第16話 父親として
「いい加減にしろ!」
樫木が我慢できずに、隠れていた場所から姿を現した。
「……あぁ? 誰だてめぇは」
じりっと樫木は半田の前に立ちはだかった。
「悪いな、智。お前より先にお母さん見つけられなかったなぁ」
樫木はそう言って、半田に向かって走り出す。
「おい、あのバカを殺しとけ」
半田はそう手下の三人に告げて、銃を三倉友和に向ける。
「どうよ、己の無能さで家族や、ましてやあの誰だかわかんねーやつにまで迷惑かけてる気分」
「ぐああああああ!」
三倉友和の叫び声が聞こえる中、隠し持っていた警棒を伸ばし、一人目の横頭部を殴る。二人目のパンチを避けて背負い投げから顔面への一撃、たじろいだ三人目に飛び蹴りで転ばせてからの一撃であっという間に三体の転がる男が出来上がった。
「……ワオ、すごいね、お兄さん」
「こういうのに……、憧れて、形から入った探偵なんでね」
「探偵、ハハハ、探偵なんだ。すごい度胸」
「褒められてもうれしくなんかねーわ」
「そ、じゃあはい」
半田は容赦なく一瞬で銃を構え、樫木に向かって撃った。衝撃に樫木は背後へ吹き飛び、そのまま倒れる。
「んんんん! んんんんんん!」
フロア内に叫び声が響き続けた。
「いやぁ、やっぱ銃ってすごいね。この世を手にした者って感じ」
半田が再び、三倉友和に銃を向ける。
「おうい、おっさん。あんたのせいで死体が増えたわ。俺ももうこの街にいられなくなっちまったなぁ、困った困った」
「お前が……、秋津を殺したのか……」
「くくく、せいかーい。あの女、今まで面倒みてきて社長っておいしいポジションも与えてやってたってのに急に日和やがってよ、でもおっさんの目の前で殺した時のおっさんの慌てようも見ものだったぜ」
そして、三倉友和の膝にもう一発撃った。
「ああああぁぁぁぁ!」
「今の、長年のお支払いご苦労さんっていう労いの思いね。まだ完済してくれてねーけど、それは全部天国へのお見舞金ってことで」
半田は再度トリガーに指をかける。
「じゃあ、これは俺からの労いの思いってやつ」
「は……?」
樫木は警棒を思い切り振りきって、半田の顔面をつぶした。
「……はぁ、ほんと、死ぬかと思った」
そういって、胸に括り付けた鉄板を外し、床に落とす。その鉄板には銃撃のあとが残っていた。
「おっさん、今止血してやるからな」
三倉友和のベルトを外し、太ももに縛り付けた。一発目は肩に被弾していたので、来ていたものを押さえつけて固定させた。
「そのうち、警察来るから意識しっかり保っとけよ!」
そう言い残して、智と美咲へと近づく。
「……智、ほんと悪かったな。今回の依頼金は受け取れねぇわな」
ペリペリと口のガムテープをはがす。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
そう言って、縄を解くと樫木に抱き着いた。その体はとても震えていた。
「さぁ、お母さんを助けるぞ」
美咲も解放したものの随分と衰弱しているようで、樫木はひとまず応援を待つことにした。さすがに夫婦を担いでここを出る体力は樫木には残っていなかった。
三倉友和はフラフラと立ち上がり、智は美咲を支えるようにぎゅっと抱きしめている。
「はぁい、おまわりさんの登場ですよぉ」
正直、顔も見たくない二人組とその応援部隊が姿を現す。
「おう、クソ探偵。やらかしてくれたな」と同時に張り手が飛んでくる。
「ってぇ!」
「たくよぉ、なんでこんな奴みたいな市民を守らなきゃいけないんだ、行政ってやつはよぉ」
成田はぐちぐち言いながら、部下に智と美咲を保護するように命令した。
「で、あのおっさんが犯人でわけだな」
少し場の空気がしびれるようにそう言って、成田山ペアが拳銃を持ち出す。
「おい、なにやって……」
その向き先には、倒れている半田に向けて拳銃を構えている三倉友和の姿があった。
「こいつのせいで……、俺は……! 俺は……ッ!」
持つ手がガタガタと震えている。だが、今撃ってもおかしくない恐ろしい憎悪が目に見えてわかった。
「おっさん、やめろ!」
「こいつのせいで……!」
「お父さん、もう止めて!」
それに気付いた智は、樫木の横に立った。少しふらついているのもあり、樫木は智の体を支える。
「もう止めて……、そんなことしたら、もう、お父さんがお父さんじゃなくなっちゃう……!」
ふらつく智を樫木が支える。その智の声でふと我に返ったのか、ガタガタと震えていた体は膝から地面に崩れた。
「お父さん!」
「はい、もう大丈夫よぉ。とりあえず病院で一緒に会えるから」
山本はそう言って、智を捕まえてパトカーへと戻っていった。
*
「おい、クソ探偵」
「へいへい……」
「今回の一件でなんか立件できるもんはあんのか?」
「残念ながら俺はねぇな」
「ハッ、証拠もないってのか、よくそんなんで探偵が務まるよなぁ」
「今回の俺の依頼はな、三倉智の母親を見つけるってことなんですよ。こっからは刑事さんたちのお仕事でしょ?」
「……てめぇ、ほんとに二度とツラ見せんじゃねぇぞ」
「では、そんな刑事殿にこれをご送呈」
樫木は鞄から一つの茶封筒を取り出した。
「可能性の話ですけどね。それ良い子が見ちゃいけない取引の流れが書いてあるんじゃないかなって」
「なんだそりゃあ。……まぁ使えるんだったらありがたく頂戴しておくぜ」
そう言って、成田山ペアは俺一人を残して廃店となったパチンコ屋に残して消えていった。なんだか今になって撃たれた衝撃を食らった左胸に痛みを感じ始め、膝を地面に落とした。
「……まじ、もう二度と撃たれたくねぇもんだわ」
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