二話『勇者……ではなく、水崎神明流がチート』

「……え? リアが僕と同い歳?」


「そうは見えんだろうが、事実だ」


「ふ、二人とも酷いです……わたし、気にしてるんですよ……?」


 広い所での食事は落ち着かないな、と思っていたタイミングで衝撃の事実。大きくなりたいようだけど、リアはそのままでいいと思う。果てしなく可愛い。


 ――そ、それなら……許しちゃいます。


 隣に座るリアと見つめ合う。……そんな事をしていたせいで、メイドさんが不審がっていた。


「……どうかなさいましたか?」


「な、何でもないよ、へーネ。ちょっと……そう! リアのほっぺにソースが付いててさ。ほら」


「え? あっ。……ありがとうございます」


 咄嗟に見つけたソースを拭き取ってあげる。指で取ったやつを自分の口に入れるなんて事はしないよ?

 まあ、これで誤魔化せたはず……


「では、リア様は?」


「え、えと、わたしもですよ……?」


 リアが僕の顔に手を伸ばすと、米粒を取って……自分の口に入れた。うん、女の子がやるのはオーケー。


「そうでしたか? 私は目を見ていると思ったのですが……」


 バレてる。微笑ましいものを見るような目は止めて下さい。物凄く恥ずかしいです。

 僕達の後ろで笑っているこの人はメイドのへーネ。さっき部屋で話していた人だ。リアが産まれる前から居るらしい。


 でも、外見は20代にしか見えない。

 魔族の寿命は350年くらいとの事なのだが、成長が遅い訳では無いので、リアがこれ以上伸びる可能性はない。最大まで成長すると、ゆっくり老化していくらしい。

 非常に残念だよ。(棒)


「……そういえば、久しぶりに美味しいご飯を食べた気がする」


「食事は適当で、娯楽も無く、魔物と戦う日々。……随分、無茶なことをやっていたらしいな」


「万が一ガロを倒したとしても、召喚した国が敵になりそうだったからね。強くなきゃ生き残れないでしょ?」


「レベル99まで上げるのは、正気の沙汰とは言えないが。ステータスの上がり幅が大きい分、レベルを上げるのにも苦労したはずだ」


 3ヶ月で上げるのには苦労したけど、その結果魔王を助けて、リアと会えた。頑張って正解だよ。

 しかも、この国には米がある。日本で食べていたのとは少し違うけど、やっぱり美味しい。


 ………あ、もう無い。


「ごちそうさまでした」


 リアはまだ食べてるみたいだから、その間にスキル取得を済ませておこう。……一覧表示。


 この世界のスキル取得は、特殊スキル以外は全て、スキルポイントを使って取得するようになっている。

 魔力操作なんかの初歩的なスキルは、2ポイントくらい……あれ? 1ポイントだ。

 ……一度取得してるから、かな?


 4ポイント必要だった回復魔法も1ポイントだ。

 ……大体はレベル1〜5まであるんだけど、回復魔法を例にして必要スキルポイントを説明しよっか。


 レベル1 : 4(1)

 レベル2 : 10(2)

 レベル3 : 15(3)

 レベル4 : 20(4)

 レベル5 : 25(5)


 レベル2の式 4×2+2=10

 初期必要ポイント×レベル+レベル=必要ポイント


 ちなみに、()の中は現在の必要スキルポイントになってる。スキルが消えてショックだったけど、これで安心したよ。


『刀術Lv5』『威圧Lv2』『体術Lv5』

『魔力操作Lv2』『回復魔法Lv3』

『雷魔法Lv2』『ステータス強化Lv10』

『鑑定Lv3』『隠蔽Lv3』


 112 → 0


『ステータス強化』を押した瞬間、隣で声が上がった。


「ふぁぁ……ご、ごめんなさい……変な感じがして」


「たぶん、僕のせいだと思う。『ステータス強化』をレベル10まで上げたんだ」


「……す、ステータスがすごいことになってます」


 見せてもらうと、平均で2800まで上がっている。僕は元々9999だったんだけど、すぐに越えそうだわ。


 一応言っておくと、『ステータス強化』スキルは何割増えるとか決まってなくて、個人差が出る。

 まあ、最低でも2割は増える人が多いって聞いたけど。

 リアは7割かぁ、僕はどうなんだろう。少しくらい変わってる事を期待して、オープン!


 ……うん? 一番低い耐久が、850なんだけど。つまり、2.5倍? 前は6割だったのに?


「『魂の譲渡』って、すごいスキルだったんでしょうか? わたしにはありませんし……」


「……え? 無い? そんなはず――」


 スクロールして一番下まで見たけど、リアの言う通り無かった。何処にもない。勇者専用スキルだったのだろうか。


 ……気にしてもしょうがない。


「二人とも食べ終わったみたいだし、ちょっと僕のレベル上げに行ってもいい?」


「ならば、へーネを連れていくがいい」


「……いいの?」


「お任せ下さい」


 まあ、今のリアならその辺の魔物に負けたりしないけど、最悪を想定するのが基本だ。僕? 実家の水崎神明流があるから平気。こう見えて、父さんより強いからね。


「パーティ登録しよう。経験値は……均等振り分けにすると、僕が寄生みたいになるし……」


「シグレくんは強いから、だいじょーぶです!」


「……お二人が『経験値倍化』を持っていらっしゃるなら、私も少し増えるはずです。何も問題は無いでしょう」


 あー、確かに。遠慮する必要も無いのか。


 初めてパーティ組んだけど、ゲームみたいに魔力表示があるし、損傷部位とか分かるようになってる。

 ……へーネは55レベルか。頼りになるね。


 一旦部屋に戻ると、リアの防具や武器を装備する。武器は護身用……と言ってはいるけど、実は聖剣並みに強い短剣で、防具もワイバーンの攻撃を防ぐ程。


「シグレ様は?」


「僕は動きが悪くならないように防具を付けないんだ。武器はこれ。《召喚:雷牙》」


 僕の手に召喚された刀。元からあった刀一振り以外は、自分で手に入れて加えた。

 一見使えないスキルに見えるけど、一度吸収させれば、折れても呼び出せるという便利スキルだ。


 まあ、刀と言いつつ、違うのも入ったりするけどね。……全部で何本あるか覚えてないや。


「刀……過去の勇者が広めた、との事ですので、シグレ様が使っていても不思議ではありませんね」


「へぇ、やっぱり勇者が……」


「わわっ、その刀、パチパチってしてますっ」


 へーネと話していると、リアがそう言ってくる。この纏っている電気だけど、認めていない者が抜いたら感電死させられるらしい。


 歩きながらリアの装備を見る。チラ見しても本人にはバレる事になるんだから、堂々と見る。

 黒の軽装。似合ってるけど、少し露出度が高い。でも、可愛い。防具のはずなのに、見てて楽しいという。


 ――シグレくんのばかぁ……恥ずかしいですよぉ……


 態とやっているのは気づいてたか。リアを見てると、何だか意地悪したくなる。まあ、可愛すぎるのが悪いよね。


「? ……森に入りますので、お気を付け下さい」


 おっといけね。遊んでないで、切り替えないと。森は危ないからね、集中、集中。


 ……気配を感じろ。スキルなんて無くても出来る。

 虫、熊、鹿……違う、魔物は何処だ?



 視線を感じるのに、見つからない。もっと集中しないと。歩いていて一番警戒しない場所は……


 木の上。


 居た。……これは、何かを吐こうとしてる!?


「――ふっ!」


 ……ボトッ


「「ひゃぁ!?」」


 ごめん、生首が落ちてきたら驚くよね。というか、へーネの驚き方が女の子だった。


 今、木の上に居たのは巨大な猿。何かを吐く動きをしたから、斬撃を飛ばして首を斬った。まあ、普通は飛ばせないけど、電撃の刃だけを飛ばす事は出来る。


 というわけで――


【レベルアップしました。現在レベル5です】


 よし、レベル60まですぐに上がるんだよね。


「も、申し訳ございません。気付くことが出来ず……」


「いや、気にしなくていいよ。あいつ気配消してたし」


「……シグレくん、『気配察知』は持ってないと思っていました……」


「持ってないよ? スキルが無くても辛うじて分かるだけで」


「「え?」」


 殺気を感じる術を教わったから。命の駆け引きは教われなかったけど、その心構えはあった。だからこそ、この世界でも生き残ってる。


「あ、血の匂いで他の魔物が来たみたいだね」


 クリムゾンボア、だったと思うけど、お肉が美味しいと評判なんだよね。……食べたいな。


 戦うのなら即殺が望ましい。


「一旦離れて下さい! クリムゾンボアは――」


 敵の行動を許すな、迅速に殺れ――


【レベルアップしました。現在レベル11です】


「――あ、ごめん。何か言ってた?」


 雷牙に付いた血を振り払いつつ、そう首を傾げる。

 クリムゾンボアが突進して来る前に突きで殺ったんだけど、駄目だったかな? へーネがポカンとしてる。


「クリムゾンボアは、腹部以外、攻撃を通さないはずなのですが……いえ、忘れて頂いて構いません、シグレ様」


「あぁ……シグレくん……」


 リアから伝わってくる思考がやばい。どうやばいかというと、こっちが照れるような甘ったるい言葉を、途切れる暇なく発している。



 今はそんな場合じゃないから平気だけど、そうじゃなかったから理性が崩壊する。いや、凄い愛されてるから保たせなくてもいいかな? ……駄目ですよね、すいません。


 ――シグレくんなら……いい、ですよ……?


 聞こえてません。ええ、聞こえていませんとも。


「……レベル11か。ここの魔物は丁度いい強さだね」


「それは、シグレくんだけじゃ……ないでしょうか」


 それも聞こえない。水崎神明流の門下生ならきっと出来る。……父さんくらいになれば。


 ………ん? なんか、力が抜けてく感じがする。もしかして、これがリアの言ってたやつかな?


 ステータスを見てみると、


 SOL : 2212/2300


 ……これ、やっぱり魂の残量的なものじゃ? なんとなく予想はしていたけど、1秒毎に減ってる。リアから1m以上離れちゃ駄目なんだ。


 試しに近づいてみる。


 ……………あ、止まった。


「シグレくん、わたしも同じみたいです」


 寸分違わず同じ数値。38分は大丈夫みたいだけど、レベルアップで変わらないのは残念かな。

 森を探索しながら、ステータスも確認する。


 クリムゾンボア二体と遭遇したけど、先手必勝で一体、もう一体はへーネさんが槍で応戦……からの、リアが『土魔法』で下から貫いた。うん、両手を地面につけてやったら、完全に錬金術師の人だわ。


 現在、僕はレベル17。リアが21、へーネは56。


「30分で1回復……何とも言えないなぁ……」


「さ、触って頂ければ、はやくなるかもしれないですよ……?」


「真っ赤になるくらい恥ずかしいなら、無理しなくていいのに」


「む、無理なんて……していません、よ?」


 恐る恐る僕の手を握るリア……可愛い。どうせもう帰るし、このままでもいいや。へーネの視線は気にしない方向で。


「……そう上手くは行かないみたいだ」


「どうかなさいましたか?」


「隠れてるやつが居る。数は……12だね。まあ、魔物じゃなくて人みたいだけど?」


 気配のする方向を向くと、雷牙を抜けるように準備する。もしも敵ならば、殺さなければならない。


「敵意が無いのなら、姿を見せて欲しい」


 1分ほど待っていたのだが、木の影から人が飛び出て来た。


「……へ?」


 ……それも、犬耳の生えた女の子が。


「――わぅ……シルクは、捨てられた……」

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