蒼の鱗に唇落とす
ぱちりと紅蘭は目を覚ます。
顔をあげると、机の上には相も変わらず蒼い竜の鱗がある。どうやら思い悩んでいるうちに眠ってしまったらしい。
妙な夢を見ていた。講堂のような場所に紺の衣服を着た少年少女が集められ、これまた見慣れない服を着た伽藍仙人がその子たちに何やら話している。
間抜けだと思ったのは本を使って居眠りを隠していた少年だ。居眠りを伽藍仙人に見破られた彼は、みんなに笑われた挙句、壁に描かれた文字を読まされていた。
何と言っていたかはわからない。
この地方の言葉にしては早口だし、一語一語の喋り方が妙にはっきりとしていた。
「あれは、何だったのかしら」
この竜の鱗を手渡されてから、妙な夢をみることが多くなった気がする。紅蘭のまったく知らない世界の夢を見るのだ。そこでは、ひとりでに動く鉄製の乗り物が灰色の漆喰で固められた地面を動き、背の高い背方形の建物が毅然とならんで規則正しい街並みを作り出している。
その街のある世界に、さきほど伽藍仙人に叱られていた少年は生きているらしい。いるらしいというのは、いつも彼の夢ばかり見るからだ。
何より印象的なのは、彼がこの鱗のように美しい蒼い目を持っていることだった。
そっと紅蘭は机に置かれた鱗に触れる。半透明の鱗は、竜の背にあればその体を蒼く光らせるのだろう。それは、あの夢の中の少年の眼のように美しい青色をしているのだろうか。
「蒼……。あなたを、蒼と呼びましょうか……」
そっと紅蘭は鱗を手に持っていた。蒼と囁きかけると、鱗は微かに鈍い燐光を放つ。紅蘭はその光に導かれるように、鱗に唇を落としていた。
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