第13話、死闘
突然、起きた爆発。それは魔人兵たちの注意を引いた。
中庭にはちょうど歩兵中隊が整列しており――サターナの命令で本土帰還の準備をしていたのだ――爆発によって少ないながらも死傷者が出た。
最悪だったのは戦竜が数頭、待機していた場所での爆発。これによって戦竜が死ぬことはなかったが、不意の爆発で動転した戦竜が暴れたことで近くにいた魔人兵らが踏まれたり吹き飛ばされたりした。
城屋上の空中庭園にいたサターナにはその惨事は見えなかったが、爆発が複数起きたことで只ならぬ事態だと察した。
「何事!?」
庭園の五メートルほど上空に静止していたサターナ。その背後に黒い球体が投げ込まれる。
「そいつは、オレの仕業だよ!」
球体が爆発した。至近距離からの爆発に、サターナは爆発の衝撃と破片をもろに浴びて墜落した。したたかに地面に激突、苦痛の声とともに彼女は倒れる。
「へへ、見たか! オレ様の爆弾は!」
聞こえてきた声、そしてその主に慧太は思わず相好を崩した。
「クライツ!」
「よう、生きてるか慧太!」
元盗賊の青年。慧太に喰われ、その意識を共有し、しかし別れたはずの男。
「なんでここにいる!?」
「なんでって……たく、お前は詰めが甘いんだよ。見てられなかったぜ」
クライツは頬をかいた。
「オレが爆発物仕掛けて、魔人どもの注意を引いてなかったら、お前いまごろ魔人連中に取り囲まれていたぞ」
では先ほどの爆発はクライツがやってのだ。……いや、そうではなくて。
「どうして戻ってきたんだ! あんた、命が惜しかったんじゃないのか?」
「そりゃ惜しいさ、オレだってな。……まあ、一度死んだけど」
クライツは正直だった。
「だがな、お前と意識というか思考に触れちまったせいだろうなぁ……なんつーか、もう他人な気がしねえっつーか。……兄弟? みたいな」
無精ひげを生やしたバンダナ男は、ニヤリと笑った。
「見捨てるのは何か一生後悔しそうでよ。それに、出気の悪い弟の面倒を見るのは、兄ちゃんの役目っつーもんだろ!」
――!
慧太のなかで、何かがカッと熱くなった。やばいやばいやばい、オレいま感動しちまった。こんな盗賊野郎に!
「つーわけだからよ――!」
クライツは斧を手に走り出した。墜落の衝撃で倒れ伏しているサターナに。彼女は動こうとしている。まだ、生きているのだ。
「親玉ぶっ殺して、さっさとおさらばしようぜ、兄弟!」
サターナが上半身を起こす。だがクライツはすでに迫っており、いまさら逃げる余裕はない。
振り返る彼女。すぐそこまで来ている『死』に脅え、顔を強張らせ――
「……!?」
慧太は目を疑った。サターナの目、紅玉色の瞳は爛々と輝き、明らかに死を覚悟したそれとは異なっていた。
開かれる口。しかしそこから漏れたのは悲鳴ではなく、灼熱の炎。喉の奥に、ちりちりとした熱を蓄積――そうだ、彼女は……!
「クライツ、ダメだ!」
炎の
サターナの口腔から放たれた紅蓮の炎は、クライツの身体を包み込み、あっという間に燃え上がらせた。
クライツの声が聞こえたような気がしたが、それも一瞬だった。燃え上がり、あっという間に蒸発してしまい……クライツだったものは塵となり、霧散した。
――死んだ……!
慧太にはそれがわかった。いや、あれは誰がどう見ても死んだと言える。武器で殴られようが斬られようが痛みを感じない身体。だが不死ではなかったのだ。女魔人の放つ炎の前に炎上し、溶けてしまった。
「よくもっ!」
湧き上がる怒り。血液など流れていない身体なのに全身がたぎるような熱に満たされる。
出気の悪い弟――くそったれ、くそったれ、くそったれ!
サターナが起き上がり、なぎ払うようにファイアブレスを放った。それは庭園に残っていた分身体を残らず焼き払う。魔槍で貫かれても平然としていたそれらも、炎に弱いのかあっさりと燃え上がる。
「死体は燃やすに限るわね……」
立ち上がるサターナ。分身体をまだ死霊だと思っているようだった。慧太は短刀を握り、サターナの側面から飛び掛る。
彼女の紅玉色の瞳が、慧太を見やる。迫る刃。しかし彼女は口もとに笑みを浮かべる。そして向き直ることもなく、それどころか
違和感。
しかし慧太がその意味を考える余裕はなかった。必中を確信した一撃は、突然横殴りの打撃によって遮られた。
凄まじい打撃に、慧太の身体が吹き飛ぶ。地面に叩きつけられ、思わず声が漏れる。痛みは感じない。だがあまりに視界が急激に回転して、何が起こったのか理解できなかった。……何故オレは地面に倒れているんだ?
「信じれないって顔をしているわね」
サターナは、地面に倒れ、見上げてくる慧太を見下ろした。
「信じられないのはワタシのほうよ。何であなた、生きてるのよ?」
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