第9話 夜襲

真鍋が驚きの表情を浮かべた。



真鍋「早織 おじいちゃんにもお茶貰えるかい?」



早織「私のあげる はい」



ゴソゴソと上体をあげ、喉がカラカラに渇いた真鍋がお茶をすする中



エレナが御見内にコソッと耳打ちした。



エレナ「ねぇ 今ふと思ったんだけどさぁ こんな無法地帯 ZACT介入させちゃえばサクッと解決よね 岩渕さんに困った時は何でも言ってくれって言われたじゃん 呼んじゃう?」



御見内「まぁ…まぁ それは手っ取り早いかもしれない でも…それはどうにもこうにもならなくなった時の最後の切り札で使おう あの人の勧誘が激しくてあまり貸しは作りたくないんだよね」



エレナ「フフ っぱし 本音がポロリしたね だから北海道行きも出発早めたんでしょ?」



御見内「違ぇーし んな事あるかぁ とりあえず出来るだけこの件は自分等の力で解決したい」



エレナ「はぁーい」



真鍋「はぁー お2人共 今壊滅とおっしゃいましたか? ホントそのような事は冗談でも止めて頂きたい 孫の命の恩人である御二方には不幸になって欲しくないです ですから明日にでも速急にこの町から出ていって下され」 



御見内「実際そうしたくともその足が奴等に奪われたもので 行けませよ」



エレナ「そうです って訳で私達は当分ここに滞在しますので宜しくお願いします それで明日にでもそのマツさんって方の所に行ってきますので」



一気にお茶を飲み干し2人を交互に目にした真鍋が再度深い溜め息をついた。



真鍋「奴等の妖術の事を知らないからそのような事が言えるかもしれませんが 捕まればあなた方だって命はありません… 今やこの町を通る者まで平気で攫っていると聞きました 旅人だろうと容赦ないんです」



御見内「心配御無用です 自分等の命は自分等で守りますから… それより1つ取り引きしませんか?」



真鍋「取り引き?」



御見内「えぇ 俺達これから北海道に行きたいんです それで渡航する為の船が必要なんですよ そこでもしこの件が解決したら船をチャーターして欲しいんです それで送って欲しいんです 出来ますか?」



真鍋「大間の漁港にならいくらでも船はあります 用意するくらいお安い御用ですが 私は御覧の通りこのザマです 代わりの者に送らせる事なら可能かと」



御見内「よし じゃあ決まりです 奴等の撃退と交換条件でその手配をお願いします」



真鍋「旅の方 本気で言ってるんですか? 本気で我が町のいざこざに首を突っ込むおつもりですか?」



御見内「えぇ 本気も本気です」



エレナが立ち上がり押し入れに近づいた。



エレナ「布団ってありますか?お借りしてもいいでしょうか?」



真鍋「これはこれは失礼しました  早織 出してあげてくれ」



そして早織も立ち上がり、押し入れを開きながら



早織「今日お姉ちゃんと一緒に寝てもいい?」



エレナ「えぇ勿論 いいにきまってんじゃん じゃあ一緒に寝ようね」



早織「わぁーい」



そして2人で仲良く布団を敷き始めた。



エレナ「お姉ちゃん寝る前にシャワーを浴びたいなぁ 借りてもいいかな?」



早織「早織も一緒に入る! 入ってもいい?」



エレナ「勿論」



早織「わぁ~い やったぁ~ 入ろう入ろう シャワーじゃ寒いから湯船入れるね」



エレナ「フフフ」



2つ敷かれた布団へ寝転がった御見内に寄り添うクリスの毛を撫でながら



仲良く浴室に向かう2人の背中を微笑みながら眺めた。



4つ巴 エントリーNO3



御見内、エレナ… そしてこれより率いるだろう抵抗組織



これから殺戮集団との死闘が始まろうとしている…



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ある豪邸の一室



お姫様が寝る様なシンプルながらも豪華な天蓋付きのベッド



そのベッドがギシギシと激しく揺らされていた。



ベッドの上には町を蹂躙、恐怖に陥れる首謀者の男



山吹がいた。



その山吹の上に女が跨がり



「あん あ…あ あ う」



本能のおもむくままにあげられる喘ぎ声



幾つものキャンドルが灯されるその明かりが白いカーテンに包まれる中を、男に跨がり、激しく腰を動かす影がうっすらと照らされていた。



「はぁ~ あ あ あん あ」



豊かな胸を上下にプルプル揺らし、激しい上下運動で腰を振る淫らな女の姿



「はぁ~ん あ ぁん ハァ~」



すると カーテン越しにある1人の黒フードが現れた。



「代表 お取り込み中 失礼致します 後程になさいますか?」



「あん… はぅ う あ あ あぁ~」



ギシギシ



「キモチイぃ~ はう あ あ あん」



山吹「かまわん なんだ?」



「先程 例の人形が完成したとの連絡が入りました」



それを聞き、女がピタリと腰振りを止めた



「え? やっと成功したんだぁ~」



「分かった 10分したらそっちに向かうと伝えておけ」



「了解しました お楽しみ中失礼致します」



女は男の髪を艶めかしい手つきで撫で回しながら喜びの表情を浮かべた。



「幻史 不細工なお人形もいいけど あの子の姿が早く見たいわ 早い所終わらせて会いに行きましょ」



乱れる髪 薄小麦色に日焼けする肌



20代後半らしき美しくも怪しげなその女の名は…



冴子…



マル兄弟をも凌駕するサイコキラー 拷問、兼イカレた殺人狂の冴子だ



ーーーーーーーーーーーーーーーー



同刻 ある森林の中



ホーホーホー ホーホーホーホー



静寂な森にフクロウの鳴き声が染み渡る深更



森の真ん中にあるキャンプ地、そこに集まって来る奴等がいた。



それは森をさまようハイカー(ハイキングする人)やアルピニスト(登山家)、キャンプをしに来た者から川釣りに訪れた者、自殺者などと見られる感染者やゾンビ達だ



そいつらがこの一カ所へと集まり



夜が老け込むにつれその数が増えてきた。



そしてその場で眠りはじめた。



ちょっとした穴場となるそのキャンプ地に…



放置されたキャンピングカーやボロボロになるテントがいくつも張られ



そのテントで眠る感染者達



集団行動は本能なのか…?



大勢人の集まる場を好む習性か…?



キャンピングカーの中は既にすし詰め状態



パンパンに詰まった車に入れず その周りで眠りに入る感染者達も見られる



またハンモックで眠るボーイスカウト姿の子供の感染者の上に次々乗ろうとする感染者を払いのける姿



立ったまま眠るゾンビ、大木に腰掛けて座り込んで眠るゾンビ



ここは様々な感染者、ゾンビが夜な夜な寝にくる溜まり場となっていた。



そんな溜まり場に



パキッ



ある落ち枝を踏み潰す音で、ユラユラ立ったまま眠るゾンビの目が開かれた。



パキッ



目を覚ましたゾンビが物音の方向にユラユラと身体を向けた



その時



暗闇の中から巨体が現れ、ゾンビが押し倒された



そして死肉にガブリと噛みつき、簡単に噛みちぎられた。



クチャクチャと1、2回の咀嚼後 違う感染者に飛びかかる巨体



またテントの中に頭を突っ込みムシャムシャ食べる音や



キャンピングカーがユラユラと揺れ、窓から上体を突っ込ませる姿が見られた。



屍人の群れに突如現れた3頭の巨大熊



ゾンビ等が夜襲を受けていた。



人間以外には全くの無関心な奴等は仲間が寝込みを襲われようと無反応



血に飢えた獰猛な熊を前に 死人達はひたすら餌食にされていく



熊の手でのしかかり押し潰された身体、脇腹から内臓物が飛び出し



そのはみ出す腸をくわえ引きずり出す



またキャンピングカーの中から感染者の喉笛をくわえ、引きずり出すや咆哮をあげた。



グオオォォオオ~~ グゥウオオオオ~ ガアウウウウ~~



フクロウの鳴き声はピタリと止み



代わりに静寂な深夜の森に熊の吠え声が木霊した。



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