魔物

老婆が糸車をまわしている。

物語を紡ぐのは老婆。

いや、紡がされているのだろうか?

今日もある物語が始まる。




魔物がいた。

その魔物は、海に棲むものであった。

深海の、割れ目に棲む魔物であった。

ある日、住処に落ちて来たものがあった。


きら、と一瞬輝いたそれは、魔物が見たこともない物だ。

もう、光っていない。

光らせてみたい。

魔物は、初めて深海から出た。

暗い闇の底から、上へと。


徐々に明るくなる。

だが、光らない。

もっと、もっと、上へ。

どこまで行けば、光るのか。

上へ、上へ。上るのが、少しづつつらくなっていく。

魔物が上がるごとに、海が荒れた。


荒れた海は、光を落とさない。

光を求めて、魔物は、上を目指す。

少しづつ、ゆっくりと。


海の国の王が、魔女に問う。

なぜ、海が荒れておるのだ?

──魔物が、深海よりやってくるのです。

魔物を倒す方法は?

──王女を海に捧げて下さい。

王は、七番目の王女を海へやる。


王女は嘆く。

私が、何をしたと言うのでしょうか。

なぜ、岩に縛られるのでしょう。


王女の嘆きを聞いた勇者がいた。


魔物は、ようやく海の上に顔を出した。

荒れた海の上、月の光できらきらと光った。

魔物は、笑って息絶えた。


息絶えた魔物に、勇者が剣を突き刺す。

ああ、ありがとうございます。勇者様。


王女と勇者は、幸せになれたのだろうか?

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