第187話 マジギレ寸前です

 タキジロウ・イセガミは、元は列国に住まう武士だったらしい。


 ある時、仕えていた主に密命を与えられ、十歳年下の妻と赤ん坊だったマモリに、他数名の仲間と共に大陸へと渡ったという。仲間たちは海外の文化を見聞して祖国に伝える役割を持っており、タキジロウも表向き同じ理由で国を出たそうだ。


「流石に密命の内容までは聞いとらんが、もともとタキは国の外に興味があったらしい。元より国外に出にくい身分だったタキに殿――ああ、王国で言えば主とか上司のことじゃが、気を利かせてくれたのだといつだか言っておったな」

「随分と婉曲な気の回し方ですね」

「列国とはそういう国だそうだ。察しと気遣いの国とも一部で言われとるよ」


 一家はマモリを育てつつ数度大陸内を引っ越しながら住んでいたが、あるときそろそろ腰を落ち着けたいと考えたイセガミ一家は、海外の画展で偶然見たトマス・アキマス作のシャルメシア湿地の風景画を見て一目惚れ。ここにしようと王国へやってきた。

 そして三人は王国の国籍を取得。

 マモリはこの頃六歳ほどだったらしい。


「当時はネイチャーデイ発足当初と重なっておった。芸術家というのは協調性があまりないもんで、その活動は少々迷走気味じゃったのぉ……して、そんなときにふらりとタキが現れた。テウチソバという麺を片手に。いやぁ、美味かったぞ?」


 ソバという未知の食べ物を持って挨拶回りをしていたタキを気に入ったミケ老はよく二人で話すようになり、思慮深く教養のあるタキはよき友人、よき相談相手、そして芸術を語らう同志でもあったという。


「ネイチャーデイの活動指針がはっきりしたのはタキのおかげでもあるんじゃ。彼の絵は当時の王国界隈では独創的過ぎて評価は割れておったが、素晴らしいものだと確信しておった。確かここに……ほれ、如何かな?」

「これは……黒の絵の具のみで書かれてる絵、ですか?」

「水墨画と言っての、墨を水に溶かして絵の具にするんだそうじゃ」


 絵の具の黒と紙の白の濃淡だけで描かれるシルエットだけのような絵は、独特の掠れや曲線を描き、線の力強さが際立っている。俺が目を瞑ったまま氣で周囲を感じ取っているときのイメージ世界と少し似てる気がした。


 同時に、この線の描き方はマモリのそれと似ていると感じた。マモリのあれは水墨画をベースに独自のアレンジを加えた物なのだろう。淡さと鮮明さが同梱した仕上がりは、一枚くらい自分の部屋に飾ってみたいと思わせるだけのエネルギーがある。


「タキは釣りも好きでの。幼いマモリにせがまれよく釣りに行ったのを見かけたものじゃ。遺品の殆どはマモリのアトリエに保管されとるが、本当ならネイチャーデイ本部にも二、三枚飾りたいもんじゃ」


 そうして豊かなスローライフを送っていたイセガミ一家。奥さんは野菜作りが得意で、海外の珍しい野菜を育てつつ、その育て方を周囲に教えたりもして馴染んでいたらしい。

 だが、幸せな家庭は突如として崩れ去った。

 父の行方不明――事実上の死亡宣告と共に。


「行方不明になる一年前にも、実はタキはイッペタム盆に行っていた。その頃から何やら考える時間が増えておった気がする。酒の席でさりげなく『何かあったら妻子を頼む』とか、勇者シャルメシアの伝説をしきりに調べたり、あの頃に何かを思ったのは間違いないと思う」

「詳細は黙して語らず、ですか?」

「んむ。今になって思えばあの頃から既にタキはヤヤテツェプの存在に気付いておったのだろう。遠回しにイッペタム盆へ近寄らぬよう何度か言われた」


 そこから先、一年後。運命の瞬間が訪れた。


「当時はファミリヤを使って雨季を察するなんて発想はなかったからのう……タキにとっても恐らくは予想外だったのじゃろう。タキは普段の釣りと変わらぬ様子でイッペタム盆に向かい……還らぬ人となった」


 雨季の到来と増水。その年の雨季は特に激しい嵐のようであり、村にも水害が出るほどであったそうだ。その時タキジロウ氏がどこで何をしていたのかは、謎に包まれている。

 しかし、少し気になるところもあったので質問する。


「マモリはその話のどこに関わってるんです? そのタキさんと一緒の船に乗ってた訳じゃないんですか?」

「翌日になってから居ないことが判明した。どうやら父を追いかけて船でついていったらしい。見つかったのは二日後……誰もが生存を諦めかけておった頃じゃ」


 痩せこけたマモリは父上はどこだ、父上はどこだと何度も周囲に問いかけ、答えない周囲に真実を察して泣き崩れた。彼女は盆で何があったのか、殆ど語ることはなかったが、ただ一つ、「父は勇敢に戦って死んだ」とだけミケ老に語ったという。


「マモリは変わった。目は鋭く変わり、絵描きに専念して周囲との関係を殆ど絶ってしまい、そしてヤヤテツェプを探し始めた。わしは確信した。タキはヤヤテツェプに殺されたのじゃ、と」


 父親の仇。彼女は黙して語らずとも、見たのだろう。

 そして雨季に作戦が決行されると言われれば、彼女は必然的に思い出す。恐らくは最も忌まわしく悲しい、心の傷の記憶を。最愛の存在の片割れを喪った日の悲劇を――。




 ◇ ◆




 同刻、研究所の休憩室――。


 ソファに横になったマモリは、自分の人生を見つめ直していた。


 幼いマモリにはお金を稼ぐ手段がなかった。

 子供の釣りで纏まったお金など手に入らない。

 病床に臥した母の世話だけは、母に世話になった親切な人たちが善意でやってくれたが、後見人となったミケ老はお世辞にも懐に余裕があるとはいえず、マモリはどうにかしてお金を稼がなければならないと思っていた。


 父の仇に復讐するまで落ちぶれる訳にはいかない。

 武士は食わねど高楊枝、という父の言葉がマモリに自然とそう思わせた。


 仇を取るまでただ与えられるだけの生活は嫌だ。

 そう思ったマモリはミケ老の伝手で父の絵を自分なりに真似た絵を描いてお金を稼ごうとした。もちろんそれは簡単な事ではなく、父の画風をものにするまで絵は全く評価されなかった。


 次第に閉塞感と行き詰まりを感じていた頃――コメットがネイチャーデイの秘書として雇われた。


 高度な計算力。セールストーク。都会人の雰囲気。

 出会った当初からコメットはこの村にはいないタイプの人だった。


 当時まだ彼女の住む家が決まっていなかった頃、やってきたコメットが最初にマモリに言ったのが「許せない行動、嫌な行動は教えてくださいね!」だ。最初は自分のアトリエに他人のいる異物感が好きではなかったが、ある日コメットの落とした手帳を見て驚いたのを覚えている。


 自分でも自覚しないような感情の機微とそれが起きたシチュエーションを詳細に書き、「煮魚より焼き魚が好み?」とか「画板を触る=× 床に放った失敗作を整理する=〇」とか、独創的なコミュニケーションの模索方法をしていた。


 自分ならここまで気に留めないし、余裕のなかったマモリはむしろ腫物扱いする周囲に苛々してつい睨んで追い返していた。中には父の死を自業自得だと侮辱する輩がいたのも、マモリに「外は敵だらけ」と思わせた要因だ。


 自分とは全く真逆のことをする人間に困惑し、どうしてこんな変な事をしているのか聞いたら、当人は少し恥ずかしそうに語った。


『社会人なりたての頃にね、隣の席の同僚に知らない間に嫌われちゃって……何がいけなかったのか心当たりがないまま物別れになっちゃったのがスゴイ悔しかったから、今は出来るだけ見落とさないようメモしまくってるの』

『そこまでして、他人に嫌われたくないの?』

『だって隣でずっと一緒にいたのに、一番大事なことが分かってないままって悲しくない? そんな見落としのせいでこれから仲良くなれるかもしれない人に嫌われるのって、私は人生の損失だと思うの』


 ほかの同僚にはやりすぎだって言われたけど、とばつが悪そうに小声で呟くコメットを見て、マモリは数年ぶりにくすりと笑った。


 理由なんて今も分からない。心を閉ざして睨むばかりのマモリに逆に心を開いてきたことか、そもそも父のことを全く知らない人だからか、都会人に惹かれたのか、きっかけは判然としない。

 ただ、その頃からマモリはコメットに遠慮しなくなった。


 他人には気を遣うくせに自分の部屋に気を遣わないことに愚痴を言ったり、一緒に食事をしたり、一緒に買い物もした。友達――と言いたかったが、年上のコメットに世話を焼かれることが多いので、周囲には姉妹みたいだと言われた。


 コメットの買ってきた絵の本が役立ち、絵描きとしても軌道に乗り始め、そしてヤヤテツェプ調査もコメットは理由を聞かずに手伝ってくれた。逆に、セールスに失敗して落ち込むコメットに何かしてあげようとしたこともある。半分以上は失敗か空回りだったが、そんなマモリの頭をコメットはいつも優しく撫でてくれた。


 村の代表であるオルレアと仲良くなれないと落ち込むコメットを見て、オルレアに嫉妬したり無駄に悪者扱いしたりもしたな、と思う。いや、今もちょっとオルレアに対して攻撃的だ。


 部屋のテーブルで紅茶を淹れるコメットを見つめる。

 すぐに視線に気付いたコメットが振り返り、「丁度入ったよ」とお茶を差し出した。前は父が好きだった緑茶を頑張って飲んでは苦みに悶えていたが、今はコメットのお茶の方が好きだ。

 立ち昇る湯気にふう、ふう、と息を吹きかけ、少しずつ飲む。


「急に調子が悪くなったって聞いてびっくりしちゃった。ごめんね、席を外してて」

「ん……」

「熱無し、脱水症状なし。体はどう?」

「問題ない。精神的なもの」

「その方が気になるんだけどナー……」


 困ったように笑うコメット。

 しかし、その笑顔がすぐに真剣なものに変わった。


「ねぇ、ヤヤテツェプの事を今更聞く気はないけど、本当に騎士団の任務に参加する気? 雨季が来るんでしょ? 今なら頼めばメンバーから外してくれるんじゃない? 騎士ヴァルナ、話の分かる人っぽかったし」

「うん……むしろ私が無理に頼んでいるだけだから」

「だったらやめようよ? 別に今年じゃなくてもいいんだし、そもそも中止になることもあり得るんだし……私、嫌だよ。友達が怪魚に食べられて行方不明なんて。そんなことあったらマモリのお母さん、今度こそ立ち直れないよ」


 母の事を言われ、ずきりとした。お金と復讐の為にそれほど頻繁に会えない母を遺して逝くのは、ぞっとするほど恐ろしいことに思える。

 普段あまり触れない家族の事を引き合いに出すのは珍しい。それだけ心配してくれているんだ、と感じる。同時に、強制する物言いではない所に、彼女がこの問題を軽いものと決して考えていないことも伝わってくる。


 しかし、違う。

 マモリは雨季の話を聞いたあの瞬間、復讐ではなく恐怖を感じて震えたのだ。雨季になると毎年それを思い出さないために作品作りに没頭するほどに恐れる、あの日の出来事を。


 コメットにこの話はしたことがない。して欲しくないこととして「父の詮索はしない」と約束したものを、コメットは今も律義に守り続けているからだ。

 その気遣いがあるからずっと一緒に暮らしてこれた。


「でも……」


 今、コメットの心の中に初めて生まれている感情があった。

 その感情の行き先や、解消にどうすればいいか、マモリには分からない。そして、そんな迷いを相談できる相手はいつだって一人しかいなかった。数年だけど、姉妹のように一緒に過ごしてくれたコメットになら、この思いの内をぶつけていいかもしれない。


「コメット」

「なぁに?」

「……被るの」


 主語を咄嗟に言い出せず、それだけ言った。

 コメットはそれに苛立ちもせず、戸惑いもせず、優しくマモリの頬を撫でる。

 焦らなくていいよ、と伝えるかのように。

 でも、ずっと甘えてばかりではいられない。

 勇気を振り絞り、マモリは言い切った。


「死んだ父上とヴァルナが被るの。私、ヴァルナをヤヤテツェプ討伐にいかせたくない」


 記憶の蓋が、開け放たれる。


「父上が死んだのも、雨季だった。あの日、父上は私に何も言わずに釣りに出かけた。普段なら一緒に行くか、って言うのに。そうでなくても帰る時間を伝えるのに、その日だけ言わないのがすごく気になって追いかけた」

 

 マモリは当時、外で遊ぶ程度には活発だった。

 父がいつもの船に普段は使わないような釣り竿を積んで漕ぎ出すのを見て、マモリは大胆にも勝手に船を一つ借りて追いかけたのだ。


 いつもの釣りスポットを通り過ぎ、だんだんと道が狭くなっていく中、マモリは子供の手でオールを漕いで必死に父を追いかけた。途中何度か見失いそうになったが、水面を滑る波紋を頼りに追いかけた。

 辿り着いたのは、「あそこには行ってはいけない」と散々忠告を受けたイッペタム盆。呪われた場所である。


 その時、既に父は戦いを始めていた。


「事前に父上は、イッペタム盆の淵に足場を作っていた。そして父上はそこからヤヤテツェプを釣ろうとしてた。釣り竿と、槍を持って」


 恐らく現在よりもヤヤテツェプは少しばかり小さく、勝算があると父は思ったのかもしれない。父がいつ、どうやってヤヤテツェプの存在を知り、そして仕留めようとしたのか、その時のマモリには分からなかった。

 ただ、父の顔が今まで見たこともないほど鋭く真剣で、何も言えなかった。

 幸か不幸か、父も目の前に集中し過ぎてこちらに気付いていなかった。


 父の作戦は、今回のヤヤテツェプ作戦と基本は同じだ。

 釣りで疲弊させて上に上がってきたところを槍で突き刺し殺す。そのために、父は大物用の――当時は最新だったが、機能で言えばヴァルナに使わせたそれには及ばない――釣り竿を神がかり的な手裁きで操り、数時間かけて水面の近くまでおびき寄せた。


 しかしこの時、天の悪戯がヤヤテツェプに味方した。


「雨季……」

「うん。雨季が、その年はすごく早かったの。今年と同じように」


 今でも思い出す、悪夢のような光景。

 突如として空が灰色に濁り、大粒の雨粒がイッペタム盆に降り注いだ。その雨粒にマモリが思わず声を上げてしまったとき、父上は初めてこの決戦場に自分の子供が来ていることに気付いてしまった。


『急ぎ戻れマモリ!! じきに増水するっ!!』

『はい、父上! ……父上? 父上、何故引かないのです!?』

『今こやつに隙を見せれば拙者が喰われるッ!! それに――いや、疾く行くのだマモリ!!』


 父の言う通り、盆は瞬く間に増水し、船が流され始める。しかし水面を跳ねた巨大な魚影を見たマモリは、本能的にこのままでは父が魚に敗れると悟った。

 父があの魚を逃せばマモリが襲われる可能性を憂いていた、というのは、後で思ったことだ。


『父上っ!! 父上ぇっ!!』

『……マモリ、父の最期の命を心して聞けいッ!!』


 これから死に向かおうとする人間とは思えない、雨音をも押しのける雄々しき叫びだった。


『急ぎ家へ戻り、父が戻ってこなかったならば書斎の引き出しにある文(ふみ)を母に渡すのだ!! そして、ここで起きた事は決して口外するな!!』

『聞けませぬ、そんな頼みは聞けませぬ!! 父上はこれから私と共に無事に家に帰るのです!! そうでございましょう!?』


 マモリは必死に父に呼び掛けた。

 しかし、父はもはや振り返りもしなかった。

 その背中を――不退転の覚悟が滲みでた後姿が、果てしなく遠く。手を伸ばしても伸ばしても遠退いてゆくように、離れてゆく。


 水の流れに逆らえなくなって強制的に来た道を押し戻されてゆくマモリが最後に見たのは、雷鳴の閃光。水上に躍り出るヤヤテツェプの大きな影。そして勇猛にも槍を構えてそれに悠然と立ち向かう父の――。


「そこからは、覚えてない。気が付いたらシャルメシアの全然知らない場所にいて、夜明けだった。日の光から方角を割り出してなんとか見知った場所に辿り着いた頃にはもう手が動かなかった」

「それで、行方不明から帰還したんだ。墓地の名前が消されたのはその時?」

「普通助からないらしい。それでフラフラのまま、ちょうどこの建物に運び込まれて……母さんが来て、書斎の引き出しの話をして、それで……後は、もう知ってる?」

「……ごめんなさい、なんて言ったらいいか」


 最後まで真剣に話を聞いてくれたコメットはしかし、どっと疲れているようにも見えた。

 本当は父の遺言もあるのだが、そこまで話せば本当の意味で父の「口外するな」という約束を破ってしまう気がして、それだけは言えなかった。

 これがマモリが語ることの出来る過去の話。

 そしてこれからが、マモリの今の悩みの話。


「ヴァルナのこと、最初は全然父上に似てないと思ってた。でも……絶対に感情に身を任せない落ち着いたところとか、戦いを前に全く心を乱さないところとか……ヴァルナからは、父上と同じ『武士』の匂いみたいなのを感じるの。だからヴァルナがヤヤテツェプを釣りに行ったら、父上みたいに居なくなっちゃうんじゃないかって……」


 言葉にすると、余計に体が感情に引っ張られる。

 我慢できずにコメットに抱き着いたマモリは、震える声で懊悩の丈を叫ぶ。


「怖い、怖いよぉ……私のせいでヴァルナが死んじゃうよぉッ! 父上みたいに居なくなっちゃうよぉッ!! そんなのやだ。やだやだやだぁッ! ヴァルナならヤヤテツェプに勝てると思ったのに、何でまた雨季なのッ!? なんでヴァルナは騎士で、命令があったら行っちゃうのッ!? やだ、やだよぅ……ッ!!」


 十五年の年月を重ねて尚、マモリは余りにも子供だった。

 復讐を果たす為の 協力者として、また人付き合いの出来ないマモリのパートナーとして、ヴァルナは余りにも理想的過ぎた。

 この男なら、と心のどこかで期待を寄せていた。

 一緒に過ごして翻弄されたりした時間が、楽しかったのだ。


 今更になって、マモリは自分が思った以上にヴァルナに父の面影を重ねていたことを自覚する。

 父上の遺言の一節に書かれていた文章が、今のマモリの頭から離れない。


『決して復讐に走ることなかれ。復讐は否応なしに周囲すら巻き込み、己の望まぬ犠牲を生み出すものだ。繰り返す、決して復讐に走ることなかれ……』


 こんなことならば、希望になど会わねば良かったのに。


「あー……そのー」

「どうしようコメット! どうすればいい!?」

「マモリちゃん、やっぱりヴァルナさんのこと気に入ってたんだね……」

「おーい。そこの二人ー」

「もうこうなったら私も全面的に協力しちゃうわよ! 騎士ヴァルナが明日の任務に出られなくなる作戦でも考えよう! 一肌脱ぐわよ~、必要とあらば物理的にも!」

「コメットにだけそんなことさせられない! わ、私も……」

「……勝手に二人だけの世界に入っていちゃつくなコラァッ!!」


 その怒声にやっと我に返ったマモリとコメットが同時に部屋の出入り口を見る。

 そこには、見覚えのある人物が、見たこともないほど不機嫌そうな顔で立っていた。


「で? この王国最強絶対不敗マスターヴァルナ様がいつ誰に負けるって? 勝手に負けて死ぬ話になってるのも思われるも、個人的には業腹なんだけど?」

「「ヒェッ……」」


 その凄まじい怒気の籠った目つきに、マモリは昔に一度だけ父の浮気疑惑(結局は濡れ衣だった)に対して母がマジギレしたときに匹敵する恐怖を感じた。

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