第5話 堕天使と悪魔の夜雑談

「お前の両親はいつもあんな感じなのか?」


 お風呂から上がって自分の部屋に入ろうとしたらライトに聞かれた。


「単身赴任だからね。電話でたまに話しているけど実際会えるのは一年で数えるほどだからね」


「で、今回は一年ぶりの再会か。仲がいいとあんなに熱くなるんだな夫婦って」


「一年ぶりの再会なんて織姫と彦星みたいだね!」


 ライトの後ろからルルアさんがやってきた。


「いつも一年くらい会えないの?」


「今回は今までで一番長いよ。前は半年に一回のペースだったから」


 『次に来るのは遅くなるかもしれない』って言ってはいたけど、まさか一年もかかるなんて思ってもいなかった。


「寂しかった?」


「たまに電話で話しているからそんなに。それに単身赴任でいないのはもう慣れちゃった」


 それでも会えなかった一年間はすごく長くて、このままずっと会えない日が続くんじゃないかと思っていた。


 お母さんの話によると『一緒に住んでいるおばあちゃんの面倒を見てないといけない』他に『転勤してだんだん大きい仕事が任せられるようになってきた』ことで札幌から離れにくくなったみたい。


 次に帰ってくる日もわからないみたいだから連休中は一緒にいれる時は一緒にいようと思っている。


「年頃の女の子ってお父さんのこと嫌う人が多いけど、それは一緒に暮らしているからでこそであって単身赴任だとまた違ってくるんだね」


「ルルアさんは生きている時、お父さん嫌いだった?」


「最初はそうでもなかったけど社会人に近づいた時に路上ライブを続けていたら怒られたことがあってね。そこからだんだん嫌いになっていったんだ」


 路上ライブをやっていて怒られた?


「もしかして『就職する頃にはやめるだろう』って思っていたのか」


 ライトがルルアさんに聞いた。


「そうみたい。『専門学校を卒業する頃には……』って勝手に思っていたみたい。でも私はやめたくなかった。だって音楽が好きだもん」


「やりたいことは簡単にやめたくないに決まっているよな。わかるぜ」


「ライト様! ご共感いただけて光栄です!!」


 ルルアさんがライトの背丈に合わせてかがんで抱きしめた。


「ミント。お前はまだわからないかもしれないが、やりたいことや叶えたい願いがあるなら実現するための行動をしなければいけないぞ」


「行動?」


「そうだよミントちゃん。生きている時はアーティストデビューできなかったけど悪魔になった後にようやく活動できたからね」


「そうだったの!? てっきり生きている時からしていると……」


 あんなにうまい演奏だったから。


「ライトもなりたかった夢があったの?」


「もう昔の話だけどな」


「気になります!」


 私もルルアさんと同じで気になる。


「いつか機会があればな。それまではお預けだ」


「では私が当てます! ライト様は成績優秀でリーダーシップがあるので……政治家ですか?」


「俺は偉そうな職に就きたいと思ったことがない」


 ライトみたいな政治家がいたら絶対嫌いになっていたと思う。


「音楽家!」


「違うな」


「医者! 俳優! 研究者! お店の店主!」


「全部違うな」


 ライトのなりたかった夢か。


「……弁護士?」


 私も一つだけ答えてみた。


「全然違うな。まぁいつか話す機会がくると思う」


「それっていつ?」


「さぁな」


「ライト様。私はいつまでも待っていますからね」


 ……期待しないでおこう。

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