第281話 これくらい許してください

 ――コロセウム・クルーズは、俺とシアリーズの決着について一晩会議したそうだ。

 その結果、ステージの破壊加減とシアリーズとの互角っぷりから「これ決着つく前にクルーズ沈むんじゃね?」という話になり、日程の事もあり再試合はなしの方向になった。その結果、行うことになったのが判定三本勝負である。

 ちなみに判定内容と結果については俺も知らないので内心では心臓バクバクだ。バレてないかな……うーん、流石にバレそうな面子が多いぞここ。せめて観客には気付かれないようにしとこ。


『判定その一!! 平均的な試合でも行われる、タイムアップ時の有効打判定です!! 試合の積極性、見せた技能の練度、そして有効打の数で結果が決まります!! その結果は――!!』


 アルテリズム・コロセウムの上部にある掲示板がドラムロールの快音と共にゆっくりと回転を始め、その結果が表示されたパネルがその姿を現す。今か今かと観客待ちわび、パネルが見えるか見えないかのギリギリの角度になり――がこん、と一気に結果が公表された


『積極点、シアリーズ選手! 技能点、ヴァルナ選手!! 有効打――僅差でシアリーズ選手!! 第一判定はシアリーズ選手の勝利ィィィーーーーーーッ!!』


 わっ、と観客席が盛り上がり、同時に悔しさを滲ませる声も響く。

 もちろん俺は悔しい側だか、自己採点で厳しいとは思っていた。

 盛り返すまでに時間をかけすぎたのが敗因だろう。


 まだ二つあるとはいえ、心に重いものが圧し掛かる。今ならこの判定は覆すか、そうでなくとも引き分けくらいには持っていけた筈だ。尤も、流石に昨日の頑張りで疲労は溜まっているのだが。


『これはあくまで一つ目の判定!! 二つ目もシアリーズ選手が勝てばヴァルナ選手は敗退が決定!! 逆にヴァルナ選手が勝てば、勝敗は最終判定に持ち込まれますッ!! では次の判定――魔物討伐判定ぃぃぃーーーーッ!!』


 ジャーン、とタンバリンの音が鳴り響き、会場からざわめきが沸き起こる。


『これは非常に分かりやすく、試合に乱入してきた魔物達との戦いでの魔物討伐数をポイント化して評価するものですッ!! そう、あの騒動の中でも審判たちは見逃していなかったッ!!』

「犯人の犯行を判定に利用するのかよ。転んでも唯じゃ起きないな……」

『なお、小型魔物は一ポイント、中型魔物は二ポイント、大型魔物は三ポイントで計算していますッ!! まずシアリーズ選手の討伐ポイントは……中型二体、大型二体!! 合計十ポイントぉッ!!』


 大物が集中して襲撃を仕掛けたシアリーズは、数は少なくとも大きなポイントを稼いでいる。

 ざわざわと騒ぐ観客に混じって、ガッツポーズをする観客が混ざっている。会場での戦いを見逃さなかった観客たちの中には、この時点で計算を終えて結果が読めているのだ。若干のもどかしさを感じさせる間を空け、マナベルがもう一つの結果を告げる。


『そしてヴァルナ選手の討伐ポイントは……小型七体ッ!!』


 シアリーズに反して、俺は魔物の侵入と同時に一気に突っ込んだため、その間に多くの魔物を斬り飛ばしている。ただ、問題は下級ではポイントが低いこと。観客の多くが固唾を飲むなか、マナベルがたっぷりと間を空けてから叫ぶ。


『――そして中型二体ッ!! 合計十一ポイントォッ!! 第二判定勝者はヴァルナ選手だぁぁぁーーーーーッ!! 勝敗はまだ決まらないぃぃぃぃーーーーーーーッ!!!』


 わぁっ、と一際大きな歓声が響き渡る。

 成程、確かに俺の自己採点と同じ点だ。大型魔物の配点がもっと高ければ結果は違っただろうが、もしかしたらそこも含めて演出なのかもしれない。だとすれば、最終判定こそが真の決着の場で、そこまでは前座のようなものだということだ。


 それにしても、マナベルの間の開け方が絶妙だ。

 早くしてくれ、と願うその瞬間に一気に結果を解き放つ。

 そうすることで結果が響き渡った時の観客が冷めずに盛り上がれる。


「まさかこんな風に盛り上げに変えるなんて、クルーズもやり手ね」


 隣でずっと涼しい顔をしていたシアリーズが声をかけてきた。

 自分が勝つ絶対的な自信からか、それとも勝敗にもう頓着していないのか、こちらに話を振る余裕まであるようだ。


「そうだな。決着着かずでグダっちまうと思ったんだが、あの短期間でよくやったもんだ。観客はもう襲撃事件なんて忘れたって顔してる」


 世界最強の戦士はどちらになるのか、結果を待ち望みうずうずする観客たちの顔がずらりと並ぶ。最後の判定はスタッフ以外誰も知らないものだ。既に普通の試合で行われるような判定は出切っている。


『ではお待たせいたしましたッ!! 最終判定の発表ですッ!! 最終判定は――これだッ!!』


 突然、表彰式用の特設ステージから色鮮やかな光と共にスモークが焚かれ、その中からスタッフの手によって四角い箱が運ばれてきた。箱の中には折りたたまれた紙片が沢山入っており、選手はもとより、距離があって見えない観客も困惑している。


 運び込んだ人物――ミラベル・ショコラはボディラインを強調するカラフルな服を纏い、観客にウィンクしたり手を振ったりしている。一通り会場に自分の存在をアピールして満足したらしいミラベルは腰のベルトに差した拡声魔道具を取り出して箱を手での指し示す。


『ここにありますのは、昨日クルーズ運営に寄せられたシアリーズ選手及びヴァルナ選手宛てのファンレターですッ!! 大会終了後に受け渡しする筈だったものですが、急遽ここに持ち込ませて頂きましたッ!! 最終判定は――どっちがクルーズ民に愛されているのか!? レター数対決ぅぅぅーーーーーーッ!!!』

「最後の最後にバトルと全く関係ないの来たぁぁぁぁーーーーッ!!?」


 人気度の高さはある意味その人物の魅力、一種の力とも言える。

 しかし、腕っぷしこそ全てというコロセウム・クルーズの法則から言うと大分かけ離れた物に思える。


『異論はあるかとも思いますが、逆を言えばこれくらいしかお二方の差をつけるものが見つからない程の接戦だったということですッ!! なお、手紙は予めクルーズスタッフがチェックし、悪戯文章や誹謗中傷などの不純なものに加え、卑猥な表現、著しく気持ち悪い表現の含まれるものを除外していますッ!!』

(著しく気持ち悪い表現って……内容を想像したくないな)

『なお、悪質なレターを送ってきた相手はクルーズ法務部がどこまでも追い詰めて絶対に訴訟に持ち込むのでそのつもりでお願いしまーす!!』


 ニッコニコの笑みでさらっと恐ろしいことを言うミラベル氏。

 クルーズ運営はどうやら質の悪いファンには容赦しない性格らしい。

 事実、国を跨いだ訴訟になってもクルーズ法務部は絶対に訴えて何年でも相手国に通い、どんな不利な状況でも勝利をもぎ取っているそうだ。黒いスーツで身を固めて歩く集団は裏で「黒の執行者」と呼ばれているとかなんとか。ちなみにこれは法律と関りの深い家の出身でもあるネメシアから聞いた話だ。


 ちなみに手紙の中身を確認する件については大分前に確認書類を受け取っており、一度宿に持ち帰ってロザリンドと一緒に確認し、問題なかろうということでサインしてある。うっかり変な文言呑んでたら洒落にならんからね。


 確認のためにミラベル氏以外のスタッフも数名集まり、カウントが始まった。


 俺の名前が書かれた透明な箱に一つ、シアリーズの名が書かれた同様の箱に一つ、とファンレターが分けられていく。時折ミラベルがその中からファンレターを選別して読み上げる。


『これなんかイイですね! えー……『これからは女性の時代! そう確信させてくれる実力で決勝戦も押せ押せだったシアリーズ選手にはぜひ勝って頂きたいです! 同じ女性として力強い姿に励まされます!!』……だそうです! どうですかシアリーズ選手!?』

「いや、アタシの強さはアタシだけのものだから。時代を作りたいなら他人の背中に縋らないで自力で道を切り拓けばいいと思う」

『カッコいいーーー! お、こっちもいいですね!! 『ヴァルナへ――剣士として言うまでもないことだが、剣は使った後は丁寧に手入れをし、錆の一つも残すことなかれ。相手が竜の牙だろうがオリハルコンだろうが翁の剣は絶対に折れぬ。折れるときはおぬしの慢心が折るのだ。故に常にそれを心がけ、絶対に勝利せよ――タタラより』……ですって、ヴァルナ選手!!』

「それ本人に断らず名前まで読み上げちゃまずいのでは?」

『いやーでも私こういうの好きでして! 子供が一生懸命書いたといわんばかりに文字が丸っこくてあちこちバツで訂正してあるんですよ!! 可愛いですよね!!』

「本人絶対それ指摘されるの嫌だからそれ以上はやめたげて!!」


 会場のどこかから甲高い子供の悲鳴が聞こえた気がした。

 強く生きろよ、少年。


 そんなこんなでレターは次々に重なっていく。

 開封は既に半数を切ったが、数はシアリーズ優勢だ。容姿に惚れた男性ファンも多いが、特に女性の憧れを集めている。

 それもそうだろう。彼女には大陸時代からの固定ファンがついている。対してこちらは王国のローカル騎士だし、見た目にあんまり華がない。ファンクラブもあるらしいが、それこそ最近出来たばかりだ。


 男女両方から様々な理由で羨望を集めるシアリーズに対し、ファン層の厚さが立ちはだかる。こればかりは俺が自力でどんなに頑張っても仕方のないことだ――そう思った頃、ファンレターの内容に変化が訪れる。


「こちらなんかいいですね。『事件が起きたとき、豚狩り騎士団のお姉さんが避難誘導してくれて迷わずに済みました。こんな素敵な騎士さんを率いて戦い、率先してテロリストの動きを引き付けていたヴァルナさんたちの騎士としての高潔さに感銘しました』……このお姉さんとは『若獅子レオプライド』の異名を得たロザリンド選手の事ですね。組織としてしっかり民の命を優先しているからこそ、この手紙がヴァルナ選手宛てに届いたのですねぇ……ロザリンド選手宛てにもレターを送っているみたいですよ?」

(昨日の事件のお礼……これは騎士団員としては嬉しいな)


 自分の仕事が評価されたようで、胸の奥が暖まる。

 これは俺じゃなくて外対騎士団全員への評価と言える。

 ちらりと名前を呼ばれた当人であるロザリンドの方を向くと、努めて凛々しい顔をしてはいるが感動で口元が少し震えていた。こんな風に感謝されるのは彼女にとって初めての体験だ。その喜び、忘れるなよ。


「続いて、こちらもヴァルナ選手です! 『試合が中止になっていないのに、いの一番に犯人捕縛に動く様はまさに騎士の鏡! ルールに従えば先にリングアウトしたのはヴァルナ選手なのかもしれませんが、運営がその辺を酌量してくれることを願っています!!』……もちろん酌量しましたとも!!」

「また昨日の……?」

「おっと、三連続ヴァルナ選手だ!! 『やっぱ騎士ヴァルナサイコー! オーク惨殺してる騎士ヴァルナもシゲキマックスだったけど、人助けするヴァルナ見て今度はバラードっぽい曲が思い浮かびました!! シアリーズちゃんの試合でも曲作ったんで、いつかシアリーズちゃん紹介するついでに聴いていってくださーい!! ペンネーム・偽花嫁』ですって!」

(音楽……偽花嫁……ああ、メラリンさんか!!)


 クーレタリアの偽オーク事件で知り合った親のすねかじり――もとい、流浪のミュージシャンことメラリンさんの快活な笑顔が脳裏に浮かび、俺は少し驚いた。でもまぁ親の金で観に来てる可能性はあるな、と妙に納得もしたが。  


「おっと、次もヴァルナ選手宛て! その次もヴァルナ選手宛て!! ボックスの下の方にヴァルナ選手宛てのレターが固まっていた!! 開いていたシアリーズ選手との差が埋まっていくぅぅぅーーーーッ!!」


 思わず、固唾を飲んで見守る。

 集計結果は次第にシアリーズのレター数に近づいていき、やがて横に並び、そして運命を決める最後の一枚がミラベル氏の手に寄って広げられる。ミラベル氏は前振りなく、素直にその内容を読み上げた。


「……『昨日は逃げる途中に転んでしまったところを助けていただき、誠にありがとうございます。転んだ後に何人もの人に踏み付けられて本気で死んでしまうと恐怖を覚えましたが、そんなパニックの観客を一喝して救い上げてくれた貴方のおかげで重傷にならずに済みました。誰がなんと言おうと、貴方こそ私のヒーローです』……あの人混みの中でよく見つけられましたね?」

「民を守るのが最優先の仕事ですからね。それに犯人逃がしちゃったのも俺なんで威張れることじゃないですよ」

『だとしても、感謝は感謝ですね? 集計終了ぉぉぉーーーーーッ!! コロセウムの老いも若いも男も女も、十人十色の想いを乗せて送られた数多のメッセージたち!! その一つ一つが数に変換できない感動の結晶ですが、今だけは戦士を優勝に導く『一』として………!!』


 シアリーズの箱に蓋がされ、その蓋の上に六十三通と書かれた大きなフリップが設置される。

 そして、その横に――六十四通と書かれたフリップと共に、俺の名が刻まれた箱の蓋が閉じられた。

 それを皮切りに、マナベル・ショコラが本大会最後の口上を読み上げる。


『古くから、人は大きな力に立ち向かい、そして同時に力に魅せられてきました。力とは未来を切り開くもの……力とはどうしても勝利したい相手に向ける最後の武器……そして力と意地の衝突する瞬間を人はいつしか決闘と呼び、決闘を求める人々の願いが決闘場を作り出し、やがて更に多くの人間の願いがこのコロセウム・クルーズと『絢爛武闘大会デュエルオデッセイ』を生み出しました』


 今や世界的な大会になった、『世界一強い奴を決める戦い』。

 金を求める者もいれば、怒りをぶつける者もいる。

 全く勝利に興味のない者もいれば、無念に涙をのむ者もいる。

 

『繰り返される激突もとうとう三度目。我々は、強さとは根源的で不変のものだと勝手に思い込んでいました。しかし決闘という神聖な場を汚す者が現れ、それに立ち向かう者が現れ、観客の中より腕力とは違った全く別種の強さを見出す者が現れた――今大会の決勝戦は、次代の変化を象徴するものとなりました』


 そこでマナベルは一度言葉を切り、加減の一切ない大音量で決着を告げる。


『第三回、絢爛武闘大会デュエルオデッセイ決勝戦ッッ!! 王国筆頭騎士、『剣皇』ヴァルナッ!! ヴァーサス……大陸七星冒険者、『藍晶戦姫カイヤナイト』シアリーズッ!! 運命を決める判定勝負最後の結果は……僅か一つの想いの差でヴァルナッ!! 世界一に決定した新たなる伝説、『三代武闘王サードオデッセイ』に選ばれたのはぁッ!! ヴァァァルナァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーッッ!!!』


 ――これまでの人生で一度も浴びたことがない、巨大な歓声と喝采が、俺に浴びせられた。


 全員ではなかっただろう。

 渋った人間もいた筈だ。

 それでも、マルトスクを下し、ガドヴェルトを倒し、シアリーズの全力の一撃を相殺した俺の戦いを、会場の皆が認めてくれていた。もしかしたらそこにはほんの幾何か、騎士道や筋肉といった些細な要素があったのかもしれない。


 それでも、俺は世界の頂点まで勝ち上がった。


 全部が満足できる戦いではなかった。

 後悔も予想外も山ほどあった。

 犯人を捕まえ切れなかったことへの後ろめたさもある。


 でも、今だけはそんなことは忘れろとばかりに浴びせられる拍手喝采と、俺の名前を呼ぶ声に導かれて、特設ステージへと向かう。階段を上り、ボックスを片付けて設置された優勝者の台に上り、「最早誰も僕の言葉など耳にしないだろうね。おめでとう、今日は君が世界の主役だ」という言葉と共に、イクシオン殿下は金とクリスタルで美しく装飾された優勝メダルを首にかけてくれた。


 これほどまでに周囲に祝福を受けたことはない。

 遠くで、騎士団の仲間たちが抱き合って喜んでいるのが見えた。

 どこか夢見心地の俺に、ガドヴェルトとチャン執事がトロフィーを渡す。

 そのトロフィーの重みが、この光景が現実であると告げてくれる。


 空を見上げると、聖天騎士団のワイバーンが色鮮やかな煙を尾から放出して華麗な編隊飛行を見せている。何らかの魔法道具で煙を散布しているのだろうが、その中にネメシアとミラマールの姿が混ざっているのに気付いて、思わず手を振ってしまった。

 予備人員だと言っていた筈だが、その予備が活かされることになったのだろう。一糸乱れぬ飛行にきっちりと合わせてワイバーンを操る彼女もまた、俺の勝利を祝福してくれている気がした。


「――では最後に一言お願いします、ヴァルナさん!!」


 ミラベル・ショコラに突きつけられたマイクを前に、俺は「そういえば何を言うか全く考えてなかった」と失態に気付く。だが、それを後悔する気分にもなれなかったため、適当に思いついたことを言うことにした。


「王立外来危険種対策騎士団はスポンサー及び幹部候補生を募集しています!! 王国に巣食うオークを根絶やしにする為に、お力添えを宜しくお願いしますッ!!」


 会場の大多数の人間がズッコけた。


「この一番いいタイミングに宣伝ブッ込んだだとぉッ!? 天才の僕も予想外だぞヴァルナぁッ!!」

「あはははははっ!! でもヴァルナ君ってこういうとき空気読まずに自分のやりたいことやっちゃう人だよねー!!」

「ほっほっ、まことセドナ嬢のおっしゃる通りですな」

「うむ、お前はそれでいい!! 初代武闘王ビギニングオデッセイのお墨付きだ!!」


 ふと、惜しくも準優勝となり別のメダルとトロフィーを受け取ったシアリーズだけは、静かに暫く目を閉じていた。そして誰に向けるでもない声で、「バイバイ、クロス……」と囁いて、こちらを見た。


「後で会おう、ヴァルナ?」

「ん? ああ……よく分からんが、別れは済んだか?」

「うん。別れた後には出会いがあるから、もういいの。優勝おめでとう、ヴァルナ! 今回は文句なしにアタシの負けだから!」

「そうか? ……ま、いっか」


 何を以て負けと断言したのかは俺には判別が出来なかったが、シアリーズの言葉に嘘偽りは感じない。対戦相手である彼女にまでそう言われると、憂う感情は何もない。胸から喉へと込み上げるむずむずとした衝動――達成感と感動を察してか、シアリーズはくすりと笑った


「一言叫んどく?」

「いや、やめとく。騎士っぽくないし」


 どんなにマイペースと言われても、その辺は拘りたい。

 でも、心の中で誇ることくらいは神も許してくれるだろう。

 この日、俺は人生最高の栄光をこの手で掴み取った。

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