最終話 誰も知らない物語です
人間には許容量というものがある。
これくらいなら食べられるとか、このラインまでは我慢できるとか、そういう限度がある。
自分で自分の限度を理解することと、それを周囲に意思表示することは、生きていく上で大切なことである。限度を無視しようとすると碌な事が無いからだ。
「なぁ、サンダスよぉ」
「はい」
「これ絶対駄目なやつだよ」
「あ、やっぱり?」
手柄はやらないとばかりに最後尾に回された俺と何が楽しいのか笑うサンダスの視線の先で、新人小隊長の騎士ゴートがいきなり倉庫に突入しようとしている。
状況確認一切無し、真正面から堂々と全員でのタレコミのあった倉庫への突撃。
先行部隊もいないしファミリヤの偵察もやっていない。
そもそもこれ本当に倉庫ここで合ってるのだろうか。
お隣でしたでは済まされないが、場所を知ってるのがゴートだけなので信じるほかない。
もうダメなことをやりすぎて何からダメ出ししたらいいか分からない。
「犯行グループの拘束に回す人間が誰もいねーし、敵の数すら把握しようとしてねーし、普通中に人居るか確認した上で人数集めて包囲するだろ……もし万一突破されたらどうすんだよ。この辺市街地だぞ?」
「これくらいの人しか集まらないんだよ、ゴート小隊長殿の独断だと」
「独断じゃなくて上に報告して人間かき集めろよ……」
「そしたら独断の意味がないと思ってんのよ、あの人はね?」
騎士団を離れていた俺がルール変更について行けずおかしいのかとも思ったが、サンダスも一応ダメだこりゃとは思っていたようだ。だったらそうで止めれば良いのにと思ったが、彼は呆れた顔で首を横に振る。
「ゴート・オクトヴィッチ・セコダイスキー。自称ロザリンド特務執行官及びアマルパイセン及びコーニアパイセンと因縁のあるらしい島流し騎士なんだけど、これがまぁ視野狭窄な人でさ。ほんとのこと言うと怒って余計にいらんことするから敢えて黙ってんの」
「セコダイスキーって聖靴の名家じゃん。なんで島流しに?」
「部下のヨコヲヲって騎士にパワハラとモラハラで……それだけならまだよかったのかもしれんけど、バッチリ証拠出てきてんのに自分は親が偉いからどんなにハラスメントしてもいい人間だって堂々と言っちゃってさ。今はそういうの煩いのに時勢の読めぬ男よのう、というわけでして」
「あー」
騎道車内で返り咲きがどうのと言っていたが、つまりは功を焦っての単独行動のようだ。結果さえ出せば過程はある程度いい加減でも構わないと思ったようだが、過程の段階でガッツリ許されないことを連発しているのでもうどうしようもない。ダメだった時に民が煽りを喰らうのがまた酷い。
「よくそんなのに小隊員が大人しく従うもんだ。班長なり団長なりにチクらないのか? 相談窓口もある筈だろ?」
「ゴート小隊長の懐から出てくる不思議なステーラ紙幣の束には人を惑わす魔力があるのです~。俺は受け取ってないけどね」
「騎士道を金で買うなよ! ていうか受け取る側も売るな!」
性根の腐りきったダメダメ小隊である。
他の仲間たちも何でここまで酷くなるまで放っておいたんだろうか。
そうこうしているうちに騎士たちは倉庫をこじ開ける。
一応ここ最近開発された「生体魔力探知機」という魔法道具で倉庫内に魔物がいることまでは分かっているようだが、外対の十八番である筈の奇襲技術が欠片も生かされていない。俺は剣の柄に手をかけたまま最後尾から目を光らせるが、幸い銃を持ったテロリストがずらりと整列みたいなオチは氣の察知で把握している。問題はその奥だ。
「サンダス、小隊長殿の報告ではオーガは三匹だよな?」
「うん、我々で倒せるって息巻いてた」
「俺の気配察知が正しければ十匹はいるし、群れの長的な個体もいるんだが」
サンダスの顔から笑顔が消え、背中の変形鎌を左手で引き抜く。
ガチン、と音を立てて大鎌に変形したそれを指でくるりと回して肩に担いだ彼は、つかつか前に出てゴートの背に声をかける。
「小隊長、タレコミのあった倉庫は何番倉庫でしたっけ?」
「十七番倉庫だ!」
「ここ十一番倉庫なんですけど」
「……なに?」
ゴートが困惑の声で振り返る。
俺は、なんとなく何が起きたのかを察した。
数字の1と7は、筆記の際に見分けのつきづらいときがある。
騎士団内ではこの見分けをつきやすくするために7の数字には真ん中に横線を引いて表記するのが推奨されているのだが、どこかの段階で伝言ゲームのように数字が変わってしまったのだろう。
つまり、この倉庫は予定の倉庫ではなく、そして予定より危険な代物が待っていたのだ。
直後、耳を劈く咆哮が倉庫内を強かに揺るがした。
『グオオオオオオオオォォォーーーーーーッッ!!!』
倉庫奥の扉を突き破って姿を見せたのは、魔物を操るアイテムらしき笛を持った男とその背後に続く巨大な獣たち。鼻をつく獣臭が倉庫内に広まる中、男は充血した目で騎士団を睨むと一方的に喚き散らかす。
「ここを嗅ぎつけるとは大したものだと言っておこう! だがその程度の手勢で勝てると思い上がった傲慢のつけは貴様等の命で贖う事になる! 暴れろ、キメラオーク!!」
『『『ブギャアアアアアアアッッ!!』』』
響き渡る巨大な獣たちの一斉咆哮に騎士たちが反射的に剣から手を離して耳を覆う中、俺は久々に見覚えのある面に安心感さえ覚えていた。
――緑の皮膚に赤い筋が入った奇妙な紋様。
半端な角、なんの獣のものとも知れない尻尾。
一見すると特徴が一致していないように見えるが、そのひしゃげたように潰れた顔面と鼻、牙、耳、顔のフォルムにはうんざりするほど覚えがある。
人間の武装で身を包んだ巌のような獣は、明らかにオークであった。
しかもサイズはボス級と兵士級の中間程度である三メートル程度で、全員が人間の胴体など容易に切断できそうな大雑把な鉈のような武器を担いでいる。
終わらないものだな、と、俺は納得さえ感じていた。
結局、連中は絶滅しても人の都合によって再びやってくる。
テロリストの男が裏口に走って行く。
あれを逃がす訳にはいかないと俺も前に出る。
「ゴート小隊長どの、具申があります」
「は、はははは!! オークだと! オークがなにするものぞ! とうの昔に騎士団に壊滅させられた雑兵魔物如き、今の我らの敵ではないわぁ!!」
「あっ、バカ」
ゴートは最初こそ気圧されていたが、勝手に自信を取り戻して一人無謀に吶喊する。だが、俺が氣で感じる限り、あのオークたちはこれまでの野生オークとは訳が違うし、そもそも外対騎士団は正攻法を殆ど使わず作戦でオークを嵌めてきた。彼は何か大きな勘違いをしている。
「受けろ正義の刃!! 王国攻性抜剣術六の型、紅雀ぅぅぅ!!」
元聖靴騎士団というだけあってそこらの騎士よりキレのある刺突を解き放ったゴートの刃は、先頭を突き進んでいたオークの腹部に突き刺さる。
「やった!!」
「勝ち誇るなバカ!! 退けぇ!!」
「なんだと、誰に口を利いて――え?」
ゴートは自分が突き刺した剣の先にいるオークの命がまだ途切れていないことに気付いた。痛みと奥義の衝撃で一時的に動けなかったオークだが、既にダメージから立ち直りつつある。そして、そのオークの左右から続くオークが三メートルの高みから一斉にゴート目がけてゆっくり鉈を振りかぶっていた。
相手は人間より大きく生命力に優れ、獣の特性を持った存在だ。
殺すなら確実に一撃で心臓や頭部を破壊しなければ自分が危ない。
まして、このキメラオークとやらはどうやらある程度は人に訓練されているらしい。
彼らは仲間のダメージと引き換えに、威勢良く飛び出してきた生意気な人間をひねり潰すつもりなのだ。
「ひっ……あ……」
その殺意と圧倒的な存在感に、ゴートは呑まれた。
体が震え、足が竦み、剣を引き抜く力さえも手から抜けた。
ゴートは自分の想定の中でしか世界を認識していなかったのだろう。
だから、想定外の事態に際して頼りになる騎士団の鉄則や騎士道というものがない。
土壇場で、踏ん張れない。
「サンダス、ここは俺がやるからお前は逃げたテロリストを何としてでも確保しろ」
「え? いや俺も戦え……」
「優先順位考えろ。そもそも逃げた奴が弱い保証もない。自決させないよう口を縛れよ」
騎士団を抜けた後も戦いは続けていた己が肉体から氣を漲らせ、剣をすらん、と抜き放つ。
サンダスはその気配を察知し、迷いが消えたようだった。
「あーらら、パイセンってば俺の予想よりイカツい人なのね……」
やはり、彼はこの面子の中では一番の実力と洞察力の持ち主だった。
それ以上、会話は不要だった。
ダンッ!! と、深く、重く、鋭い踏み込みと共に加速した俺は、裏伝の歩法を駆使して棒立ちするゴートとすり替わるように前に出ると左右のオークの鉈に二刀流の剣を振り抜く。
「八の型、両翼白鶴」
『『ギャッ!?』』
左右でV字を描くように振り抜かれた刃が鉈を弾き飛ばすと同時、俺は邪魔なゴートを後方に蹴り飛ばす。その隙に眼前のオークが両手を振り上げて叩き潰さんと豪腕を振るうが、即座に股下をスライディングで潜り抜ける。
抜けた先には複数のキメラオークたちの連撃が待っていた。
骨ごと両断する破壊力の鉈が次々に頭上から降り注ぐのを、最低最低限のステップで躱す。床が馬鹿力で砕けていく中、一瞬の間断を縫って飛んだ俺は一番面倒な位置に居座るオークの首筋に刃を添える。力はいらない。流れるように、脊椎と脊椎の隙間を断つ。
「一の型、軽鴨」
切り裂くと同時に宙返りした俺の視線の先で、キメラオークが糸が切れたように動きを止める。切れ味が良すぎて切断した首が落ちていないようだった。
宙返りした俺が着地したのは、股下を潜り抜けられて俺の姿を探しに振り返るキメラオークの頭上。腹にゴートの剣が突き刺さったままでも鼻息荒く動き回る生命力は流石だが、これ以上動き回られると迷惑だ。
「裏伝八の型、
『ブ、ギッ……!?』
本来なら移動用に使う歩法で俺が跳躍すると同時に、キメラオークの頭部に直接衝撃を叩き込む。踊鳳は足の力の加減を間違えると足の裏に圧縮した氣とエネルギーが逸れて足場が弾けるほどの衝撃を産み出す。まともに衝撃を浴びたキメラオークは脳を破壊され、目と鼻から血を吹き出して絶命した。
跳躍で飛び出した先には、ボスと思しきオーク。
他より角が鋭く、肉体も四メートル程度。
しかしそれ以上に俺の目を引いたのが、『兵士』の風格だ。
ネームドともトーテム・セブンのような戦士とも違う。
これは自我を切り離した上で、明確な意志を以て目的を遂行する兵士の瞳だ。
このオークは部下の死から敵の様子や行動パターンを予測し、己の最適な行動を予測していたのだ。どんな非情な決断でも、どんな狡猾な手段でも、このオークは実行出来る。そのように育てられたオークなのだろう。
なので、外対騎士団らしく相手が長所を活かす前に倒す。
今必要なのは、後ろのなよなよした騎士たちを死なせないための時間。
ただ時間短縮と効率の為に、死んで貰う。
恨むのなら、そのような兵士に作り替えた残酷な人間を恨んでくれ。
「八咫烏」
『ギャオオオオオオッッ!!』
ボスキメラオークが武人と見劣りしない速度で振り抜いた鉈は俺を捉えた、と、相手は思っただろう。だが、当たらない。当たらないという現実のために八咫烏を使った。
敵の攻撃を
俺が効率を求めた末に辿り着いた、八咫烏の使い方。
名付けるならば、十二の型異伝、八咫烏・
大地を砕く豪腕も、天を裂く凶刃も、虚の前には全てが無意味と化す。
渾身の鉈は何にも触れることをなく空を切り、俺の刃は敵の首を静かに切り落とした。
◆ ◇
騎士達は、目の前の光景に心を奪われた。
感動とか、恐怖とか、そんなわかりやすい言葉では解釈出来ない圧倒的な現実という光景に、彼らの全員が瞬き一つできなかった。
恐ろしく、強靭で、武装した敵――雑多な魔物に過ぎない筈のオークの凶悪な姿に何も出来なかった彼らの目の前で、その見知らぬ男は圧倒的を通り越した絶対的な実力を解き放った。
目の前の光景を見ている筈なのに、彼らはそれが本当に行われた事実であるのか信じられなかった。敵の豪腕を片手で撥ねのける絶技、自分たちの想像も及ばない足技、相手が死んだことさえ気付けていないのではと疑うほど静かで鋭い斬撃。
そしてとうとう、当たったと思ったのに当たっていなかった、という脳が混乱する光景。
ボスクラスを討伐した彼はそのまま一瞬で複数の仲間を殺されて足並みの崩れたオーク達を次々に、淀みなく、効率的に始末していく。その殆どが頭部を破壊されるか首を切断されて無駄なく殺害されており、残虐で無駄のない所業が逆に美しくさえあった。
オークの全てを知り尽くしている人間にしか、このようなことは出来ない。
全てのオークを瞬く間に全滅させた騎士は、血払いをして納刀する。
あ、と、ゴートの喉から掠れた声が漏れた。
ゴートは知っている。
サンダスが連れてきたときからほんの僅かに「見たことがある」と感じていたこの男のことを、彼はずっと前から知っている。功を焦って、高揚感に胸を満たされ見落としていた理性が、今になって記憶を掘り起こす。
最強の平民騎士、伝説の男。
王国の歴史上、彼ほど無敗という言葉の似合う者はいない。
今は『英傑騎士』、その前は『剣皇』と持て囃された彼にはその一つ前に特徴的な二つ名が存在した。
敵オークを倒す際に無駄な斬撃を減らす為に確実に、執拗に首を切り落として絶命させるやり方からついた、やや残虐で不名誉な渾名――。
「首狩りヴァルナ……?」
「ヴァルナ……ヴァルナってあの……」
「うそだろ、ずっと海外留学してるって話じゃなかったのか!?」
「政治の勉強のためとか社会システムの勉強の為とか言いながら各地でドラゴンやら未知のモンスターやらを薙ぎ倒して回ってるって噂だったのに!!」
「ほ、本物かよ……! 俺、初めて実物見た!!」
騎士達がざわめくなか、床に零れたオークの血だまりを軽い足取りで飛び越えたヴァルナは、ゴートの前で名乗る。
「明日付で王立外来危険種対策騎士団に復帰する騎士ヴァルナだ。ポジションとしては裏方が多くなるだろうけど……五年もブランクがあるんで新人だと思って君たちから今の騎士団のやり方を学ばせて貰うよ」
その言葉で、騎士達は一斉に顔が真っ青になった。
というか、ゴートがもう口から魂が抜けそうになっている。
彼は終始、自分たちの醜態をしっかりと観察していたのである。
当然、王国最高の名誉騎士である彼に賄賂など通じる筈もない。
更に、追い打ちをかけるようにサンダスが倉庫の奥から走ってくる。
「おーい、パイセーン! 言われた人は捕まえたけど他は逃げたー! でも聖盾の人が張ってたみたいで捕まえて貰えたんで、そっちに身柄拘束任せたわー! いやぁ、これゴート小隊長が受けた情報をちゃんと上司に報告するかどうかを確認するために外対と公安が張ったちょっとした試験だったみたい! 倉庫間違えて本当に危ない場所に来るとかウケるけど!」
「言う割に驚いてないけど?」
「ロックパイセンが意味ありげな助言をしてはくれてたんで、そうかなーとは思ってたよ~ん」
いつ見ても緊張感のないふにゃふにゃした笑みを浮かべるサンダスの言葉に、今度こそゴートは自分の足場ががらがら崩れていく感覚に陥った。公安からの急な情報提供に隠された裏があったことを、彼はまったく見抜けなかった。
自分に与えられた試練を最悪の形で終えてしまった。
言い訳と怒りと混乱が頭の中でミックスされ、膝の力が抜けていく。
ヴァルナは騎士たちに悠々と近づいてきて、へたりこんだゴートの顔をしゃがんで覗き込むと、にっこり笑った。
「では、ゴート小隊長。事後処理の指示をお願いします。俺、明日付の勤務だからまだ指揮権ないし」
(((こっわ……)))
ヴァルナは一応こんなクズでも指導すればマシになる筈くらいに思って不安を和らげさせるために下手な態度を取っているが、ゴートには何をどう聞いても自分への死刑宣告にしか聞こえなかった。偉い人とそうでない立場の人の考え方と感じ方には、得てしてギャップがあるものである。
◇ ◆
ヴァルナが仕事前から仕事をしているその頃、ゲノン工房には珍しい一見さんがやってきていた。
年齢は五歳程度だろうか。
クセのあるアッシュブロンドの髪を揺らす愛らしい少女は、数名の付き添いらしい人物とともに物珍しそうに店内に並ぶ刀剣類を眺めていた。はぁ~、とか、ほぉ~、とか何かを見る度に感心したように間の抜けた声を漏らすのもまた子供らしい。
そんな少女の様子を、若くしてこの工房の長を任されたタタラは面倒臭そうに見ていた。
男の子のように振る舞っていた幼少期から時間が経って女性らしい体つきになった今でも、彼女は周囲に舐められないよう男のような格好をして髪も短く切りそろえている。
少女はどう見ても貴族令嬢で、道楽で店をうろうろしているようにしか見えない。
五歳の少女が商品を買う筈もなく、またタタラも売る気はない。
夜のヴァルナ騎士復帰前祝いイベントを前に面倒な客が来たな、と、タタラは欠伸をする。
と、少女の目があるショーケース内の剣を前に止まった。
「この剣、おとーさまの剣ににてる」
「あん? そりゃ……」
その剣は、ゲノンの死後にタタラが彼の作品を真似て鍛えた剣だ。
剣としての性能は十分だが、タタラは未熟な自分を戒める品として非売品として飾っている。
今は亡きタタラの尊敬する祖父、ゲノンは引退前に幾つもの業物を作り上げてから現場を退き、ヴァルナの結婚式に出席して暫くした後に病に伏せって亡くなった。タタラには「お前の花嫁姿を見るまで待てなくてすまん」と遺言に残し、多くの弟子に看取られて。
そんなゲノンの晩年の業物は、これまでの品とはクセや趣が違う。
タタラの感覚的には、ヴァルナの愛剣を打ったときからそれらの趣が出ていた。
少女が眺める剣は、その趣を真似た剣だ。
はて、五歳の子供がいるような貴族に翁の剣など売った覚えがないが、と疑問に思うも、それより年端もいかぬ子供がゲノンの遺したものを感じ取っていることが嬉しくなり、タタラは少女に声をかける。
「その剣が似てるんなら、嬢ちゃんの親父の剣はオレのじいさんが鍛えた剣だってことだろうよ。嬢ちゃん名前は?」
その問いに、少女は人なつっこい笑みで答える。
「シェーナ! おとーさまはこういう剣を二つも持っててにとーりゅーっていうのするんだ! とぉぉっても強くてかっこいいのよ!」
変わり続ける世界の中で彼女が将来何を目指すのか、まだ、誰も知らない。
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