十話『国境は転移で通るに限る(個人的見解)』

 助けた獣人達の村は、そこそこ規模が大きいにも関わらず、女性の人数が圧倒的に少なかった。

 あの盗賊達によって、定期的に食料やら人やらを奪われていたらしい。


 盗賊達がどこに運んでいたのかといえば、恐らく僕が召喚された国だろう。残念ながら、国境があるために取り返すことは出来ない。盗賊が通れるのもおかしな話だが、その辺はあの国が腐っているから、ということになるのだろうか。


 僕達が来た方向にも村がいくつかあるらしいし、遭遇したのはそこに向かう途中だったからだと思われる。


「まあ、国境の砦は無視するのが無難かなぁ……」


 一夜明けて起こされた僕は、隣で頷くリア、不満そうな顔をしているシルクとソフィーを見る。


「それはいいと思うのですよ〜? でもぉ、私やシルクちゃんとは寝てくれないのですかぁ?」


「ご主人様、リアだけずるいと思うよ?」


 無茶を言わないで欲しい。シルクは元より、ソフィーのようなふわふわ系お姉さんと寝るなんて。


 しかも、会った当初痩せ気味だった体は、半精霊であるが故に、食事を摂っただけで見事なプロポーションを取り戻している。


「……男の子的に大変危険といいますか」


 ソフィーが積極的なのは、命を助けたり、呪いを解いたりしたからなのかな?


 割と誘惑してくるのも辛い。嫌かと聞かれればそんなことは無いと答えられる。でも、すぐに手を出すような男にはなりたくないし。


 ……リアのフォローもあって、なんとか説得は出来た。


「村長への挨拶も終わったし、そろそろ行こっか」


「……馬車なら、一緒に寝られる?」


 はっ!? しまった。見張り番とか必要ないし、どうすればいいんだろう。

 いや、鋼の意思で耐え切ればいいんだ。


「時雨さま、馬車と倉庫(?)で分ければいいと思いますよ?」


「なるほど、その手があったか。さすがリアだね。……あの場所の存在自体、忘れてたし」


「お役に立てましたっ!」


 リアの「役に立てた」というのは、別に奴隷や使用人のような考え方から来るものでは無い。

 僕を支えたいと考えているからであり、隣に立っているからこそ頑張るらしい。


 そこまでしなくてもいいんだけど、本人はそのくらいしないと僕の横に立てないと言う。


 本当、僕には勿体ない子だと思う。


「ありがとうございます……えへへ」


 御者の席に座った僕とリア。

 シルクとソフィーは後ろで話し合っている様子。


 まあ、そんな事よりもリアが可愛い。


 あまりにも可愛過ぎるため、膝の間に座らせてなでなでの刑に処す。お風呂に入らず浄化で済ませたリアは、純粋な体臭だけなのにも関わらずいい匂いがする。


「そ、そんなに嗅がないでください……恥ずかしいです……」


「まあまあ、減るもんじゃないし。どうしても嫌だって言うならやめるけど?」


「……嫌なわけ、ないじゃないですか」


 腹部に回されている腕を、愛おしそうに撫でるリア。少しくすぐったいけど、こっちはこっちで耳をくにくにする。


「時雨さま?」


「こうされるの、好きなんでしょ?」


「はい、落ち着きます……」


 尖った耳を弄る。ソフィーやシルクのように敏感ではないけど、触られると落ち着くらしい。頭を撫でるのと同じようなものだろうか。


 とイチャイチャしていると、背後から足音が聞こえた。そして、その直後、首に巻きついてくる色白の腕。


「まーすたぁ〜♪」


「……う、後ろからは卑怯だよ?」


「え〜? 男の子はぁ、こうされるのが好きだぁって聞いたのですよぉ〜?」


「それ、誰から聞いたの……?」


「リアちゃんなのですよー」


 背中に当たる感触が幸せなのは否定しない……けど、リアがそれを教えたのは何故でしょう。


 ふむふむ、『わたしには無いおっきな胸でっ! 時雨さまを癒してあげてください』だって?


 ……微妙に気にしてるのかな? 小さくても大きくても、リアのならいいんだけどね。


「そういえばぁ、服は村の人から貰えたんですけどぉ〜、下着は合うサイズがなかったのですよぅ……」


「へ? それじゃあ……」


 この感触は、布一枚越しのものってこと? 確かに柔らかいし……あ、まずい、余計なこと考えたせいで血が一点に集中し始めた。


 ……うん、リアは何も言わずじっとしてくれてる。ありがとう、本当に助かった。


「……マスターが望むのならぁ、直接触ることも出来るのですよぉ〜?」


「あはは、面白い冗談だねソフィーでもそういうのはよくないと思うんだ!」


 耳元で囁くのは反則だ、と思いつつ早口で捲したてる。ホント、からかうのはよくない。

 男の子の純情を弄んではいけません。


 ……純情?


「ご主人様は優しいから、すぐに手を出さない」


「なるほどなのですよ〜」


 それで納得するんだ……

 後、リアは変な妄想しないで欲しいんだけど……こんな所でやらないからね? それ、普通に変態だから。


『こここ、これは違うんです! ちょっと考えちゃっただけというか気になっちゃったみたいなっ! ……その……えっちでごめんなさい』


 まあ、妄想くらいはいっか。リアって、暇な時間は妄想してばかりらしいし、するなと言っても難しいでしょ。

 そもそも、リアがエッチなのは知ってるからね。


「うぅ……」


「「?」」


「リアの事は気にしなくて大丈夫。それより、もう少しで国境の砦が見えるはずだから準備して」


「「はい(なのですよ)! 」」


 近いと思うかもしれないけど、偶然、魔族、獣人、人間の国が隣接していただけであって、国自体はどこもかなりの規模だ。

 獣人の国は一つだが、人間の国は複数あるし、魔族の国も……複数ある。魔王も一人じゃない。


 中には凶悪な魔王も居るんだろうし、それを倒さないといけないのは分かってるけど、行けって言われたガロの所は平和そのものだった。


 当然だけど、力を貸す気にはなれないかな。


 それから数十分程で国境の砦が見えてきた。居るのは人間だけなので、見晴らしが良くともこの距離が見えるような人はいないはず。


「ほら、降りるよリア」


「は、はい……」


 人間に対して微妙に怯えているらしいが、どうせ無視するのだから関係ない。

 手を握ってくるリアが可愛いし、別にいいけど。


 シルクとソフィーが降りたのを確認すると、馬車を『無限収納』に入れる。


「どうやって向こうに行くんですかぁ〜?」


「跳んで、向こう側を見て、転移」


「ちょっとよく分からないのですよ〜?」


 大丈夫、分からなくても僕がやるから。という訳で、『空間魔法Lv4』を取得。

 Lv3で短距離転移、Lv4で長距離、ゲートが使えるようになる。いや、厳密にはスキル関係なく使えるんだけど。


『ステータス強化』のようなパッシブスキルを除いて、知識や動作の補助がスキルの効果となっている。

 無いからと言って魔法が使えない訳では無いし、あるからと言って使えるとも限らない。


 魔法陣を展開出来て、イメージ力もあって、魔力が足りていれば、誰でも使える。


 更に、オリジナルの魔法も作ろうと思えばできないことは無い。ただ、魔法陣について詳しく知るには、学校に通うなり、師を見つけるなりしなければならないが。


 まあ、今回は普通に使うだけで問題ないんだよね。


 短距離転移は視界に映っている場所なら何処でもオーケーで、長距離、ゲートは、行ったことのある場所、魔法的な目印のある場所に行ける。


 つまり、跳んで、向こう側を確認したら、皆まとめて長距離転移を使うという訳。

 体に触れていれば、ゲートを使う必要も無い。


 足に力を込めて……ぴょーんっ!


 いや、そんな音してないけど、気持ち的にね。加減をミスって高く飛びすぎではあるが、ちょうどいい森を見つけたので結果オーライだ。


 スタッ


 静かに着地すると、ソフィーの口が半開きになっていた。おっと、説明してなかったっけ?


「ま、マスターは人間なのですよねぇ〜?」


「うん、多分そうだと思うよ」


「じゃ、じゃあ〜、今のはなんなのですかぁ〜?」


「ステータスにものを言わせて高く跳んだ」


 詳しい説明を求められたけど、それは後にして、今は移動する方を優先させてもらった。

 全員僕の体に触れたのを確認して、長距離転移する。魔法陣が僕の足元で光り輝き、次の瞬間には森が広がっていた。


「……あんまり、変わりませんね」


「魔物とか植物とかは違うけどね」


 常に暗雲が〜とか、紫色の大地だったとかは無かったし、パッと見じゃ魔族の国だとも分からないくらいだ。


「ご主人様、歩いて移動するの?」


「一時間くらい街道に沿って歩いたら、馬車に乗ってても大丈夫じゃないかな」


 その辺まで行けば、どこから来たのか聞かれても、「あっちの村から」みたいな適当過ぎる返事が通る。

 村なんていくらでもあるからね。



 さてと……バレない内に、出発しますか。

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