第181話 ファミリヤは見ました
マモリからアトリエを追い出された俺は、巻き込んだお詫びも兼ねて浄化場の休憩スペースをコメットさんに提供していた。とはいえコメットさんからすれば邪魔したのは自分という意識があるようで、逆に謝ってくる。
「なんか、余計なこと言っちゃってごめんなさい。マモリちゃん、いい子なんですけどちょっとテンパりやすくて突っ走りやすくて墓穴掘りやすくて人見知りで言動がときどき過激で釣りが下手なんです」
「本人いないのをいいことにボロクソ言いますね……」
「大丈夫です! そこがチャームポイントでもありますから!」
コメットさん的には断然アリらしく、眩しい笑みで言い切った。恐らく彼女の可愛いところをたくさん見てきたからこそ、確信をもってそう言い切れるのだろう。ダメな子ほど可愛いというやつだろうか。その感覚は分からないが、マモリが意外と可愛げのある性格であることはよく分かる。
ある意味これは好都合。彼女と精神的に一番距離の近そうな彼女ならば、マモリについて何か話してくれるかもしれない。ただ、当人は仮眠の為に来ている訳なので先に寝場所を提供しする。監視と目覚ましにファミリヤを残すと俺は一足先にノノカさんの所に行った。マモリの集めた目撃例を借りて来ていたからだ。
ノノカさんは部屋にいた。
ただ少し嬉しい誤算だったのは、アマナ教授も来ていたことだ。
二人とも淡水魚や水棲の魔物図鑑を漁りながらボードに名前を挙げている。
どうやらタイミングとしては良かったらしい。
俺がマモリさんの個人的に収集した怪魚の絵を持ってくると二人とも同時に同じリアクションで食いついた。やっぱ研究者って似るものなのだろうか。
「ヒレが殆ど見当たりませんね。それにヒゲがあるということは、やはり濁った水中に適応したナマズ系の魚の可能性が高いでしょうか」
「まだ可能性だけど、やっぱりその線が強まったね。でも絞り込むには足りないかな……特にこの尖った角みたいなの」
とんとん、と幾つかあった外見予想の絵から角つきのものを差し、アマナ教授が魚類図鑑をめくって唸る。
「深海魚にはヒレとは別にこういった器官を持っている魚はいる……そして、恒常的に光が届きにくい水質の場所では稀に深海魚と同じ特徴を持つ魚が生息している。まったくの新種の可能性もあるね」
流石はノノカさんも認める魚類学者。
世間的には余り知られていない深海魚にも精通しているようだ。
彼女が指し示す本に載るアングラーフィッシュには、釣り竿みたいな不思議なものが頭から生えている。この先端が光り、おびき寄せられた魚をパクリと食べると考えられているらしい。
それにしてもこの魚、凄まじいまでの不細工顔だな。
オークに負けてないんじゃないのか。
正直魔物にしか見えないが、魔物ではないと考えられているらしい。確かにこの魚もヒレは目立たず口も大きいので怪魚の条件から外れてはいないが、フォルムが違う。
そこも含めて新種の可能性があるのだろう。
「しかし角の話が偽情報って可能性が消えた訳じゃないのが厄介ですね。マモリも疑ってました」
「……もう名前呼び捨てにする仲になっちゃったの?」
「ひとまず協力者になったので。見た目ほど気難しい子じゃないですね、あの子は」
そう言うと、アマナ教授は少し驚いた顔でノノカさんの方を向いた。
「吃驚した。この子天然の女誑しなの?」
「若干そっちの才能もあるけど、単純に相性が良かっただけじゃないかなー? 顔で損するタイプと顔ぐらいで意見曲げないタイプってカンジですし」
「コメットちゃんにしか心を開かないあのマモちゃんがねー……」
「いや、俺に心開いてるとは思えないんですけど」
「それでも、あの子が他人に感情を向けたって時点で驚くべきことよ」
感慨深げに頷くアマナ教授は、一つ大きく頷くとこちらに向かい合った。
「マモちゃん、根はいい子なんだけど口下手だしあの目つきでしょ? 殆どの人があの態度に耐えられなくて避けるようになっちゃって、普通にお話できるのは何人かしかいないの」
「まぁ、怖いですもんね。それとは別に不機嫌がすぐ顔には出てますけど」
「あのね、ヴァルナくん。出会って一日二日でマモちゃんのご機嫌の変化を感じ取れることもだけど、そもそもマモちゃん感情の起伏が少ない子なんだってば」
そうかなぁ。あれ絶対これまで目つきでごり押ししてたから困らなかったのに、ごり押し通じない人が出てきて思い通りに行かずにむくれてる感じだと思うけど。
そういうと、駄目だコイツみたいな感じで首を横に振られた。
「それ、たぶんコメットちゃんも知らないマモちゃんの側面だから。マモちゃん、コメットちゃん相手だとワンコちゃんみたいに素直だから」
「俺に対するイメージでは威嚇する子猫でしたけど」
「……どうなってるの、ノノちゃん? 全っ然イメージが共有できないんだけど?」
「これがヴァルナくんワールドなんです。全く自覚がないままに相手を自分のペースに巻き込むので、マモリちゃんもこの揺さぶりに乗せられてしまったんでしょうねー。アマナちゃんも既にワールドに巻き込まれてますよ?」
勝手に人に変なワールドを付与しないで欲しい。
他人の精神を操る装置じゃないんだし。
「と、とにかく……マモちゃんが無茶しないようお願いね? あの子、子どもの頃にお父さんをイッペタム盆で亡くしてるの。その仇の姿をやっと拝めたんだから、放っておいたら必ず無茶するわ」
「そのための俺ですよ」
そう言うと、またアマナ教授は驚いた。
「知ってたの? 彼女の事情」
「いえ、会議室で目を見たときから危なっかしいと思ってたんで」
「……ノノちゃん、この子絶対なんか科学で解明できない変な力に目覚めてるよ。普通あの目を見ても怖いなーとしか思わないのに何で感情を読み取ってるの?」
パラベラムも失礼だったけど、この人も大概失礼だな。
さり気にマモリに対しても失礼だし。
うちの騎士団で超能力的な何かに目覚めているのは三馬鹿先輩の一角、霊感先輩だけだから。あの人オークと全く関係ない迷宮入り殺人事件三回くらい解決してるから。
◆ ◇
俺にとっての父親は幼い頃はそりゃ多少は頼りにしていたが、ある程度成長してからはそこまで尊敬の対象という訳ではなかった。ぶっちゃけ士官学校入学の件を頭から信じてなかった光景を見せつけられて以来、殆ど敬意を覚えていない。
逆に父親の影響が大きく出た人間といえば、真っ先に思いつくのはカルメだ。父への強い羨望があいつの根底にはある。しかしカルメの父は存命だった筈だし、母親は既に亡くしているようで、顔も知らないらしい。
では、俺に語ろうとしなかったマモリの父はどうだったのだろう。
口ぶりからするとかなり慕っていたように思えたが、それ以上は語ってくれなかった。というか追い出された。そして追い出された原因でもあるコメットさんは、その話に申し訳なさを感じて協力してくれるようだ。
「私も面識はないんですよね。というかそもそもこの村に転職してきてから二年くらいしか経ってませんし。でも自慢話なら何度か聞いたことがありますよ? なんでも文武両道才色兼備のスーパーマンだったとか」
「それっぽいことは言ってましたね。絵、剣、詩も書けるし釣りもできるとか」
「真偽の程は分からなかったけど、ミケランジェロ代表とは友達だったみたいだし、代表も惜しい人を亡くしたっていつか言ってましたよ。マモリちゃんの絵はお父様譲りなんですって」
「ちなみに、お母さんが病に臥せって隣の村で療養してるっていうのは?」
「そんなことまで調べてるんだ……うん、本当。父君が亡くなってから元気をなくして、今はそうなの」
状況証拠だけだが、やはり彼女の復讐の原動力は父親のようだ。
理由は不明だが彼はイッペタム盆で行方知れずとなり、恐らく一緒に盆へ入ったマモリだけが生き残った。だから墓にあったマモリの名は消されたのだろう。以降、尊敬していた父の命を奪い、結果的に母が病に臥せる原因となった憎き怪魚を討って父の名誉を守るため、彼女は奮起したのだろう。
ただ、そうすると少しばかり気になる事はあるのだが。
「聞いた話じゃかなり立派な人だったんですよね、父親。タキジロウさんだっけ……うーん、そんな立派な人が何でイッペタム盆なんてあからさまに危ない場所に子供連れて入ったんだろう。知らなかったとは思えないんだけど……」
そこが唯一解せないところなのだ。
本当に立派な人ならば絶対に子供を危険に晒すような真似はしない。地元の人間に畏れられ、実際に行方不明者も出ていた場所だ。伝説を信じていなくとも、普通は行かないだろう。よほどの釣り好きだったのなら分からないでもないが、そうなると子供を一緒に連れていくのが解せない。
一度名前を彫られ、後で消されたということはマモリは暫くは行方知れずになったということだ。子供を一人残して逝ったのは何故なのか。自分に当てはめて考えるならば――己が身を切らねば子を逃がせないほど追い詰められた瞬間、だろうか。
所詮は聞いた話を基にした想像でしかないか、と思い直し、いったんその考えは切り捨てる。真実と事実は違う形をしていることだってある。本当のことは復讐に燃える彼女にしか分かり得ないことだ。
「すいません、こんな話聞いちゃって」
「いえいえ。むしろ王国最強の騎士様が
「……あー、そうかまだ聞いてなかったんですね。実は……」
マモリの事を探りに来た記者パラベラムの話をすると、コメットさんは目に見えて憤慨した。
「なんですかそれ! マモリちゃんを飯の種みたいに!!」
「それが仕事と言われれば否定するのは難しいですけど、要注意ですね」
「取材料も使用料も払わずそんな記事を書こうなんて言語道断!! 取れるものはキッチリ搾り取ってあげますからね!!」
「怒る理由そっちかーい!?」
その後、ミケ老から解放されて這う這うの体だったパラベラムにマシンガントークウーマンの更なる追い打ちがかけられたというのは、後に精神がズタボロになった彼を保護したオルレアさんから翌日聞いた話であった。
◆ ◇
一方その頃、イッペタム盆派遣部隊として茂みの中に足場を作っていた工作班は、なんとか移動用の小さな足場を形にしつつあった。
「ただでさえ地盤が緩いんだ! しっかり杭打ち込めよ~ッ!!」
「うっす!!」
「班長、そろそろ道を横に逸らさないとイッペタム盆一直線ですぜ!!」
「草は刈っていいんだっけ?」
「刈った後に出たモンは綺麗に回収して全部足場に使う! 水の中に落としたらテメェらから生餌にしてやるから覚悟しとけッ!!」
まずイッペタム盆まで徒歩で移動できる足場を作り、それから怪魚対策の道具を設置するというのが騎士団の現在の目標だ。プレセペ村からもアドバイザーが来ており、刈った草で道具などを置ける足場を作成していた。
これについて正直ネイチャーデイでは反対意見も起きたようだが、オーク問題もあり長い目で見れば必要とのことで結局は騎士団の意見が通り、それを基に地元民が細かい粗を補強して計画実行と相成った。
そんな中、一人別の作業に追われるキャリバンは紙とペンを握ってファミリヤとお喋りしていた。
「ふんふん、通路がこう、と。こりゃオークの作った小さな村だな」
『チクショー共ガチョーシ二乗ッテ生意気ニモ村作リカヨォ』
『俺等モチクショーナンジャネ~ノ?』
『アンチクショー共ト一緒ニスンナコンチクショーガ!』
「こらこら喧嘩しなさんな。それで数は?」
キャリバンが書いているのは、盆の中心部をファミリヤに念入りに監視させた結果を元にした配置図である。オークはあのそこそこ広い中心部で釣りをしながら生活しているらしく、そのために身を隠す草を残しつつも道を作ることでちょっとした村設計をしているようだ。
周辺に集まった種類も色もとりどりの鳥たちに囲まれながら作業するキャリバンの姿は周囲の注目を引いているが、これだけの数のファミリヤと問題なく会話できるのは流石ファミリヤ使いといった所だろう。なお、今回は危なすぎてヴィーラは連れてきていなかった。
『オオモノノ数ハ二十。コドモハ茂ミニ隠レテッカラワカンネ。近付イタラ釣リ竿デ釣ロートシヤガッタ』
あのオーク共はどうやら犠牲者の持っていた釣り竿を拾って自分たちで使っているようだ。糸が切れたら細い蔓草や流れ着いた網の紐をほどいて代用し、針は釣り針に着想を得たのかなんと木材を加工して不細工ながらそれっぽいものを作っているという。
ただ、使い方としては釣り竿でおびき寄せた魚が上がっていたところを直でキャッチ、その後ダッシュで撤退という形のようだ。あの狭い空間で、水に捕食者がいるのによくやるものである。ある意味人間より器用だ。必要に迫られればそんな環境適応までするのかよ、とキャリバンは内心毒づく。つくづくオークは、生きることに関してしぶとい。
『ケッコー育ッタオークモイルガ、ヤッパ大量繁殖スルニャ狭クテ餌ガ足ンネーミタイダ』
『シカモコイツラ、ドーモボスオークッポイノガ見当タンネーンダヨナ。魚ハ牝ダケ多メデ後ハホボビョードー
「ノノカさんが奇声を上げて喜びそうな謎だな。かなり変則的な群れだぞ……」
と、そこにベビオンが走りながらやってくる。
「おーいキャリバンとファミリア達! これから水面に怪魚をおびき寄せるから『目』になれってよ!」
「ん、了解! みんな話は聞いたな?」
ファミリヤ達が頷くと同時に一斉にバサバサと飛び立っていく。『目』になれとはすなわち多角的に視認して情報を少しでも多く仕入れるということだ。キャリバンも紙とペンを袋に仕舞い、立ち上がって様子見に行く。
足場から騎士団員が並び、浮きがついた大きな生魚が三つ、それぞれバラバラの場所に放り投げられる。餌には釣り糸が括りつけられているが、釣るのがメインではないので竿はない。巨大魚が何匹いるのか不明なためにとられた措置だ。一匹しかいないなら順番に食べる筈である。
と、一つ目の餌が沈んだ。
だが餌に繋がった釣り糸の動きが思ったより緩い。
地元民が引っ張られて落ちないよう慎重に足場を選んで糸を引いていくと、大きな魚が食いついているのが目に入った。
「でかい! けど、こりゃ魚影からして二メートルくらいだな。目撃証言のとは違うぞ」
「釣りあげられるか?」
指揮官である工作班長のロンビードが協力者の漁師に聞くと、難しい顔をされる。
「無理じゃねえですが、こりゃ長期戦ですぜ! 一時間はかけてゆっくり疲弊させないと!」
「巨大魚がその魚に食いつくこともあるかもしれん。よく様子を見て、その兆候があるなら釣り上げは諦めよう」
と、別の餌にも魚が食いついた。
ただ、そちらは1メートルもない在来の魚なのが魚影から見て取れた。ハズレである。最後の一つも二つ目と同じ。巨大魚は現れなかった。
「どうします?」
「オーク喰ってたんだよな。しかも在来種の魚が普通にいるってことは、もしかして大物を狙って喰ってる……? おい、そっちに食いついた大魚はどうなってる!?」
「どうもナマズっぽいです! 初確認!」
「もっとデカイ餌じゃないとダメか、或いはあの魚がご同輩なのか……ん?」
そこでロンビード班長は、漁師相手に健闘する大型魚を遠くから見つめるブヒブヒ煩い生物を発見する。オークである。水面近くまで見物し、あわよくば横取り出来ないか考えているようだ。しばしそれを見つめたロンビード班長は、おもむろに持ってきた備品の中から荒縄を取り出し、先端を輪状に括って隣の団員に渡す。そして親指をグッと立ててイイ笑顔をする。
「縄であいつの首取って湖に引きずりおろせ」
「流石班長、外道の極み! ……って無理でしょ!! ここからオークの所まで二十メートル以上あるじゃないっすか!!」
「いいんだよ、本命はこっちだから」
ニタァと悪い顔で頬を吊り上げる班長の手には、クジラなどを仕留めるために使われるロープに繋がれた銛があった。作戦を悟った部下――ディンゴは納得する。彼も部下歴が長いので、こういうときは阿吽の呼吸だ。
なるだけオークによく見えるよう派手にロープをぐるぐる回す。
「騎士団かくし芸大会開催! 一番ディンゴ、縄でオークの首を捕まえます!!」
オークが何事かと訝し気な視線を送ってくる中、ディンゴの放った投げ縄は思いのほか鋭い動きで飛来し――ギリギリオークに届かない水面にぽちゃんと落ちた。オークたちが心なしか馬鹿にしたような顔でブギブギ鳴く。
その刹那、恐ろしい速度で飛来した銛がオークの鳩尾を正確に刺し貫いた。
「二番ロンビード、ディンゴに気を逸らしてもらってこの一撃よッ!!」
いくらオークの皮膚が分厚いとはいえ、二十メートル先に到達する程の槍の投擲を、しかも守る筋肉も骨もない鳩尾に正確に叩きつけられれば流石に深く突き刺さる。しかもクジラ用なので当然刃には返しがついており、刺さると同時にロンビード班長は他数名と共に一斉にロープを引いた。
急所に一撃を受けた衝撃でびくりと痙攣したオークは抵抗らしい抵抗も出来ず銛に引かれて転倒し、そのまま力づくで湖に引きずりこまれる。
「ブギャッ、ブギイイイイィィィィィッ!?」
「オラもっと必死になって足掻けやぁッ!! 急がないと馬鹿でかい魚の餌にされちまうぞアハハハハハハハッ!! イーッハハハハハハハハァッ!!」
(((うわぁ……)))
文句のつけようがない外道である。
相手が的なら何をしても構わないと言うのだろうか――と思ったが、そういえば相手はオークだしまぁいいかと納得するのが王立外来危険種対策騎士団クオリティである。中には班長と一緒に囃し立ててるメンバーもいる始末だ。
オークが若干出血していて血が水に溶けるのは少々問題なのだが、一匹で、しかも銛が貫通していないのならギリギリ許容範囲内という所まで計算している。命中させたのは年の功だ。
流石はルガー団長と共に危ない綱渡りをしてきた超ベテラン騎士。
この男も根本的な部分ではあのジジイと同類であった。
ただ、手段がどうあれ効果は
オークが水面に落ちてそう間を置かず、巨大な魚影が浮上してくる。膨大な水を押し出して水面に大口を開けて現れた見上げるほどの巨躯が、銛に引かれたオークの体を紙屑でも飛ばすように跳ね上げ、そして口に咥えた。
「でっ――」
「これが、ヤヤテツェプ……!!」
「銛に繋がったロープから離れろ!!引き摺り込まれるぞッ!!」
時間にして僅か数秒。
オークは悲鳴を上げることさえ出来ず水面に引き摺り込まれ、遅れて大質量が水に沈んだことで特大の波紋と水柱がドッバァァァァンッ!! と激しい水音を響かせた。オークに刺さった銛ごと引き摺られ、巻かれていた余りのロープが目まぐるしい速度で水中に引きずり込まれる。最後に固定の為にロープが結ばれていた簡易手すりがバチンと吹っ飛ばされて水中に沈み、やっと現場に沈黙が訪れる。
「……これ、どうやって仕留めろってんだよ?」
思わず漏らしたベビオンに返事を寄越す先輩はいなかった。
ただ、得られた情報は予想以上に多かった。その一つとして、複数のファミリヤのうちヤヤテツェプの背面を見た鳥たちが、一つの重要な証言をする。
ヤヤテツェプの腹とも背とも知れない場所に、黒い棒のようなものが深々と突き刺さっていた、と。
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