第40話 彼と王子
「キャストオフ」
スカルマスクはそう呟きマスクを外した。
するとマスクに吸い込まれるように外套などの服が消えた。
髑髏の仮面は三枚羽のハンドスピナーのようなものになりスカルマスクの手に乗った。
そして、そこにはスカルマスクではなく、リアムが立っていた。
「久しぶり、リアム・アーキタイト」
王子はマスクを外した彼を見て笑った。
「そうですね、王子…貴方ほどの身分にもなると…なんというか大変そうですね」
「敬語も王子呼びもやめてくれ…今はリアムとアレクサンダーだ。それに大変さに身分は関係ないだろ…現に君もかなり苦労してそうじゃないか」
「そうだったな、アレク。お互いに苦労があるようだ」
ここで二人の関係を説明しておかねばなるまい。
リアム、エマ、王子ことアレクサンダーの3人は同い年(エマのみ早生まれのため正確には彼女はわずかに年下)である。
この国の未来を担う王子と名家の子供たちはより良い関係を築くために同じ保育所で多くの時間を共にする。
そして、成長した先で王子は王となるために公務を父の傍で学び、名家の子は魔導学校で戦闘や研究の基礎力を養うのだ。
「それで、突然体育祭の観戦を決めた上で呼び出した理由を聞かせてもらえるんだろうな」
「ま、深い理由はないよ。僕の友人が初めて体育祭に参加するんだ…僕だって行きたいじゃないか」
とアレクは無邪気に笑う。
「そんな軽い理由でわざわざスカルマスクとしての俺を呼び出したのか?」
リアムはそういえばそういう奴だったなと思い出し頭を抱えた。
「仕方ないだろう?…話したくても、アーキタイト家だけを呼んだとなれば他の家から反感を買いかねない。でも、ただ意味もなく全ての名家を呼ぶわけにもいかない…正直八方塞がりだった訳だよ。むしろ君がスカルマスクで助かったよ…おかげでこうやって話できているんだから」
アレクは嬉しそうに語る。
リアムは小さいため息を吐きながら、肩を竦める。
「君は試合に出るのか?…エマはどうせ出るんだろう?」
「そうだな、エマは当然出場するさ。…でも、俺は出ないよ」
「そうか…残念だな。…っとそろそろ護衛も我慢の限界かもしれないな…名残惜しいけどお話はこれまでにしよう。…久々に話せて楽しかったよ」
「俺もだよ、アレク」
リアムは短く言葉を返しながらポケットに片付けていた仮面を作り出す道具を取り出し顔のすぐそばに持ってくる。
「プットオン」
リアムがそう呟くとマスクから黒い影のような何かが何本も現れて彼の体を繭のように覆い尽くしていった。
次の瞬間、その影の繭が弾け、スカルマスクが立っていた。
「相変わらずそれだけの術式をそのサイズに収める技術には感服するね」
とアレクが呟く。
リアムの付けている仮面は正確には魔導具ではない。
魔導具は魔導を扱う際に術式の成立を補助するものであり、性能の限界を引き出せるかどうかは所有者の力に大きく影響を受けてしまう。
一方、仮面はそういったさまざまな術式を扱えず、あらかじめ道具に埋め込まれた術式が司る魔導を使えるだけである。
ただ、その代わりに使用者の能力の受けずにその魔導を起動、利用することができる。
こういったタイプの道具を総称して魔導機と呼ぶ。
本来、一つから二つ程度の術式しか一つのリアムの持つ仮面サイズの魔導機に組み込むことができない。
これは魔導機の中にお互いが干渉しないように術式を組み込むことが難しいからである。
だが、リアムの仮面には5つ以上の術式が組み込まれている。
オーパーツもびっくりな代物なのである。
「王子からお褒めのお言葉があったとなれば作り手も喜びます」
アレクは頷きを見せた後、指を鳴らして【アトモス・シュテル】を解除し
「もう入っていいよ」
と扉に向かって言葉を投げた。
すると、1秒も経たないうちに扉が蹴破るように開けられ護衛の兵士が突入してきた。
「王子!お怪我はありませんか!」
護衛の一人がそう叫ぶ。
残りの護衛が王子とスカルマスクの間に壁を作るように立ち最大限の警戒をしている。
「大丈夫だよ、何もされてない」
と王子は少々不機嫌な様子で言葉を発する。
「俺がここにいても落ち着けないだけのようなのでそろそろお暇させていただこうか」
スカルマスクは扉に向かって歩き始めつつそう言った。
「また来てくれるよね?」
「許しが出るのならいつでも行くさ」
スカルマスクはアレクの質問に答えて部屋を後にした。
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