第36話 練習開始

翌日


ついに五組の練習が本格的に始動する。

といっても場所取りに挑んでいい場所を勝ち取るなど不可能なので校舎の裏にあるグラウンドの隅っこの方にいるのだが。

練習開始と同時にこの端の場所を取るために広い場所の奪い合いを尻目に走ったためリアムは軽く息切れを起こしている。

ちなみにグラウンドは体育祭の準備時間中は空間拡張の大規模魔導が魔力コスト度外視で常に起動しており各学年ごとに大練習場二つ、小練習場が三つ割り振られる。

知っての通り、練習場はバランスよく日にちごとに割り振られるということはなく、自分たちで勝手に決めろという感じである。

大練習場があればギリギリ全ての種目が練習できるので毎回毎回奪い合いが起こる。

なので五組はキールとサナに任せた種目は外部で練習することにした。

リアムな担当する種目もできれば外部でしたかったのだが貸し出しされる魔石は外に持って行けないので仕方なく小練習場を使って練習することにした。

リアムの息が整ってきた頃に運動できる服に着替えた選手たちが集まってきた。


「あれ、大練習場とっててくれたんじゃないの?」


と冗談めかしてアリスが言う。


「二つの種目しか練習しないのに大練習場はいらんだろ」


「それもそうね」


アリスが頷きを見せた。


「早く、練習を始めてくださるかしら?」


と金髪縦ロールが特徴的な少女、クレアが不満げに告げた。

カグヤの報告によると彼女は魔導の名門、ローレン家の次女らしい。

アーキタイト家よりは小さく歴史も短いとはいえ、ローレン家は名門と呼ばれるレベルの家である。

そんな家から五組に入ってしまうような魔導の能力を持つ子が生まれることはかなり珍しい。

リアムは自分のことを棚に上げながらそのことを不思議がった。


「そうだな、まず何をするかを説明してから練習しようか。

はじめにコントロールポットはポットの白熱したレース、ポットのぶつかり合いが目玉の種目だ。

これのルールの中に非常に重要なものがある。

壁との接触一回につき0.1秒のペナルティが発生するというものだ」


「ちょっと待って、私も選ばれてから何試合か確認したけど着順と発表された結果が異なることがあったのはこれが理由ね」


とアリスが食い気味に言う。


「そうだな、俺たちはこのルールを使って勝つ。前の四クラスのすぐ後ろにつけて一位争いを避けて壁にぶつからないように走るのが作戦だ」


「俺はそんな姑息なやり方には乗らないぞ」


とルークが吐き捨てるように言いながらベンチに置いてあったコントロールポット用の魔石を取り勝手に展開した。


「ちょっと、リアムの案に乗らないでどうするつもりなのっ!?」


とアリスがルークの腕を掴んで引き止めつつ尋ねる。

ルークは首を動かしアリスを睨む。


「俺は俺のやり方でやる。お前はせいぜいあいつの言うことでも聞いてろ」


ルークはアリスの手を振りほどき、サーキットを展開するための場所を確保するためにリアムたちから離れていった。


「何?あいつ」


「まあ、そもそもコントロールポットは相手に依存するやり方だからな…気に食わなくても仕方ない。…アリス、とりあえずサーキットを壁に当たらず回りきれるように練習してくれ」


「了解、もう一個の魔石借りてくね」


と言いながらコントロールポット用の魔石を取り、サーキットを展開するためにルークと同じように距離をとった。


「さて、次はポゼッションスターだな。こっちはかなり高度な技術を求めることになるが二人ならできると思っているし習得できれば勝てる」


とリアムは言い切った。

その言葉を聞いて、フィオナが不安そうな顔を見せた。


「求められるのは魔力の流れを感じる力だ。それがあれば球体が出てくる位置が読めるようになる」


ポイントを取るための球体は可視化する前に魔力が集まってくる時間が必ずある。

それを感知できるようになればいかに跳躍魔導の起動が他の組に負けていても球体を破壊することができる。


「具体的にはどうやって練習するのかしら?」


とクレアが尋ねる。


「まずは自分の魔力の流れを感じるところからだな。魔力回路を可視化しよう」


魔力回路とは血管のごとく全身に張り巡らされた、魔力の流れの根幹部分である。

魔力の流れを感じるにはまずは内側から始めることにしたのだ。

魔力回路は常に存在しているが可視化するには結構魔力に集中する必要がある。

二人は集中し始める。

リアムは魔力の扱い方だけは一流なので少し意識を向けるだけで魔力の動きを感知できる。

フィオナはかなりいい線いっており、もう少しで可視化できそうである。

一方のクレアは意外にも苦戦しておりなかなか魔力の流れをつかめていない様子である。


「あぁっ!もうっ!…できないわよっ!」


とクレアの不満が爆発する。

リアムはため息をつきながら額を手で抑えた。

クレアはリアムを睨み


「そ、そんな顔してるけど…あんたは出来るわけ?」


と挑発するように言葉を投げる。

リアムはふー、と長い息を吐き出した次の瞬間リアムに青白い光のラインが浮かび上がった。


「こんな感じだ。魔力回路をつかんでそこに集中し魔力を流すんだ」


リアムのアドバイスが口から外に出て数秒した後


「で、できたっ!」


とフィオナが喜びの声を上げた。

フィオナもリアムと同様に青白い光の筋をまとっていた。


「よくできたな、フィオナ」


とリアムは彼女の頭を撫でた。

次の瞬間、ハッとした顔で手を頭から離し


「すまない、妹を褒める時のように頭を撫でてしまった」


と謝罪した。

リアムが他者を褒める経験などエマ以外でほとんどなかったためいつものように頭を撫でてしまったのだ。


「いえいえ、大丈夫です。…リアムさんのアドバイスのお陰でできましたっ!」


と嬉しそうに言葉を発した。


「らしいぞ、もう一度挑戦してみたらどうだ?」


とリアムが挑発し返した。


「あんた達にできて私に出来ないわけないわっ!」


とクレアはムキになったような顔で言い返し、魔力に集中力を向けた。

彼女が負けず嫌いらしいことはなんとなく理解できた。

クレアも少し時間がかかったが魔力回路の可視化に成功した。

その時に見せた彼女のドヤ顔はなかなか印象的なものだった。

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