泣きそうな声でボソッと2人に口にした。



七海「ごめん…」



そして後部席から男の声が…



「遅い…待ちくたびれたぞ……あまりに寒いもんでな…御同乗願った訳だ…」



この声…?



美菜萌がライトを向けるや



そこにはあの男が照らされた。



エレナの眉間にシワが寄りより一層鋭い目つきに変わった。



そこにいるあの男は…



そう…



あの万頭



万頭が座っていた。



どうしてこいつがここに…?



ボウイナイフを巧みに操り、手遊びする万頭へエレナはドア枠に両腕をもたれながら口にした。



エレナ「そこで何してるの?」



万頭「先程言ったようにただの寒さしのぎさ…エレナ…」



口角を上げた万頭がエレナへと振り返り、今度はボウイナイフで指の爪を研ぎ始めた。



まぶたをピクリと動かし、険しさが増していくエレナが口にする。



エレナ「どうやって私の名を知ったかは知らないけど… 間違いなく用があるのは私でしょ?この2人は関係ない…2人を巻き込まないで」



万頭「ふふふ… 情愛か…?泣けるな……私はどうなってもいい…だからこの2人の命だけは助けて……なんてそんなありふれた台詞は吐いてくれるなよ」



エレナ「2人は関係ない」



万頭がシートから早織の寝顔を眺めながら口にした。



万頭「おいおい そんな大声を出すな 起きたらどうする… それにしても可愛らしい寝顔だな…まだ汚れを知らぬ純真無垢なお嬢さんの幸せそうな寝顔……まるで天使のようじゃないか 無事に目覚めて朝日を拝ませたいだろうに」



エレナ「2人は関係ないって言ってるでしょ この2人の事はほっといて…」



美菜萌「…」



万頭「ふふふふふふ 誤魔化そうたって無駄だぞ 関係がないだと?我が同朋達が血眼になって探してる少女が今目の前にいるのにか?手土産としてはむしろおまえの首より価値がある…なのにほっといてか?」



エレナ「止めて 手は出さないで あんたの狙いは私でしょ?」



万頭「あぁ その通り しかもツイてるな 生憎 俺はあんな気色悪い人形なんかに興味が無いんでな…この件に関してはノータッチだ だからこのお嬢さんに価値は無い」



エレナ「なら さっさと車から降りてきなさい… さぁ 私の首が欲しいんでしょ? そこから降りなきゃ取れないわよ」



万頭「はっはっはっ まぁ そうカリカリするな どうせこの車からは逃げられやしないんだからな…」



エレナ「…」



万頭「どちらかと言えば運転席のお姉さんを案じたほうがいいぞ」



エレナ、美菜萌が七海の顔を伺った。



蒼白する七海の顔面



美菜萌「七海さんに何をしたんです?」



万頭「ふっはははは なぁ~に 即席で作ったIEDを仕込んどいてやっただけだ」



エレナ「IED?」



美菜萌「簡易爆弾ってやつです」



万頭「ほら お姉さんの左足をよ~く見てみろ」



ハッとさせたエレナがドアを開き、2人で覗き込むと…



七海の足下に2人が目を向けると



ブレーキペダルと七海の足の間に爆弾らしき物が挟まっていた。



アルミの筒に単1の電池



それらが数本の導線で繋げられている



紛れもない即席の自家製爆弾だ



それを目にし、2人は愕然とさせた



万頭「ふふふふ とうだ?こいつは10分で製造した素敵な贈り物だぞ 威力は小さいが まぁこの車ぐらいは簡単に破壊する威力はある…」 



エレナ「クソッタレ…」



万頭「お気に召さないのか?ふふふ ブレーキは踏まれてる状態 これで逃げる事は叶わない その子を置いてくなら話しは別だがな、だがこれだけは覚えておけ その子が少しでも足の力を抜けば……ドカン…だぞ… ハハハハ 素敵なブービートラップを施してやったんだから喜べ しかもライフデススイッチ方式ってやつでだ どうだ?感激だろ?」



万頭を睨みつけたエレナ



エレナ「感激? このクソテロリスト野郎…こんなクソ小細工しやがって」



万頭「フハハハ 口の悪いやつだ…」



エレナ「じゃあ この車からあんたを出せないわね 爆発する時は私らと一緒にあんたも道ずれよ」



万頭「ハハハハ 焦るな焦るなエレナ 女って生き物はどうしてすぐにこう激情するんだ? いちいち感情的なってよくない… 男と女が分かち合うなど未来永劫成し得ない究極の難問なのが頷ける…」 



エレナ「…」



万頭「…話しはまだ終わってない 最後まで聞け」



美菜萌「…」



万頭「先程も言ったがその2人に興味は無い 俺が興味あるのは…おまえだ」



万頭がボウイナイフで指差した。



万頭「これはさっきの続きを安心して行う為のちょっとしたストッパーがわりに過ぎない」



エレナ「ふざけるな 爆弾仕掛けといて 七海さんを恐怖に陥れといてよくもぬけぬけとそんな事が言えるわね 私と殺り合いたいなら人質なんてとらずに正々堂々来たらどうなの?」



万頭「あぁ そのつもりだ さて ではっ そろそろ本題に入るとするか」



自ら外に出て来た万頭がボウイナイフの刃先をいじくりながら口にした。



万頭「まずはこのIEDの解除する方法を教えてやろう…」

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