第37話 見えないものを感じろ
魔力回路を感じて可視化することに成功したポゼッションスター組は次の練習に進むことになる。
先程は内側に向けた魔力を感じる感覚を今度は外に向けるのだ。
そして決勝ラウンドに進むためには、それの精度、感知範囲を向上することができるようにしなくてはならない。
今日はとりあえずその一歩目だ。
「それじゃあ、魔力回路を可視化する際に体内の魔力に向けた意識を体外に向けるんだ。…と言っても感じられているかどうかわからないと思うから少し目を瞑ってくれ」
フィオナは素直に目を瞑り、クレアは彼女を横目で見てから不満そうに目を閉じた。
リアムは彼女らに気取られぬように注意を払いつつ気配を消して背後に回った。
気配消しはアーキタイト家での修行の際に身につけた技法である。
彼女らの背後という位置でリアムは魔力の球体を練り上げた。
この球体は人の目では見ることができず、魔力を感じ取る事でしか見つけられない。
準備を終えたリアムは自身の位置で球体の場所を推測されないように適当な位置に移動し
「よし、目を開けてくれ」
と言った。
二人とも恐る恐る目を開き、目の前にリアムがいないことを不思議がりキョロキョロと周囲を見回した。
そして、クレアはリアムが真横にいることに気づき驚きのあまり“きゃっ!”と声を上げた。
「いつの間にそんな位置に…。まさかっ!これが勝利の秘訣なのかしら?」
とクレアが“正体見破った!”とでも言いたいような顔でリアムを見ながら尋ねた。
フィオナも「なるほど」とクレアに同意しながら彼に目を向ける。
どうやらクレアの発言には何か説得力のようなものがあったらしい。
が、
「いや、全く違う。この技能は関係ない」
とリアムはバッサリ言い切る。
それを聞いたクレアの顔が紅葉のように真っ赤に染まっていく。
「…わ、分かってましたわよ…そんなこと。…そうですわ!ポゼッションスターで気配なく動けてもいいことなんてありませんもの!…た、尋ねたのは一応でしてよ!」
と必死に弁明した。
大慌てで言葉を連ねる様子は間違いなく言い訳であるとわかるが、リアムはここにツッコミを入れると面倒になるだけと判断し、そうだなと頷いておいた。
「そろそろ、本題に入っていいか?…よし、これから二人に目を閉じてもらっている間に魔力の球体をこの近くに作った。もちろん見ることはできないから魔力を感じて探して欲しい」
「本当に存在するのかしら?あなたは位置が分かるのかしら?」
とクレアが尋ねる。
見えないものを探せていって本当に存在するかどうかを尋ねる気持ちは分かった。
「俺は今も感知しているし、位置も覚えている。今あるってことは俺が保証する」
だが、発見できない以上、存在を証明できないので信じてくれとしか言えなかった。
クレアはリアムの返答に満足できなかったらしく不満そうに彼に視線を向けている。
二人の間に名状し難い沈黙が流れ始める。
「あ、あの!それでど、どうすれば見つけられるのですか?」
とフィオナが胃を決したように尋ねることでその沈黙は破られた。
クレアはハッとした様子でフィオナを見て、
「そうですわね、始めから見つからないことを考えるなんてナンセンスですわ。さあ、やり方を教えなさい」
と言う。
リアムは心の中でフィオナに感謝しつつ口を開く。
「さっき魔力回路を可視化した時、魔力に向けた感覚を外に向かって使うんだ。魔力感知の繊毛を外へどんどん伸ばすイメージだな」
リアムの言葉を聞いた二人は沈黙し集中し始める。
外界への感知さえ出来るようになればあとはひたすら反復練習することで感知能力はある程度までは向上させられる。
ポゼッションスターで魔力感知を用いることができれば他クラスにはないアドバンテージを得ることができる。
数分程の沈黙が周囲を支配する。
「誰かと思えば、リアム・アーキタイトッ」
沈黙を破ったのは意外な人物であった。
「これは、ユリウス先輩?どうしてここに?」
生徒会副会長、ユリウス・ローベルトがそこにはいた。
自分のことを明らかに敵視している彼が話しかけてきた理由がリアムには分からなかった。
「周囲は皆、秘匿術式を扱っているのに一つだけ馬鹿みたいにオープンなところがあったから休憩がてら寄ってみただけだよ。この二種目は捨てたのかい?教員もつかずにただバラバラに練習して、勝利の可能性がそもそもゼロに近い君たちはそこのレディ二人のようにぼーっと突っ立っているのがお似合いだよ」
と生徒会室で見(まみ)える時とは全く異なる毒突くような口調で言葉が返された。
生徒会室では“いい子”を演じているのだろうか?と疑問に思いつつも
「なるほど、ユリウス先輩も出場なさるんですね」
となるべく角を立てないように言葉を選ぶ。
ユリウスは皮肉たっぷりのつもりで放った言葉に何も食いつかなかったことに苛立った。
「…だからこいつは嫌いなんだ。俺が必死に努力してようやく近づいた会長との距離を不思議な色、アーキタイト家の人間と言うだけで一足飛びに近付いて、そのくせそれが当たり前みたいな顔して…」
「…何かおっしゃいましたか?」
とボソボソ言った苛立ちの言葉はリアムには届かなかった。
「なんでもねぇよ、せいぜい国王様と王子様に恥晒さないように努力するんだな」
とユリウスが吐き捨てるように言う。
信じられない言葉にリアムは一瞬思考が完全停止した。
そして
「国王と王子っ!?どういうことですか!?」
と思わず大声で反応してしまった。
「声がデケェよ。なんでも王子の意向で急遽決まったらしい…明日告知される予定だからあんま他のやつにベラベラ喋んなよ」
と言って不機嫌顔のユリウスはリアム達のいる練習場を去った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます