第169話 第一回・外対騎士団補足説明会

 どうも皆さま。

 王立外来危険種対策騎士団で広報を担当させていただいている、空戦型と申します。


 今回はストーリーは進めず、なろう投稿時に読者さんから質問があった件について、返答が長くなったものを掲載したいと思います。

 内容は基本的に本筋と大きなかかわりがないために本編で省いていたものなので、さほど重要な内容という訳ではありません。ご興味のある方だけどうぞ。



① 裏伝について


 「王国攻性抜剣術・裏伝」について、本編で余り触れる予定がなさそうなので補足説明をさせて頂きます。


 裏伝は本編で「様々な理由から十二つの奥義に含まれない技術」という風に説明をしていますが、基本的には八咫烏を除く現代の十一の奥義よりは古い技術、現実で言えば古武術に近いニュアンスのものでしょうか。


 王国攻性抜剣術は、昔はもっと違う名前で、奥義というのも現在のものとだいぶあり方が違いました。足技手技とばらばらな技術を学び、それを組み合わせることで一つの完成された剣とする、といった感じです。

 しかしこのやり方は細やかな動きまで学べる代わりに非常に教える効率が悪い剣術でした。ゆえに時代が進むにつれて戦いであまり使わない技術が省かれたり、一つの技術に別の複数の技術を組み合わせた「型」が誕生したり、別の国の優れた剣術を取り込んだりと現代に合わせて洗練されていきます。

 こうして生まれたのが現在の王国攻性抜剣術。裏伝も実際には奥義の中に何らかの形で取り込まれています。つまり抜剣術の奥義とはかつてあった総合的な技術を組み合わせて極限まで絞りこんだもので、裏伝はその一要素としてかつては学ばれていた通常技術だったものです。


 で、そのそぎ落とされた伝承の中から「これはまだ実戦で使える」「これを覚えれば奥義をさらに極められる」と後の時代の剣術士たちがピックアップして体技として再生されたのが現在の裏伝です。師範代クラスでないとそうそう知っているものではなく、習得は趣味に近い域ですね。


 ヴァルナくんは奥義の習得を終えてちょっと暇していたときに、学校図書館の剣術指南書にて裏伝の存在を知り、独学で学びつつも時々裏伝拾得者に教わってマスターしました。

 ちなみにこの裏伝拾得者というのはアストラエを通じて知り合った執事長のセバス=チャンさんです。実は抜剣術の元となった流派はのちに体術として派生して王国護身蹴拳術を生み出しており、セバス=チャンさんはそれを習得する過程で裏伝を学んでいたのですね。

 余談ですが、セバス=チャンさんはそれ以外の格闘技も数多学んでおり、ヴァルナ曰く「ガード越しの一撃で内臓が揺れるほどの衝撃が来る」だそうです。



② 王立外来危険種対策騎士団は「騎士団」である必要があるのか


 仮に豚狩り騎士団が騎士団でなかったらどうなるか、ざっと思いつく限り下記のような問題が予想されます。


 仮に騎士団ではなくなったとして、そうしたら騎士団だから借りることが出来ている騎道車は使えないので移動は全部徒歩か馬です。かなりのお金と時間がかかります。

 各地にある騎士団の基地から物資の支給も受けられなくなります。王国法では剣を持つのは騎士だけなので剣以外の武器を使うか法整備が必要です。ファミリヤ使いのリンダ教授の機嫌次第ではファミリヤも使えなくなるので情報伝達が一気に鈍足になるかもしれません。


 雇われる人は全員戦闘訓練も受けていない人になる事が予想されるので、オーク狩りの犠牲者は増えるでしょう。元騎士団を中心に統率を取るにしても、育成時間と数が圧倒的に足りません。組織に対する信頼の不足から現地人との意思疎通が劣悪になり、仕事の達成が難しくなるかもしれません。もちろんこれは一時的な影響なので時間が解決するかもしれません。ただ、その間の時間で信頼と人命が失われます。


 オーク狩りは儲からないので大陸から冒険者がやってくる確率は低いでしょう。国がお金を積めば来るかもしれませんが、その冒険者の素行が悪いと国内の王権に対する不満が増えるかもしれないので、腕っぷしのある監視役が相応数、全ての部隊に必要になります。今の第二部隊はこれに近い状況ですが、果たして騎士団ではなくなったときに人手が足りるのかは不明です。


 組織の規模拡大も必要です。騎士団の潤沢な移動手段があるからオーク狩りは成立していましたが、王国全土を守ろうとするとかなりの規模の組織が必要です。コンパクト化するなら当然数の穴を埋めるための道具などに予算が必要です。維持費もかかります。

 騎士団より下の組織になるのでまた聖靴派の嫌がらせを受けるか、買収されるかもしれません。もし議会が無能な指揮官を送り付けてきたら現場も困ります。本当に隅から隅まで統率が取るのは難しく、誰がそれを是正するのかという問題も出ます。王を最高指揮官に据えるとしたら、それはもう騎士団と同じですし。


 死んだ隊員の遺族の保障は今より増加するでしょう。そもそも議会が予算を握っている中、本当にこの組織に平民を見下す議会が潤沢な資金を払ってくれるのかという疑問もあり、スポンサーがどれだけつくかも不明です。

 また、国内に騎士団以外の武装勢力が突然現れれば、彼らは今の騎士団ほど規律ある人たちではなくなる可能性が高いです。先ほど冒険者の話で出たように、彼らの素行が悪いと国の沽券にも係わります。面接や調査である程度ふるいにかけたとして、騎士団に次ぐ二番目の勢力というバックを手に入れた人の心は簡単に変わるかもしれません。最悪の場合、騎士団に反旗を翻して国内勢力の潰し合い、なんてこともあるかもしれません。逆に騎士団の傀儡となれば、せっかく特権階級と平民の差が埋まってきていたのにまた離れます。政治的にこれは得なのか、考える余地があります。


 これだけ膨大なリスク、時間、お金、解決するための法整備と予算を出してまで、本当に今の王立外来危険種対策騎士団を解散させて新たな組織にするべきかどうか……オーク被害がいきなり拡大し、税金は更に搾り取られて痛い目を見るのは国民です。王族は信頼を損なうかもしれません。


 今の豚狩り騎士団はこれだけのハードルを低予算で処理しています。こんなに機能的な組織、無くす方が国としては勿体ない選択です。

 だからルガー団長はこの機能を維持したまま、議会連中の聖靴派を弱らせ、予算を増やして組織を健全化しようとしています。その成果はゆっくりとですが確実に出ています。


 こんな感じで豚狩り騎士団が騎士団でなくなる、ないし豚狩り騎士団の存在否定とは、思いのほか問題が多いです。こんな組織が生まれること自体がおかしいと言われると私も強く反論は出来ませんが、幸か不幸かこの世界では出来てしまいました。


私は王国民でも王国の政治家でもないのでこの問題に答えを出すことはしません。犠牲を払って、更にルガー団長の思惑を無視してでもすべきだというのであれば、すべきことなのかもしれません。


 ちなみにこれらの問題は莫大なお金をかければ財政すっからかんという問題を無視すればある程度解決可能だと思います。世の中金ですよ、金。それがないからヴァルナくんたちは困ってるのですが……。



③騎士の妾


 王国騎士は側室や愛人を持てるのか、という質問が来たので説明をさせていただきます。


 王国の文化としては、昔はともかく今は一夫一妻が世間の主流です。特権階級もそうですし、法律も一夫一妻を前提としています。王家の側室は例外です。(余談ですが、現国王イヴァールト六世は側室を持ちません。理由はメヴィナ王妃が結構嫉妬深いからです。※『第七章 終着点に待つものです』参照)

 しかし、特権階級制度が出来る前は貴族は側室持ち放題だったため、妾という考え方は依然として残っています。


 ただ、法律上認められた行為とは言い難いので、養うだけの金銭や正妻との合意、世間体などハードルは高いです。それでも実際に金銭に余裕のある家の騎士には妾を持っている人もいます。


 特権階級側の認識としては、今時妾を持っているのは正妻との間で世継ぎに恵まれなかったか、相当女癖が悪くて平民にも見境なく手を出すかの二択が殆どの割合を占めます。

 前者については、今や王国の特権階級は血統より金が物を言うが故に浸透した面もあるかもしれません。


 妻がいないから幾らでも女に手を出すとか、出したあとに色々吹聴しないよう金と権力で丸め込もう、なんてタイプもいますが、特権階級間でもそういう品のないことはやめようという認識が浸透しているので、やらかせば個人的にも社会的にも相応の報いがあるでしょう。


 ちなみに王国はゆるく繋がった多民族国家なので、王の統治の影響が少ない一部地域では民族独自の夫妻制度を維持しています。そういった場所では複数の正妻を持つことも可能です。

 ただし、自己責任でですが。



 今回の補足説明は以上とさせていただきます。

 次章投稿は今月21日からです。お楽しみに!

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