第30話 勝てる種目

リアムは諦めて黒板の前に立った。

一つずつ種目名をじっくり眺めるようにして種目の内容、特徴、必要な技術を思い出す。

あとはそれを言語化してみんなに伝えるだけだ。


「まず、体育祭の花形で全学年共通種目であるスティールエリア」


と右端の文字を指差して言った。

スティールポイントの大まかなルールは次のようになる。

三人一組のチームとなってフィールド上に配置されたエリアを奪い合う。

エリアの確保には数秒小さなエリア内に留まる必要がある。

一応、戦略である程度の戦力差を埋めることが出来るが三人分の差を埋めるのは難しいだろう。


「…こいつはうまくいけば四組には勝てるようになる可能性はある」


その声に教室がざわめいた。

最弱である五組にとってスティールエリアで一回勝てる可能性があるということでもすごいことなのだ。


「それは確かに凄いが四組に勝てたところで決勝ラウンド進出は厳しいのでは?」


とキールが尋ねる。


「そうだ、誰もスティールエリアで決勝ラウンドにいけるなど言っていない。…どの種目でも可能性があることを知ってもらおうと思ってな」


キールは黙って座った。

リアムは周りが静かになるのを確認してから二つ目の種目を指差して


「次は同じく共通種目であるサーチアンドコレクトだな」


サーチアンドコレクト、これは探知魔導を扱ってフィールドに隠されたアイテムを探し出し制限時間内に集めた量で勝負する種目だ。

こいつは効率的な探知が鍵を握る試合だが探知魔導の性能で明らかに劣る五組はどうあがいても勝ち目がない。


「端的に言ってこいつはどうしようもないから次のコレクトアンドディフェンスの方に移ろう」


コレクトアンドディフェンスは腰に球体を保持するベルトを巻きつけて一組から五組が入り混じって戦う種目である。

ベルトのもつ球体の保持性能はかなり低く体勢を大きく崩すと球体が落ちてしまう。

選手は魔導で相手の体勢を崩し球体を落とさせそれを集める。

最終的に持っている球体の数が多い選手が勝つという単純な試合だ。

落ち着いて魔導を放つことを主眼を置きがちだがそれを利用して隠れ続ければ運が良ければ勝てるかもしれない。


「この種目も確定で決勝ラウンドにいけるとは限らない。だが、あと二つ、コントロールポットとポゼッションスターはやり方次第で可能性が大いにある」


リアムは自信満々に言い放った。

コントロールポットはポットを魔導で制御してレースをする割と単純な試合である。

次にポゼッションスターは空中に浮かぶ魔力の球体を星(ターゲット)に見立てたものを指定の棒で叩いた数を競う種目である。

どちらも試合的には注目度が低く人気の薄い試合である。

そう言ったことを加味しリアムは自分の予想通りことが運べば優勝は厳しくとも決勝ラウンドへの進出ぐらいは可能だと考えた。


「サナ先生、出場者はこちらから指名してもよろしいでしょうか?」


とここまできたらとことんやってやると振り切れたリアムが尋ねる。


「流石に本人の了承が必要だけど推薦して説得してくれるならオッケーよ」


「もし説得が必要なら僕が手伝おう」


と心強いクラスの中心人物からの協力が得られるという願っても無い幸運が舞い込んできた。


「それと、中間試験での魔導実技のテスト動画をください。それを使って出場者を選定します」


それを聞いたサナが困ったような顔を浮かべる。


「あのねぇ、リアムくん…確かに映像はあるけど守秘義務っていうのがあってね。大体の成績は分かっているでしょ?それで決めてくれる?」


と苦言を呈しながらやんわりと断った。

とりあえず今後の方針や練習は特別アドバイザーのリアムが中心となって行うことになり、ホームルームはお開きとなった。


::::::::::::::


ホームルームが終わってしばらくした後


周囲に生徒がいないことを確認し、リアムはサナに接触した。


「あら、どうしたの?特別アドバイザーさん」


と無邪気な笑顔をリアムに向けるサナ。


「その呼び名はやめてください」


「ごめんなさい…で、ご用は何かしら?」


これが素なのかわからないがサナは普段は取りつくろわれた威厳が削ぎ落された様子だった。

無邪気さが強く前に出ている。


「映像データが貰えないかと」


「二回目よ、私には守秘義務が…」


「それは教師としての発言でしょう?俺はサナさん、個人とお話がしたいのですが」


サナはリアムの放つ生徒らしからぬオーラに一歩後退する。


「個人としても自分の立場の危うい行為はしません」


サナはリアムに気圧されないように努力しながらなんとか言い返す。


「ですが、今まで決勝ラウンドにさえいったことのない五組を決勝ラウンドへ送ったとなれば地位の向上が望めますよ。俺は口は堅い方です。分が悪い賭けではないと思いますが?」


とリアムはなるべく感情の起伏、抑揚なく淡々と言葉を使った。

その言葉はサナに届いたらしく考え込むような様子を見せた。

五組の担任が上へ上がるのはかなり厳しい。

理由は割と単純、下限がないからだ。

そのせいで適性のないリアムのような人間を抱えることになってしまう。

といってもリアムの入学には少し家の息がかかっているので少し例外的な扱いかもしれないが…。

ただ、担任となって一年目で五組が初めて決勝ラウンドに進めたなどという大きな功績があれば成績の差をある程度覆して四組や三組の担任になれる可能性は大いにある。

サナの心は大きく揺れていた。

不祥事がバレるリスクと上のクラスの担任に上がれるというメリットを天秤にかけていた。


「ん゛ん゛っ!わかりました、データを渡します…ただし、私がデータを収めた魔石を落として拾ったあなたが悪用した…そういった筋書きにしましょう」


リアムはサナの頭の回転の速さに少し驚きつつ


「わかりました、それで。ただ、俺からバラす事はないですよ」


と言った。


「いったいどうやって生活していたらそんな立ち回り覚えるのかしら」


とサナは呆れたように呟いた。


そのあと誰にも見られないようにしながら魔石を受け取った。

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