第41話 開幕、体育祭

時はわずかに進んで体育祭当日


シューラ魔導学園の体育祭は例年でさえ国内最大の魔導学校ということもあり大いに盛り上がる。

しかし、今年のそれは毎年のそれを大きく超える盛り上がりを見せていた。

観客も多く、選手のやる気も異常と言っていいほどである。

理由は知っての通り王と王子が観戦するからだ。

ここで活躍できれば王や王子の目に留まるかもしれない、目の前で失敗するわけにはいかないなどさまざまな感情、考えが選手たちの中に芽生えている。

すでに選手は着替えを終えている。

選手もそうでない者も各クラス、来賓や来客用に配置されたテントに囲まれた場所に集まっていた。

皆、開会式の時間まで待機している状況だ。


「すごい盛り上がりだな」


とレオンがリアムに小声で話しかけた。

浮き足立った生徒同士が喋り合っているので普通の声で話した言葉はざわつきの中に紛れて判別不能になる。

が、その中で小声で話しかけたのはもうすぐ開会式だというのに私語はよろしくないというレオンの心情を反映したからだろう。


「そうだな、まだ開会式も始まっていないというのに観客が何人もいるな」


「やっぱり王や王子に会いたい、お目にかかりたいとか考えてんのかな」


「レオンは会いたいとは思わないのか?」


「アーキタイト家のことを知らなかった俺でもさすがに王と王子のことは知ってる…でもあんまりどういう人たちなのかしらねぇんだよ」


どうやらレオンは

名家は知っているが細かいところは知らない

王は知っているがどういう役職か知らない

といったようにさまざまなものをざっくりとした印象でしか捉えていないらしい。


「はー、あんたほんと何にも知らないのね」


と突然聞き覚えのある声が後ろから投げかけられた。


「…アリスっ!なんだよ、仕方ねぇだろ知らないんだからよ」


「じゃあ、王様が偉いと知らなかったら無礼な態度をとってもいいの?知らなかったら禁忌術式を使っていいの?」


「それはダメに決まっているけど…俺は王は偉いって知っているし、禁忌術式を使ったらいけないことも知っている」


「“誰か”に会う、“なにか”をするってわかっている時にやらかしてもその“誰か”や“なにか”について知らなかったなんて言い訳は許されないわ」


ここでアリスは一息つき


「私たちには知る権利と同時に知る義務があるのよ。私たちは魔導を扱える、この学園で魔導を知る権利がある。でも同時に使ってはいけない魔導、人を傷つけかねない魔導を知っておかなければならない義務もある。何かをするときにそのことについて最低限のことだけでも知ろうとせず、知らなかったで済ませるようとするのは最低よ」


と毒づいた。

レオンはアリスの異常な勢いに押され気味に


「お、おう…すまなかった」


と返すことしかできなかった。


「アリス、緊張しているな?」


とリアムは普段と違う様子に勘付いたように尋ねた。

 

「当たり前でしょ?…選ばれたからにはやってやろうとか思っていたけど、いざ本番が近づいてくるときついわよ」


「緊張を誤魔化すために俺に当たってきたのか!?」


とアリスの言葉を聞き、理不尽に怒られたことに気付いたレオンが大きな声を出す。


「…うるさい。言い方がキツかったことは謝るけどあんたがなんでもざっくりとしか知らないのが気に入らなかったのは事実よ」


「それはまあ、俺が悪いな」


と話がクールダウンしたところに


『これよりシューラ魔導学園体育祭、開会式を始めます』


と魔導で声を大きくした体育祭実行委員の声が会場に響いた。

生徒は一気に静まり、体育祭実行委員会のテントのある方向に視線を向けた。

学園長の話や選手宣誓などが終わり、次は来賓紹介が行われるところまできていた。


『本日はご多忙の中、多数の来賓にご臨席いただきました。皆様からご挨拶をいただくのが本意でありますが、時間の都合上代表してジェームズ国王、アレクサンダー王子、両名からご挨拶をいただきます』


名を呼ばれた王と王子は完璧な動作で生徒たちの前まで動き、左右に礼をした。


『一同、礼』


の言葉とともに全員が頭を下げた。

国王が用意された拡声用の魔導機を手に取り


「本日は天候にも恵まれ、絶好の体育祭日和であると言えるだろう。皆、この日に向けて努力してきたと思う。その成果を今日と明日この場で発揮してくれることを期待する。最後に急な観戦の申し出にも快く答えてくれたシューラ魔導学園の皆様にこの場を借りて感謝を挿せていただきます」


と言った後、魔導機を、王子に渡した。


「あー、ええと…みんな、頑張ってワクワクする試合を見せてね」


と笑顔で軽く言ってお辞儀をした。

生徒ほぼ全員が王子も国王のように威厳に満ち、近寄りがたい人物のイメージを持っていたので思考が停止し、固まった。

ただ例外的にリアムは“アレク、台詞が飛んだな”と察してため息をついた。

そうして開会式も無事に終わりついに試合が始まろうとしていた。

ちなみに試合会場は二つあり一年二年用と三年四年用に分かれている。

初めは二年の種目からでありわずかに時間が空いた。

と言っても数十分後には一年一試合目であるコントロール・ポッドへ出場する選手の招集が始まる。

リアムは試合に備えているルークとアリスのところに向かった。


「あら、リアム…激励の言葉でも言いにきた?」


とぎごちない笑顔を向けながらアリスが尋ねる。

ルークも顔こそ向けていないが耳はこちらに傾けているらしかった。


「そうだな、アリスはよく俺の説明を聞いて実行できるように努力してくれたな。…後半の制御力に不安は残るが勝てる可能性は大いにある、頑張れよ」


「ど、どうも」


アリスは本当に言葉をかけられると思っておらず戸惑ってしまった。


「ルークは最初から最後まで自分の練習法を貫いたな。…初めは戸惑ったけど俺の説明もいくらか聞いて練習で意識してくれていたのは素直に嬉しかったぞ。…俺の練習法が間違っていたことを証明してきてくれ」


「ふん、当たり前だ。…だが、あれだ…あんたのアドバイスも少しは役に立った…ありがとな」


とルークは背を向けたまま言葉を返した。


二年の一試合目が終わりかけになりコントロール・ポッドへ出場する選手は待機場所へ向かっていった。

リアムが試合を観戦ためによい場所を探そうと足を動かした瞬間、通信用の魔石が反応した。

しかも反応している魔石はスカルマスクとして仕事をする際に使うものだ。

つまりこの魔石が反応したということは何か並々ならぬ事態が起こったということだ。

リアムはその場を離れ、人のいない場所へ向かった。

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