【23】早朝の報復爆撃
Date:2135/10/02
Time:06:22(UTC±0)
Location:Hofsjökull,Iceland
Operation Name:ICECREEK
アイスランド解放作戦の第一段階、東部への上陸作戦開始から数時間後――。
レヴォリューショナミーが軍事拠点化していたエイイルススタジル空港は夜明けを待たずして壊滅。
現在は遅れて到着した多国籍軍が戦闘の後処理に当たっており、自分たちで再利用するための復旧作業を進めていた。
「……それにしても酷い有り様だ。敵ながら同情するぜ」
「"悪魔"の異名は伊達ではないということか」
まだ薄暗い空港の格納庫前――だった場所をデンマーク空軍第731戦闘飛行隊隊長とスウェーデン空軍全地形装甲歩兵軍団隊長は駄弁りながら歩いている。
元々建てられていた格納庫は完全に焼け落ち、誘導路や滑走路も爆撃でボロボロだがMFは垂直離着陸が可能なので影響は少ない。
また、輸送力に優れるヘリコプターの運用に不都合が生じない点も幸運であった。
「あの袋は……」
ふと731隊長は誘導路上に並べられている多数の袋へと視線を移す。
遮光性の真っ黒な袋は横置きの状態で人間が入れそうなサイズに見える。
「気にするな。ゲイル隊がこの空港を迅速に制圧していなければ、あれに入っていたのは上陸部隊の連中だ」
それに気付いたスウェーデン空軍の男は袋の中身を察したのか、731隊長の肩を叩いてあまり気にし過ぎないことを勧める。
「……ゲイル隊の連中はここにいないようだが?」
彼の助言に従った731隊長は露骨に話題を切り替え、エイイルススタジル奪還の功労者であるゲイル隊の居場所について尋ねる。
「自分たちの母艦に戻ったらしい。彼女らの機体は機構が複雑な可変型MFだからな」
味方であれば大変心強い"蒼い悪魔"と会ってみたいのはスウェーデン空軍の男も同じだが、その要望を叶えることは難しいと彼は東の方を指し示す。
ゲイル隊が運用する"RMロックフォード・RM5-25M3 オーディールM3"は非常に高い精度で組まれており、それゆえメンテナンスにも高度な技術が求められるという。
「あんなモノをまともに運用できるオリエント人は良い意味でクレイジーだぜ」
そのオーディールと同一メーカー製の旧世代機スパイラルB型に乗る731隊長は苦笑いしながら肩を
「ッ! 空襲警報!?」
「伏せろッ!!」
しかし、彼らが笑っていられるのも今のうちだけだった。
731隊長が突如発せられたサイレン音にビクッとした次の瞬間、知り合いを庇うようにスウェーデン空軍の男は頭を押さえさせるのであった。
時を同じくしてこちらは多国籍軍の上陸地点セイジスフィヨルズル村の周辺に停泊している、短距離戦術打撃群旗艦アドミラル・エイトケン。
エイイルススタジルに駐留する友軍から通報を受けた同艦の艦内は慌ただしさを増していた。
「zzz……ッ!」
「スレイ! 起きろ! 緊急出撃命令だ!」
夜間飛行を終えてぐっすりと眠っていたスレイだったが、室内に響き渡るアラーム音とベッドに内蔵された自動起床装置、そして上官セシルの大声とドアノックで半ば強引に目覚めさせられる。
「な、何なんです……!?」
「それは出撃準備をしながら話す! 早く起きろ!」
寝ぼけ
だが、事態は急を要しているのかセシルは急かしてくるばかりで何も教えてくれない。
「(分かった。追撃はスウィードのエースに任せるとして、私たちも速やかに追い付かないとな)」
部下の着替えを待っている間、彼女は内部連絡用のスマートフォンで直接的な上官にして実姉のカリーヌと打ち合わせを行う。
空襲による地上撃破を免れたスウェーデン空軍MF部隊が迎撃に上がったらしいが、敵航空戦力には見慣れない大型MFがいたとの目撃情報もある。
仮にその新型機がレヴォリューショナミーのエースだった場合、同じくエース部隊であるゲイル隊の力が必要になるかもしれない。
「も、申し訳ありません!」
「いや……叩き起こしてすまなかった。しかし、我々が急遽上がらねばならないトラブルが起きたのでな」
1分ほど待っていると部屋のドアが開き、急いで制服を着たであろうスレイが姿を現す。
本来は休むべき時間帯だったこともありセシルは準備不足を叱責したりはせず、寝癖が残っているのを目線で指摘してから緊急出撃命令の内容を伝える。
「あ……何があったのですか?」
「つい先ほどエイイルススタジル空港が空襲を受けたらしい」
「!」
恥ずかしそうに寝癖を直し始めたスレイに対しようやく命令内容を告げるセシル。
それを聞いたスレイは思わず手を止め、驚いたような表情を浮かべながら上官の横顔を見つめる。
「被害状況の詳細は不明だが、レーダー車両のトラブルで敵機の接近を察知できなかったそうだ――全く!」
数時間前に自分たちが制圧した空港の被害状況はまだ把握し切れていない。
ただ、如何なる理由であれ友軍の防空網の甘さにセシルは不満を隠さなかった。
空襲による全滅を奇跡的に免れたスウェーデン空軍全地形装甲歩兵軍団は、爆撃を終えた敵航空部隊が引き返した直後に稼働可能な全機で緊急発進。
敵部隊の機上レーダーの索敵範囲外を維持しながら航路をトレースし、奴らの出撃地点があると思われるアイスランド島中央部に到達していた。
専守防衛用の局地戦型MFニードラケンの短い航続距離ではこれ以上の進出は難しいため、追撃を続けるか否かの判断を下さなければいけない。
「レヴォリューショナミーめ、アイスランドのど真ん中に拠点でも築いているのか」
アイスランド内陸部の大部分を占める中央高地は人間の営みには適さない地域。
そんな僻地すら利用しようとしているレヴォリューショナミーの"開拓者精神"を全地形装甲歩兵軍団隊長――エーリク・エステルバリ少佐は呆れ気味に称賛する。
「あいつら! こっちの対空レーダーが使えない時を狙いやがって!」
「熱くなるな。機材トラブルは我が軍の整備能力の不足にある」
卑劣な闇討ちを仕掛けてきたレヴォリューショナミーへのリベンジに燃える部下を
また、彼は自軍(スウェーデン陸軍)が空港周辺に展開していたレーダー車両の整備不良についても指摘する。
「……持ち込んだ全車両がダメになっていたのは不自然だがな」
もっとも、バックアップも含めた全車両に同じタイミングで同一トラブルが発生したことに関しては、さすがにエステルバリも整備不良以外の原因を疑っていたが……。
「隊長! 前方に所属不明機の反応と――何だあれは? ストーンヘンジか?」
「氷河の上の巨大構造物――工事用の足場や重機らしき物も視認できる」
今は自軍の整備能力を責めていても仕方が無い。
部下の報告を受けたエステルバリは眼下の氷河地帯に築かれている、基礎工事の構造物を目視確認する。
夜明け前なのでハッキリとは見えないが、建設作業に用いる重機なども置かれているようだ。
「(要塞とは随分と時代錯誤な防衛拠点を造りやがる……!)」
兵器の機動力向上に伴い無用の長物となった要塞で防衛線を構成することについて、エステルバリはあまり良い判断だとは思わなかった。
「所属不明機の機体識別完了! "UTA《ウータ》"12機にRMA-25が6機、そしてデータベースに無い新型MFが1!」
スウェーデン空軍全地形装甲歩兵軍団は同国の優秀なMFドライバーを集めた精鋭部隊。
当然、
敵航空戦力は無人戦闘機LUAV-02にバイオロイド専用可変型MFリガゾルド――そして、レヴォリューショナミーのエース機と思わしき新型MFという強力な布陣であった。
「先頭の黒いヤツ! 空港に空対地マイクロミサイルをバラ撒きやがった機体だ!」
敵編隊の先頭を飛ぶ漆黒の大型MFを確認した瞬間、全地形装甲歩兵軍団のドライバーたちの空気がヒリつく。
間違い無い。
空襲の際に多くの将兵が目撃した、積極的な対地攻撃により大きな損害をもたらした黒い怪鳥だ。
「全機、FCS(火器管制システム)をグリーンにしろ! 交戦を許可する!」
背を向けての撤退は困難と判断したエステルバリは思い切って交戦許可を出す。
それなりに戦える自分が
「ただし相手のペースに引きずり込まれるな! 機体性能も操縦技術もあちらの方が上だと思え!」
そして、相手は凄まじい運動性を持つ無人戦闘機と機械のように無慈悲なバイオロイドの中隊だ。
奴らと同じ土俵で戦っても勝ち目は薄い。
エステルバリの指示は彼我の実力差を認識した適切な対応であると言える。
「――ふーん? 随分とつまんない戦い方するじゃん」
だが、彼の冷静で的確な判断を漆黒の大型MFのドライバーは"つまらない"という安直な理由で
「女の声だと? しかもオープンチャンネルで茶々を入れてくるとは、我々に対する挑発のつもりか」
「あんたが隊長機? 同志の報告では腕が立つ男って噂だけど、なかなかイイ声してるじゃない♪」
オープンチャンネルは国際法で指定されている周波数帯を用いる、あらゆる通信装置が受信可能な国際標準回線。
そして、エステルバリの声も通信の混線で相手側に傍受されたのか、漆黒の大型MFのドライバーと思わしき女は随分と楽しそうに笑っている。
慎重な戦い方は気に食わないが、無線越しに聞こえる声はお気に召したらしい。
「あいつ……! ヘラヘラ笑ってるのを後悔させてやる!」
「夜空に溶け込むような漆黒のカラーリング……気味が悪い機体だ」
一見すると真面目さを感じられない女の言動に苛立ちを隠せない全地形装甲歩兵軍団のドライバーたち。
しかし、明け方の空でたった一機だけ闇夜を
「先に言っとくけど、クロエちゃんはあんたたちの3倍強いよ? あの世で後悔するのはそっちになるかもね」
スウェーデン空軍の精鋭たちの前に立ちはだかる女の名はクロエ・ルーフ。
漆黒の大型可変MF――"XREV-009 ナイトエンド"を駆る、オリエント圏の小国出身のレヴォリューショナミーのエースだ。
「ゲイル隊が来るまでは持ちこたえろ! 彼女らと一緒に反撃できれば勝機はある!」
そんな強敵にも対抗可能なゲイル隊の加勢に期待し、それまで生き残ることが自分たちの勝利条件だと叫ぶエステルバリ。
「さあ、ゲイル隊の前座が務まるか試してあげる!」
指揮下の無人戦闘機とバイオロイド専用MFの編隊に指示を送り、自信満々に戦闘態勢に入るクロエ。
彼女のこれまでの言動が実力に裏打ちされたモノなのかは、空戦で確かめればすぐに分かるだろう……。
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