第62話 雪の中の死闘です
熊と聞いて思い浮かぶのはなんだろう。
可愛らしいテディベア、森の童謡、山に住む大型動物、死んだふり。思い浮かぶ熊のイメージは数多存在するが、騎士団の人間としてその特徴的な部分を語らせてもらうのならば、敢えて言おう。
熊といえば、「準魔物レベル」の戦闘能力を持った非常に危険な動物である。
その体躯の大きさによっては俺たちが戦う成人オークの肉さえ容易に抉り飛ばすこの化け物は、事実、王国内でも数少ないオークとまともに戦える野生生物だ。尤もそれはあくまで個の強さであり、徒党を組むオークが相手では厳しいものがあるだろう。
それでも、王国でもそれほど多くはない熊の生息地にオークが巣を作る事はほぼない。つまるところ、この熊という生物は外来種を除けばヒエラルキーに於いて限りなく上位に存在するのである。
熊――熊か。やべぇ、珍しく戦った事ねぇ。
内心の冷や汗が止まらねぇ。
狼や猪辺りとは狩りやら任務やらで戦ったことがあるので動きは大体分かるのだが、二足歩行も出来る熊のリーチと戦法は流石に知らない。というか冷静に考えたら生身で熊と戦おうとかそもそもにおいて正気を疑う愚行である。
しかも目の前にいる白いのは恐らく素手で檻とか粉砕しちゃう限りなくデンジャーな熊である。体のあちこちにある赤いのは、もしかしたら罠で負った怪我の傷痕なのかもしれない。
「おいピッケルト、冬の時期の熊は何年も出てなかったんじゃなかったか?」
「俺のせいじゃねーし出てきちまったもんはしょうがねえだろ! 取り合えず目は逸らすな。野生生物は牽制が基本。背中を見せずに真正面を見据えてる限りは、そうそう襲っては来ない筈――」
「グルルルルル……ルルルルルル……ッ!!」
「こっち近づいて来てんぞ。姿勢低いし完全に襲う気じゃね?」
「いやいやきっと見間違いだって目の錯覚で近づいてるように見えるだけ……じゃないね。明らかにこっちに近づいてるね。すまん、現実を直視したくない。おうち帰っていい?」
「背中見せたら追ってくるんじゃなかったっけ?」
「……魔除けの鈴よ、我に力を!!」
顔面蒼白のピッケルトが申し訳程度にクマ避けの鈴をカランカランと鳴らしてみるが、そもそもさっきの作業中にもカラカラ音を立てていたのに熊がこの距離にいる時点で無意味の極みである。当然ながら熊にはスルーされた。
――さて、雪山に慣れている上に足の速い熊を相手に追いかけっこをしても負けるのはほぼ確定なので一応ながら二人で熊マニュアルに従って少しずつ視界から抜けようとするが、肝心の白い熊はマニュアル通りにいくものかとばかりにこちらより速いペースで間合いを詰めてくる。
四メートル級の白塗りの巨躯から発せられる、強烈な闘争本能の臭い。
立ち上がる前から既に2メートル近い体に迫られる威圧感以上に、理由の知れない苛烈な敵意が肌を刺す。あの白い熊がこちらを襲う覚悟を後押ししたのが何なのかはとんと知れないが、逃げるという選択肢は消した方がよさそうだ。
となると、騎士として出来ることはと言えば。
「ピッケルト。俺があの熊を引き付けるから、合図したら先に村に帰れ」
「なっ、おま――」
「俺は誰にも負けないが、お前を守れなかったら王国最強の名に傷がつく。いいから騎士に本懐を遂げさせろ」
短い間だが、ピッケルトがそれなりに人がいいことぐらいは知っている。なので俺が囮になると言い出せば小言の一つ二つ、或いは自分も戦うなんて言い出すかもしれないとは思っていた。
なら、そんなことは口にすらさせずに戦う。
騎士の本懐、それすなわち力なき市民の為の剣となること。
ここで判断を躊躇うようなら端から騎士など目指さない。
逃げられんなら仕留めるまでだ。尚も向かってくるのなら、俺の二つ名が「首狩り」である理由を教えてやる。
「……すぐに戻って援軍連れてくるから、お願いだから死ぬなよ。これで死んだら俺が殺したみたいで夢見が悪くなる」
既に及び腰で撤退準備を始めつつ、ピッケルトが苦々しげに呟く。内心では待ってましたと逃げたいのだろうが、ここでそんなセリフを吐くのは彼も男の子に生まれたプライドがあるからだろう。そんないい加減な予測をしつつ、俺はふと思い出したことを伝える。
「騎士団に戻るなら回収班に声かけといてくれ。ヴァルナがでかい熊を仕留めたから人手がいるってな」
「ちっ、雪合戦ではセコい手使ったくせに格好付けすぎだろ……」
悪態だか誉め言葉だか分からない台詞を聞きながらこっそり作った雪玉を背中に隠した俺はピッケルトに目で合図し、手にスナップを効かせてそれを思いっきり白い熊に投げつけた。
雪玉の存在に反応しきれなかった熊の頭に雪玉が命中し、雪の中にこっそり仕込んだ騎士団の味方の小石の威力が熊を怯ませる。
「グウッ!?」
「今だ、行け!!」
ピッケルトは雪を掻き分け、熊から見えない俺の背中の後ろのラインで逃走を開始。逆に熊は小石入りの雪玉によって完全に俺に注意力を集中させたため、ピッケルトの逃走には目もくれていない。
やっぱり小石は神アイテムである。松ぼっくりと違って年がら年中どこでも手に入る上に再利用もできるなんて話が上手すぎて詐欺を疑いそうだ。この話を二人の友人にしたら「ヴァルナくん……脳がっ」「現代の医学では治らない病気になってしまったか」と失礼千万な事を言われたが。
雪が降り積もる山の斜面で相対する、騎士と白い熊。
僅かな沈黙、静かな殺意の衝突。
そして――柄を握った手に力を籠め、抜剣。
がつっ。
「……っ、……?」
一瞬何が起きたのか分からずもう一度抜剣。がつっ、と何かがつっかえているように全く刃が抜けない。二度、三度と同じ動きを繰り返し、とうとう俺は熊から目を離して何故剣が抜けないのか目視で確かめた。
……別段、何かが引っ掛かっているようには見えない。
「……あっれぇ?」
更に力を籠めるが鞘から剣が出てこず、ここに至って俺はものすごく焦った。そんなアホな、この前こそ鍛冶屋に見てもらって問題なかったのにいったい何が起きているのか。
焦って剣を抜こうとガチガチする俺。
そんな俺の滑稽な行動を威嚇と勘違いしたのか歩幅を縮めて警戒する熊。
勘違いしてくれているのはありがたいが、剣の方が全く抜けない。
「待てよ、そういえば今日の朝も騎道車の出入り口の金具が凍って張り付いてたよな。ということはまさか――凍ってる?」
我が愛剣は、どうやら吹雪に晒されたせいで鞘と合体してしまったらしい。
「………」
「………」
しばしの気まずい沈黙ののち、俺はベルトから剣を鞘ごと引き抜いて居合風に構え、叫ぶ。
「王立外来危険種対策騎士団、騎士ヴァルナ!! 鞘は気にせずいざ参るッ!!」
「グ、グルルル……」
全身を焼き尽くす猛烈な羞恥の情で全身から火を噴きそうなほどの熱気を放った俺は、もはやヤケクソ気味に名乗りを上げて鞘のまま戦うことにした。熊も若干「お、おう」みたいなリアクションをしているのを見ているとこのまま雪に埋まって死にたくなる。
ピッケルトを先に逃がして良かった。
心の底から本当に良かった。
主に俺の羞恥心が爆発寸前で思い留まったというただ一点に於いて。
◇ ◆
恥ずかしかろうが何だろうが、命の危機とはそう簡単に遠退いてはくれない。
低い姿勢で唸りながら近づいて来た熊が深く屈む。
肉食獣特有の、獲物に飛び掛かる寸前の構え。
瞬間、巨体が跳躍して眼前に迫る。
「ガァァァッ!!」
押し倒して牙で噛み砕くつもりだったらしいが、こちらも体を『転倒すれすれまで』沈め、足の瞬発力を爆発させて加速する。熊の襲撃より一瞬だけ早く、すれ違うように攻撃を躱してすぐさま向かい合う。
裏伝八の型、『
熊の突進はそのまま俺の後ろにあった針葉樹に衝突し、ズゥンッ! と腹の底に響く衝撃と共に木がくの字に折れ曲がった。体当たりだけでこの威力か、と戦慄する。万が一生身に受ければヴァルナの体はばらばらに千切れ飛んでいたかもしれない。
流石に着地後は雪のせいですぐに反撃に移れないが、出来ないのなら受け身の戦法に切り替えればいいだけだ。攻撃を躱されたことに気付いた熊が反撃の腕を振り上げる。ちょっとした木の幹ほどはありそうな剛腕が振るわれ、鋭く伸びた爪が曲線を描いて襲い来る。
「グォオオッ!!」
「させるかぁッ!!」
雪がなければ躱せるが、そうはいかないために居合の速度で鞘付きの剣を振るう。速度は軽鴨のように、タイミングよく熊の剛腕に剣の腹をぶつけることで威力を逸らす。水薙の受け流しと軽鴨の居合を組み合わせた強引な弾きによって軌道が逸れた爪が顔面の近くをグオオオンッ!! と風を斬って通り過ぎる。
今の一撃、逸らせたはいいものの予想以上の一撃の重さに手が軽く痺れた。鞘の分だけ重量が増していたのが幸いしたかもしれない。生半可な反撃ではガードごと叩き潰される。
この巨大熊、いったい何を食べたらここまで体が肥大化するのだろう。熊にしては異常な膂力と体格、そして筋力。ピッケルトに話を聞いたときから予想していたが、この熊は恐らく穴持たずだ。
「さしずめイスバーグの山の主……! オーク数頭ぐらいなら軽く蹴散らせるか!? テイム出来りゃあいい戦力だが、素直に従ってくれる面はしてないよなッ!」
「ガァアアアアアアッ!!」
熊の剛腕が振るわれる。直線からの袈裟懸け、フェイント混じりの突進を再び『
もしかすると騎士団に入ってから最大の危機かもしれないが、もし仕留める事が出来れば今回の白い未確認生物の騒動は終息。おまけに熊鍋が食べられる寸法だ。……決して最後の一つを求めている訳ではない。あくまで一般論だから。
「間合いを取られてるから居合じゃ無理か。足場もこれだし、上手く立ち回る方法は……」
一瞬木に登るという方法を考えたが、熊は木登りもできるかと思い却下する。だが、木を使えないかと考えた俺の視界にあるものが映る。少々距離は離れているが、確かにアレを使えればどうにかなるかもしれない。
問題は、その場所にどう白い熊を誘導するかにある。
(あんなに目立つと思惑がバレないか心配になるな。いや、確か多くの動物は色を見分ける能力がないってノノカさんがいつか言ってたような……賭けてみるか)
現時点ではまだ仕込みが足りない。もっと跳ね回り、もっと奴に俺という存在を見せつけなければ、確実な勝機は訪れない。雪に潜む「俺のたったひとりの仲間」の力を借りる為、俺は声を張り上げる。
「そっちのホームグラウンドで戦ってやってるのに俺に一発も当てられないのか、白熊もどき!!」
「……ゥルルルルルルルッ!!」
俺の大声を威嚇、或いは挑発と取った白い熊の血走った視線がこちらを突き刺す。その熊相手に俺は手招きして挑発的な笑みを浮かべた。熊に人間の表情が判別できるとは思っていないが、とにかく引き付ける。
「ガウウウウッ!!」
「あらよっと!! ハズレ!!」
「グアアアアッ!!」
「ほいさ、ハズレの雪玉ドーン!!」
「ゴアッ!? ……グガアアアアアアアアアアアッ!!!」
「ほーれ、クマさんこちら、手の鳴る方へ!!」
ぴょんぴょん跳躍して熊の攻撃を躱しながら隙を見て雪玉をぶつけ、怒りで直線的になった所を更に避けて、とにかく周囲を縦横無尽に駆け回る。熊の移動と俺の着地と跳躍によって白いキャンバスのようだった雪は乱れに乱れ、もはぐちゃぐちゃだ。
なお、からかって遊んでいるように見えるかもしれないが、一発でも攻撃を防ぎ損ねるとあわや即死の大惨事なので全神経を集中させている。
さて、そろそろいい頃合いだろう。
これだけ雪が散らばればどこだったか思い出せまい。
再度、雪の上を跳躍して狙いの場所を目指す、その刹那に事は起きた。
それは、冷静に考えれば起こるべくして起こった事故なのだろう。雪に慣れてない騎士が、申し訳程度の雪山装備で跳ねまわっていればいずれそうもなる。まして熊と戦うという異常事態の前で、一度も足を雪に取られて転ばない方が難しいのだ。
「ぅおッ!? やっば……はぶうっ!!」
雪に上手く着地できなかった俺は、跳躍の勢いを相殺しきれず顔面から雪にダイブした。咄嗟に雪の下の地面を手で押して強引に立ち上がるが、その隙は――背中を一瞬見せてしまった隙は、熊に見せてしまうにはあまりにも致命的な隙だった。
「しまっ――!!」
「グアアアアアアアアアアアッ!!」
眼前に迫る白い怪物の狂爪。空を切り裂いて振り下ろされるそれは、紛れもない俺に対する死刑宣告。
「――とまぁ、転んだフリは俺の常套手段だったりするんだなぁ?」
獣であるが故に、野性的な直感で今という隙を追ってしまった。
あまりにも致命的な隙が、意図的に用意されていたと知らず。
もしも相手が同じ王立外来危険種対策騎士団の人間なら、この状況では絶対に俺に近づくような迂闊な事はしないだろう。
理由は二つ。
一つ――足場の整備されていない自然環境の中で戦っている俺たちの健脚は、決して大事な時にしょうもない転倒をしない。転んだように見せかけておいて、俺は既に熊の方に両足を踏ん張って立ち構えていた。
久しぶりの、疲労を度外視した全力の剣だ。鞘から抜けていれば別の方法もあったが――いや、結果が全てか。なればこそ、この一撃は完璧に決めてやる。
腹の底から息を吸い込み、貯めた酸素を全身に循環させるように全身に力を溜め込んだ俺は、その力を剣技に乗せ、まんまとこの場所におびき寄せられた獲物に最高の一撃を放つ。
「死ぬほど痛いから、前足がもげないように気をつけろよ?――五の型、『
だんッ!!と地面を割る勢いで踏み締め、両手で振り上げた剣が稲妻のような速度で垂直に叩き降ろされた。鞘に納められた剣先は熊の手の描く軌道とぴったり重なり、ダガンッ!! と骨肉を砕く轟音を立てて狂爪を地面に叩きつけた。
遅れたが、ここで騎士団の人間なら仕掛けにこない二つ目の理由。
それは――熊と俺の丁度横に、罠を仕掛けた印である紐が括りつけられた木がある。つまり、この場所は対獣用の括り罠が設置された場所であり、そして俺が熊の手を叩き降ろしたその一点こそがまさに、だ。
次の瞬間、バチンッ!! と何かが弾けるような音と共に、白い熊の前足が鉄製のワイヤーで縛りつけられた。
「グオッ!? グオオオオォォォッ!?」
予想だにしない罠にパニックになった熊は慌てて引き剥がそうと前足を動かすが、編みに編まれた鉄糸と紐の複合ワイヤーは木をへし折る筋力を以てしても容易には千切れない。
――もしも相手が人間で、俺の事を知る騎士団なら、必ず罠の気配を感じ取って迂闊に近寄らない。それがもう一つの理由だ。
「忘れてただろ? この場所が怪しいなんて。覚えてたとしても思い出せなかったよなぁ……ここに罠があるなんて」
少なくとも最初に熊が現れた時点では、罠を仕掛けた場所は一度掘り返した雪を埋めなおした為に違和感があった。だから俺は、そのまま設置した罠を使おうとすれば勘付かれる可能性があると考え、この一帯の雪を抉りまくって不自然さが目立たないように偽装した。
そしてトドメに体を張って囮になり、熊を誘導し、そして罠を踏む確証がなかったために剣で無理やり熊の手を罠に押し込んだ。もし白い熊が現れたのがここにピッケルトが罠を設置する前だったら、こうは上手く拘束できなかっただろう。
だが、拘束も絶対ではない以上、速やかに止めの一撃を放つ必要がある。先ほど叩き降ろした剣を軽く振ると、すらん、と金属の擦れる音と共に鞘が抜けて刃が露になった。どうにも今の一撃で凍結した部分が剥がれたらしい。帰ったら凍結対策をしようと素直に思いつつ、俺は剣を構えて熊に近づいた。
「まぁ、悪いがそういう事だ。イスバーグ山での一連の騒動といい、見るなり人間を襲ってきたことといい、騎士としてお前を捨て置く訳にはいかん。覚悟はいいな?」
「……グルルル」
普通、動物は生存本能の限りに体力が尽きるまで暴れ狂う。だが、この白い熊はまるで何かを悟ったように大人しくなり、ただ静かに唸ってこちらを見上げていた。まるで、早くやれとでも言うかのよう。
油断なく近づき、刺突。
より完全な形で死体を残す為、そして熊を必要以上に苦しませない為に、心臓を一突きで貫いた。熊は暫く呻き、やがてこと切れた。
嵐のように暴れ狂った山の戦士の、静かな幕切れだった。
「せっかく仕掛けた罠、ほとんど無駄になっちまったな――ん? あれは……」
「……~~い、おぉぉ~~~~い!!」
ふと遠くから何かが聞こえた気がして振り返ると、遠くから見覚えのある顔が近づいてきている。それは逃がしたピッケルトと、回収班の見慣れた面々だった。全速力で戻ってきたのだろうが、援軍が間に合う程に時間をかけていたらしい。戦いの熱が全身から引いていくのを感じながら、俺は賑やかな援軍たちが来るのを静かに待った。
「ヴァルナ、無事か!! 援軍連れてこようと思ったんだけどこいつら本気で熊回収のためのソリと担架しか持ってこなくて焦っ……うわめっちゃ怖ッ!? 血塗れの雪の中に佇む血濡れの剣の男がッ!? なんだこれ殺人現場の犯人か!?」
「おいコラ、言うに事欠いて死地から生還した人間に言うセリフか!」
「てか熊は!? 熊は仕留めたかぁッ!? うおおぉ我慢できん、解体だ解体!! バラして持って帰るぞッ!! 熊ぁ熊ぁ~~……熊鍋熊ステーキ熊毛皮ぁッ!!」
「同僚の方が猟奇的だっただとぉッ!?」
「というか先輩、ノノカさんによる解剖が先なんでここでバラすのは駄目ですよ? ……駄目っつってんでしょうがそのナイフを仕舞いなさい!!」
思ったより呆気ない幕切れだった。この調子だと明後日には王都に帰還し、また暇になるかもしれない。まぁ、任務が楽なのはいいことだ。見たところ熊も外来生物ではなくどちらかというと突然変異っぽいし、これで一件落着である。
……と、思っていたのだが。
「ヴァルナくん、これ違います」
「え?」
「これ、毛が白いだけの唯のおっきな熊です。檻から採取した毛と特徴が一致しません」
「……マジですか?」
「大マジですね。綺麗な死体で興味深くはありますけど……」
ノノカさんの極めて同情的な視線を浴びながら、俺は脱力感に苛まれて膝から崩れ落ちた。
恥かいて苦戦してやっとこさ倒したのに、人違いならぬ獣違いなどと。しかもその獣が犯人に似てるなどと、どうしてそんなしょうもないミラクルを引き当ててしまったのだ。こんな偶然、熊だって得しない。
「無意味な、戦いだったのか……運命の女神とか死ねばいいのに。マジ死ね……」
「ヴァルナくん、気をしっかり持って!? 闇落ちしそうな顔になってますよ!?」
「あはは、分かってますよ。神は人を罰しない。なればこの世の不幸の全てはオークが根源。オークを殺せ、皆殺しだ!」
「全然しっかり保ててないぃ~~~!?」
イスバーグ山捜査、続行決定。
――なお、精神崩壊寸前のヴァルナは騎士団三大母神の力によってなんとかダークサイド堕ちを免れた。母は偉大である。
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