第7話 支配
23時28分
枯れ草の生い茂る空き地に立ったまま居眠りするゾンビ
道端でも寝そべり、イビキをかく感染者
またコンビニの駐車場やバス停のベンチ、公衆電話ボックスの中で眠る感染者達や
しまいには道路のド真ん中で布団のつもりか?
ダンボールを敷きブルーシートをかけて熟睡する感染者までいた。
静かな夜
奴等が眠りにつく町を
奴等に気づかれぬよう歩む御見内達
「グガー グガー」 「スピー スピー」
ホームレス顔負けな堂々とした野宿で気持ち良さげなイビキがそこら中から響き渡り
眠った奴等の間を御見内等はひっそりと移動した。
そして早織の家へと辿り着いた。
声を殺した小さな声で喋る早織
早織「お姉ちゃん達 私んちここだよ」
早織が指差す先には何の変哲も無いごく普通のアパート
モンスリールコーポと看板に記された戸数4つの小さな木造共同住宅物が建っていた。
早織は音をたてぬよう静かに階段を駆け上がり、2階の手摺りから御見内等を手招いた。
そしてクリスを先頭に2人も階段を上がった。
2階通路にはテーブルや椅子で組まれる簡単なバリケードが施されていた。
早織がそのバリケードを外しながら
早織「奥が私のお家だよ」
エレナ「ねえ これ早織ちゃんが1人でやったの?」
早織「うん 出かける時はいつも…おじいちゃんあまり動けないから…ゾンビが来たら大変だから」
御見内も手伝い重いテーブルをどかし、開通させた。
御見内「たくましいね」
そして早織がドアを開き、2人と1匹を家へと招き入れた。
明かりも灯らぬ真っ暗な家に2人はあがり込んだ
エレナ「お邪魔しまーす」
間取りは1Kって所か…
3畳ほどの流しに奥にもう1部屋ある
早織が引き戸を開けるや奥の部屋から小さな明かりが差し込んできた。
そしてそこには布団に横たわる1人の老人
カーテンは閉めきられ、暗い部屋に小さなスタンドライトが点けられている。
「早織か こんな遅くまで何処行ってたんだ? うちに戻ってるって連絡があったけど一向に帰って来ないからおじいちゃん心配したんだぞ」
早織「ただいま ごめんねおじいちゃん お姉ちゃん達と一緒にいたの」
寝たきりの老人と目が合った2人は会釈した。
エレナ「こんばんは 初めまして」
老人も軽く会釈をしながら
「そちらは?」
早織「またあいつらに襲われそうになったの それでお兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたんだよ」
「あいつらとは屍人か? それともあいつらか?」
早織「あいつら…」
「……早織 こっちにおいで」
早織「うん」
そして枕元にしゃがみ込んだ早織の手を握った老人が懇願した。
「早織 1人で外には出歩かんでくれ 出来ればマツさん達の所にもあまり行って欲しくない… おまえは狙われてしまってる おじいちゃんはもう心配で心配で」
早織「でも… ご飯は貰いに行かなきゃだよ 私達 行かなきゃ腹ペコで死んじゃうよ」
「………おじいちゃんはおまえがいなくなってしまう方がよっぽど辛い 外に出ないと約束してくれ」
早織「でも…でも…駄目だよ ご飯食べなきゃ…今日も途中で落としちゃって無いよ また明日貰いに行かなきゃだよ」
「屍人やあいつらがいる以上おまえを危険な目に合わせる訳にはいかんのだよ 食べ物なら美菜ちゃんに頼んで運んで貰う」
早織「私なら大丈夫だって」
「駄目だ もう何度襲われたと思ってる おまえまで失ったら… 当分外に出ず おじいちゃんの側に居てくれると約束してくれ早織」
早織の手を強く握りしめた老人
寝たきりだろうと老人の握り締めるその強さと眼差しから思いを感じ取った早織は渋々と了承し、頷いた。
早織「うん… 分かった」
「よし いい子だ」
早織「うん…お外にはいかないよ ずっとおじいちゃんのそばにいる」
「ありがとよ…早織」
安心した表情を浮かべた老人はすぐに2人に視線を向けた。
「そこのお二方 客人をいつまでもそんな所に立たせて失礼しました ささ どうぞ何も無い狭い部屋ですがお座りになって下され」
御見内は会釈するしながら座り
エレナ「すいません」
エレナも正座で座り込んだ
クリスもエレナに寄り添いながら寝ころぶ
「そんなかしこまらず足を崩して下され それより早織 お2人に温かい飲み物でも出してあげてくれ」
早織「うん」
御見内はすぐに足を崩し、早織はお茶を作りに立ち上がった。
エレナ「夜分にいきなりお邪魔してすいません」
「いやいや こんなボロで申し訳ないですが 夜風ぐらいはしのげるかと思いますのでゆっくりしてって下され」
エレナ「はい ありがとうございます」
「それよりそちらのワンちゃんは? 可愛いらしいですね」
エレナ「フフ クリスって言うんです」
「クリスおいで」
手を差し伸べ、老人が呼ぶが目も合わせず無視するクリスはエレナの頬をペロペロ
エレナ「ほら クリス 呼んでるよ」
だが知らんぷりを決めこむクリスが身体を丸めて目を閉ざしてしまった。
そっぽをむかれた老人は笑い声をあげる
「ハハハ 知らない人には一切尻尾を振らない 飼い主からしてみれば安心な忠犬ではありませんか」
御見内の顔もほころび、3人で目を瞑るクリスを目にした。
「申し遅れました 私は早織の祖父で真鍋達治と申します」
エレナ「私は野崎です 野崎エレナです こっちは…」
御見内「御見内 道です」
達治「御見内さんと野崎さんですか… 孫を助けて頂いたそうでホントありがとうございます お恥ずかしいですが御覧の通りわたくしは人の手を借りなければ何も出来ぬ身になってしまいまして…」
その時だ
御見内が目の色を変え、口を開いた。
御見内「真鍋さん さっきあいつらと言ってましたが…早織ちゃんを襲った相手に自分達も襲われたんです」
真鍋「…」
御見内「見た感じ この町の地元住民らしき人達 そして黒装束の怪しげな奴等にです この町で何が起こってるんでしょうか?」
真鍋「…」
スタンドライトに照らされた真鍋の顔がハッキリと難色を示した。
御見内「知ってたら俺達に教えて下さい あのフードを被ったきな臭い奴等の正体を…」
真鍋「恐ろしい奴等です…」
温かいお茶を入れた早織が2人に湯のみを手渡した。
エレナ「ありがと」
そして真鍋が奴等の事を語り始める
。
真鍋「2ヶ月程前になるでしょうか… 世界中がパニックに陥ったこのゾンビ現象は当然こんな田舎の小さな町でも起こりました。お二方も良くご存じかと思います 噛まれた者は翌日にはランナーとか呼ばれる狂人にばけ 死んだ者はよみがえり人々を襲う恐ろしい現象です…」
湯のみを一口すすった御見内が頷いた。
御見内「はい」
真鍋「陸上自衛隊の基地や航空自衛隊の基地、警察署から交番などは早々に奴等の手におち壊滅 救助の手はなくなり残された者はひたすら恐怖にかられる日々を送りました」
御見内「えぇ よく分かります」
真鍋「逃げ隠れする毎日をビクビクしながら送り その間にも多くの人が犠牲になっていくのをこの目で見てきました… この子の両親も…私の女房もその中の1人です…」
エレナも温かいお茶を飲み、真剣な表情で真鍋の話しに耳を傾けた。
真鍋「そんな脅える中 混乱する中 奴等は突然この町にやってきたんです 顔をフードで隠しマント姿のあの集団です… そしてわずかに生き残った私達に…奴等はこう告げてきたんです」
早織もお盆を抱えたままエレナの隣に座り込む
真鍋「我はネクロマンサー この恐ろしい奇病から汝等を救済しにやって来た… 皆我に耳を傾けよ…と」
エレナ「ネクロマンサー?ネクロマンサーって?」
御見内「黒魔術的な霊や死人を蘇えらせる死霊術でそれを操る奴の事だ」
真鍋「よくご存知で その通りです… 50名程のその集団の中に山吹と呼ばれる男がいまして、そいつは赤いマントを纏い組織の皆から代表と呼ばれているんです。 その男がリーダーです そしてネクロマンサーの術者だと 皆をこの奇病から救いに来たと住民等に呼びかけてきたんです」
ネクロマンサー… 赤いマント… 山吹…
真鍋「当然いきなりあんな姿の集団が現れても誰も信用などしませんでした 怪しく胡乱過ぎます 最初はみんなただのおかしなカルト教団だと相手にしませんでした… ですがあの男は皆を集め、あるパフォーマンスを実践したんです」
エレナ「…」
真鍋「感染者やゾンビに咬まれれば死ぬ ですが全く関与しない死因 つまり病気で亡くなってしまったある年寄りの死体を皆の前に寝かせ その死体がゾンビ化した時に 山吹は聞いた事も無い言葉を喋りました 呪文っていうんですかね… それを唱え始め 集まる住民の目の前でそのゾンビを意のままに操りだしたんです…」
御見内「ゾンビを操った?まさか…ネクロマンサーなんて名だけの迷信の様なもんです 魔術なんてこの世に存在しません」
真鍋「えぇ そう思うのは仕方ありません ですが じつは私も車椅子でそれを拝見しにいった者の1人なんです この目でしかと… ハッキリとそれを見ました その男は確かに亡くなった死体を自分の意のままに動かし、そのゾンビを飼い慣らして見せたんです」
御見内「まさか…」
エレナ「…」
真鍋「それにはみんなおったまげましたよ……あのゾンビが言う事を聞いてるのですから そしてネクロマンサーと言う魔術の話しはこんな小さな町です… すぐにこの噂は町中に広まり ついにはそれを信用する者が増えていったんです」
もう一口お茶をすすった御見内が真鍋の目をまばたき1つなく目にしている。
真鍋「そして山吹は次に私達にこう告げてきたんです…私達はこの恐ろしい奇病を克服するすべを修得している…あんな化け物になりたくなければ皆 私の元に早急に集まれよ…さすればあの奇病を恐れる事はなくなるだろう…とね こんな悪夢の様な現象を前にあれを見せられ、藁にもすがりたい心境の住民達です 生き残った者の3分の2にも及ぶ人達がその救いを求め、山吹の元へと殺到しました」
御見内「なるほど…」
早織は眠るクリスの柔らかい毛を撫でながら大きなあくびをかき、眠そうに目をこすり始めた。
真鍋「まあ ここまでは良かったんですが本題はここからです… 奴等はそのすがって来た住民達を集め、突如監禁、洗脳と暴力をおこないはじめたんです いきなり豹変しこの町を支配し始めたんです」
エレナ「え?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます