第283話 第二回・外対騎士団補足説明会

 どうも皆さま。

 王立外来危険種対策騎士団で広報を担当させていただいている、空戦型と申します。


 今回は第一回補足説明回と同じくストーリーは進めず、本編で語り尽くせなかった補足説明を掲載したいと思います。

 内容は基本的に本筋と大きなかかわりがないために本編で省いていたものなので、さほど重要な内容という訳ではありません。ご興味のある方だけどうぞ。



① ルガー団長が団長になるまで


 ルガー団長の経歴について簡単に説明します。


 ルガー団長はマルトスクが出て行った後に騎士団に入った、当時ひげの生えていない若造でした。


 その頃の平民騎士は士官学校に通うこともなく簡単な剣術訓練を突破したら直で職場に送り出されるほぼ鉄砲玉の状態でした。なので騎士団には当時、彼らを統率する為の僅かな貴族――しかも現場に来ない連中と、それにいいなりになるしかない平民騎士たちという構図が存在しました。(お目付け役は存在しましたが、ヤガラみたいなのです)


 貴族に反論したくても、そもそも平民出身の寄せ集めである平民騎士たちは知識がないから弁で勝てない。勉強する暇もない。法律も正確に把握している人はごく少数でした。


 そんな環境で入団してきたルガーはどうにかこうにか剣術試験を突破した、口が裂けても将来に期待できると言える風な騎士ではなく、周囲の平民騎士も「こいつは駄目かもしれない」と思っていました。


 ところが、ルガーはそんな平民騎士たちが目を剥くほどの弁舌で当時の団長(貴族)を言葉でボロクソに打ち負かし、いままで騎士団では考えられなかったような待遇改善をいくつも呑ませて見せました。

 しかもどのような伝手か上役の弱みまで情報を仕入れ、貴族の圧力を跳ねのけた上で騎士団の面々にこう問いかけました。


「俺はこれからこの騎士団を作り替える。貴族の使いっ走りの組織じゃなく、俺達が独自の判断で行動できる組織にする。その為の面倒事を全部俺が請け負うから、協力してくれると嬉しいんだけど……なぁ皆、もっといいメシ食いたくないか?」


 当時、劣悪としか言いようのない食事環境だった騎士たちに、この言葉は最も強烈に響きました。

 こうして、ルガーは若造でありながらすぐさま騎士団の重役となって貴族と言葉で戦う騎士となり、同時に将来を見据えた多角的な人脈を繋ぎながら、当時の騎士団の未熟極まっていた対オーク戦術を根本から練り直しました。

 戦死者は目減りし、騎士たちはまともな補給を受けられるようになり、やがて外対騎士団は議会すら無視できない勢力に成長していったのです。


 なお、ルガーがどうやって貴族をも言い負かす程の話術と知識を手に入れたのかは、誰も答えを知りません。ただ一つはっきりしているのは、この男が王立外来危険種対策騎士団に入団していなければ、外対騎士団の発展は100年以上遅れていただろうということです。


 それだけの事をしておきながら全く部下に敬われないのは、それもまたルガーの計略のうちなのです。怪物かこのじじい。



② なんで王国騎士は修羅の国と化してるの?


 何故王国騎士は異様に強いのか、という質問があったので歴史背景を説明します。


 王国は元々大陸での魔物との戦いに嫌気が差したために現在の島に移住した人々が主です。その中には当時の隣国の人なんかも含まれています。


 それで、少し話が逸れますが、実は大陸では宗国以外の国では武道というものが廃れるか軽視されてる場所が多いです。全部がそうではなく、ンジャ先輩の地元や列国みたいに例外もありますけど。

 廃れた理由は人類の敵が専ら魔物になってしまったことにより、それまでの伝統的な武道が通じず対魔物用に改造されていったせいでもあります。これによって行き場をなくしていった人たちの多くが王国開拓に参加しました。開拓時代の王国は今ほど資源や民心が豊かではなかったので、彼らの武術が役立つ場面も多かったのです。

 結果、王国には大陸で失われた様々な武道の技術が集まり、それが融合されたり、大陸で続いた武道の人の考えや動きを取り入れたりして独自の戦闘技術を保持し続けました。


 王国の治世が安定すると、今度は魔物被害がない王国に大陸側からのちょっかいが出るようになり、強い戦力を持つ必要が出てきました。その頃も一応王国に騎士団がいましたが、今ほど精強ではなかったです。

 大戦力になると大飯喰らいになるから、精鋭の騎士にしたい。そこで時の王が「もっと武術極めて強くなれ!」と勅を出し、王国中の武道家の意見を元に武術運動が活発になりました。この頃から騎士団は「最低でも質は海外騎士団より強い状態を維持する」という強さの指標が生まれます。


 王国攻性抜剣術は既に様々な武道家の研究を経て体系化されており、対魔物にも対人にも使えることから後に騎士団が扱う武術として正式採用されます。この奥義を使いこなすのはかなりの鍛錬が必要なため、必然的に騎士団も強くなっていきました。

 ちなみに覚えてない読者さんもいるかもしれませんが、王国に存在する五大騎士団に含まれない非常に小規模な騎士団「王宮騎士団(近衛的なもの)」が使う王宮護剣術もこの時代に目を付けられ、屋内や対人戦に向いている剣術として採用されています。これは皇国の武術が色濃く表れているとか。


 こうして騎士団は武術とそれを維持、伝承するノウハウを確立。そこから時代に合わせて部隊を分けたりしていく中で、現在の五大騎士団が生まれました。ただ、これによって武器を持つ者と持たない者がくっきり分かれてしまったために平民が武道を学ぶ場は減っていき、今では道場の類はすっかり少なくなってしまいました。

 また、ご存じの通り魔物との実戦経験が積めないという欠点から、対人は良くとも対魔物に関しては海外の騎士団に劣る部分があります。豚狩り騎士団は例外ですが。


 一方、大陸では魔物との戦いのせいで新組織「ギルド」による個人主義の集合体としての戦力に大きく頼るようになっていく中で、騎士の役割が縮小していきました。腕のいい戦士たちがギルドで割のいい仕事をするようになったので強力な騎士のなり手が減っていったのです。


 王国はその後、戦力は維持しつつも基本は社会が安定しているため、騎士以外の帯剣を禁じるという珍しい法が出来たり、平民の間で王国護身蹴拳術が広がったりしていきました。

 ちなみにタマエ料理長とその門下生の実力は国内でも有数なので、その辺はタマエ料理長の教えが凄すぎるだけです。平和な社会からも金メダル級の武道家は生まれるという訳ですね。アストラエやロザリンドなんかはタマエ料理長と同じく自然と生まれた強者です。まぁ、バウベルグ家は代々優秀な人が多い血筋なのですが。


 ただ、これは全体的には「王国が弱小にならなかった理由」です。要約すると、大陸では国家が必ずしも強力な戦力を持たなければならない訳ではないけど、王国は国が一番の戦力を持っていなければいけなかったという事情の違いが存在するのです。

 前に一度触れたような気がしますが、大陸の国の騎士というのは上位冒険者より下に見られています。事実、統率は取れていても個々の強さでは上位冒険者に及ばない所ばかりです。王国と大陸では騎士に求められる練度が違うのです。


 で、クシューが強い理由ですが、これはぶっちゃけ『十二の型・八咫烏』が使えるからです。作中でも説明しましたが、八咫烏はどうしてこれが奥義として成り立っているのかが不思議なくらいに謎でありながら、大陸のどの武術にも存在しない強力無比な奥義です。

 クシュー自身ももちろん天才タイプだったのですが、習得者の多くが老齢な中で若くしてこの奥義を習得したクシューの強さは異常だったそうです。逆を言えば習得者たちがもっと若くして八咫烏を習得できたらクシューに並ぶくらいは強かったかもしれません。


 え、ヴァルナが強い理由? それはわしにも分からん。



③ 何で王国攻性抜剣術の奥義名って全部鳥由来なの?


A. 王国の建国神話で八咫烏が最も神聖な霊獣として扱われているため、それにあやかっています。



④ 質問出てないけどシアリーズの小話


 シアリーズとヴァルナの出会いは小説開始後しばらくして考えたストーリーなのですが、物語時系列的には原作開始前の話になっています。その理由なのですが、実はその頃リンダパブリッシャーズなる会社の人に書籍化しませんかーという誘いを受けた際に「女の子出したストーリーにして」と言われて渋々考えたものでした。書き始めは渋々でしたが出来上がったシアリーズというキャラには愛着があり、死蔵するのも惜しすぎると出す機会を前々から伺っていた次第です。


 なお、知ってる人もいるかもしれませんがリンダパブリッシャーズという会社はその後破産したので書籍化の話も流れました。契約とかしてなくてある意味よかったのかも。ちゃんちゃん。



⑤ 処刑人スティリウスについて


 大会に出場していた処刑人の一族、ミ・スティリウス・ノワールくんは本編であまり出番なさそうなのでちょこっと説明します。


 『処刑人の血族』はその処刑の為の技術や他の人々が知り得ない知識を代々受け継いでいるのですが、それがもっと世の役に立つ筈なのに隠し続けているのが気に入らなかったスティリウスくんは、あるとき一族の掟を破ってその知識を一般の人々に公表します。

 それが原因で一族を追放され処刑権も剥奪されましたが、別に命を狙われてはいないので当人はあんまり気にしていません。


 ちなみによく笑うのは、最初魔物との戦いが思いのほか怖かったため恐怖を紛らわすために笑っていたら癖になったからです。



 今回の補足説明は以上とさせていただきます。

 次章投稿は未定ですが、既に続きは執筆中ですのでお待ちを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る