第34話 五組の戦術

フィオナに無理させない程度に予定を立てることを決めたリアムは次のステップに進むことにする。

次は各種目の特徴や練習方法を示さなくてはならない。

リアムが練習を担当するつもりであるポゼッションスターとコントロールポットの二種目は後で細かく伝えるつもりだ。

なので、今はサナとキールに練習の監督を任せる他三つの種目を集中的に話さなければならない。

一部種目は勝ちの目がないものもあるがわずかながら決勝ラウンドに進める可能性がある以上適当に説明するわけにはいかない。

ある程度練習の形を考えてきてはいるが言語化して伝えられるかは別の話だ。

リアムは黒板の前に立ち、息を整える。


「種目の説明をしたいと思う」


と一つ言葉にする。

五組の生徒の視線がリアムという一点に集中した。

みんなそれなりにリアムに期待を寄せているらしい。

リアムは数秒かけて言葉を選ぶ。


「まずスティールエリアは集団で魔導戦を行うことを圧縮したような種目だ」


と言いながらリアムは黒板に正三角形を描く。

そしてその頂点に丸を付ける。


「集団の魔導戦では基本の型として一人が突出して二人が下がったところに立つというものがある。突出した一人が常に防御を担当し、後衛が攻撃、防御支援を行う攻撃よりの編成だ。このスリーマンセルで生まれる三角形の形を状況に応じて変形できるようになるのを最初の目標にして練習を進めてほしい」


とリアムは三角形を指差しながら言った。

三人一組スリーマンセル四人一組フォーマンセルは集団での魔導戦における小隊の最小単位として扱われており、さまざまな隊形フォーメーションが研究されている。

その中でもスリーマンセルは三角の隊形が最も損耗率が低く、敵撃破率も高い。

本来は隊形を築く全ての隊員が攻守や支援を淀みなく息を合わせて組み替えるものなのだが敢えて守備役を固定することで難易度を下げることにした。

ここら辺の詳細は紙にでもまとめて後で渡すことにしよう。


「待て、三人一組で動くとエリアの確保効率が低くなるのではないか?」


とキールが不満を述べる。

そもそも、スティールエリアは十字に配置された五つのエリアを奪い合う試合だ。

エリアの確保数で獲得スコアが変化し、一定スコアに達した方が勝利となる。

そのため人を分散させ複数のエリアを同時に確保することが定石として成り立っている。

各エリアは区切られており、エリアを確保しながら別のエリアに干渉することはできない。

エリア内に敵味方が入り乱れている場合は人数の多い方がエリア確保が進む。

いかに効率よくエリアを確保、維持するかが勝負の分かれ目になる。

さらに選手は一定以上被弾すると負傷判定となりしばらく戦闘不能となる。

攻撃、防御、進撃、後退など様々な要素を含むスティールエリアはまさに体育祭の花形というにふさわしい。


「スティールエリアのルールにこういうものがあった。…エリア確保時間は以下と定める。エリア内一人20秒、二人15秒、三人、7秒。明らかに三人での確保が優遇されている。特に総合戦力で劣る五組おれたちが戦力を分散すると各個撃破で全滅がオチだ」


キールはリアムの話を聞きながらルールを再確認していた。

リアムの発言に嘘はなく間違いなく彼の言った通りに書かれていた。

一組の戦力を一人あたり5とすれば五組は1.5あるかないかだ。

一組を一人相手にするのに五組が三人束になったとしても勝つことは難しい。

ただし、ここにスリーマンセルの型を上手く加えることが出来ると戦力は二倍近くまで引き出せる。

それほど隊形は戦力に影響を及ぼす。

魔導は基本的に詠唱が必要な特性上攻守を一人で両立させることが難しい。

一人の場合は攻めるか守るかを切り替えなければならない。

三人バラバラの時は攻めるか守るかしかできない人間がまとまりなくいるだけであまり戦力として強いとは言えない。

しかし、隊形を組めば守る人と攻める人、それを支援する人が生まれ、必要に応じて攻守支援の人数を変えられる。

そこが戦力を引き上げる強みとなる。

二人相手は無理だが一人なら五組でも一組に勝つ事ができる。


「練習は対戦形式で隊形維持と隊形変形を重視したものにしてくれ」


キールは頷きを見せた。

一応、最低限は伝わったらしいかった。


「次はサーチアンドコレクトだな。これはひたすら効率よく被らないように探知魔導を扱えるように練習してくれ」


とリアムは短くまとめた。

サーチアンドコレクトは魔導で空間を拡大したフィールドに隠されたアイテムを集めその量を競う種目である。

これは探知範囲がものをいう種目で練習でどうにかなるようなものではない。

すなわち才能がものをいう種目なのである。

なので、出来ることといえば探知魔導を早く起動して探知範囲を被らないようにしなるべく効率を上げるぐらいしかない。


「さらに続けてコレクトアンドディフェンスだ。こいつは何人かに手伝ってもらって複数人に狙われても姿勢を崩さず、アイテムを集めつつ抜け出す練習をしよう」


コレクトアンドディフェンスは腰にアイテムを保持するベルトを巻いて全クラスが入り乱れて闘う種目である。

アイテムはボール状のものでベルトの保持力がかなり低く体勢を崩すとすぐに落ちてしまう。

ボールは一人5個所持しており姿勢を崩し落ちたアイテムをベルトに取り付ける。

一定時間経過後に所有していたボールの数で順位が決まる。

魔導の扱いで劣る五組が混戦の中でボール保持など出来るはずもない。

だから


「コレクトアンドディフェンスは敵が落としたのを盗って逃げるが五組うちの戦略になる」


とリアムは言い切った。

流石にスポーツマンシップに反するようなやり方にクラスがざわついた。

しかし、勝つためにそんなことも言っていられない。

その上、五組は弱いという理由で集中的に狙われるきらいがある。

弱い相手から確実に奪う、作戦的には正しいのだが狙われる当人からすればたまったものではない。

そんな中、正面から挑んでも玉砕確実である。

だからこそヒットアンドアウェイ的な戦術を取るしかない。

これに関しては勝つために理解してもらうしかない。


「ここまでがキールと先生に監督を任せたい種目の説明です。…大丈夫ですか?」


とリアムが尋ねる。


「後の二つの種目は?」


とサナが尋ね返した。


「練習の時に説明します」


「そういう事じゃなくて全部一人でやるつもりなの?」


「そうですね、決勝ラウンドまで進もうと思うと練習の質が重要になりますから」


「無理はしちゃダメよ、クラスみんなで協力して勝利を掴みましょう」


とサナが言った。

彼女はリスクを負ってデータを渡してしまっている。

不安要素をなるべく消しておきたいのだろう。

リアムは頷いて肯定の意思を示した。

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