第2話 初戦

青森県 むつ市 金曲 279号線



15時21分



歩道をノソノソと歩む感染者やゾンビがチラホラ伺え、バス停でボォーと列をなし、来る事の無いバスをいつまでも待ち続けるゾンビ達



エレナ「あの前に見える交差点を右ね」



御見内「あいよ」



両サイ民家や空き地、商店が立ち並ぶ片道一車線の道路を120キロものスピードで走行、二叉の交差点を右にそれていく



歩道橋の上にも多数の奴等が見られ、走行する車に反応した奴等がザワザワしているのが見えた。



信号機は青から赤に変わるが余裕で信号無視、ザワつく奴等をよそに、猛スピードでバンが走り抜けていく



大破してひっくり返った車や道を塞ぐ障害車を巧みにかわしながらノンストップで走行するその車中では



エレナ「ねえ ちょっと飛ばし過ぎじゃない? 事故ったら面倒だよ」



御見内「チンたらしてたら夜になる… とばしても後30~40分はかかるんだ とりあえず大間まで急ぎたい」



エレナ「分かるけど 安全運転してね」



御見内「あぁ それよりそろそろガスがやばいな いい所にガススタがある あそこで補充しとこう タンクとか積んでるよな?」



前方500メートル先に見えるガソリンスタンドの看板を目にした2人



エレナ「うん… あると思う」



御見内「予備タンで頂いてこ」



2人は車内から周辺に目を配った。



奴等がいないかガススタ周囲を警戒、確認する。



エレナ「左側は大丈夫そう」



御見内「よし 右も大丈夫そうだ」



エレナ「うん」



御見内「後ろにバールあったろ 用意してくれ」 



エレナが身を乗り出し後ろの荷台からバールを探した。



エレナ「銃は?」



御見内「無駄に音で呼びよせるのも嫌だし バールで十分だろ」



エレナ「あった」



そして2本のバールを取り出し、スピードを落としながらゆっくりガソリンスタンドへと接近



御見内「よし どうやら外にはいなそうだな」



エレナ「うん」



ガソリンスタンド内にも運よく奴等の姿は無く、バンを停車させた。



2人はドアを閉める事なく、車から降りすぐに給油へととりかかった。



エレナから投げ渡されたバールを受け取る御見内



エレナが給油機を調べた。



御見内「電源は?」



エレナ「ついたまま すぐに入れられそう」



御見内が車のキーを投げ渡した。



御見内「なら入れとけ 俺は念の為に中を調べて来る 軽油とレギュラー間違えるなよ」



エレナ「うん 分かってる」



御見内「そうそう先に地下タンクにちゃんと残ってるか確認してな」



エレナは頷いた。



そして鍵で給油口を開き、ノズルを突っ込んだ



また給油計量機のメーターで地下タンクの残量を確認したエレナ



軽油は十分ある…



その間御見内はバールを手に建物内を調べに向かった。



ノズルが押され、自動給油されて行くガス



インジケーターのデジタル数字が動き、給油されていく



御見内はすぐに中から出て来た。



御見内「大丈夫だ」



オーケーサインがエレナに向けられた。



安全が確保された中、今度は道路にと飛び出し辺りの警戒、見張りを続ける御見内



エレナ「ねぇ 道 ここにも何個か予備タンあるんだけどこれにも全部入れて、持ってっちゃう?」



御見内「あぁ 道中なにがあるか分からんしな 荷台にまだスペースもあるし、貰ってこうか」



エレナ「了解 じゃあ 重いからこれ運んでって」



車の給油を終え、次々赤の予備タンクにフル満で補給、ガススタにあった軽油専用の携帯タンクにも給油



荷台のハッチを開けた御見内がそれをどんどん積み込んでいった。



そして全て収納されハッチを閉めようとした



その時だ



「キャャャャ」



突如 悲鳴が2人の耳に入って来た。



顔を見合わせる2人



エレナ「え?今の声…?」



少し離れた場所から響いてきた声



バンのハッチが閉められ2人は車に乗り込んだ



エレナ「今の女の人の声よ」



御見内「あぁ」



県内に入って初めて聞く人の声だ…



生存者が近くにいる…



だが希望と同時に1つ緊張感がこみ上げてきた



さっきの悲鳴からして…



襲われている可能性が高いのだから…



エレナ「こっちの方から聞こえてきたよ」



すぐさま出発させ、公道を走らせながら周囲を探す2人



エレナの目に一瞬だけ建物から民家に横切る人影が捉えられた。



エレナ「いた この奥の裏道よ」



次いで複数の人影が横切るのを御見内も目にした。



御見内「先回りする」



スピードを上げ、しばし走らせた車が端に寄せられた。



御見内「気をつけろ 奴等に襲われてる」



エレナ「分かってる」



バールを手にした2人がダッシュで歩道を駆け、公道から細道へと先回りした。




「はっ は 」



小学校低学年ぐらいだろう1人の少女が何度も何度も後ろを振り返りながら必死に何かから逃げていた。



「はぁ はっ」



お日様の届かぬ暗い道、車の進入が困難な狭い路地を走る少女が後ろを振り返った時



足をつまづかせ、転びそうになった



だが少女は寸前に柵へとしがみつき転倒を免れる



完全に息があがり、引きつった顔で追っ手に目を向ける少女の背後から姿を現した2人



突如 角から現れた2人に少女はびっくりさせ 叫び声をあげる瞬間



しゃがみ込んだエレナによって口が塞がれた。



御見内は少女の前へと立ち塞ぎ



エレナ「大丈夫 お姉ちゃん達は人間よ」



そっと口から手を離し、少女の肩に手を添えたエレナは優しく自らの背後へと少女を移した。



御見内はバール構え、鋭き視線を向けるや、ジメジメする暗がりな路地先から2人の男が姿を現した。



感染者との違いを一目で認識させた御見内



ゾンビじゃなかった…



この2人… 人間だ



だが少し様子がおかしい…



2人共目は虚ろでイっている、しかも鼻水やよだれをたらし



格好がおかしい…



2人共 着衣を一切身につけていないのだ



頭のイカれた露出狂の変態か…



目の焦点が合わぬ全裸な2人組が足を止め、ゆっくり歩んで近づいてきた。



御見内はたまらず



御見内「銃を」



投げ捨てられたバールがカランカラン鳴り、腰に携帯されたハンドガンが素早く抜かれた。



岩渕から貰ったオートマチック式のハンドガン ドイツ ヘッケラー&コッホ社のUSPだ



エレナ「ちょっと昼間からどうゆうつもり」



イカれた裸野郎を目に、呆れ顔で銃口を向けるエレナ



2人は男等にそれを向けた。



狭き路地裏に張り詰める空気



一色触発の対峙中



御見内は2人を睨みつけ口にした。



御見内「動くな 止まれ」



エレナも目つきを鋭くさせ、2人に緊張が走った。



それは男達が手にする物が目に入ったからだ



男の1人がそれを起こした。



ウィィィィィ



起動し



両刃が動き出す



それは枝を伐採したり、植木の葉を刈り込み剪定する園芸器具



ヘッジトリマーの刃



それが動かされたのだ



またもう1人の男の腰脇に置かれたエンジンも始動、U字のハンドルを握り、円形の刈刃が高速回転しはじめる。



「へっへへへへへへ」



「げへげへへへへ」



もう1人が手にするのは農業器具 



草刈り機だ



エレナ「道…」



御見内「エレナ こいつらゾンビじゃない… 理由はどうあれ無闇に殺すな」



エレナ「でも…」



ウィィィィィ ウィィィィィ



「ヘッヘッヘッヘヘ」



男が一歩踏み出した。



御見内「おい 聞こえなかったのか?止まれって言ったんだ」



「へっへへへへへへ」



御見内、エレナがトリガーに指を添えた。



エレナ「オモチャじゃないのよ 止まりなさい 撃つわよ」


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