第11話 襲来

良く言った… そう言いたげにエレナは頷き小さな拍手を数回おこなった。



井野町長「…」 斉藤元消防士「…」



伊藤七海「ヒュ~ 言うわねぇ~」



美菜萌「…」



マツ「ほぉ~ 随分と威勢がいいなぁ 頼もしいじゃないか… よし!では今の所半田からの新たな情報を待つとして奴等の襲撃にいつでも対応出来るよう 常に見張りや警戒は怠るな またゾンビやランナーにも十分注意するようメンバーには私から伝えておく 定例会はこれにて終了する 解散」



美菜萌がすぐに部屋の灯りを点け、プロジェクターの電源やテーブルの上を整理し始めた。



御見内等の前を横切って斉藤、井野が会議室から出て行き、七海が笑顔で手を振りながら続いた。



七海「早織 あとでフラフープで遊ぼっか」



早織「うん やったぁ~」



早織がそれに応え手を振るや会議室にはマツと美菜萌のみが残った。



マツ「2人共そんな所に立ってないで まぁ 掛けろ」



御見内は言われた通り椅子に腰掛け



エレナ「早織ちゃん お姉ちゃん達ちょっとお話しがあるから下で待っててくれる」



早織「え? うん分かった」



マツ「美菜萌」



美菜萌「はい」



すると美菜萌が早織の手を取り



美菜萌「早織ちゃん じゃあ私もフラフープ混ぜて貰おうかなぁ 一緒に下で遊ぼう」



早織「いいよぉ~ 美菜ちゃん」



早織の手をとり美菜萌も部屋から出て行った。



マツ「この町の出来事の大まかな話しはもう聞いてるな… それで 他に何が聞きたいんだ?」



御見内「奴等の目的とは何なんですか?」



マツ「フ~ 実はまだその真意はハッキリと掴めていない… 私達は誘拐された者の救出と共に潜入や監視でその目的を探っているのだが未だ不明な部分が多いんだ」



御見内「これだけ大胆に犯行を行ってるのにですか?しかも潜入や監視も行ってたんですよね?」



マツ「あぁ だがまだ尻尾が掴めない」



御見内「意味も無く大量殺戮を行っている可能性もあると?」



マツ「ふ~ん これだけ調べて何も出てこないとなれば そう言わざるをえないかもしれん 奴等は平気で赤子まで殺す頭のイカレたサイコ集団だからな… 力の誇示か遊戯なのか…」



エレナ「もしそうならますます許せない」



御見内「なら 死体を操る件に関してはどうなんです?」



マツ「それは確かに事実だ 皆も目撃している だが私は魔術など信用出来ない… 何かしらトリックがあると踏んでいるんだがな…」



エレナ「じゃあ もう一つ 早織ちゃんが執拗に狙われてるのは何故なんですか?」



すると一瞬言葉を噤んだマツ



数秒の沈黙後 ゆっくりと口を開いた。



マツ「……私達が現在ハッキリ掴んでる情報は多数の住民が監禁され、暴行や洗脳、殺害されている事実とその場所だけだ… 実際は何も分かっていない アジトへの追跡も潜入も…監視もことごとく見破られ惨殺されている… その数度にも及ぶ潜入で得た貴重な情報を繋ぎ合わせて行くと… 拷問や処刑とは別に何処か別の場所で儀式が行われている事を突き止めた…」



エレナ「儀式?」



マツ「今その場所の特定で半田って奴がその場に潜入を成功させた そいつからの新たな情報のみが頼りで今それを待っている…」



御見内「はい…」



エレナ「…」



マツ「その半田の前に潜入した者がいてな そいつからある奇妙な情報を受けた事があるんだ」



御見内「…」



マツ「そいつの情報だと 奴等はある人体実験を行っているんだと」



エレナ「人体実験?」



マツ「あぁ しかもそれはあまりにも陰惨な実験だそうだ… 数人の各ボディーを生きたまま切り落とし、それを繋ぎ合わせて1体の感染者を作り上げる実験だ…それで最後に幼き子供の魂を植え込むんだそうだ」



御見内「なんだそれ?」



エレナ「酷すぎる…」



マツ「真っ先に誘拐の対象にされたのがこの町の子供達 それで早織以外の少年、少女達は皆さらわれてしまった…」



マツの顔をジッと見詰めた御見内



マツの様子が少しおかしい…



御見内「マツさん 仲間に加わる以上真実が知りたいです… ここまできたら隠さずに本当の事を話して下さい… 奴等の狙いとは何なんです?」



マツ「……はぁ~ 仕方ない 見知らぬ旅人にそこまでとは思ったが 分かった 本当の事を話そう…」



その時だ



ジリリリリリリリリリリ



突如建物全域に警報ベルが鳴り響いた。



マツが慌てて内線電話を取った。



マツ「どうした?………… 何だと…?」



慌てた様子のマツ



マツ「悪いがその話しは後だ…」



エレナ「どうしたんですか?」



マツ「A棟の宿舎にランナー共が現れた バリケードが突破されたようだ」



エレナ「え?」



マツ「女、年寄りがいる棟が危ない…おまえ等も手を貸せ 一緒に来い」



突如のゾンビ襲来



ジリリリリリリリリリリリリリリ



早織と仲良くフラフープで遊ぶ美菜萌、七海の耳にベル音が鳴り、2人がすかさず動く



美菜萌「早織ちゃん ごめんね ベルが鳴ったからちょっとタンマ すぐに戻るから待ってて」



早織「はぁ~い」



七海「行くよ 美菜」



美菜萌「はい」



保安所では急いで武装する男達がいた。



ハンドアックス(手斧)を腰に携帯させ、鳶口を掴んだ斉藤



アメフト用のヘルメットを被り、肘や、膝パッドを装着する男



ボウガン、矢の詰まった筒を手に取り急いで部屋を飛び出す男



ほかにも壁に立てかけられた薙刀を手に取る男



唯一の銃器 散弾銃を手に取る男



機動隊のライオットシールドやキックミット、大型犬にマジ噛みされても防げるセーフティーロング手袋などを装着する男達の姿が見られ



そんな面々が急いで武装を施すさなか



マツ、御見内、エレナ等がやって来た。



マツ「数は?」



川畑「30~40 A棟西門のバリが突破されたみたいだ 町長達が先に向かってる」



マツがエレナ等へ



マツ「おまえ達もすぐに動ける用意を」



御見内「俺達ならいつでも行けます」



七海「でも なんで急にそんな所が?」



川畑「積み重ねられてたテーブルがどうやら風で崩れたみたいだ その音に興味を持った1体が近づき わんさかと」



マツ「A棟のみんなを2階の休憩所に集合させとけ」



川畑「もう伝えてあるよ」



すると美菜萌もあとからやって来て、その場で武装を行う



キャミの上から機動隊用の防護ベストや籠手が装着され、木製の長棒が手に取られた。



マツ「斉藤、川畑、七海、根城、ポン吉、阿部は奴等をA門の塀まで音でおびき寄せろ」



根城「ほい」



根城 裕(ねじろ ひろし)26歳



阿部「よし 行こう」



阿部 尚成(あべ ひさのり)41歳



本木 修(ほんぎ しゅう ニックネームポン吉)29歳



マツ「美菜萌と2人は俺について来い これから4人でA棟の女、年寄り共をこっちの建物に移す 他の者は町長の指示で2つのバックアップに回れ いいな?」



マツが壁に掛けられた武器を手に取った。



前方に予備矢の保持器が取り付けられ、またドットサイトまで取り付けられた110ポンド(50キロ)クロスボウガン



そしてリールを巻いて1矢を装填、また矢の詰まった筒を肩に掛けた。



エレナはUSPハンドガンを抜いた



だが残りの弾丸は5発…



貴重な弾をここでは使えない…



エレナはすぐに銃をホルスターに仕舞い



テーブルに置かれたトンカチを手に取った。



美菜萌「すいません 準備出来ました」



長棒を脇で抱え美菜萌がキャップ帽のツバを指先で摘む



マツ「よし行くぞ」



そして4人も動いた。



ここで待てのジェスチャーを受け、大人しく待つクリスを横目に駆け出すエレナ



階段を駆け下り美菜萌が最初に外へと飛び出した。



それからマツ、御見内、エレナと続きA棟宿舎を目指し移動



A棟宿舎はこの建物から1ブロック(区間)隣に位置している。



恐らく正面の道には奴等が集まっているだろう…



宿舎に近づくには裏から移動するしかない



マツ「裏から周り込む こっちだ」



倉庫裏の高い塀を見上げた4人



美菜萌が長棒を外へと放るや、塀を一気によじ登り、御見内も同時にあがった。



2人もあとに続き



塀の上から手をさしのべる美菜萌がマツを御見内がエレナを引き上げ、塀から跳び降りた。



塀の裏は木々が生い茂る林



4人は林の中、裏手から宿舎まで移動する



御見内「宿舎には何人くらいいるんですか?」



マツ「100人程だ」



御見内「100人!? そんなに!?奴等の襲撃の中を100人もの人数を移すのは難しいですよ お年寄りもいるんですよね?」



マツ「あぁ だがやるしかない だから陽動するんだ」



エレナ「既に建物に侵入してたら?」



マツ「その時考える とりあえず侵入された以上あの宿舎には置いとけない すぐにこっちに移送しなければ…みんなが危ない…」



後から続いて塀を上がる斉藤、七海等の姿も見られ



斉藤「ポン吉達どっち行った」



大きな製造工場の敷地裏を通過し、もう1つの工場らしき敷地裏を通過



4人は金網でくくられた駐車場らしき敷地へと出た。



マツ「あの正面に見える建物が宿舎だ」



そして金網フェンスを飛び越え、宿舎の裏手に入り、待機した。



後から続く斉藤、七海等は更に奥へと進んで行く



マツ「しばしここで待機だ これからあいつらが東口に奴等をおびき寄せる その合図が来たら中に進入する」



マツがトランシーバーを御見内、エレナに示した。



その間に右腕のリストバンドが外され、垂らされた紐



御見内が打根なる小型の槍を掴んだ



また塀に背を付け深呼吸する美菜萌を目にしたエレナ



エレナ「宜しくね美菜萌さん 美菜萌さんってすごくクールね」



美菜萌「あ 宜しくお願いします そんな事ないですよ こう見えてもすごく緊張してるんです」



エレナ「そうなの?常に冷静そうに見える」



美菜萌「マツさんにはいつもしごかれてますから… 騒ぐと怒られます もっと怖いので」



美菜萌が笑顔を見せた時



斉藤「ジィ カァン カンカン カンカンカン おぉ~い 集まれ集まれ~ こっちだこっちだ~ マツさん 情報がだいぶ間違ってますよこれ ジジ」



音を鳴らし、おびき寄せる声が後ろから漏れる陽動部隊からの無線だ



マツ「どうした?」



斉藤「ジジ カンカンカン 20~30って聞いてたんですが… カモン カモン化け物の達ぃ~ …間違ってます えらい数に膨れてます その10倍はいるんじゃないですかね ジィジ」



マツ「数に臆するな いいから陽動を続けとけ」



斉藤「ジィー やってますから ジィ」



御見内「ああなると奴等はもうラチあかなくなります  きっと更に増えてくるでしょう 行くなら少ない今の内です 早い所移動させましょう」



マツ「まぁ 待て待て おまえも焦るな若造… おい消防士 正面の状況を報告しろ 建物内に奴等の侵入はないか?」



斉藤「ジィ はい 順調に集まってきてますよ気持ち悪い奴等が沢山ね こっちにどんどん群れ始めてます え~ 今の所舎内に奴等は侵入してないっす ジィ」



マツ「分かった なら宿舎に入るぞ いいかぁ?」



斉藤「ジィ どうぞ どうぞ 今の内です すぐ行ってやって下さい ジジ」



斉藤からのゴーの合図が出た。



マツ「よし じゃあ行くぞ」



一斉に4人が1.5メートル程の塀を飛び越え、建物へと入り込んだ。



食堂の厨房勝手口から中に進入した4人



調理途中だったのだろうか?まな板には新鮮な肉や野菜のカット途中、シンクには魚の入ったザルが置かれている。



4人はキッチンを通り抜け食堂に出た。



乱雑したテーブルや椅子が放置され



食堂ホールは使われて無い事が一目瞭然だった



御見内「ここは使われてないんですか?」



マツ「あぁ 調理場だけ使って 食うのは各部屋となってる」



エレナ「勿体ない みんなで揃って食べた方が美味しいのに」



マツ「以前 それでゾンビ共に嗅ぎつけられ襲撃された事があってな それ以降ガヤガヤするのを禁止したんだ」



ガシャー



障害の椅子を横に蹴飛ばし、ボウガンを構えるマツを先頭に食堂を突き進んで行く



エレナ「食事くらい団欒したいよね それさえ出来ないなんてホント嫌な世の中」



年季の入った古びた宿舎に昼だというのに薄暗い廊下



その廊下の壁には劣化によるものだろう亀裂やシミが目立ち、ゾンビが出て来てもおかしくない不気味さを際立たせている。



また…



バンバン ガンガン



廊下の先からは死角で見えないが窓ガラスを叩く音が聞こえて来た。

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