第14話 生きた証拠
安井からの話では、半田はパチンコ屋で普通の客とは違い、店内で目立った行動をしていたと言っていた。さらには半田に会いに来た人間と一緒にスタッフルームに入るところも見たという。この情報を基にすれば、パチンコ屋と半田の間には何らかの関係性があることは間違いない。
話を戻して、二年前、半田は三倉に起業を持ち掛け、その際のローン借り入れと他にも色々と借金を押し付けられていたと、中野は言っていた。もともと自分の会社を立ち上げようとしていた中野でさえ見たこともないローン会社だったという話だ。そして、契約後一週間で半田と秋津は姿を消したという。
そのフューチャーローンだが最近被害者が増え続けていることが問題だと、被害者の会の日吉は語っていた。ローン借り入れの際に一緒にフューチャーコインの購入も勧められたとのことだ。そのフューチャーコインはパチンコ屋で半田が紹介しているという話でもあった。
例えば、そのパチンコ屋とフューチャーローンがつながっていることを前提に考えると、パチンコ屋がそのローン会社の事務所だという可能性も出てくる。
そうなると、三倉友和を探して、パチンコ屋を訪れた三倉美咲がいかにして捕まったのかも想像が安易になる。美咲はそこのローン事務所に捕まっている可能性が高い。理由としては三倉友和が借金を払うようにするため……か。いや、そうなるとそれ以前に三倉友和と半田が会っていたことに関してが不可解である。
「あー、くそ!」
……まだわからない穴が残ってはいるものの、この勢いを殺すわけにはいかない。
樫木はまだ訪れていない最後に聞き込みを行おうとしていたパチンコ屋にたどり着いた。まずは頭を整理して、話を聞く順序に気を付けるべきであろう。確認すべきなのは、このパチンコ屋はローン会社とのなんらかのつながりがあるかどうかだ。樫木は意を決してパチンコ屋の入り口の前に立つ。
時間を確認しようとスマホを出した時、着信履歴が一件残っていることに気付く。それは三倉智からのものだった。残っている時間は授業中のはずだが、とかけ直してみることにした。
「もしもし、どうし……」
『たすけ……、た……』
轟音に智の声がかすれて聞こえている。
「おい、どうした、おい!」
『あ、こいつ電話……』
『おい、ふざけんな!』
『きゃ……、ツーッツーッ』
「おい、智!」
ただならぬ状況で電話が途切れた。そして男の声と最後の悲鳴。嫌な予感しか浮かばなかった。
冷静に聞き込みを行う予定だったパチンコ屋だが、こうなればもう当たって砕けろだ、と樫木は息巻いて店内に入る。
「半田出せやぁ、ゴラァ」
店に入ると同時に店員の胸倉をつかみ、そう怒鳴った。何も知らないで怯える顔をする店員を離し、次の店員の胸倉をつかむ。
「半田はどこじゃぁ!」
「お客様……」
おとなしそうな店員が急ぎ足で近づいてくる。
「他のお客様もいるのでこちらへ」
確かに他の客の痛々しい視線もあり、樫木はそれに従う。その中に安井もいたが、樫木は何も見なかったことにした。
通されたのは、スタッフオンリーの扉に入り、更に関係者以外立ち入り禁止と書かれた二階への階段を上ったところにある小部屋であった。スタッフ用のロッカールームと違い、床はコンクリート、余計なものはなく金属バットなどが無造作に転がっている。関係者以外という関係者の意味がなんとなく分かってくる環境である。
そして樫木は背中を思い切り蹴られ、部屋の中に倒れこんだ。
「おまえ、何者だ」
先ほどまでのおとなしそうな顔をしていた店員に影がかかる。
「金を返しに来たんだよ、ここだろ借金取りのたまり場ってやつはよ!」
樫木も怒鳴り声をあげる。脳みそにまで血液がドクンドクン高鳴っているのが響いていた。
「なに言ってんだてめぇは、ぶっ殺すぞ!」
「こっちは三倉に言われてんだよ!」
「あぁ、てめぇ、三倉の使いかよ」
店員が舌打ちをして、携帯を取り出した。この反応はアタリであった。
「半田さん、三倉の使いってやつが……、え、ああ、そうですか」
そのまま電話を切る。
「連れてこい、とのことだ」
店員の後ろにガタイのよさそうな男が二人、現れる。
「騒ぎやがった分、痛めつけてからな!」
男はカシャンと警棒を伸ばすも、それを目前に樫木は笑い出した。
「はっはっはー!」
「……、おい、頭おかしいぜ、こいつ」
背後の男が言う。
「この数日にたまったフラストレーション、発散してやるよこんちくしょーめが!」
*
巨体が二体うずくまり、樫木は改めて店員の胸倉を掴んでいた。
「半田はどこだ……!」
「て、てめぇ……」
「どこにいるって言ってんだよ!」
「ひぇ……」
店員の足ががくがくと震えてまともに立っていられない状態だった。そのまま地面に放り投げ、樫木は近くにあった金属バットを手に取る。
「てめぇ、さっき丸腰の俺相手に、警棒なんて持ち出しやがったよなぁ……」
「あ、あひっ」
「正直に言わねぇとよぉ~、このバットでてめぇの小さいバットをぶっ潰してやるからよぉ~」
店員は震えで歯がガチガチと鳴り出す。
「大通り店に、大通り店にいます。だから、だから……!」
「大通り店……」
聞き込みをしている際に一店舗つぶれていた店があった。たしかそこが大通り店だったはず。
「てめぇ、騙そうたってそうはいかねぇぞ! あそこはもうつぶれてる店舗じゃねぇか!」
そういって樫木はバットを振り上げる。
「あああひぇぇぇっぇ! パ、パパパパパチンコ屋は廃業になってるだけで、事務所は、あっひぃ!」
「なるほど、そういうことか……」
そういうと、その店員を無理やり起こし、立たせる。
「悪かったな、ちょっと暴れちまって、あとわりぃけど、スマホ貸してくれない?」
店員は無言で先ほど使っていたスマホを樫木に渡した。
「じゃあ、警察来るの待っててね」
そう言って、ソバットを打ち込み、樫木は走ってその店舗を後にしようとした。
「お、おい、誰か、誰かいるのか!」
隣の部屋から声が聞こえてくるのを耳にし、樫木は足を止める。
「誰か!」
助けを求めるような声だったので、樫木はそろりと隣の部屋の扉に近づき、少し扉を開ける。
「誰か……」
そこはコンクリート丸出しの部屋とは違い、オフィスのような部屋であった。その部屋に男がオフィスチェアに結び付けられているのが見える。必死に助けを呼ぶその顔は樫木も見たことがある。
「あんたは……」
その男こそが、二年前に依頼を受けた行方不明者、三倉友和であった。
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