【21】深夜の敵前上陸(前編)

 豊富な対地攻撃兵装を駆使した効率的な作戦行動により地上目標を一掃した短距離戦術打撃群航空隊。


しかし、その奇襲攻撃を察知したレヴォリューショナミーが航空戦力を送り込んだことで、今度は一転して航空戦への移行を余儀無くされる。


操作が複雑な機動兵器を乗りこなし、そのうえで対地・対艦・対空とあらゆる任務への対応能力が求められるのがMFドライバーの難しいところだ。


「ブフェーラ隊はそのまま対空戦闘へ移行! 私たちもすぐに加勢する!」


だが、短距離戦術打撃群航空隊を構成するゲイル隊を率いるセシルは未だ低空を飛行しており、航空戦への即時参加は少し難しい。


「了解! ブフェーラ各機、中隊長の指示は聞いたな?」


結局、敵増援第一波はリリスのブフェーラ隊だけで相手取ることになった。


「ええ! UAV(無人戦闘機)が相手ならば対地兵装を装備したままでも!」


「運動性では身軽なUAVの方が有利だ。こちらは一撃離脱を徹底する」


敵機はレヴォリューショナミーがよく運用している無人戦闘機こと"LUAV-02 ウータ"。


ローゼルほどの実力者ならば確かに余裕で対処できる敵だが、彼女の同僚ヴァイルの指摘も間違いでは無い。


また、ブフェーラ隊には内陸部の飛行場に対する攻撃という任務が控えており、この時点で対地兵装をパージするわけにはいかなかった。


「エネミー5、インバウンド! 増援が押し寄せる前に素早く叩き落とす!」


編隊の先頭を飛ぶリリスは敵機を交戦距離に捉えるや否や、ファイター形態の乗機オーディールM3をフルスロットルで加速させ攻撃態勢に入る。


操縦技術と機体性能に自信がある自分たちはともかく、海岸付近で待機している友軍部隊にとっては決して楽な相手ではない。


迅速な対応が友軍の損害を抑えるカギだ。


「ブフェーラ1、ファイア!」


無人戦闘機の編隊を真正面に捉え、短射程空対空ミサイルによる先制攻撃を強行突破しながら機体下面に装備されたショットガンを発砲するリリスのオーディール。


ショットガンは有効射程こそ短いが攻撃力は非常に高く、その強烈な一撃をもろに食らったLUAV-02は空中分解しながら墜落していくのだった。




 リリス機の鋭いカウンター攻撃を受けた敵部隊の残存戦力は素早く散開。


それにブフェーラ隊各機は即座に反応し、逃げる敵機たちの背後に食い付くことで絶好の攻撃ポジションを確保する。


「さすがに素早いですわね……しかし、機械的で正確なマニューバならば読み易い」


小型軽量な無人戦闘機LUAV-02は運動性が非常に高く、回避運動に入られると照準を合わせにくい。


だが、それ以上に凶悪なマニューバで動き回る人物セシルを知るローゼルにとってはさしたる問題では無かった。


「タイミングを調整――今ですわッ!」


偏差射撃で確実に狙い撃てる瞬間を辛抱強く待ち、ローゼルは右操縦桿のトリガーを引く。


彼女のオーディールの機体下面に取り付けられている装備は"攻防一体シールドシステム"。


これを構成するユニットの一つである連装式小口径レーザーキャノンから2本の蒼い光線が発射され、LUAV-02の真横を抉り取るように掠めていく。


「敵機撃墜!」


至近弾ではあったがレーザーの莫大な熱量に晒された無人戦闘機は胴体の一部がアイスクリームのように融け、その結果空力バランスが大きく崩れて制御不能に陥る。


それを見届けたローゼルは追い打ちの必要は無いと判断し、撃墜を確信する。


「ブフェーラ2! 別の敵機に狙われているぞ!」


残りの敵機は3機。


一人一機ずつ撃墜すれば丁度良い計算だが、AIの気まぐれなのかヴァイルが対処するつもりだったLUAV-02はローゼル機の方に向かって行ってしまう。


「距離が遠すぎる! 自力で対処してくれ!」


しかも、言い出しっぺのヴァイルは別の敵機と交戦し始めており、僚機の援護には駆けつけられそうになかった。


「分かった! 私が援護する!」


部下たちのピンチを察したリリスは目の前の敵機をショットガンで瞬殺し、ローゼル機の援護に向かおうとする。


「いいや、こっちの方が早い!」


だが、実際には低空から上昇してきたセシルのゲイル隊の方が早く加勢できそうであった。




「スレイ! 今の位置関係ならお前が一番早く接敵できるはずだ!」


同じ低高度からの上昇であっても、スタート地点が低空と地上では上昇力が大きく変わってくる。


隊長機と同じく地上から飛び立ったアヤネルは結局間に合いそうになく、対地攻撃の関係で元々低空にいたスレイに援護を託す。


「敵機捕捉! ゲイル2、射撃開始!」


仕事を押し付けられるカタチとなったスレイは右操縦桿のトリガーに指を掛け、その構造上動作開始までの立ち上がりが遅い"GG-88A2 MF用ガトリングガン"の発射タイミングを計る。


これは本来対地攻撃における機銃掃射を目的とした兵装だが、ドライバーの技量次第では空対空戦闘にも応用することができる。


敵機の回避運動のパターンを見極めたスレイがトリガーを引いた次の瞬間、彼女のオーディールの機体下面に装備されたガンポッドから無数の弾丸がばら撒かれ、射線上で右旋回しようとしていたLUAV-02を文字通り蜂の巣にしていく。


「ふぅ……ローゼルちゃん、大丈夫?」


火を噴きながら墜落していく無人戦闘機の最期を見届けると、スレイはローゼル機を視認できる距離まで接近し仲間の無事を確かめる。


「ええ、見事な御手前でしたわ。ありがとうございます」


「私からも礼を言わせてくれ。部下を援護してくれて感謝する」


本音を言うとあまり急を要する状況ではなかったが、それでも素早く援護に駆けつけてくれた誠実な対応と優れた戦闘技術にローゼルは心から感謝していた。


彼女の上官リリスも同じことを思っていたらしく、親友セシルが育てたエースドライバーに惜しみない賛辞を送る。


「あの5機だけとは思えないな。まだまだ攻めて来そうだ」


「水際作戦では埒が明かん。敵航空戦力の拠点――つまり飛行場を早急に制圧するべきだろう」


やっと上空で戦闘中の仲間たちに追いついたアヤネルとセシルは次の作戦行動について話し合う。


内陸部の敵飛行場は既に多国籍軍の上陸を察知しており、これの殲滅及び飛行場自体の防衛を目的とした航空戦力の出撃準備を進めているはず。


「デニッシュのドライバー! これより我々は内陸部へ進攻し、敵飛行場へ強襲を仕掛ける!」


「ち、ちょっと待て! 6機だけで何とかするつもりか!?」


ならば、敵機が上がってくる前に飛行場諸共吹き飛ばしてしまえばいい――というのがセシルの結論であり、その旨を友軍のデンマーク空軍第731戦闘飛行隊隊長に伝えてから早速行動に移るのだった。




 同じ頃、セイジスフィヨルズル近辺の海岸には多種多様な上陸用舟艇が集結し、接岸の順番を今か今かと待ち侘びていた。


「接岸完了! ランプ展開!」


「戦車を前面に出しつつ前進開始! 俺たちが一番乗りだ!」


上陸一番乗りの名誉を得たのはノルウェー海軍のLCACエルキャック揚陸艇。


手頃な砂浜に乗り上げたエアクッション型揚陸艇は船首側の傾斜路ランプを開き、甲板上に搭載された主力戦車"レオパルト2A8"と屈強な歩兵部隊を出撃させる。


「寒いのぐらい我慢しろ! 飛行場を奪還したら、いくらでも暖を取らせてやる!」


その近くではフィンランド海軍所属の従来型大型揚陸艇が複数の戦闘車両と兵士たちを降ろし始めている。


「全機、フロッグマン装備をパージ! 上陸部隊の周囲をカバーするように展開!」


「「了解!」」


そして、上陸部隊において最もユニーク且つ強力な"秘密兵器"が水中から現れた複数機のMFだ。


フロッグマン装備なる水中活動用モジュールを分離したMFの正体は"JAS 44 ニードラケン"。


スウェーデンの航空機メーカーとオリエント連邦のプライベーター"スターライガ"が共同開発した、専守防衛用の局地戦型国産MFである。


「……敵防御陣地は随分と静かじゃないか、731」


8機のニードラケンで構成されるスウェーデン空軍MF部隊を率いる男は、同じ北欧人のデンマーク731飛行隊隊長が駆るスパイラルB型を見つけると気さくに声を掛ける。


ただ、そこまで親しい間柄なのに彼は731飛行隊隊長の名前は知らないらしい。


「俺たちが来る前に"蒼い悪魔"が全部平らげていきやがった」


事前予想とは異なり敵の抵抗が全く見られない理由を説明する731飛行隊隊長。


そもそも、731が戦闘エリアに入った時点で敵戦力は"蒼い悪魔"ことゲイル及びブフェーラ隊が完全に殲滅していた。


「それだけじゃ食い足らずに内陸部の飛行場へ突っ込んで行ったがな」


「噂通り"やべー女"の集まりらしい……隊員はみんなスタイル抜群のカワイ子ちゃんってホントかよ?」


ノルウェー空軍やフィンランド空軍のMFドライバーたちも"史上最強の友軍"の無茶苦茶ぶりには少々ドン引きといった感じのようだ。


「飛行場への強襲は彼女たちに任せようじゃないか。我々は上陸部隊の進軍支援を最優先とする」


一方、ニードラケンのドライバーは友軍の卓越した戦闘力に頼らない理由は無いと考えており、自分たちはできることを精一杯やるだけだと意気込みを示す。


「全機、全地形装甲歩兵軍団の力を示すぞ!」


「「了解!」」


さすがは列強諸国でさえ手を出さない事実上の武装中立国スウェーデンの軍人というべきか。


同国初のMF戦専門部隊"全地形装甲歩兵軍団"を率いるニードラケンのドライバーとその部下たちは、対テロ戦争という任務に対し極めて高い士気を見せていた。

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