第18話 探偵喫茶ロマン
「うーん」
樫木はカウンターの席に座り、頭を抱えていた。
「今度はどんなくだらないことで悩んでるの」
萌奈美もやることがないのか、樫木に話しかけた。
「いや、事務所の名前をさ。どうしようかなって」
「……」
「探偵事務所兼喫茶、樫木・ロマン・啓太郎、みたいな?」
「おい待て、何勝手に『兼喫茶』にしてんのよ。兼はあんたでしょうが。喫茶ロマン兼探偵事務所でしょうが! てかロマンをなにミドルネームにしてんのよ! ツッコミどころ多すぎるわ!」
「いや、それだとわかりにくいだろう」
「なにしれっとした顔で言ってんの? わからんのはお前の頭の中だよ! あんた、自分が正しいとでも思ってんの?」
やれやれと樫木は首を横に振った。
「なぁ、マスターなんかいい案ないかなぁ」
「ちょっと、マスターになんでも聞きゃいいってもんじゃないでしょうが」
マスターはペンと付箋を手に取った。
「ほれ、マスター様はちゃんと考えてくれるおつもりだぞ」
「ちょ、マスター!」
しばらくして、マスターは付箋を見せつける。
『喫茶&探偵 ロマン』
「ださっ!」
樫木と萌奈美は同時に声をあげる。そしてそれ以降、マスターはペンを握ることはなかった。
「おい、マスターを凹ませてどうすんだよ!」
「はぁ、あんたのせいでしょ、ふざけないでよ!」
「じゃあ、萌奈美。お前が決めてくれよ」
「……なんで私が」
「否定してばっかだったろ、だったらもうお前のいう天才的な名前ってやつに従うまでよ!」
「ぐぬぬ……」
そして、萌奈美はしばらく考え込む。無言の中に謎の緊張感を樫木は感じていた。
「た……探偵喫茶ロマン」
「なんだそりゃ、メイド喫茶じゃあるまいし……」
「…………!」
萌奈美が恥ずかしそうに顔を赤くするも一度口に出してしまったことなので、どうしようもなく水をコップに注ぎ一気飲みした。
「てか探偵喫茶ってことはなんか店員さえも探偵っぽいな。萌奈美、お前もしかして探偵になりたいとか?」
飲んでいた水が器官の変な部分に入ったのかしばらくの間、萌奈美はせき込んだ。
「ぷぷぷ~、じゃあ決定だな。今日からこの店は探偵喫茶ロマンだ!」
そういうとマスターは何も言わずに奥の部屋に消えて行ってしまった。
「あれ、マスター……」
萌奈美も落ち着いてきたところで、どうかしたのかと樫木を見た。
「名前が気に入らなかったんじゃねぇの」
「いや、てかそもそもなんで店名変える必要があるのよ。話はまずそこからでしょ!」
「俺だってちゃんと家賃払ってんだから、そのくらいの権利があってもいいだろ」
「あんたには敬意って言葉がわからないの? 少しは私たちを敬いなさいよ!」
そんな言い合いをしているうちにマスターが奥から戻ってきた。
手には『探偵喫茶ロマン 樫木啓太郎』と書かれた名刺を持っている。
「仕事早すぎだろ!」
こうして、探偵喫茶ロマンは開業スタートとなるのであった。
探偵喫茶ロマン 高柳寛 @kkfactory2020
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