5/25 12:10
コンビニで昼食を買い込んで、大学内の階段に二人で座り込む。人の往来はあったが、何もいかがわしいことをするわけではないし、物騒な話でもない。人がいたほうが、却って一つの会話は目立ちにくくもなる。——というのは受け売りだ。
幹人はメロンパンを頬張りながら――時折カスを落としながら、いくつかのメールを見せてくれる。いずれも同じアドレスから、内容は「おねがい」とか「たすけて」ばかりである。頻繁に送られてくる時間帯もあれば、すっと離れたりもする。
「監禁とかじゃないのか?」
真面目腐った表情で言うと、なぜか彼は周囲を気にした。
「どうだろう。幹人が誰かを監禁しているとして、こんなに隙を与える? というか、スマホなんて真っ先に没収しない?」
「うーむ、確かに」
「となると、監禁の線は薄いんじゃないかな」
今幹人の頭の中に浮かんでいる探偵は誰だろう。あえて列挙することはしないが、多分、名前を聞けば誰でもわかるような、かの名探偵たちだろう。実のところ私の発言に誘導されているだけだけれど。
湯気で眼鏡が曇る。カップ麺を啜る。
「でも、助けてだぜ? 何かの被害に遭っているのは明らかじゃん」
「そうとも言い切れないよ」もごもごと咀嚼して、何とか飲み込む。「例えば、何かの犯罪に加担させられているけれど、本当は抜け出したい――とか」
「ああ。それはまあ考えたけれど」どうだか。「だったらこんな短いのじゃなくて、告発文を送ったほうがいいし、適当なアドレスよりも、警察に電話するほうが早い」
「それを言っちゃあ元も子もないけどね。あえて言うなら、出来ないんだよ」
幹人のアドレスは非常に簡素なものだ。LINEが主流になってから、メールアドレスなど何かに登録する用の文字の羅列になり下がりつつあるが、それでも一般的にはこうした迷惑メールなどを忌避してそれなりに考えたものにする。その点幹人は簡単な脳のつくりをしているから、こうして面倒なことになるわけだ。
「まあ私は、迷惑メールだと思うよ。ただの」
「なんで?」
「さあ。そう思いたいというか、思ってもらいたいだけかもしれないけど」
「さては面倒になったな?」
——まあ、一理ある。とは当然言わない。
時々、幹人のことを非常に疎ましく思う。はっきりしないところもそうだし、こうした厄介ごとを、私が乗ってあげるのをワクワクと待って持ち掛ける。私は幹人のコンビニエンスヒューマンではないし、そうなりたいと思ったことは本当にただの一度もない。その関係性は対等ではないし、対等ではない交際はろくでもない。
私は幹人に同じ土俵に上がってきてほしかったし、そこに立っていてくれるなら喜んで好きだと言ったと思う。そうはならなかった。この様子ではもう期待もできない。
「まあ、もう少し考えようか」
みそ味のスープを啜る。コーンが喉をすんなりと通って、むせた。
「頼むよワトソン君」
「どっちが」——というのも見当違いな答えか。「ともかく、これは迷惑メールだよ。前にも言ったのと同じ理屈。何一つ特定していない。特定できていない。ということは、ジャニーズを装ったなりすましと同レベルの稚拙なものだよ」
「あのヘンテコな送り間違いですよって言ってるようなやつと? 同じレベル?」
「うん。クオリティとしてはね。それでも幹人が信じるなら、もう少し待とう。例えば――」
と言いかけたところでそのスマホが揺れる。
——お願い。今だけがチャンス。————に来て。たすけにきて。
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