第38話 秘密の特訓?
リアムは頭の片隅で先程のユリウスの言葉を思考しながら練習に戻る。
二人はまだ集中しているらしく数歩歩いては止まりまた数歩前へ進むを黙って繰り返している。
術式の可視化や感知はあくまで自身が作ったものを見えるようにするため、どちらかというと魔力回路を可視化させる方向に近い。
自身と魔力的な繋がりの薄い外界の感知はそれなりに難しいことである。
だが、二人であればそれができると感じた。
それは意外とすぐに証明された。
「あっ!あっ!ありましたここっ!ここです、ここっ!」
と興奮した様子でフィオナが空中を指差しながら嬉しそうに飛び跳ねる。
それを見たクレアは指先を見て
「本当?……本当だ、あるわ!」
とフィオナと同等かそれ以上の喜びの顔で言葉を発した。
「すごい、ビンゴだ。その感覚を忘れてはダメだぞ。あとは何度も練習して感知能力を別のことをしながらでも扱えるレベルに慣れるんだ。それができれば…勝てる」
ようやく見えた勝利への希望にフィオナとクレアはとびきりの笑顔をお互いに見せ合った。
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そうして、練習時間は終わり練習用魔石を返したので、今日のところは解散となった。
大規模な空間拡張魔導が停止し、練習場はかなり小さくなった。
練習場の奪い合いに勝利してまだ練習しているクラスもある。
しかし、五組はおろか一年は練習場の奪い合いに勝つことなど夢のまた夢である。
練習を終えた四人が着替えに向かっている間にリアムは帰りの支度をしつつエマを待っていた。
そこへ
「あのっ、リ、リアムさん…」
とフィオナが練習着のまま話しかけてきた。
「どうした、フィオナ?何かあったか?」
リアムは彼女の様子を不思議がり尋ねる。
「この後、もう少しだけ練習に付き合っていただけないでしょうか?今の魔力を感知する感覚を逃したら…いけない気がして…」
とフィオナは不安そうにうつむきながら願う。
リアムは少し考えたがすぐに
「…分かった。場所は考えておくからフィオナは荷物をとってきな」
と快諾の言葉をかけた。
フィオナは“ありがとう”と嬉しそうに言ったあと荷物を取りに駆け出した。
リアムは彼女が見えなくなったのを確認してから通信用の魔石を取り出して起動した。
「サクヤさん?こちらリアム…聞こえますか?」
「やっほ〜リアム、どうした?」
とサクヤがリアムの問いかけに眠たげにゆる〜く応えた。
彼女は今日も平常運転だ。
「エマに俺は用事があって一緒に帰れないことを伝えて欲しいのと家までの護衛をお願いしたくて」
「おっけ〜、いいよ。でも、珍しいね〜リアムが護衛を任せるなんて…その様子戦闘中とかでもないんでしょ〜?」
「そうですね、数年前の自分なら間違いなく任せませんでしたけど…シューラ魔導学園を救った英雄殿になら任せても問題ないかなと思いまして」
とリアムは冗談めかして返した。
が、本当に数年前の自分ならこんな依頼しなかっただろうと自身の心境の変化に内心、驚いていた。
リアムにはサクヤやカグヤの所属する第二特務隊を信頼していない時期も結構長い間あった。
かけがえの無い妹をよく分からない人間に任せるなど出来ないと考えていたからだ。
しかし、リアム自身も第二特務隊所属となり、共に護衛や任務をこなしていく上で彼女らならエマを任せられるという結論に至ったのだ。
もちろんできるなら妹をずっとこの手で守りたいと考えている。
それは自分の知らない、手の届かないどうしょうもないところでエマが倒れるのが嫌だからだ。
それでも、必要ならサクヤやカグヤたちを頼るそれが今のリアムだ。
「そのシューラ魔導学園を救った英雄とかいう呼び名はやめて。みんなちょっと考えればわかるカバーストーリーに騙されているけど…リアムはシューラ魔導学園を救った張本人でしょ?」
「極一部の人間以外はサクヤさんが救ったと思っていますよ。重要なのは真実ではなく大多数が知っていることです。大多数が嘘を事実だと言い張ればそれはもはや真実になります。…と話が逸れてました、エマの護衛よろしくお願いします」
と言って通話を終了した。
そこへフィオナがあらわれ
「お待たせしました、リアムさん」
と言った。
「んじゃ、行こうか」
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リアムたちが向かったのはキュリオの森へ少し入った所である。
ここであれば魔力を使った痕跡は残らないと言っても過言ではない。
学生の身分で外部で魔導をいたずらに使うのは好ましくない。
ただ、それもバレなければ関係ないのでキュリオの森を選んだ。
「よし、ここらでやろうか」
と言いながらフィオナを中心として半径数メートルの円を描くように歩きながらその道中に空中に魔力の球体をいくつか作り出した。
キュリオの森は大気中の魔力量が街中のものに比べ多いので感知できるようになるべく濃度が高くなるように球体を作った。
リアムはフィオナの眼前に立ちそこに魔力を作りながら
「さっきの感覚を忘れないのに加えて感知範囲を広げる練習をしよう。目の前に魔力の球体を用意した、それを感知できたらさらに外側を感知できるように頑張ってみて欲しい」
と優しく言った。
フィオナは頷き
「分かりました」
と返す。
「あ、一つ注意がある。今回はその場から動かずに探して欲しい」
リアムの言葉にフィオナは少し不安そうにしながら頷きを返した。
現状、彼女は自身のすぐ近く、軽く手を伸ばして届く範囲しか感知できない。
狭い感知範囲を移動で誤魔化しているのだ。
そのことをフィオナ自身が理解しているので不安な様子を示したのだ。
ただ、それは杞憂に終わった。
彼女はリアムの見立て通り、魔力を感じるということに長けていた。
感知のコツを掴むという最初の壁を乗り越えた瞬間、あっという間に感知範囲を広げてみせた。
自分ですら数日かかったことをたった1日で終わらせたフィオナにリアムは才能の存在を感じた。
「よし、さすがに暗くなってきたから続きはまた学校でしよう」
リアムは空を見上げて言った。
木々の間から溢れていた真っ赤に燃える光ももうすぐ途絶えようとしているのが見て取れる。
フィオナが肯定の返事を返そとした次の瞬間、
「あれ〜、こんなところにイチャつくカップル発見〜」
といかにも頭の悪そうな男の低い声が二人の耳に飛び込んだ。
わずかにふらついた足取りで男はリアムたちに近づく。
「嬢ちゃん、彼じゃなくて俺と遊ぼーよ」
男はフィオナに手を伸ばす。
狙いはどう見ても胸である。
リアムは間に割って入り、伸びる手を叩く。
「痛って!何すんだお前!?」
男は驚き2、3歩ほど後退しながら叫ぶ。
「何するか尋ねるのはこちらです。明らかにフィオ…背後の女性に手を出そうとしてましたよね?」
「どうせ、さっきまでエロいことしてたんだろ?一回も二回も変わんないだろうから俺にもヤらせろってんだよ!」
暴論も勘違いもここまで来ると失笑すら生まない。
「エ、エロっ!?」
とフィオナはとある単語に過剰な反応を示した。
が、この際放置しておこうとリアムは考えた。
「そこをどかねえならどうなるかわかるよな?」
「さぁ、さっぱりだな」
「ちっ!むかつくやつだ!」
男がリアムに人差し指を向ける。
リアムはその指先に魔力が集まることを感知した。
「火球よ」
と【イグニ・スフィア】の詠唱が唱えられた次の瞬間、炎の球体が指先に生まれた。
炎は放たれリアムを襲う。
リアム単体は回避可能だが、背後にいるフィオナが負傷しかねない。
「仕方ない」
リアムはそう呟きながらフィオナの腕を掴みぐっと胸に引き寄せる。
それは側から見れば抱き合っているような見た目である。
「…ええっ!」
フィオナの驚く声を聞きながら、リアムはステップを踏み、火球をかわした。
手を離し、近付きながらフィオナが自分の背後に来ないように移動する。
おそらく彼女を狙うことはないだろうと踏んでの行動だ。
だが、もしもフィオナが襲われることがあればホロウを使ってカバーする手筈は整えてある。
「火球よ」
男はリアムを狙って【イグニ・スフィア】を起動する。
リアムは身体をずらしてそれを避け、さらに接近する。
「うらぁ!」
男は大きな声と共に拳を振り出す。
何の考えもないただの殴りに当たってやるほどリアムは弱くない。
腕に掌を当て攻撃を去なし、男の頭を押さえつけ地面に叩きつけた。
男はそこから立ち上がることなく沈黙した。
「つ、強いんですね」
一部始終を見ていたフィオナは関したように声を出した。
リアムは
「まあ、自分を守る手段は嫌というほど教え込まれたからな」
と言葉を返した。
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