博之の夢3

 蒼い眼から涙が溢れる。

 博之はどうして自分が泣いているのかわからなかった。

 夢の中で、少女が舞っていた。どこか物悲しい歌を口ずさんで、彼女は蒼い鱗を手に舞っていたのだ。慰めてあげたかった。その場にいって、彼女の涙を拭いてあげたかった。

 けれど自分は鱗で、彼女に声をかけることすらできない。

 せめて、大きな竜になれればいいと思う。彼女を乗せられるほど大きな竜になって、彼女を悲しみのない場所に連れていけたら。

「どうして俺、こんなこと考えてるんだろう……」

 夢の中でしか会ったことのない少女に対して、自分はどうしてこれほどまでに焦がれた思いを抱いているのだろうか。

 涙をぬぐい、博之はベッドから起き上がる。窓の外を見ると雷の青白い稲光があたりを照らしていた。ごうごうと風の音がして、小さな葉を空にまき散らして散らしていく。

 あのときの光景のようだと、博之は思った。

 小さな竜を追いかけた、幼いころのようだと。

 妙に懐かしくなって、博之は部屋を抜け出していた。靴を履いて、乱暴に玄関の扉を開けて外をかける。

 見上げると、暗澹とした黒い雲がどこまでも続いている。その雲を、蒼い稲光が鋭く照らしていくのだ。

 龍のように稲光は長く伸びて、轟音とともに消えていく。いくつもいくも、雲の合間から稲光は顔を覗かせ、地上をかける博之を照らすのだ。

 なんだか楽しくなって博之は笑っていた。

 大声をあげると、鬱積した気持ちがすべて吐き出されるようだ。少女の涙のことも、彼女が何者かも自分にはわからない。

 けれども、一つだけ博之にはわかっていることがあった。

 あの少女は、幼いころに見た赤い龍じゃないだろうか。もしここに彼女が来てくれたら、慰めることができるのに。

 彼女につけた名前を記憶の中から手繰り寄せる。ふと、ある名前が脳裏に閃いて博之は口を開けていた。

「紅蘭っ!」

 龍に名づけた名前を博之は叫んでいた。自分は馬鹿だと思う。それでも、もしかしたらという思いが博之を突き動かしたのだ。

 もし、龍があのとき叫んだ名前を覚えていたくれたら、自分に会いに来てくれるのではないかと。

 その瞬間、博之の視界は蒼い閃光に包まれる。轟音が耳元でして、博之は意識を失っていた。

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