第35話 夜のお届け物
リアムはポゼッションスターとコントロールポットの出場選手と生徒手帳替わりのルーンボードを使って連絡先を交換していつでも予定を伝えられるようにした。
その後、今から練習場所を確保するのは難しいという事で本日は解散ということになった。
ただ、その時間帯ではまだほとんどのクラスが練習中であった。
そのためリアムはエマの護衛としての仕事があるため、彼女の練習終了を待つ必要があった。
練習を見ることができればまだ良かったのだが、外部に情報を漏らすようなアホはさすがにいなかった。
手持ち無沙汰となったリアムはただボーっとするしかなかった。
五組の生徒はみんな帰ってしまっているので話し相手もいない。
ただ傾き始めた太陽を眺めるだけの時間が過ぎていった。
そこにカグヤからの通信がきた。
「どうしました?カグヤさん」
『言われていたものができたことを報告しようと思ってね。でも、また面白そうな役職を引き受けたものね』
とカグヤはいたずらっぽく笑いながらそう言った。
「面白くはないですよ、ただ引き受けてしまった以上、仕事はこなさないと」
とリアムはカグヤと対照的につまらなそうに言葉を返した。
『ふふ、そこがリアムくんのいいところよ。…あっ、後、“仮面”の調整とアップグレードが完了したわ。ついでに持っていくわね』
「ありがとうございます。“仮面”を使う機会は無い方が良いですけどね」
『まぁ、そうね。今日の夜にいつもの場所で会いましょう』
「分かりました、ではまた」
と言ってリアムは通信魔導を停止した。
それからほどなくして
『おっ、終わったみたいだぞ』
と護衛機を通じてエマの状況を把握していたホロウが伝えた。
リアムはエマが出てくるまで待って合流した。
「兄さん、待っててくれたの?」
「そうでもないさ、それよりも練習お疲れ」
とリアムはエマの頭を撫でながら言う。
エマは気持ちよさそうに目を瞑り、撫でられるのを堪能している。
幸せな数秒は一瞬で終わり、リアムの手は止まる。
エマは名残惜しそうにその手を目で追う。
「疲れてるだろ、今日は俺が飯作ろうか?」
「…む、それはダメです。疲れなら頭ナデナデで吹き飛びました」
「それでも疲れはあるだろ?」
「大丈夫です、全然疲れてません」
とエマは頑なにリアムの提案を断る。
こう言った時のエマはたとえ
突然見せる意志の固さは目を見張るものがある。
「…じゃあ、一緒に作ろう。手伝うなら文句ないだろ?」
とリアムは提案した。
エマは二人で料理を作る様子を想像する。
キッチンに立つ自分と兄、仲睦まじく協力しながら夕食を作る姿。
会話しながら料理をし、できたものの味を楽しむ。
…これ実質カップルなのでは?
ふとそう思ってしまい、その類の妄想が加速してしまう。
エマの顔が一気に赤く染まる。
「うぅぅ、い、良いけどぉ」
とエマはしっかりとした思考もしないまま返事をした。
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数時間後
リアムはキュリオの森にいた。
カグヤがいつもの場所と呼ぶのはここのことである。
夜の森というのはなんとも幻想的で木漏れ日ならぬ木漏れ月光や風が吹くたびに鳴る葉の揺れる音、小川の流れる音などさまざまなものがこの場の雰囲気を高めている。
だが、リアムはそんなものに興味がないと言わんばかりに、森に入るとすぐにホロウの監視を起動し、周囲の人の有無を確認しようとする。
『周囲に敵影なし。大丈夫だ』
とホロウが言う。
リアムは正面の木に向けて手のひらを見せるような仕草をした。
するとその木の影から黒い何かが現れる。
「ほんと、いつもお見通しって感じよね」
と白けた顔をしたカグヤの黒いベールが月光によってはがれる。
『ほとんど俺のおかげだがな』
と我慢しかねてホロウが口を出す。
もしホロウに顔があればドヤ顔していること間違いないだろう。
事実、ホロウから送られてくる情報の中に“敵影”以外の人の存在があったためにカグヤの位置が分かった。
「それもそうね。お話はここまでにして、本題に入りましょうか」
カグヤが翠に輝く河原に落ちている小石ほどの大きさの不恰好な魔石をリアムに渡した。
リアムは形を整えられていないところから見て既製品ではなく一から作ったものだと理解した。
「頼まれていた特注品よ。起動後、指定時間の間、空中に魔力の球をランダムに展開し続けるわ」
これは空中に現れる魔力の球体をバトンのようなもので破壊し、その数を競う種目であるポゼッションスターの練習に使うつもりだ。
ちなみに学園の定める時間中は練習用の備品が各クラス一つ割り当てられる。
ただ、一度でも返却が遅れると貸し出しが停止されてしまうという重すぎるペナルティがある。
リアムの担当するもう一つの種目であるコントロールポットは左右を壁で囲まれたストレート、コーナー等を有するサーキットを指定回数をより速く周る種目であり、そちらの方は一度、サーキットを作ってしまえば数時間は魔石を使う必要がなくなる。
しかし、ポゼッションスターの方は常に魔力の球体がランダムに展開することが必須なので、返却時間が過ぎた後も練習するためにこうやって魔石を作ってもらい代用することにしたのだ。
「助かります、カグヤさん」
リアムは魔石を弄びながら感謝の言葉を述べた。
「あとは“仮面”ね」
カグヤは三枚羽のハンドスピナーのようなものを渡した。
全体が漆黒を帯びており、どことなく不気味な雰囲気を醸し出しているそれはどう頑張っても“仮面”には見えない。
「いつも通り仮面に見えない形、サイズに圧縮してあるわ。身体能力強化は40%、隠密性は25%、その他の性能に関しても20%以上向上しているわ」
「そんなにですか…どうりで改良に時間がかかった訳ですね。ありがとうございます」
とリアムは納得したように頷きつつそう言った。
「これも仕事のうちだからお礼なんていいわよ。それよりも仮面担当のチームが改良に時間がかかったことで先日の学園での際、仮面を使えなかったことを謝っていたわ」
「幸い外には情報が漏れなかったので謝る必要はないです。最近何も起こっていなかったので油断してた俺も悪いですしね」
「そう、伝えておくわね。それじゃあ、私は行くわね」
「はい、ありがとうございました」
リアムの言葉に笑みを返し、カグヤは闇の中に消えた。
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