第34話 反攻

青森県むつ市 山中  0時32分



かなり冷え込んできた森の中



何度も聞こえてきた銃声に



エレナの安否が気になる美菜萌が捜索で山の中へ



美菜萌「エレナさぁーーーん」



七海から借りた上着を羽織り、身体を丸めながら護身用の長棒を手にエレナを探していた。



一筋の可視光線が懐中電灯から点され闇に包まれた豊かな森を照らす



美菜萌は歩きずらい悪路をエレナの名を呼びながら、ゆっくりした足取りで中へと進んで行った。



美菜萌「エレナさぁ…」



その時だ



美菜萌が掛け声を止め、耳を澄ました。



音がする…



前方から何かがこっちに近づいて来る音だ



ピチャ バシャ



悪路のぬかるみに溜まった水溜まりが弾ける音



美菜萌は歩行を止め、長棒のグリップに握力を込め、懐中電灯でその先を照らした。



すると



闇の中からダッシュで向かって来るエレナの姿が光に照らされた。



美菜萌「エレナさん」



美菜萌もエレナへと駆け寄り



合流を果たすや否や、エレナが後ろを振り返りながら美菜萌の腕を掴み、そのまま走り去った。



美菜萌「エ…エレナさん?」



明らかに穏やかじゃない慌てぶり、しかも身体中泥だらけ…



疑問を抱いた美菜萌が訊(たず)ねるようにエレナの名を呼んだ時



逃去しながらエレナが口を開いた。



エレナ「とにかく全力で走って」



美菜萌「え?どうしたんですか?説明を…」



エレナ「そんな暇…今は無いの…」



すると 後ろからもう1つ足音が聞こえて来た。



ピチャ  ピチャ



エレナがチラッと後ろを振り返るや



やっぱり追いかけてきたか…



シュコー シュコー



何この音…?



何かが迫って来る…



この変な音を耳にした美菜萌も走りながら一筋の光線を照らした。



その時



1人の黒フードが爆走で追っかけて来るのを目にした。



見てくれはいかにも怪しく不気味なガスマスクを被り、死神の大鎌を携帯する黒い装束姿



パッと見からしてホラー感満載な奴が追いかけて来る姿に美菜萌はゾッとさせた。



エレナは美菜萌の腕を掴みながらひたすら車を目指して逃走



シュコー シュー シュー



逃がさんだすよ…



それを追い、みるみる距離を縮めていくユキオが2人に迫った。



森を抜けるまであと30メートル



全力疾走する2人の女の背後を脱兎の勢いで猛追する1人の男



距離間が既に7~8メートルまで詰められてきた。



美菜萌「このままじゃ追いつかれます…ここは闘うしか…」



エレナが再度後ろをチラ見するらや確かに間近まで死神野郎が接近していた。



チッ… やっぱり逃げ切れないか…



仕方ない…



そして



かけ声無しにいきなし走行をストップさせたエレナが美菜萌の腕を振り放し、振り返るや、ユキオへと向かって行った。



急に止まれぬ美菜萌は転びそうになりながらもあたふたして止まり、振り返った時



ガシッ



正面から対局した2人が大鎌とトンプソンの銃身をぶつけ合い、鍔迫り合い、激突



両者がライトに照らされ、その場で動きを止めていた。



ユキオ「シュー シュコー 逃げるのは構わないけど… その首だけ置いてってちょんまげ 大人しく差し出して貰えませんかね?シュコー」



フィルターから通された呼吸音と混じる機械的な声音



エレナ「冗談じゃない… 何様?」



ユキオ「シュコー 死神様ですよ シュー… 冥土へ案内いたしやす…シュコー」



美菜萌は懐中電灯を手頃な位置にある小枝へと挟み、機能を切り替えると一線の光が拡散し広範囲を照射



辺り一面を明るくさせた。



美菜萌はただちに闘構えで長棒を握り締め、エレナの助太刀態勢で弧を描きながら移動する



ユキオ「シュー 欲しいのはあんさんのお首のみ…無抵抗で差し出せば…今ならあちらさんは目を瞑ってあげやすけど… 好条件じゃありやせん?シュコー」



エレナ「はぁ? 随分上からね しかも既に勝った気でいるなんて…ハァー ここに来てから何でこう気にいらないダメンズばかりと出会うのかしらね… また1つエレナブックに書き加える馬鹿が増えて困る… あのさぁ~私ね…あんたみたいな勘違いな自信過剰男が大っ嫌いなのよ…生首を持ち返るですって?やれるもんならやってみろ 私の首の代わりにあんたの首を届けてあげるわ」



ユキオ「シュー 唐人の寝言っすね…シュー そちらこそ随分とたわけた事を…シュー」



鍔迫りから離れたユキオが後退するや横撃ちの斬撃を放ってきた。



エレナもバックで太刈刃筋を見切りよける。



そのよけたと同時に一定の間が開き



ローレディポジション(射撃準備態勢)から脇に抱えるような立射の構えへと転じ、バレル(銃口)から火が吹かれた。



パパパパパ



だが…



反応良く機転を利かせたユキオが銃撃を受ける前に横へと飛び込み、前転しながら再応に森の中へと姿を消した。



すばしっこい奴…



眼球のみを動かし森の中へ向けるや



数秒後…エレナの斜め後ろから…



森の中からユキオが飛び出しデスサイズを振るってきた。



すると



ガシッ



正一文字の盾となす防御



間に割り込んだ美菜萌によって伸びた長棒が大鎌の一刈を受け止めていた。



ユキオ「シュコー なにがしか知らんがお邪魔虫でっせ おたくに用は無いっすよ のけ シュー」



美菜萌「いいえ 私にはあります エレナさん この男は私が相手をしますんで エレナさんはまずはあっちの方を先に…」



気づけば美菜萌の示す方向には次々やってくるゾンビ達がいた。



エレナ「了解 じゃあちょっとここはまかせようかな ちゃちゃっと掃除してくる」



美菜萌「はい」



ユキオ「シュコー どこぞのそれがしか知らぬが おたくら舐めてますの? シュー」



美菜萌「いいえ 別に舐めてません エレナさんの首を刈るですって? その前に私が責任を持ってあなたを現行犯逮捕します」



選手交代で美菜萌がユキオの相手をする事に…



美菜萌の目つきが変わる。



エレナは接近するゾンビ等迎撃に転じ、前へと出た。



うぅううううぅう  うううううぅぁ うあうあうぁああう~



これ何体いるの…?



もういちいち数えるのも面倒な程の衆多な腐った死体共



エレナは片膝をつけ、膝射の射撃態勢に入るや、しっかり肩と顎で銃身を固定、本格的にきちんとした射撃の構えをとった。



視界は良好 さっさとお掃除開始…



射撃に集中したエレナからトリガーが連発で引かれた。



パン パン パン パァン パァン



エレナはライトの照射範囲内に侵入してきたゾンビ等を前列右側から順々に単発で撃ち込み、撃ち落としていった。



音が鳴る度 右から順に沈んで行く腐敗した骸共



パァン パン パン パァン パン



メトローム的な一定の小気味良いテンポで発砲された弾は一発も外す事なく、また全て眉間を捉えて着弾されていた。



パン パァン パァン パン パァン



エレナは圧巻な射撃術で前列を早業で撃滅し、二列目の掃討にあたる。



その一方 



エレナに代わってタイマンをはる美菜萌が只今白兵戦のまっ最中



美菜萌vsユキオ



シュコー シュー



ユキオが一歩、二歩前へ踏み出し



×字な大振りで大きな鎌を振り回す



長棒で距離間を計る美菜萌はその斬撃をヒラリとかわし、バックステップを踏んだ



逃がさんぜよ…シェェー…



ユキオが踏み込み、今度はZの軌道を描いた刃筋を描くも、なんなくバックステップを踏みながら長棒で上手にいなし、ピンポイントで打ち払いながらスウェーバックでかわす美菜萌



高度なインファイトの白兵戦が展開されている。



手技で棒を巧みに操り、鎌の応酬をことごとく打ち払う美菜萌に対し



ユキオがにやけながら更に踏み込み身体をターンさせながら今度は遠心力を加味した強撃の一振りを放ってきた。



ホワチャー ちょこざいなアマちゃんが生意気ね… ぶった斬るでっせぇー…



ヒットすれば首など軽くハネられてしまうだろうごっつい刃



ましてや勢いの乗ったこの痛恨の一撃、首はおろか身体のどの部位に当たろうものなら、まず瀕死は免れない…



助かりたければこれをよける以外の選択肢はない



そんな殺意をはらんだユキオの強烈な一振りがなされたのだが…



デスサイズはことごとく空を斬った。



空振りで半回転するユキオの体躯



大層な武器をお持ちのようですが…



扱う当人は素人丸出しね…



剣道有段者の実力を持つ美菜萌にとって快心撃の一打だろうが、それはスローモーションのように映る一振りに過ぎなかった。



どんなに鋭い刃物だろうが…いかつい鈍器だろうが…当たらなければ…それは意味の無いただの素振り…



百歩譲ってスピードはあるものの、肘の動き、粗い振り打ち



サムライのいた時代なら真っ先に死ぬタイプね…



素人になら通用するかもしれないが…



私には通用しません…



美菜萌はユキオの繰り出す刃筋を完全に読み取っていた。



ちなみにその鎌はオーダーメイドで作ったのかな…?



格好のわりには大した事無いですね…



もう実力は分かりました…



ではっ そろそろ反撃に移ります…



覚悟して下さい…



目つきが更に鋭くなった美菜萌がこれより反撃に移る

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