感染症Sequel

みのるた

第1話 儀式

死臭と血の臭いが充満する1室にひざまずく2人の男女



その2人を背後から黒きフード付きの外套(マント)に身を包む男達が押さえつけていた。



衣を全て剥がされた裸体の男女の頬は痩せこけ、明らかに生色を欠く栄養失調状態



身体中拷問を受けた傷痕が生々しく刻まれ、その傷口から真新しい鮮血が垂れている



そんな跪(ひざまづ)き衰弱する2人の前で何やら禁呪らしき呪文を詠唱する1人の男の姿が見られた。



フードを鼻まで覆う紅い外套に身を包む男



書物が開かれ、手をかざし、男が高らかに呪文を唱えた。



「おぉ… 汝 死して臥せども常と夢見る者は我が声に耳を傾けよ おお…大いなるク・リトル・リトルよ 我が声を聞け 夢見の主よ 汝の下僕は呼ばわる 生贄を捧げよう 夢見の主よ 塔の前に汝を封したり されど汝捕らわれし戒めを解くであろう…」



ガタガタと肩を震わせ、ガチガチと唇を震わせる恋人らしき2人



「…骨は骨へ血液は血液へ肢は肢へ魂は魂へと接合すべし…ある者は戒めを整え またある者は鎖をむしりとり戒めを脱がんごとし…混沌を支配する黒き闇よ 黒を歩む者よ 灰を渡る者よ 罪深きこの汚れた生贄の御霊を介し その忌み名を持って自らの箱庭を捧げようぞ このネクロクトュルスの禁書の前に 我が前に立ち塞ぐ愚かな者に転生の命を与えん事を… さぁ マル兄弟 殺れ」



「ていしゅ」 「シュシュシュ」



押さえつけられた男がガチガチ歯を鳴らす中、男の右腕が黒フード達によって強引に伸ばされ



「あ… や やめ…」



そしてフードを剥いだ醜い面の男の手にはごっつい斧が握られ 男はそれを振り上げた。



「や…やめて…」



そして振り下ろされた。



「ぎあぁぁぁぁぁあああ」



「い…いや」



次いで女の右腕も伸ばされ



血がべっとりこびりつく斧がたちまち振り上げられた。



「シュシュシュ」



後ろの壁にもたれる白衣姿の女が酷たらしい儀式を楽しげな表情で見守っている。



そして迷いなき再び斧が振り下ろされた。



「じぎゃああああああ」



激痛で涙を流しながら地面をのた打つ男女の頭が数名の黒づくめ共によって押さえ込まれ



顔面を地面に押し付けられた。



すると瓜二つな醜き面の男が握っているのはノコギリ、それもかなり刃が錆びついている



そんなサビだらけの刃が男の首筋に添えられた。



「苦しませながら5分かけて首を切り落とせ」



「ゲヘヘ ていしゅ」



頷く男はゆっくりとノコギリの刃を動かし始めた。



「ぐぎゃゃゃゃ」



ギコギコ ギコギコ



※残酷過ぎるので表現不能中 表現不能中



刃が動かされ、切り落とされた男の首



次いで女の首筋にもサビだらけなノコギリが添えられた。



失禁する女



「ひぃぃぃ~ お願い…いのちだけは…がぁ…ひぎゃああああああ」



「やれ マルオ」



不細工かつ不気味な笑みを浮かべる醜き男から無慈悲なまでのノコギリの刃が引かれた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



青森県 青森市 新町 ラブホテル



この地に来てかれこれ1週間が過ぎようとしていた。



大きなダブルベッドにあぐらをかいて座り込むハサウェイこと御見内道



御見内はベッドに地図を広げ、ペンでチェックを行っていた。



新しいリネンを持ってきたエレナ



エレナ「ちょっとごめん シーツ変えるからどいて」



御見内「うん」



御見内は地図とにらめっこしながら立ち上がり、手際よくシーツを交換するエレナ



ピロ(枕)ケースなども取り替えながら口にした。



エレナ「もう一週間経っちゃうね 青函トンネルが車で通れればなぁ~ 今日はどこら辺探すの?」



トンネルは車で通行出来ない



移動するには船が必要



付近のフェリー港や魚港には小さな魚船やボートなどはチラホラあるものの車を乗船出来る程の大きなフェリー船は1隻も見あたらなかった。



それにあったとしても操縦する事の出来ない2人



とにかくまずは生存者なる人を探し回っていた。



だが… ここに来て一週間



未だ誰1人とも会えず捜索は難航中



2人は不安で表情を曇らせていた。



御見内「そうだな ここらは全滅だから今日はもうちょっと南から東にかけてしらみつぶしに探してみようと思う」



シーツを取り替え終えたエレナ



エレナ「さぁ 座ってどうぞ」



黙って座りんだ御見内が地図に捜索ポイントを○でマークした。



エレナも隣に座り、一緒に地図を眺めた。



床にダラリと寝ころび退屈そうにあくびするクリスをよそに真剣に地図と睨めっこする2人



1週間探すも人っ子1人会えずじまいなのだ



流石に焦りと苛立ちが積もっている



エレナ「ねぇ ここに固執するの止めない?」



御見内「ここを止めてどこに行くんだよ」



エレナ「この辺はそれなりに栄える町じゃない って事はそれなりに比例して奴等の数も多いからリスクも高い だからみんな被害の少ないもっと田舎へもっと田舎へと逃げたんじゃないかしら」



御見内「田舎に… じゃあこの地域には誰もいないって事か?」



エレナ「うん もう一週間探してるのに1人も会わないってのはおかしくない… ここまでゴーストタウン化してるって事はいくら探してもいないよ」



渋い顔をして考え込む御見内



エレナ「いっそ車は諦めない?漁船に荷物積めば移動は出来るじゃない」



御見内「確かにキーつけっぱは沢山あったけど操縦とか俺さっぱり分からないぞ」



エレナ「案外やれば何とかなるよ 取説くらいあるでしょ」



御見内「いや~ ならないだろう…車の運転とは違うんじゃないか それさえも分からなんだけど」



エレナ「じゃあ荷物は諦めて青函トンネルを歩こうよ」



御見内「函館まで?一体何キロあるんだよ… それは勘弁してくれ それに向こうに水や食料があるとは限らない この車の物資は俺達にとって大事な生命線だから捨ててはいけないよ」



エレナ「そっかぁ~ まぁそーだよね」



地図を眺めるエレナがある場所に目を止め 指差した。



エレナ「ねえ 蟹田もここの漁港も駄目ならやっぱこの場所はもう諦めてここまで移動させない?」



エレナが指差した場所は大間町



御見内「大間崎 マグロの町か」



エレナ「うん ここだって大きな港でしょ ここならきっと車乗せられるくらいの小型船舶だってあるよ それに人だっているかもしれない」



御見内「大間崎かぁ 行く価値はありそだな」 



エレナ「いつまでもここにいてもしょうがない 行こう」



御見内「確かに… あぁ エレナの言う通りかもな… じゃあ思いきって移動してみるか」



エレナ「うん そうしよう」



御見内「決まれば早速だ エレナいつでも出れるか?」



エレナ「うん… え?今すぐ?」



御見内「善は急げだろ すぐに行こう」



エレナ「あ… あ そう お風呂入りたかったんだけど はい じゃあ5分待って パパッと身支度しちゃうから」



御見内「こっから飛ばしても3~4時間はかかる 夕方には現地に着きたい」



エレナ「今何時?」



御見内「11時半前だ」



エレナ「暗くなる前に宿探しもしないといけないしね 分かった すぐ支度するね」



2人はいざ大間町を目指す事となる



ーーーーーーーーーーーーーーーー



ある山中



「はぁ はあ はあ」



山岳部の深い森の中



木々をすり抜け、急斜面を滑り落ちながら下る2人の男がいた。



後ろからはいくつもの足音、小枝を踏みつける音が鳴り



その様子から追われている



「はぁ はぁ はぁ 何だ… さっきのあれは…?」



「いいから 喋ってる暇があるなら逃げるぞ… とっ捕まれば終わりだ… 走れ」



「ハァハァ あぁ」



マントにフードを被る怪しげな衣裳に包んだ男が5名程、下着1つつけぬ裸な男達が10名程追跡し斜面を滑り下りていく



「はぁ はぁ」 「はっ は は」



息を荒げ、必死に逃走する2人が獣道らしき道に出た。



「こっちだ」



右へと逃走



追っ手との距離を離し、獣道から逸れた2人は木々の陰へと隠れ込んだ



荒い息継ぎを必死にこらえ、気配を消した。



獣道を通り過ぎて行く、荒々しい足音



追ってはそのまま通過、離れて行く様子を確認した2人は太い幹へともたれホッとさせた。



我慢する荒い息継ぎを再開させ



目を閉じ、息を整える事だけに集中しながら2人が無言で休息をとっていた時だ



パキッ ボキ



森に落ちた小枝が踏みつけられる音が鳴り



何かが接近して来る気配を感じた2人は目を開け、ドキッとさせた



そして再び息を殺し、物音へと視線を向けた時だ



黒き体毛が木々の合間から見え



四足歩行 胸には三日月の白い模様



2人の目の前に1頭の巨大なツキノワグマが姿を現した。



2人は熊を見て腰を抜かした。



その熊があまりにもデカい…



体長2メートル半 いや3メートル級…



ツキノワグマにしてはあまりにもビッグサイズ



パキッ パキン



すると



2人の背後から新たな足音が聞こえ



振り返ると背後からもう1頭が現れた。



前後にツキノワグマ



そいつも2メートルは軽く越えるジャンボサイズだ



2頭に囲まれた2人は身を凍らせた。



1人の男が恐怖からゆっくり立ち上がろうとするや



「動くな じっとしてろ」



鼻息がかかるくらいの距離をウロウロしはじめる巨大熊達



2人は身を凍らせ、まばたき1つせずジッと熊を見た。



大丈夫だ… ジッとしてれば…きっと…



前方の熊と目を離さず、目を合わせる男に



突如



背後にいる熊が襲いかかってきた。



肩に食らいついてきたのだ



「ぐは」



肩の肉片がかじり取られ



「フィ ヒィ~」



襲撃された連れを横目に弱々しい声を発した男に



正面の熊が牙を剥き



襲いかかってきた



喉笛をガブリと一咬み



「ぎやややゃゃゃゃ」



「わぁああああ」



2人の男の絶叫が響き渡る中



もう1つの足音が近づいてきた…



まずは四つ巴エントリーNo.1



本来単独行動な筈の熊



群れ 協同な狩りなどはありえない…



しかしこの猛獣共は連携を行った。



人間の肉の味を覚える規格外な人食い熊の登場



森の王者が牙を剥く

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