第15話 アジト急襲
「さぁ、突入よ!」
盗賊達のアジトへの接近は容易で、リリィ達は建物周囲を取り囲んでいた。それなりに大きな木造のアジトの中には人の気配があるがまだ攻撃はしてこない。
「待ってください、リリィ様」
「ターシャ?」
今にも扉を蹴破ろうとしていたリリィを制してターシャが前にでる。
「敵は建物の中に我々を誘い込もうとしています。ということは、こうした扉にはトラップが仕掛けられている可能性があります」
「そうね。なら、どこから突入したらいい?」
「簡単ですよ。この扉を遠くから吹き飛ばしてしまえば」
「ふむ・・・扉だけとは言わず、半壊させてやりましょう。よく考えたら、わざわざ危険を冒して素直に突入する必要もないものね」
リリィは詩織の手を取り、建物を指さす。
「夢幻斬りをぶっ放して、アジトを左右真っ二つにして」
「承知!」
内部に人質がいるわけでもないし、トラップがありそうな場所に入ることもないとリリィは結論付ける。むしろ敵を引きづり出せれば好都合だ。
「いくよ・・・無限斬り!」
聖剣グランツソードから放たれた閃光がアジトの正面中央を叩き斬り、無数の残骸を飛び散らせながら建物は二つに分かれた。この規格外の攻撃で敵を威圧することもできただろう。
「なんてことをしやがる!」
アジト内部に潜伏していた盗賊達はこれ以上隠れていても無駄だと悟り、各々の武器を持ってその姿を外に晒す。
「降参しなさい。今の技を後二発も撃てばアジトは完全に粉砕できるわよ」
「ハッ、誰が降参なんか! ラドロの風のプライドにかけて、お前達を叩き潰す!」
盗賊側も近距離と遠距離と部隊を分けており、数人がクロスボウや弓から矢を撃ちだしてくる。
「私にお任せを」
リリィ達が回避に専念する中、ターシャは膝をついて姿勢を安定させると、敵の射手に対してクロスボウを向ける。
「フン・・・貴様達は狙いが甘いぞ!」
引き金を引き、敵の一人を射抜く。彼女の射撃は正確であり、胸部に直撃していた。
「やるな・・・」
だが、それで怯む盗賊達ではない。仲間一人が死んだくらいでは、交戦的な彼らの戦意を削ぐことなどできないのだ。
「こういう時は、攻勢を弱めちゃいけない。常に攻めの姿勢だ・・・」
遠距離タイプの武器を持つ者達はターシャとミリシャに狙いをつけて集中砲火を浴びせ、相手が射撃を行う暇を与えないようにする。その間に近距離戦を得意とする者達がリリィやシエラルに斬りかかっていく。
「誰かと思えば、王女様じゃあないか」
「そうよ。このリリィ・スローンに歯向かうとはいい度胸ね」
「へへっ・・・こいつは上玉だ、仲間達への土産に丁度いい」
「チッ、このゲスが・・・」
リリィは相手への嫌悪感を抱きながら剣を振るう。盗賊の身軽な動きは厄介であるが、それでもリリィは食い付いていく。
「この程度っ!」
身を捻ってナイフの攻撃を避けたリリィが剣を振りあげ、その盗賊の右腕を斬り飛ばした。
「くあぁ・・・腕を、よくも!」
「これ以上怪我をしたくないなら降参するべきよ。さもなくば・・・」
「分かった、分かった・・・抵抗しないから、剣を向けるなよ・・・」
その言葉は嘘である。降参したふりをして、リリィに奇襲をかける気でいるのだ。その証拠に、腰に括り付けたもう一本のナイフに左手を伸ばすチャンスをうかがっている。
「後ろにも注意を向けたほうがいいぜ・・・?」
「はぁ?」
顎をしゃくってリリィの後ろを示し、そちらに注意をそらした。その隙に盗賊は左手でナイフを引き抜き、斬ってかかろうとしたが、
「そんな古典的な手に引っかかるワケないでしょ。アンタ、殺気を隠す気ないしね」
「うぐ・・・」
その引っかけに気づいていたリリィはワザと後ろを振り返ろうとしたのだ。それを好機とみた盗賊の攻撃は回避され、逆に腹部に剣を突き刺されて絶命した。
「抵抗するからよ・・・」
武器を捨てず、殺意を剥き出しにしている敵に情け容赦をかけるリリィではない。多くの国民の安全を守るために戦地に立つ覚悟はとっくに完了しているし、今さら躊躇うことはないのだ。
「それではボクには勝てんよ」
「コイツ・・・強いな・・・」
対人戦闘にも慣れているシエラルはすでに三人を倒していた。
「そうとも。ボクの強さはダテじゃない。潔く諦めて投降することだ」
「調子に乗って!」
「まったく・・・」
シエラルは敵の斬撃を簡単に避けると、その頭部を思いっきり殴りつける。そしてよろけた相手のみぞおちに膝蹴りを叩きこんで沈黙させた。
「無駄な抵抗はよせと言っているのに・・・」
「シエラル様! ご無事ですか!?」
「あぁ。ボクは問題ない。イリアンこそ、怪我はないか?」
「はい、ご心配ありがとうございます」
「よかった。敵の数も減って来たし、このまま畳み掛けるぞ」
「了解しました!」
「アイリア!」
「任せろ」
詩織とアイリアはタッグを組むようにして敵に対峙し、確実に敵を仕留めていく。詩織はまだ対人戦に不慣れであるため、アイリアがカバーしているのだ。
「まだ敵が来る・・・」
「私が敵に突っ込む。シオリはその後に続いて、私に注意を向ける敵を斬ってくれ」
「分かった!」
こちらに向かってきた二人の盗賊に対してアイリアは一気に駆け出していく。当然、敵はアイリアに意識を向けて攻撃しようとしており、詩織の存在は一時的とはいえ思考の外に弾かれていた。だが、その一瞬が命取りになる。
「今っ!」
「なんとっ!」
詩織の聖剣が一人の盗賊の胴を切り裂く。鮮血が飛び散り、周囲を赤く染めるが詩織はそれを見ずにもう一人に対しても斬撃を行う。
「させるか!」
盗賊は聖剣の攻撃を受け流すが、アイリアのコンバットナイフによって背中から刺されてその場に倒れた。
「やったのか・・・」
こうして相手の命を絶つことに、詩織にも罪悪感や抵抗感はある。だが、やらなければこちらがやられるわけで悠長なことは言っていられない。ここで敵を討たないとまた誰かが被害を受けることになるし、話し合いでどうにかできる相手ではないのだ。
「無理しなくてもいいんだぞ」
「大丈夫。私もちゃんと戦える」
「そうか」
アイリアなりに気を使ったのだろう。だが、詩織は優しさがある反面、ドライな性格の持ち主でもある。そのため、こうした事態においても取り乱さずに冷静さを保つことができ、年頃の女の子とは思えないタフさを発揮しているのだ。
「リリィは大丈夫かな」
「合流するか」
むしろ詩織が気がかりなのは近くで戦うリリィのことだ。きっと詩織がこうして戦えるのもリリィがいるからこそであり、リリィの敵であるならばどんな相手とだって詩織は戦うだろう。それが魔物でも人であっても関係ない。
「わたし達の勝ちね」
それから十数分の間戦闘が続いたが、ラドロの風のメンバーが次々と討たれて残り一人まで追い詰めることができた。もうその盗賊は勝ち目がないと悟り、おとなしく縄で縛られる。
「でも、この程度の抵抗しかないのはおかしい・・・それに、この前わたしとシオリを襲ったヤツらの多くが見当たらないわね」
上手く制圧することができたものの、この場にいる敵の戦闘力の低さにリリィは疑問を持っていた。かつてリリィがラドロの風討伐にあたった時の戦闘の激しさはこんなものではなかったからだ。
「ちょっとアンタ。わたしの質問に答えなさい」
「そしたら減刑してくれるか?」
「なわけないでしょ」
「そうですか・・・」
捉えた盗賊の正面に立って睨みを効かせながら問いかける。
「他にも仲間がいるはずよね?そいつらはどこ行ったの?」
「答えてもいいが、俺が言ったことは内緒にしてくれよ」
「そんな心配はしなくていいのよ。だってアンタが自由の身になることはもう無いんだから」
「はいはい・・・・・・仲間達はケイオンの街に向かったのさ。そしてテナー家をはじめとした富豪の家を襲撃する準備を進めている。それで、俺達はここの留守を任されていたんだ」
テナーの名に聞き覚えがあるなと思った詩織は、ハッとしてミリシャを見る。そう、ミリシャ・テナーが彼女のフルネームだ。
「そうきましたか・・・」
ミリシャは苦虫を噛んだような顔つきになっており、顎に手を当てて何かを考えているようだ。その様子を見るに、盗賊の言うテナー家とは彼女の実家のことなのだなと推測する。
「ん・・・オマエ、アイリアじゃあないか。いやぁ懐かしい顔だ」
盗賊の男はアイリアを見つけて気味の悪い笑みを浮かべた。それに対してアイリアは極めて不快そうに顔をしかめる。
「へっ、今は王女様に仕えて正義の味方気取りか? 犯罪者のくせに・・・」
「アイリアはちゃんと改心したわ。アンタ達みたいなゲスとは違うのよ。彼女を悪く言うのなら、わたしが許さない」
「そうかよ。まぁ俺にとってはどうでもいいが、イゴールがアイリアに会いたがるかもな」
その名を聞いてアイリアは更に不快感を示す。イゴールは反乱を起こしてラドロの風を乗っ取った後、アイリアを奴隷として飼っていた男なのだから当然の反応と言える。
「まさか・・・生きているのか?」
「今もラドロの風のリーダーさ。アイツはケイオンに向かったから、追いかければ会えるかもな?」
「チッ・・・」
「アイリアも本当は会いたいんじゃないか?イゴールにずいぶんと可愛がってもらったようだしなぁ?それとも俺が相手してやろうかぁ?ぐへへへ・・・」
挑発するような物言いに苛立ったのはリリィだ。
「もう黙りなさい」
そう言って後頭部を思いっきり殴りつけ盗賊は気絶した。ぐったりとしたその男をシエラルが引きづっていく。
「アイリア、あなたのことはわたし達が全力で守るわ。だから、アイツらの言うことなんか気にしなくていいのよ」
「はい。ありがとうございます・・・」
「わたし達は敵を追ってケイオンに向かうけれど、もし不安ならアイリアは残ってもいいわよ?」
「いえ、私も行きます。もう脱退した組織ですが放ってはおけません。それに自分で過去の過ちとのケリをつけたいので、ちょうどいい機会だと思うのです」
「分かったわ」
この沼地にあるアジトを壊滅させることには成功したが、まだラドロの風自体を倒せたわけではない。敵の次なる標的を知ることもできたため、彼らを追撃することになる。
「ねぇ、ミリシャ。さっきの男が言っていたことなんだけど・・・」
「あぁ、テナー家についてですか?お教えしましょう」
城への帰り道、盗賊の言葉に反応していたミリシャが詩織に説明を始める。
「自分で言うのもなんですが、わたくしの実家はこのタイタニアでも有数の名家で、その財産もかなりのものになりますわ。そしてケイオンという街の領主を務めていますの」
「へぇ、やっぱりミリシャもお嬢様なんだね。そんな雰囲気はしていたよ」
「まぁ、わたくしは家を出てこうして城に所属しているのですけどね」
彼女はリリィに仕えているわけで、実家暮らしではない。そういう家の場合、外に稼ぎに出るのも珍しいのではと詩織は思う。
「ケイオンは暮らしやすい街で、富豪の方々も多く住んでおります。だからラドロの風に狙われたのでしょうけど・・・」
「ここから遠いの?」
「いえ、比較的近い場所にある街ですわ。王都からはそう時間もかからずに向かうことができますわね」
まだケイオンが襲撃されたという情報はないが、いつラドロの風が現れるか分からないのでミリシャは実家のことが心配で仕方がないのだろう。いつもは柔和な表情をしている彼女であるが、今は少し強張っている。
「安心しなさい、ミリシャ。絶対に盗賊達を打ち倒してみせるから」
リリィの強気さが頼もしく、そんなリリィの力になれるように次の戦いも頑張ろうと決意する詩織であった。
-続く-
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